表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石の星のキラキラ王子様  作者: 立川ありす
第2章 リゼちゃんが大好きは子は、ぼんやりマシュマロ男子?
8/15

ボーキサイトでごはんを作る

「アリサくん、マギーくん、仕事の様子はどうだろうか?」

 ケータイの上にうつったローランドさんが言った。

「もちろん、ちゃんとやっていますよ……」

 アリサは冷やあせをかきながら答えた。


 仕事はちゃんとやってる。

 けど、その結果わかったブーくんのことは、言いにくいことばかりだ。だから、


「リゼちゃんはクラスの人気者で、みんなからたよりにされてるんだよ!」

「それに、スゴイ魔法をいくつも使っているのを見ました」

 リゼちゃんのことを言ってみた。


「そうだろう、そうだろう。わたしのじまんのむすめだからな」

 ローランドさんはニコニコ笑った。

「そんなリゼが選んだボーイ……その、友だちなのだ。やはり、すばらしい飛行機に変形できるのだろうか? あるいはスゴイ魔法が使えるのだろうか?」

 ローランドさんは、目をキラキラさせながら、こっちを見ている。

「そ、それは……」

 あたしとアリサは目をそらした。


 リゼちゃんはブーくんのことが大好きだ。

 だから、あたしたちの仕事のせいでローランドさんがブーくんをきらいになったりしたら、悲しい。


 だから、とてもじゃないけど、言えない……。

 ブーくんは変形なんてできなくて、魔法も使えないなんて、言えない……。

 運動もぜんぜんできなくて、ころんでばかりだなんて……。


「そ、そうですわ! スゴイことができるかどうかより、どんな子かっていうほうが重要なんではないかと思いますですわ!」

 アリサが、うらがえった声で言った。

 リゼちゃんの口調がうつったみたいに変な言葉づかいになっている。

 でも、ローランドさんはそんなことも気にならないくらいワクワクした声で、


「それもそうだ。そのブーくんというのは、やはり、リゼにふさわしいくらいしっかりしていたり、勇気があったりするのだろうか?」

「うう、それは……」

 い、言えない……。

 いつも女の子にイジワルされて、リゼちゃんにたすけられているなんて……。


 結局、あたしたちは調べたことを何も言わないまま、つづけてブーくんを調べることになった。


「でも、いつかローランドさんに、ちゃんとしたお話をしきゃダメだよね……」

「そうね、いつまでもごまかしてばかりいられないものね」

 アリサはため息をついて、まどを見た。


 大理石のカベには大きなまどがならんでいて、外がよく見える。

 むずかしい話なんてわすれてしまうくらい晴れた青空の下で、宝石の街がキラキラ光っている。

 まどのないところはカラフルなポスターやお知らせがはってある。

 見ているだけで楽しい。


 ローランドさんとお話をした後、あたしとアリサは学校のろうかを歩きながら、お仕事のことを話していた。


「それにしても、ブーくんだけ魔法を持ってないのはなんでかしらね」

 ふと、アリサが言った。


 アートマンはみんな、生まれつき、ひとりひとつの魔法を持っている。

 たとえば【みんなが自分を好きになる魔法】だったり、【ものを調べる魔法】だったり、スゴイのだと【反重力の魔法】なんてのもある。


 でも、ブーくんはどんな魔法も持っていない。

 アチャ先生も、魔法を何も持っていない子ははじめてらしい。


「ねえアリサ。アートマンは本当の名前を使って魔法を使うんだよ。名ぼにはブーくんの名前は何て書いてあるの?」

「ブラックボックスって書いてあるわ。わからないって言う意味ね」

「そっか……」

 ブラックボックスのブーくんなんだね。

 ざんねん。

 名前がわかれば、魔法が使えるようになる手がかりになると思ったのに。


「でも、アチャ先生は『使い方がわからないだけで、何かスゴイ魔法を持っているのかも~』って言ってたよね」

「持ってるといいけどね……」

 アリサはやれやれとかたをすくめた。


「もー。アリサったら、先生の言うこと信じてないみたいに」

 アリサはアチャ先生のことを、やさしいけどたよりにならないーって、ちょっとバカにしたみたいなことを言うんだよ。

 そりゃ、わたしも、ちょっとは思うけど……。


 そんなことを考えて、そっぽを向く。

 すると、教室に見覚えのある女の子がいるのが見えた。


「……あ、リゼちゃんだ」

 リゼちゃんは、テーブルにガラスケースをならべて、むずかしい顔をしている。

 何してるんだろう?


