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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
12.襲撃

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15.これでいい(シュウ/テル)

 戦いの音が近くで聞こえる。身体はまだ痛むけれど、指先を動かすくらいはできるようになった。


「シュウっ!…っ良かった」


 その声に、うっすらと目を開けると、飛び込んできたのはファリスの安堵の表情だった。


(テル君…じゃない…)


 慌てて身体を起こそうとすると、動かした腕が痛んで顔を歪めた。


「無理するなって。みんなが自分と同じスピードで治せるっておもうなよ?傷、まだ全然治せてないから。俺の実力なんて、シュウが一番分かってるだろ?これでも俺の全力だよ」


 ファリスは額に脂汗を浮かべながらも、治癒魔法を放つ手は掲げたままだ。


(そんなこと思ってない…)


 あれだけの傷だった。瀕死だった私を、ここまで治癒してくれた。


 ありがとうの声はまだ出ないけれど、自力で息ができるくらいには回復してる。

 身体の傷は徐々に塞がっていく。なんとか起き上がることができそうだと思っていると、高笑いと共に大きな衝撃音が聞こえてきた。

 音の方に身体をむけると、テル君がラウグルと戦っていた。


 テル君は自己治癒能力があるはずなのに、傷の回復が追いついていない。

 大剣を振るうたび、傷口から血が吹き出している。

 それでも攻撃の手は止めない。関節を狙って攻撃して、腕や足を切り落としている。

 それなのに、ラウグルはすぐに回復する。切り落としても切り落としても、直ぐに腕が生えてきて、攻撃を繰り出す。


 その二人の戦いを静観しているワイト。

 イーターの部隊長クラスと二対一。テル君はギリギリで戦ってる。


「…シュウ動けるようになったら、2人で逃げろって。テルがイーターは引き付けるからって…」


 思わずテル君から目を離してファリスを見上げてしまった。


 そんなこと出来るわけない。テル君が戦ってくれているのに。私が守りたかったのはテル君なのに。


 声を出す代わりに『嫌だ』と首を振った。


「状況見てわかるだろ?俺達は足手纏いだよ」


(そんなこと…分かってる…)


 でも、テル君を置いてなんて行きたくない。こうなってしまったのは私のせいだったとしても守りたかった。


「あのさ…シュウ…」


 ファリスがため息をついた瞬間、叫び声が聞こえた。


「…逃げろ!!」


 テル君の声に顔を上げると、赤い大きな鎖鎌が私たちに向かって飛んでくる。 

 気付いた時にはもう遅かった。軌道は完全にこっちを捉えている。


「うわっ!」


 ファリスが声を上げた瞬間に、その鎖鎌の軌道がグンと逸れた。



***


 シュウが目を覚ました事は簡単に分かった。


(ファリスがうるさいから)


 俺も気付いたってことは、多分イーターも気付いた。


 ラウグルの方は俺以外は見えていない。けれどワイトの方は気付いただろう。

 ラウグルの回し蹴りに合わせて、膝の青黒い部分に剣を振りおろた。

 切り落とした足は直ぐに生えてくる。それでも、ほんの少しだけれど隙はできる。


 その間にワイトの動きを探った。


 ワイトは自分で腕を切り裂き始めた。流れる血はみるみる鎖鎌の形に形成されていく。


 思った通り。ワイトはシュウが目覚めたことに気づいて、そして攻撃しようとしている。


「逃げろ!」


 シュウの元までは距離がある。ワイトのもとへ走ってる間に、ラウグルの足が生えた。


 ラウグルの攻撃を掻い潜りながら、ギリギリでワイトの鎖を剣で弾いて起動を逸らした。 

 鎖鎌の刃は大きく逸れて、シュウ達の真横の壁に突き刺さった。

 その途端、赤い鎖鎌は液状になって飛び散る。

 いまいち分からなかったワイトの能力も理解できた。

 血を思い通りに操る能力を持っている。


 とりあえず攻撃を防ぐことはできた。


 …と、安心したのも束の間。すぐさまラウグルが背後から鉤爪を勢いよく振り下ろしてくる。

 何とか大剣でなんとか防いだけれど、受け流すことは出来ない。


「ワイト!!邪魔するなと言っただろ?」


 ラウグルは攻撃の手は止めずに、ワイトを威嚇している。


「それなら邪魔されないように戦えよ。本来の目的を忘れるな」


 ローブを被っていても分かるくらい鋭い眼光が光った。ワイトは明らかに苛立っている。


「目的は忘れてない!俺をバカにするなよ。コイツを喰ったら、次は穢れたプリンセスを喰う!!」


 ラウグルは叫ぶと同時に鉤爪に更に力をかけてきた。

 防ぐだけで精一杯なのに。このままじゃ大剣が持たない。

 案の定、剣は重圧に耐えきれず真っ二つに折れた。

 その勢いのまま、ラウグルの大きな鉤爪が右腕に突き刺さる。


「っっ!!」


 肉がごっそりと裂け、血が吹きだした。


 次の攻撃はなんとかわし、後ろに飛び退く。とりあえず距離を取ると、傷口を服でキツく縛った。


(まずい…)


 勝てる見込みがない。自己治癒を使い過ぎているせいか、回復に時間がかかる。

 利き手をやられた。右腕は使えない。そして大剣は折れた。攻撃のリーチが短くなった。

 おまけにファリス達もまだ逃げていない。

 八方塞がりとはこのことを言うのか。


 なんて、絶望して折れた剣を見つめた。


「いよいよお終いだな!!」


 ラウグルは口から涎を垂らし、牙を剥き出しにして笑っている。


(ダメだ…。まだやれる…やらなきゃいけない)


 自分達が助かる為には倒すしかない。


「…お終い?笑わせるなよ?今からだ」


 そう強がりを言って、剣を左手に持ち替えた。


「2人相手でも余裕なくらいだ。2人でかかって来いよ?」


 勝てる要素がないなら、せめてシュウだけでも助かってほしい。

 二人が逃げる時間を稼ぐために自分に引き付けた。


「そんな挑発乗ると思ってる?…でも、まぁ、手負のプリンセスなんて君を倒した後でも簡単に殺せるしね」


 ワイトも乗って来た。流れる血から、また鎖鎌を作って構えている。


(それでいい…)


 『すぐ逃げろもう』と、合図を送った。ファリスは慌てて頷く。


「…これで本当にお終いだ」


 そう言うと今度は自分から飛びかかった。

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