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01 泉の間にて03

 女神に呼び出された直後の会話を思い出してみた。


「イリシアちゃんが、言うにはね?」

「……はぁ……」

「瘴気と神気の割合が傾いてしまって、作物の育ちが悪くなったらしいの」

「……へぇ……」

「あ、ちなみにイリシアちゃんって言うのは、わたくしの同僚で、“豊穣の女神”なのよ。わたくしも“豊穣”を司っているのだけれど、彼女の方が“豊穣”の能力は上でね。まあ、わたくしは“愛と美”をメインに司る女神ですから!“治癒”と“豊穣”の取り扱いは少しだけですの」

「……ふーん……」

「で、気の割合を戻すためにも、“ちーとのうりょく”を与えた“聖女”を遣わしたのだけれど、この子がね!『魅了(みりょう)(ミドル)』を使って、“逆はーれむ”を作り始めちゃったのよ!」

「……ほほぅ……」

「でも彼女、聖女としての仕事は一応ちゃんとしているものだから、“ちーとのうりょく”を取り上げるわけには行かないの。ほら、わたくしたち、現世に干渉するのに制限がかかっているでしょう?」

「……へーそーなんですかー……」

「なのでね、貴女には、“ぎゃくはー”を解体する任務に就いて欲しいのよ!」

「……ほー……ぅ?」


 この会話が、女神様に出会った冒頭で会話した内容である。

 交通事故で死んだと思ったら、謎の場所に立ってて「あれ?これってさぁ……」などと混乱した頭を整理しようと努力していた真っ最中のことである。


 脳内が飽和してて、当然まともな判断も返事もつかなかった。夢かとすら思っていた。

 今は、ぼーっと聞き続けていたことに後悔しかない。


**


「私の名は……」

 一応名乗ってくれた王子に対応しようと声をあげたものの、はて、元の名前を名乗って良いものかと悩む。

 正直女神の話は聞き流ししていただけで、何も打ち合わせなどしていない。

 打ち合わせどころか、「ちょっと待って」という言葉すら聞いてもらえなかった。


(“クピド”?それとも“キューピッド”?“アモール”?“エロース”とか?あ、“アイゼンミョウオウ”とか!?)

 あいも変わらず、人の考えを勝手に読み取って勝手に返事をしてくる女神。


 あのさぁ、愛欲系の神様の名前名乗らせようとすんな?


(じゃあ“アフロディーテ”とか?)


 もう喋んな。


 女神に任せると碌でもない名前ばかり提示される事に気が付き、黙らせる。

 そうして一拍分悩んで、結局自分の本来の名前を少し(もじ)ることにした。


「ルーナ」

(うーん、まあそれもありかしらね)

 少し残念そうではあるものの、女神は納得したように答える。


 だから喋るなって。


(さっき打ち合わせもしてないって、嘆いたじゃない!)


 その言葉を免罪符に、過干渉しようとするのやめろ。


「ご家名は?」

 後ろの従者が慇懃無礼な様子で追加質問してくる。

 フルネームで答えろよ、ってことだろうか。

「神の使徒にご家名なんて必要?」

 銀髪無礼に無礼で返そうと声を上げると同じに、女神の声が脳内に響く。

(ルーナ・リハーラ・ハリアーフルって、言えば良いわ。“私の加護を持つ貴女”という意味よ!)


「……“ルーナ・リハーラ・ハリアーフル”だ、そうよ」

「“だ、そうよ”?」

 胡散臭そうな表情で、銀髪無礼が語尾だけ復唱する。

「エルマー!」

 王子が慌てた様子で後ろに控えた銀髪無礼を振り返り叱咤するが、銀髪無礼は「怪しいではないですか!」と反論している。


「女神がそう名乗れって言ったのよ。ていうか、私この国助けなくても良くない?最初の“聖女”ちゃんとやらは、ちゃんと仕事してるんでしょ?男侍らすのも報奨の一つだって判断したら?」

 私の言葉に、王子も含めた周囲の目線はぎょっとしたような表情に変わる。


(それじゃ困るのよー、このまま“ぎゃくはー”が出来上がってしまえば、国の上位血族が減ってしまってうことになるわ。それでは将来的には瘴気が増えてしまう)


「ここまで失礼な態度を取られて、なんで私がこいつら助ける必要があるのよ。馬鹿男共が攻略されて国が傾こうが、自己責任でしょ。知ったこっちゃないわよ!さっきからずぶ濡れのまんまで会話させられてるし、物理的にも精神的にも快適さの一つもないんだけど?」


 そう言うと、(あ、ごめんなさいね)なんて女神が言った途端、ふわりと体を撫でるように風が吹いた。

 先程まで服に重みをもたせていた水分がさっとなくなり、体が軽やかになる。

「なんだ、乾かせるのならさっさと乾かしてくれたら良かったのに」

 既に怒りのせいで敬語も謙譲語も忘れた私は、ブツブツと女神との会話を口に乗せて喋った。


 ついで周囲のガヤの様子が変わる。

 困惑しながらも、「あれ、この人ほんとに救い主?」とでも言うような、半分(すが)るような目つきに変わった。

 しかし変わらず、近づきもしなければ声を掛けようともしてこない。

 接触をトライしてくるのは王子(と、王子の後ろに控えている色ボケステータスの妖怪イチャモンツケ)だけだ。


「あの……ルーナ様は先程から女神と会話をなさっているのですか?」

 王子はおどおどとこちらに目線を向けてくる。

「そうよ、さっきから煩いったら。実にも種にもならない会話をちょいちょい話してくるわ。……ていうか、聞こえてないの?あんた達」

(あら、実にも種にもならないなんて。ちゃんと貴女に私の加護付きの名前をあげたじゃない!)

 女神様は、ご丁寧に(“プンスカ!”)と言いながら、怒ったふりをしてくる。


 王子は驚いたようにブンブンと頭を横にふりながら、

「神々は、普段神託の形でこちらに語りかけてくださるだけです。(せん)だってお越しになったイリシア様の聖女様も神殿で祈りを捧げた時にしか聞こえないと……」

 そう言った。


「え、くっそ煩いレベルで声が聞こえるんだけど……」


(ルーナと私は“しんくろりつ”が高いから!)


 干渉するのに制限があるって話ではなかったのか。

 だんだんと口が悪くなっていく私は、死んだっていうんだったらそのまま眠らせといてくれたら良かったのに、と心の中で愚痴った。

 女神には丸聞こえのはずだけど、あいかわらず都合の悪いことは無視するらしい。








 ……因みにこの会話中、王子の後ろで「殿下に“こいつ”だの“あんた”だのと言葉の使い方が不敬すぎる!なんて野蛮な女なんだ!」と騒いでいた妖怪イチャモンツケは、思いの外ブレない男だな、と謎の評価を上げておいた。


ここまでお読みいただいてありがとうございます。


ご感想やイイね、ブックマークをしていただけて、とても嬉しいです。

真ん中ゴッソリ抜けてるんですが、ラストオチはなんとか考えられたので、頑張って埋めていきたいと思います。

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