学校の先生になる
『なるほど、リゼにもそんな友だちができたのか……』
ケータイの上にうつったローランドさんが言った。
あたしとアリサはニッコリ笑う。
あたしたちは、ローランドさんに電話して、お仕事の結果を伝えていた。
ボーキサイトを無事にとどけたこと。
そして、リゼちゃんの様子がヘンだった理由だ。
リゼちゃんはクラスメートとケンカして悪口ばかり言っていると思ったけれど、本当はその友だちのことが大好きだったのだ。
ローランドさんにうれしいことを話せて、本当によかった。
エルフィン人のあかしの長い耳が、ヒョコヒョコゆれる。でも、
『もう一度聞くが、その友だちというのは男の子なのだね?』
ローランドさんは、むずかしい顔で言った。
「はい、そうです。金色の男の子ですよ」
アリサはニコニコ笑って答える。
お仕事が終わったので、お金がたくさんもらえるからだ。
アリサたち地球人は、お金もうけが大好きなのだ。でも、
『つまり、リゼには男の子の友だちがいるということだね?』
ローランドさんは、むずかしい顔で言った。
「そうですよ。ボーイフレンドですね」
『ボーイ!? そ、そうか……』
そう言って「ムムム」とうなる。
さっきから同じことばかり聞いている。
ヘンなの。
あたしは首をかしげる。
ローランドさんはアリサとあたしをじっと見つめる。そして、
『アリサくん、マギーくん。もうひとつ仕事をたのんでいいだろうか? 新しい仕事には、お金をこれだけはらおう』
ケータイの上に、たくさんのお金を出して見せた。
アリサの目がお金みたいにキラキラ光る。
「もちろん、やらせていただきます!」
もー。アリサはお金が大好きすぎるんだから。
「それで、何をすればいいんですか?」
アリサはキラキラの目でたずねる。
『その、リゼのボーイ……いや、友だちのことを、もっとよく調べてほしいのだ』
ローランドさんは言いにくそうに言った。
そういうわけで、あたしとアリサは、リゼちゃんとブーくんのことを、もうちょっと調べることになった。
そして次の日の朝。
「でも、どうやってブーくんのこと調べるの?」
あたしは、テーブルの向かいにすわったアリサにたずねた。
真ちゅうのテーブルは歯車の形をしていて、にぶい金色に光っている。
テーブルの上には、店長おすすめのキャラメルパフェがのっている。
イスもテーブルとおそろいの歯車形だ。
だから、ひざのうらが歯車の出っぱりに当たってヘンなかんじがする。
あたしとアリサは、宇宙港の近くにあるカフェで朝ごはんを食べていた。
どんな星でもカフェにはいろいろな人が集まる。
なんでも屋の仕事をさがすにはちょうどいい。
だから、いつもはカフェでごはん食べながら、お仕事をさがすの。
でも今はもう仕事はあるから、どうやって仕事をしようか話している。
カフェのカベは黒い大理石でできている。
そして、曲がりくねった真ちゅうのパイプがならんでいる。
パイプのすき間から、まどが見える。
まどの外は、たくさんの人たちが行き交っている。
まどの横で、ハンドルのついた大きなボイラーが、ピューッとゆげをふいた。
歯車イスがならんだカウンターやテーブルでは、いろいろな人たちが、思い思いにくつろいでいる。
アートマンもいるし、ほかの星の人たちもいる。
「ボーキサイトはとどけちゃったから、学校にはもう入れないよ?」
あたしは、そう言って首をかしげる。
服のスパンコールがシャラリとなった。
あたしが着ているのは、シャンバラで買ったブラウスとミニスカート。
キラキラ光るピンク色のスパンコールでできていて、とってもキレイ!
ブラウスのそで先やスカートのすそには、トゥーレで作られたきれいなフリルがついている。つま先が丸くなったかわいいパンプスは宝石でできている。
この前の仕事でかせいだお金で、アリサといっしょに買ったんだ。
アリサが着ているのは、真ちゅうのリベットがたくさんついた黒いコート。
その下は、いつものぐんじょう色のワンピースだ。
コートとおそろいのリベットつきのブーツをはいていて、とても大人っぽい。
そんなアリサは、
「学校に入る方法なら、ちゃんと考えてあるわ」
むねについた歯車型のポケットからケータイを取り出した。
ボタンをピピッておすと、画面に学校のページがあらわれる。
アリサは画面をスクロールさせる。すると、
「この学校は先生をさがしてるの?」
「ええ、いろいろな星の先生をさがしてるみたいね。生徒がほかの星のことを学べるようにですって」
アリサは言った。
「わたしは先生になるライセンスを持ってるし、マギーはエルフィン人の魔法使いだから、アヴァロンのことを教える先生になって学校に入れるわ」
「それじゃ……」
「ええ。今度は先生になって学校に行って、リゼちゃんたちのことを調べるわよ」
そういうわけで、あたしとアリサは学校の先生をすることになった!
