魔王のライバル登場
魔王の城に移り住んで数ヶ月経とうとしていた。
それはもう快適で、魔王もいい奴で心友って言ってもいいくらい仲良くなれたと俺は思ってる。
やはり俺は女らしく、邪魔な胸も縮まないらしい…。
魔王本気で相談したら。
『その宝物は大切にしなきゃダメだ…。控えめなのもまたそそるけど…。』
と、物凄く真面目な顔で諭された…。
でも、これって宝の持ち腐れじゃないか…?
だって男と結婚なんて想像つかないし、いつか魔王にいつかどうにかしてもらおう。
そう、ぼんやりと考えていると。
魔王に声をかけられる。
「勇者たん。」
魔王は最近こんな意味不明なニックネームで俺の事を呼ぶようになった…。
何のブームなんだ一体…。ちょっと気持ち悪い。
「何?」
思わず半眼になって魔王に返事をすると。
「はぁ…。きゃわたん…。」
魔王は顔を赤くさせながら身悶える。
人語を話せ人語を!
いい奴なんだけど時々よくわからなくなるからタマにキズだ。
男だけに(笑)
「なんかね。最近羽虫が騒いでいてね。絶対に外にでてはダメだよ?勇者たんに何かあったら、どうにかなってしまいそう!」
俺が少し前まで子供だったからか、魔王は保護者気分でこんな事ばかり言い出す。
口調は子供に話しかけるそれなのだが、本気で心配しているのが伝わってくる。
魔王って言うくせになんて人がいいのだろうか…。
10年以上逆恨みしてきた自分が恥ずかしくなる。
しかし、魔王が心配してもそんな事は起きないだろう。
城の居心地のいい応接室にあるソファに座ると、魔法がかかっているのかトイレ以外では動きたくなくなってしまうのだ…。
今もソファに座って魔王とお喋りに花が咲いていた。
勇者としてそれはどうかと思うのだが。
っていうか俺は現在無職なのだ。魔王に養われている。
やっぱりちゃんと仕事するべきだよな…?
「ま、魔王。居候の身だし何か出来ることはないのか?」
人としてどうかと思うので家主に確認をとるが、答えは毎回。
「勇者たんは何もしなくていいの!」
だ…。
魔王は最近性格変わってきたよなぁ。
やたら近くに座りたがるし、時々目が据わってて怖いし。
太ったら食われるかもしれない。働きに出ようとしたらわりと本気で止められたし…。
ドカッーン!ゴーン!
突然城が揺れた。
一瞬地震でも起きたのではないのかと思ったが、この城は耐震補強してあるらしいのでそんな事は起きないと以前言われた事を思い出す。
「まっまっ…!魔王!」
尋常じゃない揺れに思わず魔王にしがみつく。
「勇者たん。大胆…!」
魔王は俺がソファからぶっ飛んで怪我をしないように抱き止めてくれた。
「じ…地震怖い!地震怖い!アイツがアイツがやってくる!」
地震で思い出す奴が一人だけ居た。
そいつは…。
魔王討伐の時に組んだパーティーの中に居た魔法使いだ!
アイツは本当に怖い奴で。女の癖に女が大好きで。
とにかく俺の事を嫌っていた。
可愛い村娘に頭を撫でられただけで俺のテントの中を揺らされたり。
知らない間に盗賊に誘拐されただけで、盗賊もろとも雷を落とされたり。
うっかり魔王城の罠を引き当てただけで俺だけ大火事にされたり。
本当に酷い目に遭わされてきたのだ。俺も少しだけ悪かったかもしれないけど、魔法使い怖い本当に…!
「勇者たん。大丈夫。俺がついているから…。」
魔王は俺の背中を撫でながら励ましてくれた。
『魔王!私と勝負だ!お前の花嫁を貰う!』
俺と魔王しか居なかった応接室にもう一人いつの間にか人が表れた。
「キモ…。」
そいつを見て俺の口からポロリとそんな言葉がこぼれていた…。