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ヒロインだから好きにやって構わないですよね? 〜忘れられない恋心〜

作者: ネロ

ああ、幸せ。


今の私はまさしく両手に華。この国の王太子殿下も宰相子息も騎士団長子息も外務大臣も他の色々な人たち、みんな私の虜になっているわ。


とっても、楽しい………………………………







私には前世の記憶がある。

高校2年生の夏休みに交通事故で死んでしまった。


そして今、生きているのはなんと前世で読んだ本の中の世界。しかも、私はその物語のヒロイン!


現実味のない風景と匂いと人たちがいて、不安というよりドキドキして震えが止まらないかった。

これからどんな人生が待っているか、どんな人と出会ってどんなふうに生きて、死んでいくか。楽しみでいっぱいだったのを覚えている。


10歳の時、私は教会で神託を受けた。

神託を受けた女の子は聖女として国に尽くさなくてはならない。

貧乏だった平民の家族と離れて教会で暮らし始めた。


教会で暮らすのはかなり辛かった。

毎朝楽しくもない祈りの時間があって規則正しい生活、ご飯をしっかり食べて、運動して、勉強して、スケジュール通りに動かなければ罰が下った。


苦しい生活から解放されたのは15歳の時。

なんと、貴族しか行けないと言われる学園に特待生として編入することが決まったからだ。この国の聖女3人の中で最も成績の良い私が選ばれたそうだ。

お気軽寮生活が始まって、毎日がすごく楽しかった。


友達もできた。

王太子のレオ、宰相の息子リヒト、筋肉バカのルトー、外務大臣の息子ルージュ、オネエのカールに侯爵子息のアルト。みんな私に良くしてくれている。



でも、女の子の友達はできない。多分、これは嫉妬だと思う。

痛い女だと思った?けど、仕方ないよ、だって私可愛いもの!!!

オトコたちはみんな顔はいいけど馬鹿ばかり。ちょっと私が上目遣いをすればイチコロよ♡

悪いのは婚約者が目の前にいるのに私に媚び売ってくる男たちよ!!!



「ルナ♡遅いよー、何してたの?」

「ルージュ!寮まで迎えに来てくれてありがとうっ!嬉しいわぁ!」

「あったりまえでしょ♡だってオレ、ルナの為にこの学園まで通ってるんだよぉ」

「そうなの?ルナ、すごく嬉しいな♪」


玄関を開けたらルージュが迎えに来てくれていた。

相変わらず脳味噌が溶けそうな喋りかたをする。まあ、ノリ的には私も変わらないけれど。


「ルナーおはよう!」

「ルナ、今日もかわいいね」

「ルナー、今度の休み暇なら遊びに行かない?」


ちょっと歩けば男たちは皆んな私に声をかけてくれる。だけど、お金も爵位も持っていないやつに興味はない。

私は笑顔で手を振りかえしながら心の中で今日も周りを馬鹿にする。



「ルナ」


後ろから聞こえた良く通る声。

キタっと心の中でガッツポーズをしながら振り返った。


「おはよぉございまぁす!レーオっ」

「ああ、おはよう」


ニコッと笑う王太子殿下は間違いなく、世界一イケメンだ。

本当なら王族を愛称で呼ぶなんて不敬罪で捕まるけれど私は特別に(・・・)許してもらっている。

彼が本命だ。他の人はお飾りにすぎない。


「一緒に教室へ行こう」

「やったぁ!」


ルージュからサッと離れてレオの腕に絡みつく。ルージュは残念そうな顔をしたけれど、王太子殿下の前では動けない。

そして、レオの後ろにいつもひっそりと立っているのが彼の婚約者のヴィローレ・トランセント公爵令嬢。

彼女は他の令嬢たちと違って悪口も噂話もぜったいにしない。友人はいるそうだけど目立った行動はせず、いつもじっとしている。

レオによれば幼い頃から次期王妃として教育を受けており、貴族としての手本となれるよう心がけてきたそうだ。

しかし、ヴィローレ・トランセントは無表情で何を考えているのか全くわからない。悪意も善意も何も感じ取れない。ただただそこにいる人形のような美しい人だ。

だから、婚約者も愛想を尽かすんだ。レオはヴィローレ・トランセントを愛していない。





その日の放課後、私は教室で貴族の令嬢方に囲まれていた。


「貴女、聖女だからって調子に乗っているんじゃありませんこと?」

「婚約者のいる殿方に手を出すなんて、常識がありませんわ!」

「しかも、1人ではなく複数人ですわよね!?」


ああ、女は面倒くさい。なぜ私の方に言ってくるのかしら?


