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第5話 憧れの先輩

 私、南栗橋綾乃は都内の中小企業で働くOLだ。

 今日も今日とてテレワークを満喫する!


 とはいっても――


 この前は急に取引先から電話がかかってきて大変だったなあ。

 今後は電話がかかってきても無視しようかな。

(※この人は業務中です)

 

 ――プルルルルル、プルルルルル――


 わあ! とか言ってたらかかってきた!


 ――プルルルルル、プルルルルル――


 どうしよう……めっちゃ無視したい……。

 でもそんなことしたら今度はもっと叱られるぞ……。


 ……ってあれ?


 着信画面に表示された番号は見慣れたものだった。


 この番号は……あの人だ!

 ならば困ることなどなにもない!


「はい、南栗橋です!」


『お疲れ様綾乃ちゃん、今大丈夫?』


「もちろんですよ北越谷さん!」


『ふふふ、ありがとう。綾乃ちゃんはいつも元気だね』


 電話の主は北越谷光里さん!

 私より2年早く入社した会社の先輩なんだ!


『あのね綾乃ちゃん、急で悪いんだけど見積書の作成を頼みたいんだ。今抱えている仕事の期限を延ばしてもらえるよう課長に頼んでおいたから、こっち優先でお願いできる?』


「お任せください!」


『ありがとう。綾乃ちゃんは頼もしいなあ』


「えへへへへ」


 仕事の依頼をされたのにも関わらずなぜ私がこんなにも生き生きしているのか?

 それはずばり、北越谷さんは私にとって憧れの人だからだ!


 北越谷さんは営業職なんだけど、とにかく仕事がデキる!

 一流大学を卒業した後、なぜかうちみたいな微妙な会社に入社。

 すぐに結果を積み上げまくり、あれよあれよと営業部のエースにまで上り詰めた人だ。

 

 あまりに仕事がデキすぎて上層部の人達からは『そのうちもっといい会社に転職してしまうんじゃないか』と心配されていると聞く。

 私が抱えている仕事の期限を延ばしてもらった件も、きっと課長は二つ返事で許可したに違いない。


 こんな風に仕事がデキすぎる北越谷さんなんだが、私が憧れているのはこの点だけじゃない。

 てか、仕事がデキるなんて私にとってはおまけみたいなものだ。


 じゃあ何に憧れてるかって?

 私は北越谷さんに……女性として憧れている!


 なんと言っても北越谷さんは美人で! 

 大人っぽくて! 

 優しくて! 

 いい匂いがして! 

 あとおっぱいが大きい!


 しかも趣味はカフェ巡りだという。 女子力の塊か!


 アニメ・漫画・ゲームが趣味でぺったんこな私とは月とすっぽん!

 同じ人間なのにたった2歳の違いでここまで差が出るなんて神様は残酷だ。


『綾乃ちゃん、今からZOOMできる?』


「え? ZOOMですか?」


『うん。客先から貰った仕様書を画面共有で映して、それを元に説明したいから』


「ああなるほど。わかりました!」


『うん、私が繋ぐからZOOM起動させて待っててね。じゃあ一旦バイバイ』


「バイバイ! ……じゃなくて失礼します!」


『ふふふっ、失礼します』


 ――通話終了――


 ふう、北越谷さんって声も綺麗だよなあ。

 ダミ声のハゲ課長に仕事を渡されたときとモチベに差が出るのは当然だ。

 私にやる気がないのは課長の声が汚いのが悪い!

 (※黙れ)


 さーてZOOM起動させなきゃ……おっとその前に!

 かろうじて人に見せられる程度の服には着替えておこう!


 ――ZOOM起動、通話開始――


『やっほー、綾乃ちゃん』


「やっほー……じゃなくてお疲れ様です!」


『ふふふっ、お疲れ様です』


 ああもう、なんか画面越しだと調子狂っちゃうよお!


『あれ? 綾乃ちゃん、寝癖付いてるよ』


「わあああ! すぐに直してきます!」


『ふふふっ、いいからそのままにしといて。かわいいし』


 は、恥ずかしい……。

 

 それにしても北越谷さん、私服も素敵だなあ……。

 後ろの本棚には小難しい本が並んでいて漫画ばかり集めている私とは大違い……。

 

 改めて感じるけど、外面も内面も差がありすぎる……。


『どうしたの? ボーッとしちゃって』


「ああ、いえ! 大丈夫です!」


『そう。じゃあさっそく説明するね』


 

 ――仕様書のPDFを画面共有し説明中――



『とまあこんな感じ。いけそう?』


「はい! 大丈夫です!」


『それならよかった。わからないことがあったら電話で気軽に聞いてね』


「ありがとうございます!」


 ああ、やっぱり北越谷さんって優しい~!

