先ずはお家に帰ろう
「スーツってそのマントの下に見えている黒い……?」
疑問がつい口から溢れたのだが、自称ヒーローの耳には届いていたらしく、頷いて肯定してくれた。
「このスーツを着ると僕の力が更に強力になるんだ。確か、仕組みは……」
「おい!! 私の台詞を取るんじゃない!!」
「わわっ! ご、ごめん真里ちゃん!」
「だから、真里ちゃん言うな!! いいか、開発者の私自らが説明してやろう。このスーツの特筆すべき機能だが、吸血鬼の特性を利用していて――」
「君、ごめんね。こんな世の中だから、試作品を発表できる場がなかなか無くて、説明する機会に飢えているみたいなんだ」
長々と説明を始めた女性に背を向けて、僕と目線を合わせるように屈んでくれる自称ヒーローさん。本来は物腰が柔らかい人なのだろう。僕を安心させるように穏やかな笑みを浮かべてくれている。
多少変な人達なのかもしれないと失礼な事を思ってしまったのだが、命の恩人であるのだから感謝を示さないと。ただ、その前に……。
「あの〜……吸血鬼達、逃げちゃいましたけど」
今なおこちらに背を向けて逃げ出す吸血鬼達を指差して指摘するが、機能解説が出来て御満悦な女性の耳には届いていないようで語りが止まらない。そんな様子の彼女に苦笑いを浮かべながらもヒーローさんは僕の頭を撫でて答えてくれる。
「逃げてくれるならこっちとしても助かるよ。僕自身はあんまり闘いを好まないから。――さて、先ずはここから離れようか。彼らが仲間を連れてくると流石に2人の身が危険だからね」
「それなら僕たちのお家に来てください! 助けてくれたお礼もしたいですし! あ、その前に助けてくれてありがとうございます! お礼の言葉が遅くなってすみません」
「いやいや、気にしないで。君はまだ小さいのにしっかりしているね。それじゃあ、お家に案内してもらえるかな?」
「はい! ついてきてください。襲ってくる吸血鬼達に見つからないように木々で隠れた場所にあるんです」
「よし、それじゃあ行こうか。ほら、真里ちゃん、説明は後にして行くよ」
「何!? さっきの奴らはどこに消えた!?」
溜め息をこぼすヒーローさんと説明し足りていないのか未だに興奮状態の女性を連れて帰路を辿る事になった。先に逃した弟の顔が脳裏をよぎり、少し早足になってしまっているが、子供の僕の歩幅であれば2人に負担はかけないだろう。