何のヒーロー?
「ひ、ひーろー……?」
目前に現れた人は全身をすっぽりと覆う程の長さのマントをたなびかせながら自らをヒーローと名乗った。ヒーローとは確かお爺ちゃんがよく話してくれた書物に出てきた単語だ。その意味は確か――
「おい!! 何だテメェは!! 邪魔してんじゃねえぞ!!」
「だ、だからひ、ヒーローだって。正義の味方ってやつだよ」
――そう正義の味方って言われていた。弱きものを助け、強きものを挫く。
自称ヒーローさんが何故かどもり気味なのが少し気にはなるが、自分の命が助かる微かな可能性に少しだけ安堵の息を漏らした。
「ヒーローだが正義の味方だか知らないが、邪魔しようってんなら手加減しねえぞ!!」
短気な吸血鬼は再び腕を振り上げて攻撃しようとするが、その打撃も自称ヒーローさんには通用せず、簡単にいなされたようだった。
吸血鬼の動きはあまりにも速く、人間の子供である自分の目ではとても追えるものではなかった。ましてや2度も攻撃を防ぐなど、ただの人間なら大人でさえも不可能だろう。なら、この人の正体はまさか――。
頭に浮かんだ疑念は安堵した僕の心の中を再び恐怖で満たしてしまった。
「テメェ……!! 3度目は無いぞ!!」
「お待ちなさい!!」
今度は足技を繰り出そうとしたのか、姿勢を低くした吸血鬼の動きを、後ろの方で控えていた吸血鬼が大きな声をあげて制止した。
「……っ何だよ!! 止めんなよ!!」
「想像を絶する程に馬鹿ですね、貴方は!! 吸血鬼である貴方の攻撃を簡単に防いだという事は、目の前の男は――吸血鬼という事ですよ!?」
「っ何!? 吸血鬼だぁ!?」
「それだけではなく、我々に気付かれずに接近し、貴方の全力を容易に防いだって事は相当の実力者です。貴方は馬鹿ですが、我々の中ではトップクラスに力強い。そんな馬鹿力をああも簡単に……」
饒舌な吸血鬼が説明している隙にヒーローさんは僕の体を片腕で抱えて2人と距離をとった。目の前の出来事に唖然としてしまい、感謝の言葉を発する事も今の僕にはできない。
「動きから察するに、彼の実力はボスに匹敵する可能性すらあります。闘うまでもなく、我々2人では太刀打ちできない事は予想出来ます。ここは、逃げるべきでしょう。幸いにも向こうは去った我々を追うよりも小さな子供を守る事を優先する可能性が高い」
「何もせずここから立ち去ると言うのなら、此方は何もしない」
「……だそうです。行きましょう」
「いや、待てよ!! 目の前の御馳走を無視して逃げるなんて、そりゃねえぜ!! だいたい何で吸血鬼が人間を守るんだよ!?」
「決まってるだろう。彼はヒーローだからだ。吸血鬼と人間の、な」
吸血鬼の激昂した声に反して、この緊迫した状況には似つかわしくない落ち着いた声が背後から聞こえてきた。振り向くと、そこには1人の女性が堂々とした佇まいで立っていた。