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第五話

  ~第五話~


 唐突に芽吹いた恋との邂逅を「晴天より落つる春雷の全身を駆け巡る」様に喩えるのだとか。市井に暮らす少女たちの巷に流行したそんな文芸の類を何点か読み漁る私を、ばあやは別段咎めようともしなかった。生まれ育ちを置いても、気質から言って「恋に恋する」が私の性分に合う筈も無いと知っていたのだと思う。


 そう、何時からの自覚であったかは定かでないけれど、私の育む恋はいつだってこの腕の中で温めていた其れに相違ないのだから。


―――


 今正に、その恋は人が寝ているのを良い事にそろそろと腕の隙間を抜け出さんとしている所だった。


 「…だめ、まだ寝てなさい」

ふわふわの頭髪の感触を確かめる様に抱き締め直す。


 「…出陣の支度が有るから」

 纏わり付く私の腕を名残惜しそうに剥がしながらふわふわが答えた。その儘寝台を後にしようとする寝巻きの裾を夫が捉える。


 「昨日万端に整えたじゃないか…せめて昼の召集までゆっくり出来ないの?」

 多分に諦めを含んだ声と聞いて取れた。彼の性分を知り切った私達だからこそ、この請願は彼を徒に苦しめるだけと知って、それでも言葉にせずには居られなかった。



 「…あの、今日単なる定期実施の掃討作戦なんですけど…何で毎度今生の別れみたいにすんの?」

 眉間を押さえながら呻くように声を漏らしている。酷い認識の相違だわ、正さねば。


 「あぁ!なんて無情なことを!僕らはユーリが戦場に立つ姿を思い浮かべるだけで自身の五体が裂けそうな気分になっていると言うのに!」

 いけない、夫に先手を取られたわ。


 「そうですわ!毎度の事とは言え万が一を思わずに居られない私達の気持ちを考えた事が有って!?」

 「『毎度の事』って自分で言っちゃってんじゃねぇか」


 「あぁ…そんな風に人の揚げ足を取る様になってしまうなんて…お姉ちゃん悲しいわ!」

 「三文芝居で人の出陣妨げる連中に揉まれ続けてりゃあこうもならぁな!!」 


 「…ちぇ、昔はこれで出立ギリギリまで時間稼げてたんだけどなぁ」

 「お前はその時折本音が漏れちゃう癖をどうにかしろ…」

 

――― 


 「昨日の朝は随分と素気なくフッてくれたわね?」

 「…雑な誘いを掛ける方にも問題が有るとは思わんですか?」

 本城の謁見室まで、と言う条件で同道する事にした。五体を預けんばかり身体を寄せ腕を絡めて来るのを振り払わないのが現状精一杯の誠意なのだが…


 「嫌いでもない癖に…あっ、ちょっと!誠意を見せるお心算ならもう少しゆっくり歩いて下さらない?」

 「心読まないで…っつーか無理、顔から火が出そうなんだこっちは」

 "豪腕の副長を冷やかし囃し立てる絶好の機会"とでも言わんばかり寄って来る兵達の絡みのうざってぇこと…


 「副長!会議室への食事の搬入完了…おっと!失礼しました!お楽しみ中で「ぶっ殺すぞ」

 報告に駆け寄って来た麾下の小隊長を睨み付ける。この野郎…普段は小間使いの報告なんて逐一来やしねぇ癖して…しかも全然ビビってねぇし…


 「もう!そんな乱暴な言葉遣いをしてはダメでしょう!」

 「………はい」

 返事の後に『妃殿下』と付けるか『姉さん』と付けるか数瞬悩んで止めた。どちらにせよ立場の回復は寧ろ悪化するだろう。


 「フフッ…!で、では自分は先に司令部に向かいますので…クク…」

 コイツマジでどうにかしたろうか。

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