第7話 セミナー
私、南栗橋綾乃は都内の中小企業で働くOLだ。
今日も今日とてテレワークを満喫する!
――珍しく業務用パソコンをカタカタ中――
はあ……面倒くさいなあ……。
なんでテレワークなのに仕事しないといけないんだろ……。
(※ワークとは)
――ピコン――
あ、ハゲ課長からメールだ。
どれどれ……。
『WEBセミナーが開催されます』
WEBセミナー!!!
やった!!!
説明しよう、WEBセミナーとは!
その名の通りWEB上で開催されるセミナーである。
会議や打ち合わせと違う点といえば、こちらに発言を求められることがなく、カメラで顔を映す必要もない。
つまりはサボり放題・なんでもし放題の最高の時間というわけだ!
くっくっくっ、以前までのセミナーならわざわざ講演会場まで出向き、ちゃんと聞いているか他人と暗に牽制しあうような時間だったからつらかった、が……!
WEBセミナーならそんな駆け引き一切ない!
寝てても食べても遊んでいても、私を咎める人はだれもいない!!!
『開催時間は15:00から。参加の可否を返信し、不参加の場合は理由を付随すること』
もちろん参加に決まっているだろう!
これで15:00からは大っぴらにサボれる!
(※いつも大っぴらにサボってるだろ)
――15:00、WEBセミナー開始!!!――
それと同時に……
業務用パソコンミュート!
コーラ召喚!
ポテチ召喚!
ゲーム召喚!
ふっふっふっ、どうだ?
不参加はさすがにまずいから形だけ参加!
ただし業務用パソコンの音声を生け贄に3体の遊びアイテムを召喚してやったぞ!
これぞまさしく遊戯王だ!
セミナーの時間は脅威の120分!
だがWEBならこの長さが嬉しい!
さーて、120分遊び倒すとしますか!!!
――140分後――
……あっ、いつの間にか終わってた!
ゲームに夢中で気付かなかったよ。
私って熱中すると周りが見えなくなるタイプだもんね。
よーし……終礼まであと30分……
ゲームしよ!!!
――30分後、終礼開始――
『みんなお疲れ様。今日の終礼始めるね』
ああ~楽だったなあ~
よくあるハプニング残業も今日は無さそうだし。
これでお給料貰えるんだから、本当にテレワーク様々だよ。
『それじゃあ各自抱えている仕事と現在の進捗を報告――』
はいはい、いつものやつね。
あえて提出してない仕事を今日やった風に見せかければいいだけのやつ。
――南栗橋、余裕の表情――
――己に暗雲が迫っていることを知らずに――
『と、それに加えて――』
……え? それに加えて?
『今日はみんなセミナーに参加したと思うから、1人ずつ感想をもらおうか。学んだことがうちの製品のどんなところに活かせそうか、具体例も踏まえて頼むよ』
……はああああああああああ⁉⁉⁉
感想⁉ いやいや小学生じゃないんだからさあ⁉
社会人になってまで子供みたいなことやめようよ!!!
(※どの口が言う)
一切聞いてなかったから感想なんて思いつくわけがない……。
ゲームの感想言ったらどうなるんだろ……ほぼ確実に叱られるな……。
ま、まあ……他人の感想を組み合わせていい感じにパクればいいだけだ。
学生時代からやってたこの能力には長けていると自負がある。
『じゃあ南栗橋君から頼むね』
トップバッター⁉⁉⁉
そういやいつも終礼は私からだった!!!
これじゃあパクれない!!!
「えーと……そうですね……」
どうしよどうしよ!
私、絶体絶命の大ピンチだよ!!!
……なんてね。
ふっふっふっふっ……
はっはっはっはっ!!!
甘く見てもらっちゃ困るね!
こんなありがちな展開、私が想定してないとでも思ったか!
私はこの世に生を受けてからずっとサボることばかり考えてきた人間だ!
勝利の女神はいつだって、用意周到なサボり魔に微笑むんだよ!
いくぞ! ユニークスキル発動!!!
【取引先優先離脱術!】
――プルルルルル、プルルルルル――
業務用携帯から着信音が鳴る。
これが私のハッタリ。
どういうことかって?
私用のスマホから業務用携帯にかけたんだよ!
「すいません。株式会社ホワイトの鈴木さんからです」
『ああ、そっち優先して』
そう言うと思ったぜ!!!
「わかりました」
ここで私はZOOMのマイクをミュート、スピーカーはそのまま。
そしてカメラからフェードアウト。
ハッタリだと知られず、そして相手の声は聞える。
最高の状況を作り出したぞ。
『南栗橋君は電話対応中だから……一旦飛ばして北越谷君』
『はい。私は今回のセミナーで――』
よしよし、他の人の感想が聞ける。
我ながら完璧な作戦だ。
――何人かの感想を盗み聞き中――
ふむふむなるほど。セミナーの内容はそんな感じだったのか。
それにしてもめちゃくちゃつまらなさそう。
こんなのに120分なんて……ゲームしてた方がよほど有意義だな。
私の選択が正解じゃん。
(※社会人として不正解です)
……よし、そろそろいいか。
「お疲れ様です。納期の確認のお電話でした」
『お疲れ様。問題なかった?』
「はい」
『OK。それじゃあ途中になってたセミナーの感想頼むよ』
「はい、私は――」
――南栗橋、心にもない感想を披露――
「――以上です」
『うん、ありがとう』
ふっふっふっ、上手くいったぞ。
これはもう令和一の策士を名乗ってもいいレベルでは?
――南栗橋、勝利を確信――
――しかしここで、真の恐怖が襲いかかる――
『――プルルルルル、プルルルルル――』
あれ? 誰かの電話が鳴ってる。
『あっ、私だ。……みんな、すまないが電話の間待っててくれるかな』
ハゲ課長の電話か。
……なんだろう。凄く嫌な予感がするんだけど。
――数分後――
『えー、みんなお待たせ』
やっと帰ってきたか。もう定時過ぎたぞ。
私の貴重な終業後の時間が奪われていくから早く終わりにしてくれ。
『定時も過ぎたし終わっていいよ』
よーし、解放だ。
今日も一日お疲れ様!
(※疲れるようなことしてないだろ)
『でも南栗橋君は残ってくれるかな。ちょっと話したいことあるから』
……へ? 私だけ?
『いいよね、南栗橋君』
「は、はい……」
あれえ? なんかハゲ課長怒ってるぞ?
私なんかやっちゃいました?
――こうしてZOOMには私とハゲ課長のみが残った――
『さっきね、電話があったんだよ』
「はい、ありましたね……」
『株式会社ホワイトの鈴木さんから』
「それは私……」
『私もだよ』
「……」
『……』
「……」
『……』
ほげえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉⁉⁉
『納期の確認でね。聞くところによると今日うちに電話したのはこれが初めてらしい』
なに正直に言ってんの鈴木さぁぁぁぁぁん⁉⁉⁉
『で、このことについて南栗橋君と意思疎通が必要だと思ってねぇ』
「は、ははは……」
その後、私は120分間みっちり説教を受けることに。
さらにそれだけに留まらず、1万字の反省文の提出を明朝までに義務づけられ、結局徹夜することになったのでした。
めでたしめでたし。