「そんなの、ご自身で婚約者たちに言ってください。そもそも、





あなた達に魅力がないから婚約者は私のところに来るんでしょう?」






その日から私へのあたりは格段に強くなった。

教科書もノートもびりっびりに破かれているし、私の席はノリだらけでベトベトだし、上履きもドロドロだ。

それを男達がフォローする度に、私への当たりはますます酷くなっていく一方だった。


放課後、外に捨てられた落ちているペンを拾いに行った時のことだった。

あっと思った時には遅かった。2階の窓から花瓶の中の水が降ってきて頭から水をかぶった。

クスクスいう声が聞こえて、やられたっと唇を噛んだ。


「あら、泳ぐにしてはまだ早いですわよ」


そんな声が聞こえたのはその時だった。

パッと顔を上げた私の目の前には一台の立派は馬車がいて、乗っていたのは、王太子殿下の婚約者であった。

彼女は珍しくニコニコ笑いながら「乗りなさい」と馬車の扉を開けた。



馬車が動いている間、私たちは一度も口を開かなかった。

ヴィローレ・トランセントが案内してくれたのは、彼女の家だった。


トランセント公爵家に着くとまず初めに風呂に入れられた。この世のものとは思えないほど気持ちが良かった。

そのあとドレスを借りて、サロンに案内された。

ヴィローレ・トランセントの前にある椅子に座るよう指示され、おそるおそる座った。


「さて、正式に挨拶するのは初めてですわね。ヴィローレ・トランセントです。お見知り置きを。わたくしのことはヴィローレと呼んでいただいて結構ですわ」

「ルナ・セイントです。よろしくお願いします、ヴィローレ様」


完敗だ。ああ、なんて美しい声、容姿、仕草、雰囲気。こんなの勝てる訳がない。いや、私なんかでは勝負にすらならない。

彼女は本当の意味で、女神だった。


「学校生活は楽しいですか?」

「……………」

「そうでしょうね」


お茶を飲む仕草ひとつとっても完璧だ。

これが、未来の王妃様。


「ところで、貴女、王太子やその周りの貴族子息の方々のこと、野菜か果物か、あるいは虫か何かだと思っていらっしゃるでしょう?」

「ブハッーーーーーー」


思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。


「っっっっっっごめんなさい!!!!!」

「これくらい別にいいわ」


執事が持ってきたタオルでお茶を拭きながらヴィローレはまた笑った。


「それより、質問に答えてくれるかしら?」

「はいっ、えーと、その、貴族の方々が何か別のものに見えるっていう………」

「ええ」

「………どうして、分かったのですか?」

「ふーん、本当にそうやって見えているのね」


失礼な話をしているとは分かっているが、実際にそうだった。

野菜とか果物に色仕掛けをするのは、簡単だもの。


「そうだったのね。納得したわ」

「え?」

「私もそう思っているわ」


ワタシもソウオモッテイタ?





え?





「お野菜と結婚できないでしょ?子供なんてもっとできないでしょ?」

「ええええええ!?!?!?そんなふうに思っていらっしゃたのですか!?!?」

「ええ。お野菜が婚約者になった時は泣いて嫌がって見せたけど、王族との婚約なんて世界一名誉なことでしょう?断れるわけないってことよ。あんなポンコツ王子に恋人ができようができるまいがわたくしには関係のないことだし、嫉妬なんてする方が無駄ですわ」

「なるほど……あ、でも、1ついいですか?」

「どうぞ」

「どうしてそのような重要なお話を私なんかに……?」

「ふふふ。教えてあげようか?」

「ぜひ」

「これはわたくしが考えた予想なんだけどね、貴女、ほかに好きな人がいらっしゃるでしょう?」


ガタンっと音を立てて私は椅子から立ち上がった。




どうしてそれを、()()()()()()




「落ち着いて。簡単な話よ」

「す、すみません」

「貴女自身は気付いていないかもしれないけれど、貴族令息の方々と話しているときの貴女の笑顔はまるで作り物よ。お面の様に一切崩れない笑顔と高い声。そして、その仮面が外れている時は、大抵授業を受けている時。これはわたくしの部下に調べさせたものなんだけど……」


そう言って取り出したのは一冊の分厚いファイル。

中には日付や時間ごとに分けられた授業中の私の写真と表情の説明、ノートの内容まで全て書いてあった。


ゾゾゾと背中に寒気が走った。

まさか、こんなことを調べ尽くされているなんて。


「ごめんなさいね。一応、これでも王太子妃になる予定だったから流石に放り出しておくわけには行かなかったのよ」

「いえっ、その、当たり前のことですよね。未来の夫が毒女にたぶらかされているのを見ているだけではありませんよね……」

「わたくしがほかに好きな方がいらっしゃるのではという結論に至った理由はその資料のこともあるけれど、1番は『勘』よ」

「えー」

「あら、勘を甘く見てはなりませんわ。わたくし、今まで生きてきた中で『勘』を外したことは一度もありませんの」


まじですか。

すげー、本当に凄い。こんな人が王妃となるんだ。

無表情な人だなんてとんでもない!!!

