最終話 自己完結
最終話 自己完結
「……えた。その日は、それで終わりだった。その後にお盆があって、しばらく六人とは会わなかった。再び彼らに会ったのは、八月の下旬。再び夏期講習が再開された日だった。
教室ですぐにすずかと会って話をした。彼女には特に変化は見られなかった。笑顔で「後半も頑張りましょうね。」という言葉をかけられた。
けど、変わらなかったのは彼女だけだった。私はあの日から血を見るたびに首の無い兵士の姿を思い出して叫びそうになった。しかし、そんな私の状態を知らない家族には心配をかけたくない。私は、体の内側から飛び出してくる気持ちをなんとか押さえ込んだ。そして、早く忘れるようにした。別の事、特に勉強をして考えないようにした。しばらく思い出さなければ、記憶の奥底に追いやられて簡単には思い出さなくなるだろうと考えたから。結果として、今では思い出すことも少なくなってきた。私はこんな状態なので、悪くは無いだろう。
しかし、問題はここから。他の五人を見た時はまるで別人のように感じられた。いや、たしかに本人なのだが何か違う。
拓は、前以上に恵美と激突するようになった。他のクラスメイトには「また、何時もの事」と取られていたが、私には前とは少し違って見えた。それに、顔色が悪くて目が死んでいるように見えた。まるで生きていないのではないかと思えるほどだった。具合が悪いのかと聞いても、「寝不足なだけだ。気にするな。」と言うだけだった。
圭も何か少し違って見えた。翔の弄り方が少し過激になっていたからだ。それに対して、翔は静かに「止めてくれないかな。」と言って圭を睨んだ。翔に関しては、言い方はどうにせよ圭に言い返しているので良いのかもしれない。
誠はあまり変わらない。しかし、前よりも冷めた口調になったような気がする。圭と翔の姿を見てため息をつくときもあった。たまに舌打ちをしているところを見たこともある。
恵美は圭と言い争うも、たまたま聞いた内容が危ないものだった。正直私の口からは言えない。それでも、二人は仲が良さそうだった。そういえば、拓の悪口を圭に話していたこともあった。
私がそれぞれに話を持ちかけると、一応の反応はしてくれる。だけど、なんか違う。
だけど、他のクラスメイトに五人のことを聞いても、「変わったかな。同じだと思うけど。」と言われるだけだった。その時は私が気にしすぎているだけで、何も変わっていないのだろうという結論を出す事でそれ以上考えないようにした。
あんなゲームをやったために、私のように何か変化が現れたのだと私は思っていた。しかし、特に変化は現れていないようだった。そして、私は日が経つにつれてそれが日常だと理解できるようになった。
だけど、やっぱり違った。夏期講習の後半が終わり、二学期になってすぐにあの事件が起こったからだ。彼……。」
琴美は、その時はっとした。そして、これまで書いた文章を読み返す。そして、琴美は自分が求めた答えを自分なりに導き出した。
琴美は「彼」という言葉を消して彼の名前を書き、続きを書き始めた。
「……が起こした事件。これは男女のもつれを中心としたものなんじゃないかと思う。だけど、五人が居たからこそ起こったもので、全員が居なかったら起こらなかったんじゃないだろうか。結局、偶然だったのかもしれない。」
琴美はキーボードを叩く事をやめて、椅子から立ち上がった。窓に近づいて、カーテンを開ける。窓から見える家はみんな暗くて、時計は見ていないが夜遅いことはわかった。両腕を伸ばしながら息を吐いた。
「一気に書き過ぎたかな。けど、一つの結論が出たからこれでいいかな。」
彼女はカーテンを閉めると椅子に座り、残りの文を書いた。
「しかし、これは私が勝手に考えたものだから、真実とはまた違うのかもしれない。」
琴美はこれまで書いた文章を保存すると、ノートパソコンの電源を落とした。彼女は椅子から立ち上がると、のろのろとベッドへ近づいた。そして、そのままベッドに倒れこむ。
琴美は目を瞑り大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐いた。彼女にはキーボードを叩いていただけなのに、どこかを走ってきたような疲労感があった。
「今度彼のところに行ったら、私が考えた答えを言ってみよ。けど……。」
琴美はゆっくりと目を開いた。
本当は、誰が悪いんだろう。
私たちの戦争 完