プロローグ
空にはお日様。
ぽかぽかあったかい。
青い空。
青い……空?
なんで……空なんて見えるんだろう?
ワタシはずっと……ずっと……
……ずっと…………なんだっけ?
知らない場所と知らないニオイ。
……どうしてここにいるんだっけ?
わからないけど……なんでわからないのかわからない。
でも、お日様で暖かいから気持ちいい。
それだけでとても幸せ。
「きゃああ!」
女の人の悲鳴だ。
なんだろう?
近くにいた。
ワタシを見てる?
なんだろう?
なんだろう……よくわからないけど――
――すごく欲しい。
欲しい? なにが欲しいのかわからないけど――
たぶん勝手に、ワタシの腕が伸びていた。
あれ? ワタシに腕なんてあったっけ?
腕ってあんなに黒煙みたいなモノだっけ?
……ま、いっか。
ワタシは欲しいの。アナタがあればワタシが作れるから。
アナタの全部、ワタシにちょうだい。
「ダメですよ、姫様」
突然知らない女の人が出てきて止められた。
その隙に、狙った女の人は逃げちゃった。
「人の身体を奪ってはいけません」
黒い布を体に張り付かせた変な人。
「これはスーツという服です」
言いながらワタシに近づいてきて笑った。
……誰?
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
いいよ。
でも、ワタシの邪魔をしたアナタはちょっと不快。
「器は用意してあります。まずは場所を変えましょう」
……うん?
女の人が歩いていく。ワタシはどうしていいかわからない。
「色々と曖昧なことはおありでしょうが、どうかご安心ください」
曖昧というか、全然わかんない。
「ふふ、そうですよね」
笑われた。
「姫様はとても長い間眠られていました。その間に世界は変わり、姫様を苦しめた者も殺され、すでにおりません」
ワタシを苦しめた人?
うーん……思い出せないけど、でもまずアナタは誰?
「私は姫様の守護者。姫様が望まれることでしたらなんでもいたします。
王の座に戻りたいと仰せなら、現王族を排除し、姫様を女王といたしましょう」
女王?
ワタシはそんな――
「姫様は聖アルカディア王族の血を継いでおられます」
ズキッ……
実体がないのに頭が痛んだ。
「少しずつ思い出しましょう。好きに生きるもよし。怨みを晴らすもよし。私は常に姫様のお傍にいます」
彼女はワタシの前で跪き、とても優しく微笑んだ。