少し話しただけで賢い人と伝わってくる。


「………私の本当に好きな人は、もう会えないんです」

「どの様な方なのか、教えていただけますか?」

「はい。こんなこと、いきなり言われても信じられないと思うんですけれど、私には前世の記憶があるんです」

「へぇ」

「家庭は、普通ではありませんでした。母は父から暴力を受け、精神的に心を痛め、私が幼い頃に自殺しました。1番上の兄はその、アレな感じの組に入って帰ってこず、歳の近い姉も一日中遊び歩いて狂っていました。父はたまに家に帰ってきたかと思えば暴力を振るい、私は全身あざだらけでした」

「苦労したのね」

「そんな家庭環境でまっすぐ育つはずもなくて、私はギリギリ高校に進学できても、今考えると後悔しかありませんが、危ない遊びを続けていました。でも、そんな時、1人の人と出会ったんです。彼の事、初めは馬鹿にしていたんですけど、私が警察のお世話になった時、1番に駆けつけてきてくれたんです」

「その方について、詳しくお聞きしても?」

「彼はウチの学校の教師でした。ああ、でも教師というより学者の方が近かったのかもしれません。ヤンキーの集合体の教室で、誰も聞いていない授業を淡々としていました。いつも野暮ったいメガネをかけていて、髪はボサボサ、隈が濃くて、無精髭はやして、猫背で、ピアスの穴がいっぱい空いていて、引きこもりで、そのくせ目は鋭くて、秘密の多い先生だったと思います。私は、彼に猛アタックを繰り返し、付き合うことになりました。周りにバレない様にしながら」

「生徒と教師の禁断の恋ってところね」

「………きっと彼は私に同情してくれたのだと思います」

「どうしてそう思うの?」

「当時の私に誇れるところなどありませんでした。馬鹿で、アホで、遊び呆けて、本当に友達と呼べる人はいなくて、社会不適合者の代表作品でしたから。恵まれなかった私に同情してくれただけだったんですよ」

「本当に彼はそうだったのかしらね。まあ、いいわ。それで、貴女はどうして死んだの?」

「それは、ただの事故ですよ。車が走ってきて、それに気付かずドーンとぶつかりました」

「痛かったでしょう?」

「いいえ。一瞬だったので」


笑って答えたにも関わらず、ヴィローレは顔を顰めた。

それから彼女は一口紅茶を口に含むと片手をあげて執事を呼んだ。


何かをコソコソと伝えたあと、彼女は私の方へ再び向き直った。


「今度は、わたくしの話を聞いていただけますか?」

「はい」

「わたくしの婚約者、レオナルド殿下には兄がおられます」

「え!?でも、レオナルド殿下が王太子で……」

「兄殿下の名はヴィクトーレ・フォン・ゲーテ。現在、隣国へ留学されておられる方です。彼の母は現王陛下の側妃様であられた故ブラウトリーティア様であります。ご母堂様の身分の違いにより、レオナルド殿下が王太子となられ、ヴィクトーレ殿下はお隠れになられました。つまり、彼はこの世に存在してはならない方なのです」

「なんてめちゃくちゃな……」

「ええ、めちゃくちゃな話です。これには王家の闇が隠されていますから。王太子より有能な王子は要らないのですよ。ヴィクトーレ殿下は現在、ロン・マクフォールとして生活されておられます」

「マクフォール……外交省長官の、マクフォール侯爵家ですね」

「ええ、そうです。そのマクフォールで合っています。かの家は侯爵家でありながら、代々王女を輩出してきた由緒ある家系ですから」

「たしかに、それは、大変都合が良いですね」

「ヴィクトーレ殿下、もとい、ロン様は隣国へ渡る前、わたくしの教育係を勤めてくださっていました。学術、武術、乗馬に礼儀作法、ダンスに社交辞令、なんなら閨のアレコレなどもです」

