第二話 私たちと遊び
第二話 私たちと遊び
「私は今回の事件に至った理由を知るためにこの文章を書く。だから、この文章を誰かが読むことも無いと思う。私がわたしに教える文章だから。
今回の事件は、私の考えでは夏のあの出来事が関係すると思っている。それは、学校の友達が集まってゲームをしたとき。
あれは夏の暑い日。学校が夏休みに入り、一時的にも勉強するという行為から開放された時だった。
私は親しい男女の友達が同じクラスに六人いる。
何時も一緒に遊んでいる樫木すずか(かしぎすずか)。何時も静かで、口数が少ない。容姿と育ちのよさからか、男子からの人気は高いらしい。しかし、本人はそのことに全く気が付いていない。
クラスでは女子の先頭に立って男子を圧倒する栗原恵美。陸上部に所属し、元気が有り余っている。この元気を少しでもすずかに分けられたらいいのにと何時も思う。
良く恵美と喧嘩をする雨宮拓。前に恵美と付き合っていたらしいけど別れて仲が悪くなったままらしい。事あるごとにぶつかる二人は「喧嘩するほど仲が良い」は通用しないように思える。
クラスの委員長をしている桐生誠。眼鏡をかけていて、私たちの中では一番頭が良いと思われる。冷めた口調で言葉を発するために圭をよく怒らせる。
クラスに一人は居るだろうガキ大将ポジションの友永圭。背が高くて初めは近寄りがたい存在だったけど、女には手を出さないという信念を持っているとのことらしい。良く恵美と口論をすることがあるが、終わるとお互い笑いあっている。誠とはあまり仲が良いとは言えない。
クラスでも身長が低めの花谷翔。良く圭に弄られている。弄る圭を良くは思っていない。そして、誠に良くは思われていない。理由は知らないが、誠の行動からそう見えた。
このようにみんな仲が良い訳じゃない。だけど、その中に私とすずかが入れば表面的には落ち着いた状態になる。
私は夏期講習が終了しために、何かをしたいと思った。他のみんなも同じような気持ちだったと思う。だから、拓が言った言葉を聞き入れたんだろう。
その時、拓は私たちに「面白いゲームがあるんだけど、明日にでもみんなでやらない」と言った。拓の話では、アテナスパッド対応の新しいゲームを買ったらしかった。
これは医療用のアテナスシステムをパソコンゲーム用のコントローラーに応用したものだ。
人間機械間相互感覚伝達装置(通称:アテナスシステム)
このシステムは、2040年に日本で医療用として義足や義手を使用する人々のために開発されたものである。体と機械である義手や義足の間に挟みこむことによって、義手や義足に伝わる物の重さや形を理解できるようになる。初期の装置では触覚のみを対象としていたが、研究が進み触覚以外の感覚にも対応した装置が開発された。人々はこの装置を人類の知恵の結晶であり、使用した本人に自治と平和をもたらすとしてアテーナーのシステム(アテナスシステム)と名付けた。しかし、五感全てを伝達出来る装置となったために悪用が懸念され、現在では各用途ごとに機能を制限したものが使用されている。また、この技術はゲーム業界にも応用されアテナスパッドという名称でゲーム用コントローラーが発売されている。
(〜アテナスシステムとは〜より抜粋)
拓が提案したためか、難なく事が進んだ。恵美は私とすずかが行くということで行く事を決めたようだった。私たちが行かなかったら、やはり恵美も行かなかっただろう。
私はパソコンは持っていてもゲームはしないのでアテナスパッドという名前ぐらいしか知らない。けど、拓の他にも男子はみんな持っていたし、恵美も持っていた。それぞれ、何かゲームをやっているんだろう。タイトルを聞いても分からないのでその辺はやめといた。
次の日、拓の家にみんな集まった。両親は出かけていて、私たちだけだったと思う。
拓は自分の部屋に私たち全員を通す。机の上にはマイク付ヘッドマウントディスプレイと医療用で使われそうなコードの付いたパッドが二枚あった。拓から話を聞けば、それがアテナスパッドらしい。パッド自体はおまんじゅうぐらいの大きさのパッドだ。その中にどれほどの技術が詰まっているのだろうか。私は、そう思ったことを覚えている。
七人も居るので、ゲームはそれぞれ順番に行った。ゲームをしていないほかの人はパソコン本体のディスプレイに出力された映像を見たり漫画を読んだりおしゃべりをしている。「これが面白いゲームなのか。これなら俺もやった事あるぞ。」と一番手となった圭が言いながらアテナスパッドを両腕に貼り付け、マイク付ヘッドマウントディスプレイを頭に装着した。拓は笑いながら「違うよ。これは操作に慣れてもらう事も兼ねてるんだ。初めての人だって居るんだからね。」と拓は言うと私とすずかを見た。
ゲームは三次元空間の中でキャラクターを操作して現れた敵を倒していくアクションゲームらしかった。
圭はゲームが終わるまで、一度も体を動かさなかった。手を机の上に置いたままなのに、画面のキャラクターは色々な方向に移動する。拓の話では、アテナスパッド使うと、自分の思った通りにキャラクターを操作出来るとのことらしい。
横に居るすずかを見れば、じっとディスプレイを見つめていた。すずかは私の視線に気が付くと「琴美ちゃん。私たちにも出来そうですよ。」と私を見て言った。実際簡単そうだということは圭の操作を見ていればわかったし、複雑に考えなくても出来た。全てが思ったとおりに動いてくれるからだ。それにヘッドマウントディスプレイの画面が大きいので、まるでゲームの中に居るような感覚になった。
私が遊んだあと、すずかもそのゲームで遊んだ。すずかは、「こんな楽しいものもあるんですね。知りませんでした。」と言っていたと思う。
みんなが順番に遊んでいくも、誠だけは遊ばずに漫画を読んでいた。やらないのと聞けば、「そのゲームはいい。新しく買ったゲームを始めたら呼んでくれ。」と小さく言ってまた漫画を読み始めた。その時は、翔が遊んでいたと思う。
拓と誠を覗いたみんなが一通り遊んだ。拓はパソコンを操作しながら、「さてと、そろそろこっちで遊ぼうか。」と言った。ディスプレイが真っ暗になって「The War's force」と中央に表示された。これが、拓が買ったゲームだった。