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エッセイ

素人にやられた日

作者: 久賀 広一

僕も別にプロではないですけど、創作を始めて10年を超えています。


高校生のころにちょびっとだけ書いてみたけど話にならなくて、それからだいぶあとになってまた書きはじめ、今に至るわけですけど、それなりにうんうん唸って考えた時期もありました。


しかし先日、地元の山を登っていて、「これはやられたな」という事態に巡りあったのです。


さほど大層な話でもないですが、その山で出会ったおじさんは(おじさんと言っても中年の僕から見ればの話で、若者からすればおじいちゃんになるわけですが)、とても気さくな方でした。


僕が落とした真新しい帽子を拾い、木にかけておいてくださったおじさんですが、その人はどうやら、なんでも木に引っかけるのが好きらしいのです。


それで初めて長く会話したあとに山を下りだして、道をゆきながら説明されました。


「ほら、あれ。枝にCDがかかってるでしょう? 右に3つ、左に4つ、数えていくとあるはずだよ」

全部の数を把握していたわけではありませんが、僕もそのCDには気づいていました。


「林業関係の人が、キラキラ光る鏡面を何かの目印にでもしてるのかな?」と思っていて、これはさわっちゃ駄目なやつだと、自分に言い聞かせていたのです。


そのおじさんは、

「ははっ、あそこにゴミが捨てられていたでしょう? そこにCDがたくさんあったから、山登りのついでに引っかけていったんだよ」


笑いながら、教えてくれました。


正直、僕は”ちょっとやられたな”と感じました。

一時期、不法投棄が流行はやった時代があって(ほんとに何かの流行のように、ドンドコ森や山に粗大ゴミが捨てられていった)、それがまだちょびちょびと続いていたのです。


それで、『パチンコ! 競馬必勝法!!』みたいなDVDが大量に投棄されていて(まあ法律違反をやる人間が捨てていくものだから、内容もロクなものはない)、それをおじさんは拾って、枝にかけていってたんですね。


僕はどちらかというと、小説を書きはじめて、逆に几帳面になっていった気がします。

「色んなことをちゃんとやっておかないと、酷い批評をもらう」とか、

「ふだんの素行が悪いと文体にあらとして出てしまう」などの思い込みから、ときどき息苦しいほど考えてしまうことがあるんですよね。


もし結婚していて、子供なんかがいたら「こらあ! 不法投棄されたものを、それだけでも大迷惑なのに、あまつさえ拾って辺りにバラまくとは!! 生きる価値なし!」

といささか叱り過ぎていたかもしれません。


でも、そのおじさんが楽しそうに「ほらほら、あれ」とCDを指差していくのを見ていたら、ああ、人生の先達とはいえ、僕は創作家を目指してるのに遊び心でこの人にだいぶ負けてるなあ、とかるいショックを受けたのです。


あまり余裕がない人間が書いたものなんて、結局は広がりもそこそこでしかない。

もっとゆとりが必要だなあ、と心底感じさせられました。


……ちなみに、捨てられていたDVDには、やはりアダルトなものもあって、それはしばらくすると綺麗になくなっていってました。

山登りをするおじいちゃんたちは、そういうのにけっこう敏感なのかもしれませんね。


……ん?


僕が拾ったんじゃないかって?


いや、拾ってませんよ。だって、見るからに露骨でつまんなそうな内容だったもん。


『巨乳』とか『痴漢24時!』とか。


でも迷った。

だって、人間だもの。












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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ふだんの素行が悪いと文体に粗として出てしまう」 素晴らしい心がけだと思います! しかも大先輩! やはり作家というものは日常全てが作品の糧になるものなんですね!
[良い点] おじゃまします なんだかおじさんに教えられた気持ちになりました 多角的な見方をできるように心がけたいとおもいました 登山お疲れさまでした [一言] おじゃましましたー
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