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聖なる歌声の守護人  作者: 桃花
10.プリンセスのガーディアン

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13.予兆(テル)

 ニヤける顔を無理矢理引き締めて玄関を開けると、レイとユリアの声が聞こえてきた。


(…またいる…)


 俺がシュウのそばに付いているのが当然なように、レイもユリアの護衛だから当然なんだけど…。

 こう毎日イチャつくのを見ていると、げんなりする。


「あ…テルおかえり!」


 ユリアがリビングからひょっこり顔をだした。


「アスカが、テルと話しをしたいって待ってたんだよ?」


「…アスカが?」


 一体なんだろう?と思いながらリビングに入ると、不機嫌なレイと不安そうなアスカがソファーに座っていた。


「帰り遅かったけど何かあったの?」


「何も無いよ。寄り道しただけ。…それより話したいことって?」


 俺の問いに答えたのはアスカがいて、不機嫌になっているレイの方だった。


「今夜イリヤ…じゃなかった。国王はブルームンにいないよ?」


 思わず持っていたカバンを落としてしまった。


「それ本当?そんな話は聞いてない」


 気を取り直してカバンを手にすると、動揺を見せないようにレイに向き直った。


「イリヤはあえてテルに伝えなかったんだって。テルが一番近くにいるから。もしシュウにバレてしまったら、援軍部隊に勝手に忍び込む危険性があるって」


 確かに俺に伝える為には、シュウと離れているタイミングを狙わなといけないし。国王の言っていることが正しいと納得した。


「…それで…何で二人が知ってんの?」


 この質問に答えてくれたのはアスカだった。


「私たちの両親は『新月の襲撃』があってから、イリヤ国王がお城にいない時は必ず王妃の傍にいることになっているの。…その両親が急に今夜お城に呼ばれた」


「それは…俺に話していいのか…?」


「テルに話しておくように、指示を出したのはミーナ王妃だよ」


 レイがしれっと言ってのける。機密事項を俺に話すってことは…王妃は何かを感じているんだ。


(…嫌な予感がする)


 今日のシュウはやっぱりおかしかった。

 あの行動も…。あの言葉も。悲しそうな表情も…。

 こんな日常は今日で最後だと…。そう言いたかったんじゃないかって、変に勘繰ってしまう。


 顔を青くして呟いた俺に、レイは大きなため息をわざとらしく吐きながら、頬杖を付いて話し始めた。


「ブルームンでイーターの出没が極端に減ってる。この状況をイリヤがおかしいって、感じてたらしいよ?」


 確かに、それはガーディアン全員が不思議に思っていたことだ。

 当たり前に国王も感じていた違和感…。次に考えられることは、『イーターには何か目的があるんじゃないか?』ってこと。


「そんな時に今朝、ミシアにイーターが攻め入るって情報が入ったから。ミシアは同盟国だし、位置的にもイーターに支配される訳にはいかないから、国王は自身が行くべきだと判断したらしいよ?」


 ミシアは小国で…。それこそイーターが総力を上げて攻め入ると、簡単に潰されてしまう。


 そこが最後の砦となる。


 だからこそ、新月の襲撃の時も…今回も、国王が出向く必要がある。

 あの人は、アンデットのイーターにとっては最強の人材だから。

 

(それはわかるけど…)


 話を聞いていたユリアは、いきなり「腑に落ちない」と、レイに食ってかかった。


「同盟国が大事なことはわかるよ?…わかるけど、シュウが…娘が命を狙われている時くらい、そばにいてあげてもいいんじゃないかなって…」


 俯くユリアの肩に手を置くと、大きなため息を吐いた。


「気持ちはわかるけどそれは無理だ。シュウの父親は一国の王だから」


 そんな物分かりのいいことを、いつものように言ってのける。


(本当はユリアと同じ気持ちなのに…)


 こういう時、何も気にせず自分の感情を曝け出せるユリアが羨ましい。


「…そういえば、ブルームンにイーターが現れなくなって何日経った?」


 不意に言った言葉に、レイはすぐに答えてくれた。


「最後にイーターがが現れたのは、俺たちが倒したやつだから…十日間かな?」


「結構長いな…確かに、戦力を整えるには充分か…」


 ユリアですら「そうだね」と、緊迫した状況に気付いて黙り込んでしまった。


「…私少し引っかかってた事があるんだけど」

 

