02 応接室での邂逅(そんないいものじゃない) 02
「大丈夫ですか?」
ヨロヨロとよろめきながらソファーに座った私に、マディル団長は横に立ったまま、心配そうに声を掛けてくれた。
因みに、福福司祭長様は向かいのソファーに座り、お供たちはその背後に立つことにしたらしい。
大丈夫じゃないけど、ダメージデカイけど、既に皆はこの顔で認識してしまっている。
その上、女神はどうやらこのままを押し通すつもりらしい気配しかしない。
そして、この場はアウェイ。呆けていたらデメリットしかやってこない(経験済み)。
メイドさんが音も立てずにすすっとやってくると、クッキーと一緒に紅茶を注いで、すすっと部屋の住みへと戻る。
音も立てず、動揺も見せず、姿勢も崩さずに動くその姿はプロフェッショナルだ。
「大丈夫です」
頭に手を当てながら、ため息をつく。甘いものを食べたら落ち着くだろうか。
紅茶を一口飲むと、クッキーを手に取る。予想以上に甘い。砂糖を喰んでる感じがして思わず正気に戻った。
「大丈夫そうには見えないのですが」
「いえ……」
恐らくマディル団長は、驚愕の顔になったり怒りの顔になったり呆けた顔になったり真顔になったりと、忙しない私の表情筋に不安を感じているのだろう。当然だ。
言うかどうか迷った後、まあ良いか、と言葉を続けた。
「元々は二十六歳で、黒髪黒目でした。なんか若返ってるし、髪と目の色が全然違って吃驚しまして」
「二十六歳……」
「ロリババアとか言わないでくださいよ」
「“ろりばばあ”……?」
マディル団長は不思議そうに首を傾げる。
「いや、なんでもないです」
言ってから、この世界じゃ無さそうな単語だし、そもそも流石に十六歳頃じゃロリの範疇じゃないか、と思った、ら。
(“ロリータ”は十三、四歳頃がストーリー上でのメイン年齢だし、“にほんじん”は“どうがん”だから、“ロリータ”の範疇に入るんじゃないかしら!)
ウキウキした声が、脳内に響き渡る。
いや、身長百七十六センチの少女って……?
「まあ、とにかく、女神の思し召しで、見た目が本来とは大分変わっているんですよ」
女神を無視して、マディル団長に返事をする。
「なるほど、ハリアーフル様のご意向ですか。イリシア様の神子“ホウカ”様と本来は同じ色味でいらっしゃるのですね。そう言えば、頬や鼻の高さ、顎の形もどこか似通っていらっしゃいますね」
“ホウカ”様とやらは、予想通りに日本人であるらしい。
ライトノベルや乙女ゲー的設定から自分の神子を選んだイリシア様は、どう考えてもハリアーフル様と同類だ。
(イリシアはね、“いせかいしょうかんおとめげーむ”が好きなのよ!“びーえる”も少々嗜むけれど、“てぃーんずらぶ”が良いんですって)
余計な情報がどんどんと舞い込んでくる。
「私の前に、女神イリシアの神子殿が召喚されているのですよね?」
「そうです。ルーナ様がご降臨されました泉に」
そう、お向かいに座った福福司祭長が宣った。
ブハッ、と思わず飲んでいた紅茶を吹き出し、ゴホゴホと咳き込む。
「いかがなさいましたか?」
マディル団長は、「失礼します」と一声を掛けてくると、しゃがみこんで私の背中をそっと撫でてくれる。
……この人、この世界で出会った中で一番良い人な気がする……。
ここに来て久方ぶりの優しさに少し涙が出た(ような気がしただけで、涙腺は普段から硬い)。
隅に控えていたメイドさんは素早く近寄って来ると、どこからともなく出してきたタオルを、私にそっと差し出し、代わりにカップを受け取ってくれる。
マディル団長とメイドさんの優しさに触れつつも、吹き出した原因に訂正を入れておくことにした。
「いや……あの、ご降臨は言い過ぎかな、と」
「しかし、女神様の使徒でいらっしゃいますし、実際空から降りて来られましたので……」
アレだけ胡乱な目で見つめていたくせに、今更よく言う。と言うか、今も不安そうな目つきを止められないらしい。
「そうかもしれませんが、使徒になる前はごく一般人なので、大げさな言い方は結構辛く……」
「では、ご来臨と」
「いや、もっと普通に……」
「顕現なされた」
「いや……ううん、もうそれでいいです」
否定すれば否定するほど、混沌としそうな気配を感じて、どうでも良いことは折れることにした。
不信感を顕に、雑に扱われるよりよっぽど良い(はずだ)。
「ええと、私がやってきた泉に“ホウカ”さんもやってきたと」
「そうです」
私が落ち着いたのを確かめて、マディル団長はゆっくりと立ち上がった。
同じくメイドさんはタオルを受け取り、新たな紅茶を注いでくれる。
マディル団長と福福司祭長……もとい、クラーク・デール・ヴェンデル司祭長が語ってくれたお話を要約してみると、
神託を受けて泉へと向かうと、光に包まれた女神イリシアの神子が、泉の上に浮いていたらしい。
そのままふわふわと浮きながらすーっと滑るように動いて大地に足を降ろすと、「この世界を救うようにと女神にお願いされたのだ」と宣った。
それ以降は着実に各地で『豊穣の祝詞』と捧げ、国中からも信仰の対象になりつつあるとか。
現在は、第一王子と第二王子、第一騎士団副団長と、イリシア神殿の副司祭が傍についているらしい。
……待って、“ホウカ”さんとやらは、ちゃんと泉に浮かんで濡れもしなかったんじゃない!
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。




