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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
編入試験

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8.クラス決定

 ユリアがアリーナに入ると扉が閉まった。装備した武器は双剣。モンスターとの実戦は久しぶりで、今更だけどもっと実戦に備えておけば良かったと思った。


『モンスターの投入を始めます。構えて下さい』

 アナウンスと同時に、ユリアは短剣をクルリと回し構えた。

 投入口が開き、入って来たのはピエロの様な顔をしたモンスターだ。指は鉤爪になっている。


(これは…どういうタイプのモンスターだったっけ…?)


 考える暇も無くモンスターが飛びかかってくる。それをひらりとかわしモンスターの後ろをとった。

 ユリアはチャンスとばかりに背後から双剣を振りかぶったが、モンスターも素早くそれを避け、真上から鉤爪を振り下ろした。

 何とか反応出来たが、避けきれず左腕をかすった。それに気を取られると、また後ろに回りこまれた。

 ギリギリでモンスターの攻撃をかわすけれど、防戦で攻撃すらまともに出来ない。浅い傷だが、腕や足に切り傷が増えて行く。


(素早すぎる!…Sクラスだもんね。簡単にはいかないか)


 こうなったら、禁断のアレを使う。テルには絶対に使うなと釘を刺されているけれど。指示室からは離れているし、きっと気付かれないだろう…と自分に良い風に言い聞かせた。

 モンスターの攻撃を辛うじてかわしながら、ユリアは小さな声で歌を歌った。

 今歌っている歌は、母に昔教えてもらった『活性の唄』この歌は自分にしか作用しない。私が1番得意とする歌だ。

 歌は、セイレーンにとっては魔法の呪文ようなもの。魔法は無機質な物を操る。そセイレーンの歌は生き物を操る。  

 それだけの違いだけど、とても大きな違い。歌の効果は絶大で、さっきまでとは違い、モンスターがコマ送りの様に止まって見えるようになった。動体視力、身体能力…全てを最大限に出せるようになった。ただし効果は5分程度。

 その間に蹴りを付ける。ユリアのスピードが格段に上がった。今まではモンスターの攻撃をかわすことが精一杯だった。


(だけど、もう見えるから…)


 さっきまでは見えなかった、モンスターが腕を振り上げる様子が見えた。それと同時に地面を蹴り上げる。

 ユリアは胸の前で剣をクロスさせて、トップスピードで突っ込んだ。双剣をモンスターの身体に突き刺すと、勢いはそのままで振り抜いた。モンスターは血飛沫をあげながら十字に裂けて倒れた。


『兄妹揃って5分以内でした。…ユリアさんは怪我したので手当します。救護室に向かってください』


 アナウンスと共に、出入り口の扉が開いた。安心感からか、気が抜けてその場で座り込んだ。


(完全に腰が抜けてしまった…)


「何やってるんだよ?」


 テルはため息を吐きながら、ユリアに手を出してきた。力を使ってしまった罪悪感で、手を取ることに躊躇してしまう。


「あ…ありがとう」


 テルの手を取った瞬間、強い力で引き上げられた。


「お前…力使っただろ?」


 顔から血の気が引いた。やっぱり浅はかだった。聞こえてはいないだろうけれど、テルは気付いていた。


(絶対怒ってる…)


 パパにも絶対に人前で使うなと言われている力だし、自分でもまずかった事は分かっている。


「…ごめんなさい」


「お前さぁ、分かってるだろ?」


 分かっていたはずだった。ママにもパパにも幼い頃から言い聞かされていた。


 約22年前セイレーンの力を狙ったザレス国とブルームンとの戦いで、セイレーンは絶滅したと思われている。

 だが、ユリアの母はシヴァ神の末裔だった父と一緒にザレス国から逃げ延びた。ブルームンの今の国王には、すごく助けられたとママは言っていた。

 セイレーンの力は男には遺伝しなかった。それとは逆に、シヴァ神の破壊と再生の力は、テルにしか受け継がれていない。テルはちょっとした傷はすぐ再生するし力も強い。その馬鹿力で、大剣はまるで短剣を持っているかのように振り回すし、戦闘能力も高い。


「…ごめんなさい」


 もう一度謝り、うつむくユリアにテルは更に畳み掛ける。


「あのレベルのモンスターなんか、そんなことしなくても倒せた。スピードは速かったけど、直線の動きしかしてねーよ。動き読んで待ち伏せれば良かっただけ」


 流石!目の付け所が違う。ユリアはポン!と手を打った。…やっぱり勉強は必要だ。救護室への道のりはすごく気まずいものになってしまった。


 救護室では、天使族の先生が回復魔法ですぐに傷を治してくれた。試験官もすでに待機していたようで、治療が終わると、にっこり笑ってお疲れ様と2人の手を取った。


「編入試験の結果は、1時間後にお伝えします。2人は着替えた後、時間まで筆記試験を受けた教室…実戦室で待機していてください」


 まさか、今日直ぐに結果が出るとは思いもしなかった。青ざめてテルを見ると、テルは涼しげな顔をしている。


「テル、知ってたの?」


「パンフレットに書いてあっただろ?逆に何で知らないんだよ」


 しれっと言ってのけるテルに、本当に抜かりがないと思ってしまう。と、いうか知ってたのなら教えて欲しかった。そんな事を思いながら、更衣室へと向かった。


***


 実戦室で緊張しながら待っていると、試験官が入ってきた。


「お待たせ。結果を言うわね。二人とも特進のAクラスに決まったわ。テルくんは、筆記も満点だし、実技もS評価。申し分無いわね」


 イリーナ教官はテストの答案をテルに返した。当然という顔でそれを受け取る。


「ユリアさんの方は、筆記は本当はCクラスだけど、実技は素晴らしかった。あのモンスター、スピード系で1番速かったの。あのモンスターを、あの速さで倒せたから実技はS評価よ。だから私の独断でAクラスとします。私がクラス担任よ。来月からよろしくね」


 笑いかける試験官は、まだ若くてキレイだし明るい教官だった。筆記試験CクラスがAクラスについていけるのか謎だけど…。今は考え無いことにする。


 安心したら、ユリアのお腹がグーっと大きな音を立てた。帰りにカフェでも行こうなど話しながら、二人はガーディアン養成校を後にした。

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