「ね、閨って………」

「健康な血筋を残すことがわたくしの役目でございます」

「だからってそんなことまで……」

「実践があって、ああ、もちろんいれはしませんよ。雰囲気作りです。わたくしの不手際で王太子殿下が萎えてしまえば元も子もありません」

「貴族教育こわ…………」

「王太子の教育係とはつまり、わたくしのあれこれを管理するという意味です。それはもう、人には言えないことをあれこれと、ね」

「さ、さっきのより言えないことがあるってどれだけ…………」

「でも、いくら学んでいてもできないものは出来ないのです。例えば、王太子と触れ合うとか」

「え、」

「わたくしが生まれたとき、もうすでに婚約は決まっていました。初めて出会った5歳の時、わたくしは彼にてを握られて蕁麻疹が出て倒れました」

「うそ………」

「本当です。父には顔を殴られて、母には軽蔑されました。でも、ロン様は違いました。優しく頭を撫でていただいて、私は朝まで泣き尽くして涙が出なくなるまで泣いて、やっと落ち着いた時、気付きました。『ああ、わたくしが泣いたのは父に殴られたからでも、母に軽蔑されたからでもなく、ロン様に会えなくなることが悲しかったんだ。わたくしはロン様が好きだ』って。それからは必死でした。両親の言いつけを守り、王太子への不快感を隠し、他人へ感情を悟られない様訓練し、どうにかしてロン様がわたくしから離れていくのを止めようとしました」

「だから、ヴィローレ様はいつも無表情で」

「ええ。でも、別れは早く来ました。わたくし達が学院へ入学すると同時に彼は隣国へ行ってしまいました」

「どうにもできなかったのですね……」

「はい。両親もわたくしの心に気付いていた様です。わがままを許していただきました。わたくしはですね、貴女に我が婚約者を奪って欲しかったのですよ」

「え」

「貴女が婚約者を奪ってくださったら、わたくしは本当の思い人と一緒になれますから」

「えええええ!?!?」


 ヴィローレ様の背後に控えていた執事服を着た男性がスマートな礼をした。ニコッと微笑む彼の瞳は、現王の青い瞳と全く同じであった。


「つ、つまり、私は囮で?」

「ええそうですよ。と、言いたいところなのですが、それは失敗しました。なぜなら……」

「なぜなら?」



涼那(りょうな)



突然、後ろから聞こえた声に私は振り返った。


「なんで、その名前………」

「まだ気付かねぇの?俺だよ」


目尻をキュッと細くして、ちょっとだけ肩を上げる笑い方。

背は高くて姿勢はいいし、髭も生えてなくて、めちゃくちゃイケメンで、メガネはかけてなくて、髪もボサボサじゃなくて、ピアスの穴も空いてなくて、トレードマークだと思っていた白衣も着てないけど………………


幸成(ゆきなり)!!!!!」


私は彼に飛びついた。


「おいおい、泣くなよ」

「泣いてないっ!汗だからっ!」

「そりゃ随分と汗っかきだなぁ」

「うっさいっ!黙れよっ」

「あははは、お子ちゃまに戻ったのか?」

「ううううう〜ゆきなりーーー会いたかった。ずっと会いたかった」

「……俺の方が会いたかったよ、涼那」


タバコの匂いがしなくて、代わりに甘くて蕩けそうな匂いを発しているけれど、この人は、間違いなく、私の恋人だ。大きな手で、腕で、体で、包み込んでくれるこの安心感は、幸成以外ありえない。誰がなんと言おうと私が断言する。


「ったく、心配したんだぞ。16年、お前だけをずっと探していた」

「私を?」

「ああ。お前は、俺の恋人だぞ?」


ふわっと風が吹いて、私のドレスをなびかせた。


「私のこと、好きなの?」

「っは、好きじゃないやつと付き合うかバーカ」

「バカって、もう馬鹿じゃないっ!」

「うん、知ってる。愛してるよ、涼那も、ルナも」

「アホ幸成……私も愛してる」


お互い抱き合って再会を祝っているところに、ヴィローレとその恋人のロンは笑いながら言った。


「貴女達の近くにいると、わたくしまで溶けそうだわ」

「人前でイチャつくのは避けた方がいいぞ、アルダス」


ん?アルダス?


「アルダス・エヴァンスだよ。俺の名前」

「そっか、幸成も転生したの?」

「ああ、女神脅してきたからな」


ん?

何か不穏な単語が聞こえた気がするけど、これは突っ込まない方がいいのかな!?


