第三話 断片の寄せ集め
第三話 断片の寄せ集め
「それは名前の通り戦争ゲームであり、人と人とが殺し合いをするものだった。それも、簡単な内容では無かった。拓の話では、自分が画面の中の戦場にいるような感覚になるという。それは、アテナスパッドによって視覚以外の全ての感覚が直接自分の体に流れ込む形になっているためらしい。
拓がみんなやろうと言ったものの私とすずかは避けた。すずかが私の後ろに隠れて私の服を掴んでいるからだった。すずかは、「前言撤回します。」と私の後ろで小さく言った。彼女がそうするときは、とにかくしたくない事が目の前にあるときだった。何時もは、「これはやらなきゃ駄目よ。」と言っていた。しかし、今回はそんな言葉をかけることは出来なかった。私も遊びたいとは思わなかったからだ。私たちの反応に一応納得したほかの友達は順番を決めて遊びだした。順番の決め方は忘れたけど順番は拓、翔、圭、誠、恵美となったと思う。
それぞれが遊び始めたけど、何か変だった。これが、遊びというものなんだろうか、楽しいのだろうか。そんな気持ちが生まれてきた。それは、人が変わったように遊ぶ拓を見たからだ。
ディスプレイ側に出力された映像しか私たちには見えない。映し出される映像は綺麗でまるで現実であるかのように見えた。これに音声、何かの感触や匂いが混ざり合って実際に遊んでいる人間には感じられている。マイクに向かって叫んだりうめき声を上げたり、そこには近寄りがたい空気が出来上がっていた。
視点が首の無い兵士に向けられたときは叫びそうになった。本当に首が無いのだ。切れた部分からは血が流れ地面を赤く染めていた。テレビで見る映像ならモザイクがかけられる部分だと思うが、そんなものは無かった。今思い出しても叫びそうになる。衝撃映像とはこういうものかもしれない。すずかを見れば顔を背けて私にくっ付いていた。私はすぐに拓に聞いた。このゲームは何なのって。拓は、そのゲームの箱を私に渡した。表はタイトルとゲームのイメージを表したイラスト。裏を見れば動作環境と対象年齢。しかし、そこに書いてあった対象年齢は二十歳以上だった。拓にそのことについて問い詰めようとも、「売ってくれるほうが悪い。」と言うだけだった。実際にお店に行って買ったものでは無いらしい。
私とすずかはパソコンから離れた場所で、コンピュータと殺し合いをしている圭を眺めていた。圭は上機嫌に笑いながら遊んでいる。よくも、そんな状態であんなものを遊べるものだと思った。翔のように何時かうめき声とともにゲームが終わると思ったが、中々終わらない。その時、「コンピュータ相手じゃ限界がある。ネットワーク対戦できるんだろ。」と誠がゲームのパッケージを見ながら言った。圭よりも順番があとの誠は暇でゲームのパッケージを眺めていたらしい。拓はその要望を聞き入れ、ネットワーク対戦をするために専用サーバに接続した。
ゲームとはいえ、これで生身の人間対人間の争いが始まったことになった。パソコン前はコンピュータ相手のときよりも白熱していた。私とすずかと圭を除いたみんながディスプレイを見ながら何やら叫んでいたことを覚えている。何を言っていたかは本当に覚えていない。そんなに重要じゃなかったと思う。
最終的に圭はそれほど苦しまずにゲームを終えた。他の人間よりも元気な姿でパソコンの前から離れた。そして、次の誠と交代する。
私とすずかを除く四人は圭が交代したもののパソコンの傍からは離れなかった。みんな夢中になっている。その時すずかは、「みんなああいうものが好きなんですね。なんか、恐いです。」と私に言った。すずかの気持ちは十分わかった。何故みんなあんなもに夢中になれるんだろうか。謎である。
しかし、そんな言葉を体験せずに色々言うのはどうかとその時思った。だから、私もすることにした。私はすずかを見て、「恵美ちゃんの後に私もやってみようと思う。」と言った。すずかの反応は予想通りだったけど。思った事を言ったら納得してくれた。
私は誠が遊び終わったときに拓に言った。男達に、「だったら最初からやるって言えよ。」と言われたけど気にしなかった。恵美が遊びだすと、パソコンの前に行ってディスプレイを覗いた。
恵美は陸上部に入っているためなのか、人間的な動きが良かった。素早く動きながら撃ってくる敵を次々に撃っていった。撃たれてもまだ立ち上がろうとする敵の頭に銃を向け、引き金を引く。言葉では言えない光景が目の前に映し出された。その都度私は叫びそうになるのを押さえた。目の前で人が撃たれる瞬間を見るのは良いものじゃない。しかし、殺さなければ殺される。殺されれば苦しい思いをする。だから、負けるよりは勝つほうが良い。私はじっとディスプレイを見ていた。