「ここは家庭科室よ」

 アリサは教室のドアの上についているプレートを見て言った。

「家庭科って、お料理やおさいほうの勉強だよね? ……この部屋は、そういうのとはちがうように見えるけどな」

 リゼちゃんがいる部屋には機械や工具がならんでいて、オイルのにおいがする。

 お料理をする台所じゃなくて、カピバラ号のハンガーみたいだ。


「この星では、ごはんは機械や工具で作るのよ。だって、アートマンの食べものは工具を使わないと加工できないんだもの」

 そっか、宝石と鉄でできたアートマンは、食べるものもアルミとかなんだっけ。


「でも、リゼちゃんはどうしてそんなところにいるんだろう?」

 人間のリゼちゃんが、アルミやオイルをつまみ食いなんてできないのに。

「マギーじゃないんだから、つまみ食いなんかじゃないわよ」

「あたし、つまみ食いなんてしないもん!」

「マギーったら、バレてないと思ってるでしょ? ずっと前のからあげとか」

「うぅ、それは……」

 だって、おなかがすいてたし、アリサのからあげがおいしそうだったから……。

 あたしはアリサからにげるように、ステンドグラスのドアをガラリと開けた。


「リゼちゃん、どうしたの? こんなところで」

「あ、先生」

 リゼちゃんは顔をあげると、


「パパにたのんで、アートマンのごはんの材料をおくっていただいたのですが、料理のしかたがわからないんですの」

 こまったように言った。

 そっか、リゼちゃんへのプレゼントって、ボーキサイトだったんだね。


「それなら、わたしが手伝うわよ?」

 アリサはニッコリ笑って言った。


「アリサ、できるの!?」

 あたしはビックリしてさけんだ。


 でも、よく考えればそうだよね。

 アリサは機械いじりと料理が得意だから、機械の料理を作るのだってできる。

 やっぱりアリサはスゴイな。


「あたしも手伝うよ!」

「よろしくおねがいしますわ!」

「それじゃ、料理を始める前に白衣を着て、ちゃんとマスクをしましょう」

 そうだよね。

 マスクをしないと、ごはんにツバとかが入っちゃう。


 そして、


「マスクのすみから息がもれてないか、たしかめて」

 あたしは、フィルターのついたガスマスクの着け心地をたしかめる。

 リゼちゃんとアリサもたしかめる。


 すー、はー。すー、はー。


「マギー、だいじょうぶ?」

「もー。そんなに何回もたしかめなくても、だいじょうぶだよ」

「それでも、たしかめるの」

 アリサが、すごくまじめな顔で言った。

「ボーキサイトの粉をすいこんじゃうと、大変なことになるんだから」

「はーい」

 そうなのだ。


 ボーキサイトはアートマンが大好きなアルミになる。

 けど、もちろん人間には食べられない。

 体の中に入ると大変なことになる。

 だからマスクにすきまがないか、念入りにたしかめるのだ。


 みんなの用意が終わると、アリサはケースの中から茶色の石を取り出した。

 これがボーキサイトだ。


「まずは、石をくだいておなべに入れます」

 アリサはハンマーで石をくだいて、機械がついたおなべに入れた。

 機械には温度計がついている。


 あたしとリゼちゃんも、アリサといっしょに石をくだいて、おなべにいれる。

 石がくだけるたびに茶色い粉がちらばる。

 でも、ちゃんとマスクをしているから、へっちゃらだ。


「次に、魔法の水をいれて、あたためます」

 アリサはおなべにジャバジャバ水を入れると、機械のスイッチをおした。

 温度計の温度がぐんぐん上がる。

 すると、石がとけて、赤いドロになって、おなべの底にたまった。


「これがアルミなの?」

「これはゴミ。アルミはお湯のほうよ」

「「え?」」

 お湯は、さっきアリサが入れた水だよね?