 電話したら『忙しいからかけてくるな』とか言ってくるクソハゲ課長とは大違いだよお!

 いっそ北越谷さんが私の課長になってくれないかなあ。


 ――画面共有解除――


 あっ、画面が戻った。

 はあ~やっぱり美人だなあ~。


『じゃあ頼んだよ綾乃ちゃん』


「はい! お任せ下さい!」


『ふふふっ、ありがとう。それじゃあお互い仕事に戻ろうか』


 ああ、もうちょっとしゃべりたいのに……。

 そうだ、後ろの本について話振ったら応じてくれるかな。


 えーと……


 ――南栗橋、知性が低すぎるため小難しい本についての話題が出てこない――


『切るね。バイバイ』


 ――しかし北越谷が通話を切ろうとした瞬間、ある本が南栗橋の目に強く留まった――


「……中小企業診断士?」


『……え⁉⁉⁉』


 ――北越谷、狼狽。後ろを振り返り慌てふためく――


 あの本……うちの会社の業務とはなんの関係もない資格本だ!

 いや中小企業だから関係あるといえばあるけど!

 うちの立場は診断される側だ!


 もしかして北越谷さん……。


「て、転職するんですか……?」


『え、いや、ちょ、な、なんのことかなあ……』


 この人わかりやす!

 あからさまじゃん!


「わ、私は応援しますよ……寂しいですけど新天地でも頑張って下さいね……」


『ち、違うの綾乃ちゃん!』


「たまには会社に遊びに来て下さいね……あっ、中小企業診断士なら仕事で来ますか……」


『だから違うってばあ!』



 ――北越谷、必死の弁解中――



「へえ……じゃあ転職の予定があるわけじゃないんですね」


『そう、診断士の目線でうちの会社を見たらどうなんだろうと思って勉強しているだけだから。まだまだ資格を取れるレベルまで達してないし、転職なんて微塵も考えてないよ』


「へえ……」


『ど、どう? 信じてくれる?』


 う~ん、なんか怪しいけど……。


「信じます! 北越谷さんの言うことなら!」


『ほっ、それならよかった』


 う~ん、ほっとしているところが余計怪しいなあ……。


『ところで綾乃ちゃん、テレワークは捗ってる?』


「え、そこそこですかねえ……」

(※嘘吐け)


『凄いね。私はどうしても気が散っちゃって苦手だなあ。どうしても他のことしたくなっちゃうよ』


「ええ、北越谷さんほどの人でも気が散っちゃうんですか?」


『ほどの人って、私なんか大したことないよ。集中して仕事しなきゃいけないのに資格の勉強とかやりたくなっちゃうし』


 う~む……遊びじゃなく勉強なんだ……。

 とんでもない人だなあ……。


「しちゃえばいいじゃないですか。勉強なら業務中にしても怒られませんよ。ましてや北越谷さんは営業で結果残しまくってますし。文句言う奴がいたら『私の成績追い越してから言え』って言ってやったらいいんですよ!」


『クスクス、そんなの無理だよ。綾乃ちゃんは豪快だなあ』


「北越谷さんも豪快にいきましょ! 私なんかこの前、業務中にお酒飲みましたからね!」



『………………え?』



「え? あっ!」


 しまった!

 勢いに任せてとんでもないことを暴露してしまった!!!


『……お酒、飲んだの?』


「え、いや、ほんのちょっとですよ。ほんのちょっと酔い潰れただけで……」


 だあー!!! 私はなにを言ってるんだ!!!

 さらに墓穴を掘ってどうする!!!


『……綾乃ちゃん?』


「は、はいい……」


 ひいい! 北越谷さんが見たこともない怖い顔してる!


『ちょっとお話しようか。長くなると思うけどごめんね。まずはそこに正座してくれる?』


 お、終わった……。


 その後私は北越谷さんにこってり絞られたのでした。

 めでたしめでたし。


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