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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
12.襲撃

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3.使命(テル/シュウ)

 モンスターの群れは増え続ける。群れの中には、アンデットやレイスもいるから、多分イーターもいる。


 ユリアは力を使えない。イーターからユリアのことも守らないといけない。


(分かってる…)


 状況は最悪。鉄壁の要塞となっている養成校であっても、俺一人が抜けてしまうと、正門が突破されてしまう危険がある。


(それでも…俺はシュウを助けたい…)


 オーガを倒しながらそんなことを考えていた俺に、隣で戦うアスカが「ここは任せて」と心強い言葉をくれた。


 そんなアスカにお礼を言い、インカムでみんなに呼びかけた。


「シュウの居場所が分かった。すぐ俺は…シュウの救出に向かう。だから…ここはみんなに任せたい」


 その呼びかけにすぐさま反応したのはユリアだった。


「その為にここに来たんでしょ?養成校の生徒は私たちに任せて。テルはすぐに向かって!」


 レイはドラゴンを雷で撃ち落としながら、こんな提案をしてくれた。


「避難場所は俺がどうにかする。ファイアウォールで幼児校舎を覆うっていう手もあるし…」


「レイ、お前…そんな上級魔法使えるのか?」


 ファイアウォールは炎系の最上級魔法。

 広範囲に触れた者が灰になるくらいの、強力な炎の壁をつくる魔法だ。

 本来なら手をかざしていないと発動しないのが魔法。

 けれどこの魔法は、放った本人がいなくても本人の魔力が尽きない限り持続することができる。


 避難場所をそれで覆えば、モンスターやイーターは入れなくなる。

 格段にコチラの負担も犠牲者も減らすことができる。


 オーガを倒しながらレイと話を続けた。


「持続時間は?」


「モンスターを倒しながら…だとしたら、壁の持続時間はせいぜい30分かな。それと…覆ってしまったら中からも外からも出入りできなくなる」


「…ある程度避難が終わったら発動だな。レイは、避難場所に向かって欲しい。ユリアは逃げ遅れている人達の誘導と校舎内に入ったモンスターの排除。基本レイと行動してくれ」


「分かった!任せて」


 レイとユリアが、モンスターを倒しながら幼児校舎に走って行くのが見えた。


「ゼルとアスカは、このまま正面でモンスターを迎撃。ある程度倒したら校内の確認にまわって欲しい…」


「了解です」


 隣のアスカは頷いて、ゼルの元へと向かった。


(今度はこっちだ)


「ファリス!…一緒に来てくれ!」


 ファリスが俺の声に気づいて駆け寄って来た。


「シュウの治療は俺に任せて…って、怪我してるとは限らないか。念の為に、同行するよ」


 ファリスは純血の天使族。もし、シュウを攫った奴らがイーターなら、必要不可欠な存在だ。


「ああ。助かるよ。それじゃあ行こうか?…防魔室へ!」


「…あ…そこにシュウがいるんだ。了解!」


 頷くファリスと共に走りだした。


 やれることは全部やった。出来る限りの指示は出した。


 後はシュウを助け出すだけだ。シュウさえ生きていてくれるなら何も要らない。


 全てのモンスターは無視して、一秒でも早くとただひたすらに足を進めた。


 

***



床に乱暴に投げ付けられた痛みで、意識を取り戻した。身体中が痛み呻き声が漏れる。


(…ここは…?)


 薄らと目を開くと、ガーディアン養成校の見慣れた教室だった。


「生きてた。死なないんだ。案外人間も丈夫だね?」


 さっき…私の聖力を喰ったイーター。ワイトの声が耳元で聞こえた。


 ルシウスは見当たらない。その代わりに、新たなイーターが椅子に座っているのが見える。


 どうやって、ここに来たのか。あれからどのくらい時が経ったのかはわからない。けれど、ルシウスにGPSをつけたことは覚えている。


 瀕死の状態だけれど、僅かに残った聖力が無意識に自己治癒したようだ。


 身体を動かすことも、声をあげることもできない。なんとか浅い呼吸ができているだけだ。


 それなのに。首と手足首には鎖が幾重にも巻かれて重しまでついている。


(ここまでしなくても動けないのに…)


