プロローグ
優しい母さんと、かっこいい父さん。たくさん遊んでくれる姉さんと、ふくふく太った赤ちゃんの妹。
温かい家族に囲まれて、わたしは満ち足りた生活を送っていた。
しかし――その幸せな生活は、五歳になったその日に一転した。
「アンジュの髪は誰より真っ黒だもの。きっと、すごい数値が出るに違いないわ!」
「きっと偉大な人物になるよ。父さんの誇りだ」
「あたくしの妹ですもの。それぐらい当然よ」
「ばぶぅ!」
そう言って笑った両親と姉妹たちは、数値の測定が終わったその瞬間から、わたしに対する興味を失った。おどけてみても無反応。手をつないでも振り払われる。
表情をこわばらせる両親に、わたしは必死に縋り付いた。
「母さん。わたし、がんばるから。一生懸命お家の役に立てるように――」
「黙りなさい。あんたは一族の恥よ」
それが、わたしと母との最後の会話になった。
家に帰ってから、わたしは今まで使っていた部屋を取り上げられ、家の一番奥にある倉庫へ押し込められた。食事は家族で囲む温かいものから、一人で食べる食べ残しへと変わった。
狭くて暗い倉庫から出ることは許されず、一日一回用便のために室外に出される隙に外に出れば、話を聞いたらしい近隣住民から石を投げつけられた。怪我をしても、誰も気に留めてくれない。むしろ、大きな怪我や病気でもして早くいなくなってほしい――そんな感情がありありと見て取れた。
将来に対して抱いていた夢や希望は、あっという間に黒く塗りつぶされた。
――ここから出られる日は来るのだろうか。出られたとしても、わたしの居場所はあるのだろうか。
そうぼんやり考えながら、冷たい床に横たわる。格子のついた地窓から、ぼんやりと曇り空を見上げるのだった。