 あたしとリゼちゃんは首をかしげる。

 けどアリサは気にせずおなべにポンプを入れる。


 お湯をシュコシュコとなりのおなべにうつす。

 元のおなべにはドロがのこって、新しいおなべにはお湯がたまった。

 こっちのおなべにも機械がついている。


「じゃあ、今からお湯の温度を下げるから、よく見てるのよ」

 アリサはドロはほおっておいて、新しいおなべのスイッチをおす。

 すると、お湯の中に白い粉があらわれて、おなべの底にたまった。

 スゴイ! アリサの言うとおりだ。


「最後に、電気でビリビリしながらやいたら、アルミのできあがりよ」

 みんなでおなべの底にたまった粉をすくって、四角いパン型に入れる。

 そしてパン型を別の機械に入れる。

 アリサは機械のふたをしめて、スイッチをおした。


「あとは、やきあがるのを待つだけよ」

 アリサがそう言ったので、あたしはひと息ついた。

 リゼちゃんはワクワクした顔で機械を見ている。


「リゼちゃんは、どうしてブーくんのことを好きになったの?」

 ふとあたしは、リゼちゃんにたずねてみた。


 クラスには男の子のアートマンもたくさんいる。

 なのに、なんで、りっぱな飛行機に変形できたり、スゴイ魔法を持ってる子じゃなくて、ブーくんなんだろう?

