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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
11.誇り高きプリンセス

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2.十日前の真実①(シュウ)

 十日前のあの日…お城に帰った私に専属のガーディアン、バニラが手紙を渡してきた。


「幼い女の子から。らしいですよ?」


 この手紙は色々な人の手を渡って、私の元へと辿り着いた。

 私に渡されるものは、全て検閲にかけられるから。もちろん、バニラも中身を確認済みだ。


「先日、国立病院でシュウ様が治療なされたお子様から、お礼の手紙だそうです。大人気ですね?」


 受け取った青い封筒には、拙い文字で私の名前と三日月が描かれていた。


 差し出し人の名前は書かれていない。けれど、私は誰からの手紙なのかすぐにわかった。


 それは私が兄のように慕っていた人。


 私とお母様を恨んでいる人。


 この国を純血の国に戻すという大義名分を掲げ、あろうことかイーターと手を組んだ人。


 お父様の弟にして、私の叔父にあたる人。


 これは『ルシウス』からの手紙だ。


 バニラに悟られぬよう、震える手で急いで封を切った。


 中の便箋には、意味の分からない記号や絵の並んでいる。


 確かに何も知らない人が見たら、子供の悪戯書きにしか見えないだろう。


 けれど私には何が書いてあるのか、すぐに理解できた。


 この意味のわからない記号の羅列は、まだ仲の良かった私達が、幼い時に作った暗号だった。


 これは二人だけの秘密の暗号。お父様へのイタズラの算段をする為に考えたものだった。


(あの頃は楽しかった…)


 もう戻らない、昔を思い出して微笑んだ。


 『新月の襲撃』あの事が無かったら。今でも、笑い合えていただろうか。


(もしもなんて…世界は存在しないか…)


 あの襲撃で、ルシウスは家族を亡くし、心が壊れてしまった。

 そしてあの後、私は大切な兄を失ってしまった。

 一緒にお父様へいたずらすることも、話しかけることすら出来なくなってしまったのだから。


 この暗号はあの日のままなのに、私たちの関係は変わってしまった。


 ひとつ一つを指でなぞりながら解読した。


『1人で深夜王宮の森、大きな木、誰にもバレるな』


 これはルシウスからの呼び出しだ。イーターと手を結び、私たちを殺そうとしたルシウスからの…。

 もう、優しい兄のようなルシウスでは無い。共に笑い合ったルシウスはもういない。


 それは分かっているけれど、私は行かなければならない。


 母の為…。この国の未来のため…。


 危険な思想のルシウスを放っておくことは出来ない。


(それに…もしかしたら、その思想は無くなっているかもしれない…)


 この機会を逃してしまったら、もうルシウスを止める人は居ない。

 私では無理かもしれない。でも、一縷の望みを掛けて、私は彼と会わなければならない。

 

 震える手で手紙を握りしめて、いつも通りバニラにありがとうと伝えた。



 そしてその夜…私はルシウスからの指示通り、王宮の森へ一人で向かった。


 手紙に書かれていた『大きな木』とは、王宮の森にあるパロサントの木のことだ。

 二人でよくお城を抜け出して、ここで遊んでいた。


(懐かしい…)


「久しぶりだね。シュウ?」


 幹に触れながらあの頃を思い出していると、背後から懐かしい声が聞こえた。


 思い出に浸る間もなく銃を構えた。


 振り返った先にいたのは、やっぱりルシウスだ。

 最後にお城で見た時よりも顔色は良くなっている。

 それに、死んだように虚だった瞳はギラギラと危うく輝いていた。


 その表情に少しだけ「良かった」と思った。


 私はルシウスに殺されかけた。そうだったとしても、楽しい思い出しか無かった。


 殺されかけたとしても…私の大切な家族だから。


「…銃を下ろしてくれないかな?まず初めに見せたいものがあるんだ」

 

 銃を構える私に、ルシウスは眉をひそめて、今日は戦うつもりなんてないと笑ってみせた。


 そして、手にしていたタブレットの画面を私に見せた。


 そこには、何故かテルとアスカが駅でイーターと戦っている画面が映し出されている。


(どういうこと…?)

 

 アスカは今日アンデットの討伐に呼ばれてるって話しをしてた。でも、そこにイーターの出現情報なんて無かったはずだ。


(この映像は何…?フェイク?)


 フェイクにしては、息遣いや動きがリアルすぎる。


「因みに今送り込んだイーターは二体だけど、銃を下ろさないなら大量のイーターをこの場に送りこむよ?」


 状況が理解できない。でも、ルシウスがイーターと手を組んだことは、周知の事実だ。


 もしこの映像が本物なら、アスカたちはイーターと戦っているし、それを送り込んだのは、ルシウスだ。


 警戒しながらゆっくりと銃を下ろした。


「聞き分けがいいね。そこは変わってないな」


 私に向かって微笑むと、ルシウスは話を続けた。


「時間がないから本題に入ろうか?今日君を呼び出したのは…取引をする為だ」


「取引…?」


「そうだよ。シュウ。君には開戦の狼煙となってもらいたいんだ」


 ルシウスは目を細めて私に微笑みかけた。その顔は、もう私の知っているルシウスでは無かった。


「開戦って…ルシウス、あなたは何のために、誰と戦うの?」


 絶望感に打ちひしがれながらも、ほんの少し希望を抱いてルシウスを見つめた。


「そうだね…。穢れた血が混じった君には理解できない戦いになるかな?これは神聖なブルームン王国に戻る為に必要な戦いだよ。シュウ」


 そう言って笑うルシウスに、ようやくあの頃の二人には戻れないと気付いた。

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