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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
11.誇り高きプリンセス

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5.さよなら(シュウ)

 真夜中の王宮の森は不気味な程に静かだった。


 この森は夜間立ち入り禁止となっている。

 この森はガーディアンの訓練所にもなっている。それはモンスターで溢れているから。


 夜間は動きが活発になる。昼のように簡単には辿りつけない。

 襲いかかってくるモンスターを倒しながら。待ち合わせの大樹の元へと向かった。


 その時には身体中傷だらけだった。傷を治しても無駄だと判断した私は、体力温存の為に傷だらけのまま治療はしなかった。


「…早かったね。シュウ」


 木の上からルシウスの声がする。他にも人影が二つ動いた。


(全部で三人だ…)


 武器を構える前に、そのうちの1人が素早い動きで目の前に飛び降りてきた。


「これがミーナとイリヤの娘か!」


(速いっ!!)


 そのイーターは、姿に合わず素早いスピードで間合いを詰めてきた。

 笑いながら顔を覗きこんできたのは、ライオンのような立髪の大柄なイーターだった。

 大きな身体は筋肉が盛り上がっている。皮膚は青黒く、腕に浮き上がっている血管は赤い。

 口は狼のように耳元まで裂けていて、口の端からはみ出した牙は、ドラゴンのように鋭い。


 狼狽えてる場合じゃない。震える手で白銀の銃を手に、弾丸を強く握りしめた。

 

 手の中の弾丸に聖力を流し込む。ほんの数日前に、アスカに教えてもらった『属性付与魔法』を試す。

 攻撃力の低い銃で大ダメージを与えるにはこの方法しかない。


 悪魔族と天使族の魔法は似て非なるもの。魔法の使い方自体は似ている。


 身体を流れる魔力の放出方法は同じ。


 でも、アスカのように上手くはいかない。


 アスカの属性魔法は内側に属性をつけられるとしたら、私の魔法は表面だけ。

 持続時間は僅か数秒。攻撃する直前に流し込む必要があった。


(…アスカのようにはできない)


