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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
12.襲撃

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14.話したいことがある(テル)

 殴りかかってくるイーターの腕を斬り斬り落とすと、心臓の核を狙って大剣を構え直した。

 間合いを詰めて懐に飛び掛かる。敵の身体は大きいから、間合いを詰めるのは簡単だ。


 足を一歩踏み出したところで、イーターの異変に気がついた。


(嘘だろ!?)


 切り落としたはずの腕が、もう既に生えている。


「バカが。こんなのはかすり傷だ!」


 ガハハと大きく口を開けて笑う余裕まで見せて、逆に腕を広げてこちらに向かって来た。


 このままだと捕まる。


 突き刺そうと構えた大剣を咄嗟に振りかぶると、剣を掴もうとしていたイーターは、前のめりになってよろけた。

 そこを狙って死角から、渾身の力を込めて蹴りを食らわせる。

 流れは悪くない。当たりどころも良かったはずだ。

 死角からノーガードで蹴りを受けた巨体は宙を舞い、轟音を響かせて壁にめり込んだ。


「すごい身体能力だね。君何者だい?少し興味が沸いたよ」


 傍観していただけのもう一人のイーターは、わざとらしく驚いた表情を見せて立ち上がった。


「どうも…」


 返事をしようとしたタイミングで、壁が崩れる音が響いた。


「やめろワイト。コイツは俺の獲物だって言っただろ。手を出すな」


「!!」


 崩れた壁に目をやると、さっきまでめり込んでいた巨大なイーターが、何事も無かったように歩いてくる。


(…まぁ…そうだよな…)


 その体には傷一つ見当たらない。もう再生している。正しく化け物なんだろう。首を鳴らしながらフードを被ったイーターと並んだ。


(さぁ…どうするかな?)


 脂汗が頬を伝う。目の前には二体のイーター。この頑丈さや攻撃力、それと任務を遂行できる知能は、多分国王軍隊長クラスだろう。


 シュウを守るには、この2体を倒さないといけない。

 しかも、シュウを治療しているファリスに近づけさせないように、戦わないといけない。


(かなり不利な状況だな)


 けれど俺はコイツらを倒して、シュウを助け出す。聞きたいことも、言いたいこともたくさんある。


(このまま死ぬ訳にはいかない。俺もシュウも…)


 落ち着けと自分に言い聞かせて、大剣を構えた。


「2回も吹っ飛ばされたのは久しぶりだぜ!興味が沸いた。名前も知らない奴に喰われるのは嫌だよな?俺はラウグル。で、こっちはワイトだ!俺の能力はなぁ…!!」


「それ以上は止めろよ?やっぱり、お前と組むのは嫌だ。バカだから」


 ワイトが懐から短剣を出して、ラウグルの自己紹介を遮った。


「別に俺の能力を教えた所で、なんの影響もねーよ。どうせコイツは、俺に喰われておしまいなんだからな」


 ラウグルが笑いながら、ワイトの肩を叩いている。


 ラウグルの興味の対象は、シュウではなく俺。それならそっちの方が好都合だと、わざとらしく声を上げて笑った。


「俺を喰えると思ってるのか?ラウグルだったか?そっちのイーターの言う通り、馬鹿なんだな?」


 余裕の表情を作ると『かかってこいよ』と手招きをした。


「かわいそうだな。自分の実力も分からねーのか。いいか?ワイト絶対手を出すんじゃねーぞ?」


 思った通り。ラウグルは単純。俺の挑発にあっさりと乗ってきた。


 うざそうに『お手上げ』と手を挙げたワイトは、きっと手出しはしてこないだろう。


 それと同時に、ファリスに『隙を見て逃げろ』と、目配せをした。

 ファリスは、じっとこちらを見つめながら小さく頷いた。


 戦いが長引けば長引くほど不利になる。イーターのように頑丈でなければ、切れた腕が元に戻ることも無いんだから。


短時間で確実に仕留めないといけない。


 イーターは核さえ破壊出来れば消える。人型の場合は大抵心臓だ。


 ウォーと、雄叫びが聞こえたかと思うと、ラウグルの身体が2倍に膨れ上がった。

 青黒い皮膚は赤くなり、裂けた口から牙が更に長く伸びた。かざした手には鉤爪が伸びてゴーレムとドラゴンを足したような風体になった。


(簡単にはいかないか…)


 こちらが大剣を構える前に襲いかかって来た。


 大きな身体に似合わない素早い動き。そこから振り下ろされた鉤爪は、何とか剣で受けた。衝撃が伝わって、てがジンと痺れる。


(っ…力負けする)


 受け流す為に後ろに飛び退くと、今度は横から回し蹴りが飛んでくる。

 それを腕でガードするが、巨体から繰り出される蹴りの衝撃に、腕からメキッと鈍い音が聞こえた。


 ガードしたはずの腕は折れ、体が宙を舞った。


「っ…!!」


 このままだと壁に激突する。何とか衝撃を和らげる為に、無理矢理空中で身体を捻り、吹っ飛ばされた勢いを利用して教室の壁を蹴り上げた。

 何とか激突は免れたが、腕がこのままじゃまずい。自己治癒を最大限に使う。


(この程度なら10秒有れば治る…はずだ)


 イーター達に気付かれないように、慎重に…だけど素早く腕を治す。

 その為に教室中を動き回った。この自己治癒がバレるのはまずい。


「逃げ回るのか?つまんねーだろ!さっさとかかってこいよ!」


 挑発は無視してひたすらにラウグルの攻撃を避ける。

 巨体にしては速いが、素速さは俺の方が上だ。

 ラウグルの攻撃は大きい分、全て大ぶりになる。攻撃した後に隙が出来る。

 腕は思い通り、数十秒でくっついた。その瞬間に、わざと立ち止まるった。


(ここからは攻撃にまわる)


 ラウグルの攻撃を誘う。攻撃の癖は見抜いた。拳を振るう時は必ず右から並行に振り抜く。それと、大振りだからコンマ数秒よろける。


 ギリギリまで引きつけると、素早く懐に潜りこみ、ガラ空きの心臓目がけて剣を突き出した。


「そこから狙うか!ますます面白いやつだなっ!だが残念だったなっ」


 狙いは完璧だったのに、剣はラウグルの身体を貫かない。

 まるで、鋼鉄に剣を突き立てたように弾かれた。


(硬いっ!?)


「俺の皮膚は赤くなると強度が増すんだ。残念ながら、炎も剣も効かねーよ」


 ラウグルの馬鹿笑いに舌打ちすると、すぐに距離を取った。

 ラウグルを観察すると首元や手首…関節は青黒いままだ。


(もっと早く気づけば良かった)


「それなら…皮膚の色が変わってない所が弱点ってことだな」


「へー。良く気付いたな!!お前すごいな!」


「…ラウグル、お前本当にバカだろ?自ら弱点バラすバカがどこに居るんだよ」


「分かった所で無駄だからだよ!そんな所斬られた所で問題ない!直ぐに治るからなぁ」


 確かに言う通りかも知れない。だけど、そんなことはどうでもいい。弱点があるならそこを攻める。


 もう一度大剣を構えると、大きく息を吐いた。

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