02 応接室での邂逅(そんないいものじゃない) 04
【注意事項】主人公が軽く暴力を振るいます。ついでにプチざまぁも行います。苦手な方はご注意ください。
読まれない方用に、要約をあとがきに。
扉からは、凛々しい様子の金髪碧眼で十六歳頃の美青年を先頭に、六名の男性が部屋へと入ってきた。
内四人は、アリスト王子と銀髪懸想従者と泉で見た護衛騎士二人。
残る一人は、茶髪に淡い翠眼の、第二王子らしき人物と同じ年頃の男性だ。
新たに現れた二人は、身長は私のちょい上くらい、百八十……は一応超えているくらいだろうか。
私の方を見た第二王子らしき人物は、微妙な表情を浮かべた。
そして挨拶のためにと一応立ち上がった私の姿を見て、明らかに眉根を寄せた。
「コレが本当に新たな神子か?」
怪訝そうな口ぶりだ。
「兄上!神子様には、敬意を払ってください」
……ふむ。
「王族って殴って不敬になるの?それとも私の方が立場上ってことでおっけー?」
右手を軽く上げてぐーぱーぐーぱー、とわかりやすいリアクションをとってみる。
(おっけーよ!)
私の頭の中に、何故かウキウキとした女神の声の許しが響く。
「女神がお許しをくれたわ。そこの第二王子もどき、一発殴らせなさい」
そう言って、右手をグーに握りしめて、軽く腕を前後にふりながら、ずんずんと近づいていく。
「「「はっ?」」」
周囲の男性陣は、見事なハモリを見せて一瞬硬直した。
耐性が出来て(しまって)いたのか、はっと我に返ったアリスト王子は、第二王子の前へと進み、私の進行を止めようとしてきた。
マディル団長は、私の背後から追いかけてきている。
因みに、第二王子は状況を把握できていないようで、棒立ちである。
こいつ、愚鈍だな?さすがあっさり攻略されるチョロ王子。
「ちょ、ちょっとお待ちください、流石にそれは……」
「大丈夫、お綺麗な顔は殴らないわ!腹パンですませてあげる。そしたら痕が見えないから困らないでしょ」
(ルーナには『治癒(ライト)※有効範囲:自分又は他者一人』を与えてあげるから、顔を殴ってもその後で治してあげれば問題ないわ!)
「あっ、そーなんだ。じゃあ、心ゆくまで顔でも殴るか!」
射程距離まで近づき左足に力を込めて踏み込もうとした途端、マディル団長が「失礼!」と慌てたように、私の右腕を掴んで止める。
「女神ハリアーフル様!ルーナ様に何を神託されているのでしょうか?あの、あの……兄が失礼を申し上げたことは謝罪いたしますので……!」
私の言葉で、女神が不穏なことを神託していることだけは理解できたらしいアリスト王子が、天井の方へ目をやって必死に訴えている。
だが、第二王子は「お前は何を言ってるんだ」「そいつの虚言なのでは?」「そもそもハリアーフルは我が国の主神ではないだろう」「“ホウカ”に並び立つような者に見えない」と散々言っている。
仕方がないので、マディル団長が掴んでいる右腕を軸にして体をぶんと振り回し――、
「ぐはっ!」
左足を振り上げて回し蹴りを第二王子もどきの腹へと叩き込んだ。
ちゃんと、アリスト王子は避けてあげた。
「ぐっ、ごほっ……!貴、さ、ごほ……!」
蹴りが思いの外重かったのだろう、第二王子様()は、えずきながらそのまま膝をついた。
「ざっまぁ!」
未だマディル団長に右腕を掴まれているものの、あえて左腕を腰に当て、胸をそらして上から目線でドヤってやる。
「ねぇ、権力の使い所勘違いした色ボケ口先だけ王子様?こちとら来たくもないのに女神様に頼まれて来てやったってのに、良い態度じゃない!そんなに不要だと思うんなら、女神様に面と向かって嘆願してみたら?」
(え、やだ……。顔は良いけど、直接会える程能力の高い子じゃないし……無理よ?)