 するとリゼちゃんは、


「そんなんじゃないですわ!」

 まっ赤になって、でも少し笑って話しはじめた。

「この星に来てすぐのころは、アートマンのくらしになれませんでしたの。みんな固くて変形するし、食べるものもちがって、ちょっとこわいって思ってましたの」

 そっかー。リゼちゃんも最初から何でもできる人気者だったわけじゃないんだ。


「そんなある日、ママからいただいた大切なブローチをなくしてしまいましたの」

 そう言って、むねのブローチを見やった。

 よく見ると、ちょっと凹んでいる。

「ぜんぜん見つからないし、クラスのみんなにも話せなくて、こまってましたの」

 あたしは話のつづきが心配になってリゼちゃんを見る。


「そんなとき、ひとりの男の子が『ボクがさがしてあげる』って言ってくれたんですの。てっきり、【ものをさがす魔法】を持っているのだと思いましたわ」

 リゼちゃんは笑って言った。

「けど、その子は自分でさがしはじめましたの。大きな体をちぢめて、小さなすきまをのぞきこむその子を見ているうちに、アートマンがこわくなくなりましたの」

 わかった! それがブーくんだったんだね。


「けっきょく、ブローチは教室のすみに落ちていたんですけど、ブーくんったら力を入れすぎて、ちょっと凹ましてしまいましたのよ」

 そう言ってニコニコ笑いながら、ブローチの凹んだところをなでる。


 あたしは、アリサと顔を見合わせてニッコリ笑った。

 ブーくんがやさしくて親切だったから、リゼちゃんは凹んだブローチを見てニコニコ笑うくらい、ブーくんが好きになったのだ。


 そのとき機械が「チーン」となった。


 アリサが機械からパン型を取り出す。

 すると、そこには銀色にツヤツヤ光るアルミニウムができあがっていた。


「それじゃ、次は料理をするわよ。リゼちゃんは、アルミで何を作りたいの?」

「サンドイッチを作ろうと思っていましたの」

「なるほど。チタンのぼうとシリコンがあるから、これをはさみましょう」

 そう言って、アリサはてきぱきとやることを決めてくれた。


 アリサは工具を使ってチタンのぼうにネジを切って、チタンのネジを作った。

 あたしも手伝った。


 リゼちゃんは固いシリコンをあらくつぶした。

 そして、ボールでやわらかいシリコンとまぜた。


 四角いアルミの上にリゼちゃんのシリコンをぬって、チタンのネジをならべる。

 そして、もう1まいのアルミではさむ。


「そして食べやすいサイズに切ったら、できあがりよ。ええっとノコギリは……」

「それなら、わたしの魔法で切りますわ!」

 リゼちゃんは小さなクリスタルを取り出す。

「【ソウイル】のルーンは、お日さまのルーン! キラキラ! 光りなさい!!」

 するとリゼちゃんのゆびからレーザー光線が出て、サンドイッチを三角に切る。


 チタンとシリコンのサンドイッチができた。

 あたしは、できあがったサンドイッチを見やる。

 アルミとチタンとシリコンでできたサンドイッチは、まるで機械の部品みたい。

 でも、これがアートマンのごはんなんだ。


 アリサが部屋の機械で空気をきれいにしてくれた。

 あたしたちはマスクをはずす。


「それじゃ、ブーくんをさがしてくるね」

「その必要はありませんわ!」

「え……?」

 そのとき、ドアのかげからヒョコッとだれかが顔を出した。


「お、おいしそうなごはんのにおいがするのは、こ、こっちかな……?」

「あ、ブーくん」

 ブーくんだった。

「ブーくんは食いしんぼうだから、ごはんがあれば、どこでもやって来ますのよ」

 あたしとアリサは顔を見合わせた。

 ブーくんが得意なことは、ごはんの場所がわかること……?


「あ、サンドイッチだ。リゼちゃん、こ、このサンドイッチはどうしたの?」

「リゼちゃんとみんなで作ったんだよ。ブーくんに食べてもらうために!」

「その……材料があまったから、作ってみただけですわ!」

 リゼちゃんはそんなことを言って、そっぽをむいた。

 あたしとアリサはニヤニヤ笑った。

 わざわざパパに材料をおくってもらったのにねー。

 でも、ブーくんはそんなリゼちゃんの様子には気づかずに目をキラキラさせて、


「ボクが食べていいの……!? リゼちゃん、あ、ありがとう!」

 飛び上がってよろこんだ。

 リゼちゃんも思わず笑って、照れかくしみたいにらんぼうにイスを引く。


「アルミがさめないうちに、とっととお食べなさい!」

「はーい! いただきまーす!!」

 ブーくんはうれしそうにテーブルにつく。

 そしてチタンとシリコンがはさまったアルミのサンドウィッチにかぶりつく。


「おいしい! すごくおいしいよ、リゼちゃん!」

 ブーくんがサンドウィッチを食べるたびに、工事をしているみたいな音がする。


 バキバキ! ガリガリ!


「アルミはふんわりやわらかくて、やさしい感じがする! それに、かたさのちがうシリコンの食感! ボク、あらくつぶしたシリコンが大好きなんだ! チタンのネジもコリコリして、かくし味のウラン粉がピリッとして、とってもおいしい!」

「そっか、よかったね……」

 あたしは人間だから、アルミのやわらかさだとか、シリコンの食感とか言われても、ちっともおいしそうとは思えない。

 でも、ブーくんはニコニコ笑顔だ。

 サンドウィッチをムシャムシャ、パクパク、バキバキ食べる。


 ブーくんは食いしんぼうだからなのか、ごはんを本当においしそうに食べる。

 それを見て、リゼちゃんもニコニコ笑っている。

 そんな幸せそうな2人を見てると、2人はおにあいだなって思えてくる。

 それにブーくんがあんまりおいしそうに食べるから、アルミのサンドウィッチがちょっとおいしそうに思えてきてしまう。


 そういえば、あたしは何も食べてないよね?

 こんなにがんばってお手伝いしたのに!


「……マギー。アルミのサンドウィッチは人間には食べられないわよ?」

「そんなこと思ってないもん!」

 もー。アリサったら!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