 手にした銃弾が淡く光り出した。それを急いで装弾して、イーターに向かって構えた。


 その途端にイーターが、私の手首を取った。


 何が起こったのか分からなかった。受け身を取る間もなく、地面に叩きつけられた。

 身体中に強烈な痛みが走る。衝撃で銃も遠くに弾き飛ばされてしまった。


 痛みにもがいている私の身体を、巨体なイーターが踏み付けた。

 思わず絶叫して、身体を捩った。内臓をやられた。口の端から赤黒い血が流れる。


 息ができない。立ち上がらないといけないのに、痛みにもがくことしかできない。


「やっぱりイリヤの娘だわ。銃弾に聖力込めやがった。危なかったな?ワイト。華奢なお前は多分これ喰らってたら死んでた。あ…俺たちもう、死んでるのか」


 私の身体を踏み付けたイーターは、大きな口を開いてガハハと笑いながら、木の上の仲間に声をかけている。


「喋るなラウグル。バカがうつる…」


 仲間のイーターはそう言いながら、ふんわりと私の前に降り立ち、地面に倒れ込んだ私の髪を乱暴に引き上げた。


 吐血しながら咳き込む私を覗き込んだのは。さっきのイーターとは違う細身のイーターだった。


 頭上から黒いローブを被ったイーターは、青白い顔から真っ赤な瞳で私のことを穢いものでも見るかのように見下ろした。


「へー、あのイリヤの血が流れていても血が混ざると触れるんだな。アンデットに効かない天使族なんて、ルシウスのいう通り存在意義ないね?」


 ワイトと呼ばれたイーターは、笑いながら私の頭を地面に叩きつけた。


「触れるってことは、なぁ、ルシウス。コイツは喰えるのか!?」


 叩きつけられたばかりの私の顎を掴み、無理矢理顔を上げた。


「ラウグル、早まるなよ?まだだ」


 ルシウスは微笑みながら言うと、私の元へと近づいてきた。


 視界が霞む。脳が回る。苦痛に歪む私の顔を見て満足そうに巨大のイーター、ラウグルは舌舐めずりをした。


「…いいねぇその顔。ゾクゾクする。俺は気の強い女が好きだ」


 睨みつける私の首を持つと、そのまま宙吊りにした。

 その腕にしがみつきながら、必死に意識を保った。

 息が出来ない。体に力が入らない。でも、このままじゃ死ねない。

 これじゃ、今日私がみんなを裏切ってまでここに来た意味が無くなる。


 ただの無駄死にになってしまう。


「なぁ、こいつ喰っていいか?」


 ルシウスに向かってそんなことを叫んでいる。


「まだダメだ」


 その隙に震える手を何とか動かし、バレないように耳のピアスを引きちぎった。


「…うわぁ…。喰うんだ。さすがラウグル。ゲテモノ喰いだな。俺は無理そいつを僕に近づけるなよ。吐き気がする」


「ワイトは好き嫌いが多いな。俺は女ならなんでもいける」


 黒いローブの中からゲーと声が聞こえる。


「そう言うなよワイト。お前を連れて来たのは、コイツがイリヤの娘だから…だ。さっさと喰えよ」


 ルシウスはワイトの隣に立って、私のことを指差した。


「…お前が命令するなよ。僕たちはお前といると、吐き気がするんだ。無闇に近づくな」


「ああ。ごめんよ?忘れてた」

 


「それに勘違いするなよ?僕が来たのは『ロード様』の命を受けたからだ」


 言い捨てると、ワイトは宙吊りの私の背後へと回った。

 背中からため息が聞こえる。その手が触れた瞬間、体の中から聖力が抜けていく。


「僕はイーターの変異。魔力や穢れた聖力なら喰らうことが出来る。言ってる意味分かるよね?」


「お!いいぞ!ワイト。うまそうになった!」


 ラウグルの笑い声が遠くに聞こえる。


「コイツの聖力は僕が全部喰らった。まずい聖力を喰って、今お腹を壊しそうだけど…。オエっ……」

 

 私から離れたワイトは、気分悪そうに木の根元に座り込んだ。

 ワイトが離れたと思ったら、今度はラウグルが鼻息を荒くして、涎を垂らしながら、胸元に顔を近づけてきた。

 私を宙吊りにしたままで、口元から滴る血を長い舌でベロリと舐めた。


 身体を舐める舌の感触に吐き気がする。

 でももう声を出すチカラも残って無い。睨みつけることしか出来ない自分が情け無い。


 意識が飛ばないように必死だった。もう、痛みも感じない。息ももう出来ない。


(早く…しないと…)


 手の中のピアスを強く握り締めた。


「あぁ…血だけで興奮してきた。なぁ、もう喰っていいか?ルシウス」


「今はダメだって。舞台が整ったら好きに喰っていいよ」


「おぉ!いいね!早く行こうぜ!」


 ラウグルは手荒く私を肩に抱えた。

 ルシウスはラウグルに、自分について来るように話をしている。


 ルシウスは肩に担がれている私に顔を近づけると、満足そうに微笑んでいる。


「何も出来ず無惨に喰われる気分はどうだ?」


(やっと近づいて来た…)


 最後の力を振り絞り、ルシウスの服の裾を発信機付きのピアスを持った手で、強く掴んだ。


 小さなピアスをバレないように仕込んだ。


「…ルシ…ウス…あなたの思い…通りには…させない……」


 睨みつけてそう呟く私に、ルシウスはため息を吐いて私を睨みつけた。


「最後まで気が強い所は変わらないんだな。いつまでその減らず口を叩けるかな…見ものだな」


 そう言うと舌打ちをして、裾を掴んだ私の手を振り払った。


 もうチカラは使い果たした。これ以上は身体が動かない…。


 でも…これでいい。これで、私の役目は果たした。

 後はお父様が必ずルシウスを止めてくれるはず。


(…さようなら…みんな)


 薄らと微笑んで瞳を閉じた。

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