第一話 答えを探して
第一話 答えを探して
千種琴美は留置場を出ると、何かから開放されたような気分になった。やはり、警察署は空気が重い。彼女はこれが刑務所になったら、自分の体は空気だけで押しつぶされてしまうんじゃないだろうかと思った。
見上げた空は暗く空気は冷たい。もう秋なのだ。警察署の前を歩く人の何人かが琴美を見る。彼女はその視線を感じると警察署に来ることはあまりいいことじゃないと思った。彼女は、これ以上見られるのも良くないので、その場を離れて自宅への道を歩いた。
何故琴美が留置場から出てきたかというと、友達が事件を起こしてしまったからだ。彼女は先ほど彼のお母さんから頼まれた物が入った包みを渡してきた。彼女は彼とは仲の良い友達であり、そのため彼のお母さんから頼まれたのだった。彼女はまさか本人が望んだのだろうかと少し考えたが、そんな事は無いという結論に至った。
琴美には、彼とはほんの少しの間会わなかっただけなのに以前とは別人のように見えた。それは面会のとき、一瞬誰なのか尋ねてしまいそうになったほどである。
彼は素直に自分がやった事を認めている。彼は今回琴美の友達を殺そうとしたのだ。幸い相手の友達は命に別状は無い。彼女は何故そんなことをしたのか彼に聞いてみたものの、口を開いてくれなかった。認めたものの理由は話してくれないという状態である。事件に関わった人間に聞いてみても、口を開いてくれなかった。彼が喋らないかららしい。
琴美は交差点で赤信号に立ち止まる。彼が今回の事件を起こすに至った理由はなんだろうか。彼女は行きかう車や人を見ながら思った。
信号が青になると同時に、琴美は歩き出した。道路を渡る人を見ればサラリーマンらしき人がタバコを片手に持って歩いてくる。
琴美はため息をついた。彼女はタバコの煙が大嫌いである。故に彼女にとってタバコなどというものは危険物指定ものであり、叶うなら地球上から消し去りたいぐらいのものである。
琴美は通り過ぎる男の後に残った微かなタバコの匂いに吐きそうになりつつ急いで家に帰った。
「ただいま。」
「おかえり。琴美。」
琴美が玄関のドアを閉めれば、母親の声が台所から聞こえてくる。
琴美は夕食とお風呂を済ませると、自分の部屋に戻り、ベッドにダイブした。そのままベッドに仰向けになり、先ほどからずっと気になっている事を考えた。それは、彼が事件を起こした理由である。本人が言わないのだから、自分で考えてみるしかないと彼女は思った。
そこで、琴美はふとある出来事を思い出す。その事は彼女が考える事について内容的にも関係がありそうなものだった。彼女はそれが起こった時期も、その後の言葉も今回の事件に関係がありそうな気がした。
琴美は、ベッドから勢いよく起き上がると、机に座った。明かりを点けて、机の上に置いてあるノートパソコンを起動した。
琴美は、文章を書くためにメモ帳を開く。そこで、彼女は一度手を止めて考えてみた。これを書いた事で何か変わるのだろうか。彼女自身現時点ではそれはわからない。しかし、書く事で思い出す内容を残しておける。一瞬現れて消えていく記憶も残せるはずだと思った。それに、書いていくうちに理由がわかるかもしれないとも思う。
琴美は背筋を伸ばすと、キーボードを叩き始めた。