「アルダスと僕は同級生だよ。隣国へ留学したときに出会ったんだ」

「ろ、ロン様と同級生って、」

「ああ、俺も学生だからな。学年は2つ上だがな」

「ウッソだー」

「嘘なんかつくかよ、ボケ」

「ほんとの本当に!?」

「もちろん」

「しゃっ!これなら合法的に学生服が見れるじゃん!!!!」

「あー、すまん。俺が通ってる学校、私服だから」

「………え」

「残念だったな」


勝ち誇った顔をするアルダスにぐぬぬぬと唸っているとヴィローレが呆れた様に言った。


「貴女たち、仲がいいのは良いことだけど、TPOを考えなさい」

「「すみません……」」


「ヴィローレ、アルダス、ルナ嬢、準備はいいかい?今からの計画を話すよ」


ロン様の言葉に私たちは深く頷いた。














_1年後_


私は隣国へ移住していた。


あのお茶会の日から、私たちはあっという間に引っ越してきた。


私は『王太子殿下、ならびにその周辺の方々をたぶらかした』罪で聖女を辞めさせられ、隣国へ追放された。

隣国ではしばらくはアルダスの家にお世話になって、その後はアルダスと同棲している。もうそろそろ結婚する予定だ。


ヴィローレ様は私が追放された1ヶ月後に、自国をロン様と一緒に逃げ出してきた。

彼女の有能な部下達が集めてきた情報を元に婚約破棄に成功し、ロン様が迎えに行ったらしい。

ロン様曰く、「僕は国王陛下(ちちうえ)に借りがあったから」だそうだ。


現在、隣国の学生として学びながらアルダスの研究の助手としても働いている。

前世からの学者気質は相変わらずの様だ。

この世界になかった顕微鏡などの実験道具、記録の取り方など前世の記憶をフル活用して今や学問の世界で一躍有名なアルダス・エヴァンス。

誇りの恋人だ。


ヴィローレ様は王太子教育で授かった外国語術を使って翻訳や通訳の仕事をしている。

なんと彼女、全12ヶ国語がペラペラなのだ。

「書く方は9ヶ国語しかできないから」と落ち込んでいたのを思い出すと一周回って腹立たしい。


ロン様はヴィローレ様と結婚するため、侯爵家を抜けて隣国で新しく子爵となった。

親のツテだよと笑っていたが、学校で好成績を収め、新しい事業を次々と開く彼の能力が評価されたということは、誰もが知っていることだ。



「そういえば、レオナルド殿下は新しい婚約者探しで忙しいらしいぞ」

「へぇ」


今やこの4人で集まってお茶をするのはいつもの事だ。


「そういえば、ルナは宿題終わったのか?」

「………」

「早くやってこいっ!」

「えー、別にちょっとくらいいでしょー!」

「駄目だ」

「あーあ、ヴィローレが羨ましいよ、」


そう、ヴィローレは自国で卒業試験を受けて隣国へ渡ってきたため学園卒業資格を持っている。だからこちらで学校に通う必要はない。

彼女にとって学園での勉強は10歳の時には終わっていたため、寝ていてもテストで満点を取るくらい余裕のことだったのだ。

たしかに学園でも頭が良かった。ずっと満点だった。もしかしたら、レオナルド殿下はそんなところにもヴィローレに引け目を感じていたのかもしれない。


「ああ、そいえば、僕ら1つ報告があるんだけど」

「どうしたの?」


ロン様とヴィローレは目を合わせてにっこり笑った。


「「子供ができました」」



「おお!!おめでとうっ!」

「はー、いつの間にそんなことをしていたんだ?」

「へへっ、すまないな、アルダス。お前より先にできちゃって」

「っは、るせー、俺らも直ぐできるよ。な?」

「なっじゃないわよっ」


私は顔が赤くなるのを自覚しながらアルダスの脇腹を小突いた。


「じゃ、できちゃった婚ってやつか?」

「まあね」

「はー、すげぇ。ロンに子供なんて。学生時代、近寄りがたいけど超絶イケメンの称号を贈られたロン・マクフォールがな…………」

「近寄りがたかったの!?」

「それはもう、毎日周りを睨みつけていたからな」

「余計なこと言わなくていいんだよ、アルダス君」

「ほらな、こんなふうにってウワッ!落ち着けって!そのフォークは机に置くんだっ!」


ギャーギャー言いながらお茶を楽しむ私たち4人は、いつまでも、ずっと、永遠に友達だ。


「ねえ、皆んな。生まれ変わっても、一緒に遊ぼうね」







「「「もちろん!!!」」」













以上で終わりです。

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子供たちの話を書きたいな、書こうかな……って感じです笑

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