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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
12.襲撃

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7.避難場所(ユリア)

 幼児校舎に近づくにつれて、やっぱりモンスターが増えてきた。


 ガーディアンクラスの人達が、モンスターを倒そうと戦っているけど、数が多すぎる。


 聞こえてくる超音波のような音も、どんどん大きくなり、キィィインと頭の中で反響してる。

 それでも、私以外には聞こえていないようだけど。


(うるさい……)


 三半規管がやられる。倒れるわけにはいかないのに、足元がふらつく。


(吐き気までしてきた)


「ユリアは子供達と中に入って」


 多分、ものすごく青白い顔をしていたんだと思う。

 レイが上空のモンスターに雷を落としながら、私に子供を託して背中を押した。


 さっきから、分かりやすくレイに気を使われている。


 顔を背けながら、必死に自分を取り繕って強がった。


「分かった…。すぐに戻ってくるから…」


「戻って来なくていい。中で待ってて。こんなモンスター、俺一人で充分」


「っ…!でも…!!」


 モンスターは大量だし、避難してくる人達もまだまだいる。

 一人でも戦える人数は多い方がいいはずだ。


「俺を誰だと思ってんの?余裕だよ」


 話しながらも、レイは高度な魔法を乱れ撃ち、次から次に大量のドラゴンが地上に落ちてくる。その地響きと共に歓声が上がった。


 戦っていたみんなが「レイが来た!」と、安心の表情を浮かべている。


「…いいから離れてろ」

 

 面倒そうに周りに注意をしながらも、落としたモンスターを凍らせていく。


(何回見ても…凄すぎる…)


 並大抵の魔法じゃ大型のモンスターを簡単に凍らせたり出来ないはずなのに。

 レイはそれを感じさせない。魔法の効きにくいドラゴンを撃ち落とし、凍らせる程の高度魔法を乱れ撃をやってるける。


 呆気に取られている私をよそに、レイは余裕で伸び上がり、扉を指差した。


「ユリア、早く行って。俺もここを片付けたらすぐ行くから」


「~~!分かった!」


 子供達の手を取り、幼児校舎の入り口に辿り着いた。


 辿り着いた所で愕然とした。


 大量のモンスターが一心不乱に、幼稚舎を集中的に攻撃している。

 知能もない。ましてや違う種族のモンスターが共に食べ物でもない、襲ってもこない()()()()だけを攻撃してる。


(やっぱり…音を使って指示をだしてるんだ)


 一心不乱に校舎を殴りつけるモンスターを見つめた。

 シェルターになっている校舎の壁は、防魔素材で衝撃にも強い頑丈な素材。

 でも、大型のモンスター達の猛攻撃にいつまで持ち堪えることができるのか分からない。


 まだ、ここまで戦力のあるガーディアンは来ていない。


 避難して来た人達だけで、パニックになってしまっている。


(…私が何とかしないと)


 モンスターは『人』には、攻撃はしてこなかった。


 急いで校舎の中に入ると、人の多さにさらに愕然とした。

 養成校は孤児院も兼ねてるから、小さな子や普通校の人も沢山いる。みんなが戦える訳じゃない。

 大勢の人を仕切っているのは、数人のガーディアンクラスの女の子。

 でも、その子たちも今にも泣き出しそうだ。


 泣いている子や、不安そうな子に声をかけてまわった。


「外のモンスターは、強いお兄ちゃんが戦ってくれてるから、平気だよ!」

「泣かないで?ここは頑丈だから。心配しないで」


 不安を勘付かれないように、出来るだけ笑顔で…。その間も、外からの攻撃で校舎に大きな音が響く。


 レイがあれだけのモンスターを討伐したのに、上空からも地上からも、また沢山のモンスターが集まってきている。


 このままじゃ避難したみんなが死んでしまう。


(音を止めないと…)


 音の出どころは移動していて、うまく掴めない。それにどうしても近くの雑音の方に気を取られる。


(ダメだ…辿れない…)


 どうしようと焦る頭の中に、ふと思い浮かんだのは自分が『生き物を操るセイレーン』だということだ。


(……あの歌を……『魅了の歌』を歌うしかない)


 今流れている『音』よりも、私の『歌』の方が効果はあるかもしれない。


 イーターの狙いはセイレーンだって分かってる。

 でも、この子達を守る方法は現状(これ)しかないと、拳を握りしめて立ち上がった。


「ごめん。ここ、任せていいかな?ちょっと外の様子を見てくるよ。大丈夫、すぐ戻るから」


 近くにいたガーディアンクラスの子に声をかけて、急いで外に出た。


 状況は変わらない。モンスターの大群は、倒しても倒しても集まってくる。


 壁を破壊しようとしている大量のモンスターを睨んだ。


(ここで歌を歌ったら…みんな気付いてしまうよね?)