 沈黙の中呟くようにそう言ったのはアスカだった。


「駅でイーターと戦った時、私がシュウに連絡したのって全てが終わった後…。みんなと別れた後だったの…。テル…シュウとはあの日いつから一緒にいたの?」


 あの時シュウは俺が着く前に、学校のあの場所にいた。


「…どういうことだ?」


 早朝だけど、お城から学校までは距離がある。短時間で来れるわけがない。

 思い返して青ざめていく俺を見て、アスカは大きなため息を吐いた。


「やっぱり。テルより早く学校にいたんだ…。しかも私、イーターと戦ったことは話してないよ?私がそんなこと話すわけがない。シュウの覚悟を私は知っているんだから」


 アスカはシュウと幼馴染みで、俺なんかよりもシュウのことを知っている。そんなアスカが、危険に晒すようなことを言う訳がない。


 あの時何で、『アスカからの連絡で…』と思い込んでしまってたんだろう。


「それなのに、シュウは私たちがイーターと戦ったことを知っていた。なんで?それ…テルが話したの?」


 青ざめた顔のままアスカを見つめた。


「違う…。あの日…シュウは初めから知ってた…」



 考えれば考えるほどおかしい。


 あの日、イーターが出現したのはイレギュラーだった。

 国王も俺から連絡があるまで、知らなかったはずだし、シュウに知られてしまうなんてそんな『へま』は考えられない。

 

「あの日からシュウ、おかしかったと思わない?みんなに秘密を打ち明けたり上の空なことも多くなったり。でも、それは命を狙われているからだと思ってた…。私は…バカだ…」

 

 アスカは頭を抱えて、俯きながらポツリと呟いた。


「今日さ…シュウ別れるとき、「また明日」じゃなくて「ありがとう」って言ったんだよね?」


「…私にも…そう言ったの…」


 ユリアも不安そうに呟いた。不安が確信に変わっていく。

 シュウは…何かを覚悟している。それは『今夜』かもしれない。


「ねぇ…シュウに連絡してみようよ!前みたいに家に呼んでさ…。みんなで居れば、すぐに助けることだって出来るし…」


 ユリアが目一杯明るい声で、そんな提案をした。

 そんなユリアに向かって、レイは「やめとけ」と、首を振っている。


「シュウに何があったかは知らないけど、もし命を狙われているのなら、ここにいるよりお城の方が安全だし。それに…ユリアにとってもそっちの方がいい」


 言い方は悪いけどレイが正しい。シュウには王族専属のガーディアンが付いてる。それに、レイの両親も…。


 俺たちよりずっと場慣れしてるから、安全なことには間違えない。


 下手に俺が動いてしまうと、国王不在の中で厄介なことが起きる危険性もある。


(…俺は…無力だ…。でも…俺は俺の出来ることをするしかない…)


 そう思って顔を上げた。


「イーターが関係してる以上、ユリアまで下手に動くと危険だ。念の為に、今の話を国王とイリーナ教官にも伝える。あと…アスカはゼルと…ご両親にも連絡してくれるか?」


 アスカは頷き直ぐにメールを送っている。俺自身も急いで国王と、王族専属ガーディアンに連絡をした。


「あのさ…何でイリーナ教官にも連絡するの?」


 ユリアが不思議そうに俺に向かって聞いて来た。


「あの人と国王が、シュウに付けたGPSの受信機を持ってるんだよ」


「…それさ…シュウは納得してるの?」


「今それ、どうでもいいだろ?」


 睨みつけた俺にユリアはごめんと、慌てて謝っている。


「俺たちもすぐ動けるよう準備はしておこう」


 一緒に居ればよかった。手を離さなければ良かった。今更後悔しても遅いけれど、そんなことを思わずにはいられない。


 不安を拭い去る為に、シュウへのメールも送ってみる。


『今日様子がおかしかった気がしたけど?』


 震える手で打った文字はそっけなくて、機械的で…きっと俺の不安なんて伝わらない。

 送るだけ送って、着替える為に部屋を出た。

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