この第二王子、能力高くないんだぁ……。
私の煽りに追い打ちをかけるような、女神からのさりげない拒否とディスりに、第二王子様()にちょっとだけ同情心が湧く。
救いは当の本人に聞こえていないことだろうか。
「わ、我が国はイリシア様の加護地だ!何故ハリアーフルが出張ってくるのだ」
蹲りながらもまだ言い募る口先だけ王子は、よく見ると目にはうっすらと涙が、口元にはよだれが光っていた。
うむ、同情心は撤回しよう。
いつの間にか右腕の拘束が解かれていることに気が付き、一歩前へと踏み出す。
そしてそのままもう一歩を――……口先だけ王子の左肩に載せ、そのまま体重をかけた。
「ルーナ様!」
アリスト王子が止めようとしてくるのを、頭をそちらに振って睨みつける。思わず怯んだアリスト王子は、そのまま動きを止めた。
他の従者や騎士もどきは、剣の柄に手を掛けた状態で立ち止まっている。視線が私と後ろを交互に見ているようで、恐らくはマディル団長が、何故だか彼らを抑えてくれているようだった。
「まずは、ウチの女神に“様”をつけろ、デコ助野郎!あんたが言うところの、主神イリシア様が、このまま行くと色ボケ共のせいで国が傾くかもしれないからって、お仲間のハリアーフル様にヘルプを頼んだのよ。おかげ様で私に余計な仕事が振られたんだけど、どう落とし前つけてくれるっての?」
(きゃあ!、“ウチの女神”だなんて!嬉し〜い!)
「はっ?」
何を言われているのかわからない、しかし助けてくれるはずの周囲が助けてくれず、女に蹴られて踏まれるなどと言う衝撃的な経験で、頭が真っ白になったらしい口先だけ色ボケ王子は、動揺のせいで何も喋られなくなったらしい。
「……ねぇ、あんた本当に王子?この国大丈夫?色ボケがなかったとしてもちょっと心配なオツムっぽいんだけど」
頼りなさげな落ち着きの足りない小動物感のある第三王子、最低限の礼儀もない権力の使い所を間違えた色ボケ第二王子。
それぞれ目の醒めるような美形だが、中身は百年の恋も冷めるような残念ぶりだ。
コレ等を見て、同じく“ホウカ”と言う神子に色ボケしているという第一王子がマトモとは到底思えない。
色ボケしてなくても、この国の未来ってやばくなぁい?
「ルーナ様のお怒りもご心配もごもっとですが、まずは一度セドリック殿下から足を降ろしていただいても宜しいでしょうか」
開いた間を読んで、マディル団長が落ち着いた声で提案をしてくる。
「降ろす代わりに顔面一発入れていい?」
私は振り向きもせず、第二王子に目線を合わせたまま、低い声で聞いた。
「できればそれもご遠慮いただきたく……代わりに私を殴っていただいて落ち着くのであれば、そのようにしてください」
その言葉を聞いて、ゆっくりとマディル団長の方を振り向くと、真摯な表情でこちらを見ていた。
「はーぁ……。そんなこと言われて殴れる訳無いでしょ。その代わり、貸し一つね」
仕方ない、と言う態度で首を横に振りながらため息を吐くと、第二王子様()から足を降ろす。
同時にマディル団長は、周囲の騎士に目線で第二王子様()を連れて部屋を出るようにと促すと、それに従って彼らは動いた。
残ったのは、マディル団長とアリスト王子、銀髪従者と、ヴェンデル司祭長とそのお供、隅に控えたメイドさん。
なにげに根性座っているなぁ、あのメイドさん。さっきから何一つ表情を変えずに佇んでるんだけど……。
ちらりとメイドさんに目を向けると、ニコッと微笑まれた。
……えっ……とぅんく……好きかも。
【要約】
第二王子様がルーナと対面するも、不信感をあらわに、女神ハリアーフルとルーナにネガティブ発言をかましたため、女神からの許可を貰って、ルーナは第二王子様へ腹蹴り一発叩き込んだ後、肩を踏みつけてざまぁを致しました。
その際、女神様から『治癒(ライト)※有効範囲:自分又は他者一人』追加されました。
結局、第二王子様は従者と護衛に連れられて、なんの成果もなく退席しました。
ここまでお読みくださいましてありがとうございます。
尚、プロローグにあるルーナのスキル表記を、一部変更致しました。
【ルーナのスキル】
『魅了(ライト)※有効範囲:他者のみ』
『魅了耐性(ヘビー)※有効範囲:自分のみ』
『感情指数(ライト)※有効範囲:他者のみ』
『キューピットの矢(ミドル)※有効範囲:他者のみ』
『愛の祝詞(ミドル)※有効範囲:他者のみ』
『隠密(ヘビー)※有効範囲:自分のみ』
『不死(ミドル)※有効範囲:自分 ※千人分のカップルを成就させる間』
『治癒(ライト)※有効範囲:自分又は他者一人』 ←NEW