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第二十五話

 ~第二十五話~


 ―――


 『お帰り、何処行ってたん?』

 「あぁ…うん、ちょっと大隊長の見舞いにな」

 小隊宿舎の談話室で書類仕事を片付けていたらしいエウリィの出迎えに曖昧に答えた。ここ数日、彼女に対する後ろめたい思いは日を重ねる毎に増している。明らかに態度にも現れてしまっている筈なのに、其れについて決して言及しようとしない彼女の優しさは一層俺の心を蝕んでいた。


 『大袈裟じゃない?ただのぎっくり腰でしょ?』

 「まぁな…放っておけばその内復帰できるとヤブ医者も言ってたんだが…」

 『言葉通り放っとけば良いよ、代理をさせられてるエカテリーナ様の方が余程心配だっつーの』

 大仰に手を振り上げやれやれと首を振るエウリィの対面に腰掛けた。しかし面と向かう気にはなれず、椅子に横掛けに腰掛けて談話室の暖炉が舞い上げる煤の行く末を目で追う。


 コツコツ、と机を指先で叩く音がする。『話そうよ』、と言う二人で決めた合図だった。


 「…どうした?」

 『そりゃこっちのセリフ、このあいだから何ふさぎ込んでんのか知らないけどいい加減吐きなさいよ』

 「…」

 目線の置き所を見失い俯き加減になった俺の顎を指先でクイと引き上げてエウリィは続けた。

 

 『それとも知らない間に"同志"に隠し事するような悪い男になっちゃったわけ?』

 ドクン、と、自分の心臓が跳ね上がる音を聞いたような気がした。


 「すまん、もう俺にはその資格がないからっ…!…ってイテテテテテテ極まってる!極まってる!折れる折れる折れる!!」

 いたたまれず、音を立てて立ち上がりその場から立ち去ろうとしてしまった俺の腕を分隊一の徒手格闘の名手が絡め取った。


 ―――


 『"この野郎まさか手前の獣欲に任せて殿下がたに狼藉でも働いたんか"と思ってよくよく聞いたら…あんた…』

 「やめろ…それ以上言うな…」

 『まさか"奪われちゃった…俺のベーゼ"なんて泣きながら報告されるとは思わんかったわ』

 「だからやめろってえええええええ!!あの時はまだ心もガキだったんだってえええええええ!!」

 半笑いで人の黒歴史を掘り起こす極悪非道に思わず絶叫、人払いした意味無ぇなコレ…


 『あんたのそう言う細かいことグチグチ一人で悩んで周囲を遠ざけようとするとこ本っ当きらい、水臭いにも限度があるわ』

 「お前それ取り巻き共にも愚痴ってんだろ!…いや!この際愚痴るのは良いにしてもちゃんと説明しろ!『おねえさまの隣に湿っぽい男は似合わない』とか何か確実に変な誤解を生んでるっぽい的外れなヘイト食らってんだぞこっちは!」

 『しょうがないでしょ、"同志"に当てはまる符牒が"バディ"か"パートナー"しかないんだから』

 「~~~~~~っ!!」

 『あれ、あんたも喉やったの?』

 声にならない声を上げながらテーブルの上でもんどり打つ俺を尻目にエウリィは音もなく笑っていた。


 『で、人が折角"そんなことでアタシたちの友情は壊れないから"って慰めてやったっつーのに懲りずに今じゃご寝所に潜り込んでんでしょ?…しかも今日まで報告にも謝罪にも来ねぇ上にいけしゃあしゃあと同志ヅラして乗り込んでくる、いくらアタシが寛容で通ってても流石にキレるわ』

 「だからそれ語弊が有る!最初は決して本意ではない!」

 『いや自分で"最初は"って言っちゃってんじゃん』


 ―――


 「あぁ、じゃあ一応仲直りは出来たんだ?」

 「あぁこんなところにまで傷が…マジあの子許すまじですわ…」

 「今の説明でそれで納得できるとこある!?…っつーかリズはいつまでやってんの!!」


 ―――


 『許すまじ』…口ではそう言ってみたけれど、正直そこまでの怒りも…まして怨みも抱けない。なんとなく、私には彼女の本心の在処が分かってしまっていたから。この子が"同志"と呼び固く友情を誓ったのと同じだけ、彼女もこの子の事を大切にしてくれていたのだとわかる。


 嬉しいの、この子が度々やってしまう"一人で抱え込む"と言う行為を私たちと同じように怒ってくれる人が他にも居ることが。少しだけ羨ましいの、彼女は本当の意味で、この子と背中を預け合って戦える事が。そして、この気持ちを抱くのはいけないことと分かっているけれど…


 申し訳ないの、この子を私たちの手の中に仕舞い込んでしまった事が。

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