 もし、イーターに私の存在がバレてしまったら?


「…仕方がない…よね?」


 その時は命を絶つ。利用されるくらいなら、その方がマシだ。


(そのくらいの覚悟はできてる…)


 額から流れる汗を拭い、大きく深呼吸して目を閉じた。

 響く音のせいで頭も痛い。それに、魅了の歌なんて、もう何年も歌ってない。


(だめだ…。集中しないと)


 頭をふり、歌を歌おうと口を開いた途端に、急に後ろから口を塞がれてしまった。


「!?」


 誰だろうと見上げると、さっきまで離れた場所にいたはずのレイが肩で息をしながら、私のことを睨んでいる。


「…っ。あのさ、言ったはずだけど?余計なことしなくていいって」


 レイの鼓動が聞こえる。速い心音…。私のやろうとしていることに気づいて、急いでここに来てくれたんだ。


(歌おうとしたこと…見透かされてしまってる…)


「外のモンスターは一掃するから、ユリアは避難所の中へ入ってて。そう言ったはずだけど?」


 レイは意見なんか聞かないと、口答えする前に手を引いた。


「…っいたっ…!」


 集まってくるモンスターも大型で簡単に倒せる奴等じゃない。

 上空には大量のドラゴンやグリフォン、地上には大量のオーガやオルトロス。


(確かモンスターの中でもドラゴンは、炎の魔法が効きにくいはず)


 それなのに、レイはこの数分で数十体のモンスターを倒してる。


「レイ1人じゃ無理だよっ!音が消えない限り集まってくるし…って、話聞いてる?」


「話しを聞いてなかったのはユリアだろ?」


 かなり怒ってる。言い方がさっきより怖くて固まってしまった。


 上空のモンスターに向かって、魔法を放ちながら、抵抗する私を引きずり入り口まで戻した。


「レイっ!ねえ、聞いてよ!」


 中に押し込もうと背中を押すレイに、大声で叫んだ。


 私だってシュウを助けたいし、ここにいるみんなを守りたい。レイにも無理はさせたくない。

 それなのに。このままじゃ、私はただの足手纏いだ。

 

「私だって、レイを守りたいって…そう思ってるんだよ」


「…その何倍も俺はユリアを守りたいし、もう失いたくない」


 あぁ、そうだ。レイは私をずっと想ってくれてて…。私はレイを忘れてしまっていた。


(でも、今はそれは関係ない…!)


「っ!でも…このままじゃ…」


 譲らない私にむかって、レイは大きくため息をついた。 


「あのさ…適材適所だよ?小型のモンスターは、俺の魔法を掻い潜る。だから、ユリアはそいつらを一匹残らず倒してよ。もし、そいつらが中に入っていたら、ファイアウォールで覆えなくなるから」


 そうだった。ある程度モンスターを倒してみんな避難が終わったら、ファイアウォールでここを覆うって話してた。


「あ…!!」


「覆ってしまえば、音が止まなくても、もうここには手出しできない」


 説明しながらも、レイは攻撃の手を止めずに魔法を放っていく。


「…ごめん。そうだった…」


 私は冷静さを失って、勝手に先走ってしまっていた。


 レイもテルも、みんなを守る方法を考えてくれていたんだ…。


 レイは、落ち着きを取り戻した私の髪を優しくなでて、「いいよ」と呟いた。


「俺が大型の奴らを倒しきるまで、中にモンスターを入れないように守ってて」


「……それできたら何かご褒美くれる?」


 そんなこと言ってる場合じゃ無いって、分かってるけど。

 張り詰めていた気持ちを和らげるために、レイにそんなことを言ってみた。


「いいよ。まぁ、無理だろうけど」

 

 私のセリフを聞いても、レイは余裕の笑みを浮かべてる。


「そのセリフ…忘れないでね?」


 レイは手を振り「分かった」というと、校舎を狙うモンスターにまた魔法を放つ。


 その後ろ姿を見ながら、私も剣を構えた。

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