 何でこんなところに運んだのか。それを考えることすら嫌になって瞳を閉じた。


 どうせ動くこともできないのなら、死んでしまった方が良かった。


 そんな無責任なことを考えていた私の耳に、ノイズのかかった校内アナウンスが聞こえてきた。


 それは、一番聞きたかった人の声に似ていた。


 的確な避難指示と、迎撃指示。安心させるように話す優しい声…。


 自分の使命も何もかも忘れて、あなたと生きられたらって思ってしまった優しい声…。


(私が最後に聞きたかった声…テル君だ)


 何でかは分からないけど、テル君がここに向かっている…。


 そう思って瞳を開けた。


「避難って…バレバレじゃねーか。ルシウスのやろう。嘘つきか?」


 アナウンスの声にイーターが舌打ちをしている。


「ラウグル、お前やっぱりバカなのか?バレて良いんだよ。その為に目立つモンスターの軍団を操ってるんだから」


「あ?ワイト…テメー、誰に向かって口聞いてんだ?」


「仲間割れは辞めろ…面倒だ」


「なんだレギオン。テメーもバカにしてんのか?」


「やめとけラウグル。レギオンに勝てっこないから。それに…バレるの早かったかな?とは思うし」


 ワイトの言葉に、白い顔に金色の髪のイーター、レギオンは考える素ぶりを見せている。


 レギオンはすぐに椅子を立ち上がり、髪を鷲掴みにして、無理矢理私の顔を引き上げた。


「…っ…」


 苦痛に顔が歪ませながら、レギオンを睨み返すくらいしかできなかった。

 薄らと笑みを浮かべる、レギオンの瞳は金色で瞳が細く蛇のようで、思わず息を飲んだ。


「…お前が助けを呼んだのか…?」


 声を出せるほどに体は回復していない。


「だとしたら…無駄だ」


 そう言うと掴んでいた髪を高く持ち上げて、私の身体を宙吊りにした。


「ザレス国王軍である俺たちが、娘と妻を同時に攻撃する。下手に戦力を割くと、どちらも助からない。ミシアに遠征中のイリヤはどちらを助ける選択をするかな?」


(まさか…お城が…襲われている?孤児院や寮もある養成校も…?)


 手足についた鎖の音がじゃらじゃらと響いた。


(……お父様に……みんなにルシウスの…居場所を……知らせないと……)


 宙吊りになった私に向かって、ワイトが顔を覗き込みニヤりと笑った。


「生きてるなんて可哀想に。ここからが地獄だよ?ルシウスはイーターなんかより残酷だ。俺たちは生きる為に人を喰らうけど、アイツは復讐の為にここに居る数百人を犠牲に出来るんだから」

 

 ラウグルが「ワイトの言う通りだ」と笑っている。


 確かにそうだ…。ルシウスは狂っている。それでも『家族』だから…。身内の不始末は身内で解決しないといけない。


(死にかけの私でも…出来ることはあるはずだ…)


「あ…レギオン。まだ殺すなよ?こいつが喰われてく様子を配信するんだって。ルシウスは悪趣味だから」


「ああ。そうだったな」


 レギオンは無表情で手を離すと、私の身体は大きな音を立てて床に落ちた。

 苦痛に体を歪めている私を尻目に、レギオンは窓に向かって歩いて行く。

 

「面倒だ。学校中の奴らを喰らって来る。ここはお前達2人に任せた」


 それだけ言い残して窓から飛び降りた。


「あ!!…レギオン!!」


「……」


「あーあ…勝手だな…もう。俺は嫌だよ?天使族の混血なんて不味くて食えない。食うのはラウグル。お前に任せた」


 ワイトは大きなため息を吐き、セットされたカメラを回し始めた。


「おう!まかせろ大好物だ!」


 ヨダレを垂らしながら、豪快に口を開くラウグル。


 その様子をぼんやり見つめて考えた。

 

 状況は分からない。けれど、今この瞬間、学校にイーターが解き放たれた。お城も襲撃されている。それだけは確かだ。


 守りたいと思っていたテル君も…。お母様も…みんな危険に晒されている。


「よっしゃー!!もう喰らっていいか?!」


「…まだだ。ルシウスの『犯行声明』の合図がきたら…」


(そういえば…さっき、『配信』って言ってた)


 ルシウスは私が喰われる様子をお父様に見せつけるつもりだ。


(…それなら…まだ…私に出来ることはある…)


 意識はある。指くらいなら動く…。それに…最後のとっておきだってあるのだから。

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