先生になるためのむずかしい手続きは、ぜんぶアリサがしてくれた。
なので、あたしたちは、すぐに先生として学校に行くことになった。
そして、宝石と大理石でできたステキな学校で、
「アリサさん~、マギーさん~、この前は本当にお世話になりました~」
メガネをかけた人間の先生が、あいさつしてくれた。
この前の仕事のときに倉庫で会ったアチャ先生だ。
「わたしは、リゼちゃんやブーくんのクラスの先生をしている、アチャラ・ナータ13世です~。よろしくおねがいします~」
アチャ先生は、地球人の大人の女の先生だ。
ちょっとぼんやりした感じだけど、やさしそうで、お話ししているとほんわかした気持ちになる。
「先生! おはようございます!」
「は~い、おはようございます~」
横を通りすぎる生徒に、ニコニコあいさつを返す。
生徒たちもアチャ先生が大好きみたいだ。
「お2人とも、おわかいのにお仕事をされているんですね~。りっぱです~。マギーさんは、生徒たちと同じくらいの年なのに魔法使いだなんて、スゴイです~」
「エヘヘ、それほどでも!」
ほめられて、長い耳がヒョコヒョコゆれる。
あたしもアチャ先生が大好きになった。
「先生こそ、地球人なのにアートマンの魔法を使えると聞きました。さすがです」
アリサもアチャ先生をほめる。
先生も「えへへ~」と笑う。
「そんな~。わたしはアートマンが好きで、いろいろ勉強をしただけですよ~」
「勉強熱心なんですね。うちのマギーにも見習わせたいです。この子ったらサボってばかりで」
もー。アリサったら!
またそうやって、あたしのこと子どもあつかいするんだから!
アリサだって、アチャ先生を見習って、やさしくなればいいのに。
そう思った、そのとき、
「!?」
走ってきた何かがアリサにぶつかりそうになった。
3人組のアートマンだ。
黒いオニキスと、むらさき色のアメジストと、水色のアクアマリンの女の子だ。
「こらー! ろうかを走ったらあぶないでしょ!」
あたしは3人のせなかに向かってさけんだ。
アリサがケガをしたら大変じゃない!
「ま、まってよー」
「あっ、ブーくん」
3人組の後ろから、まん丸に太ったアートマンの子どもが走ってきた。
今度はあたしは「ろうかを走ったらあぶない」なんて言わなかった。
知ってる子だから言わなかったんじゃない。
ぜんぜん、あぶなくなかったからだ。
ブーくんは、すごく、すっご――く、おそいのだ。
まん丸な顔はすごく走ってる顔なのに、スピードはあたしが早歩きするくらい。
「まってってばー」
ブーくんは言った。
さっきの3人組をおいかけてるのかな?
でも、これで追いつくなんてぜったいにムリだ。
ブーくんが行こうとしているろうかの曲がり角から、3人組が顔を出した。
黒い子が、手に持ったコンテナをヒラヒラ動かす。
「ニキちゃーん。ボ、ボクのカバンかえしてよー」
「返してほしかったら、ここまで来てみなさい!」
ニキとよばれた黒い子は、からかうようにコンテナを引っこめる。
あの子たち、ブーくんのカバンを取り上げてイジワルしてるんだ! ヒドイ!
「ニキちゃ~ん、お友だちにイジワルしたらダメですよ~」
アチャ先生はのんびり言った。
でも、あまりたよりになりそうにない……。
あたしは【ものを動かす魔法】でカバンをとり返そうと、ペンダントをにぎる。 そのとき、
「【ライゾー】のルーンは乗り物のルーン! ブーン! 飛びなさい!!」
あたしの横を何かが走りぬけた。
それは風のようにすばやかった。
走ったらあぶないとか、もうそんなことを言うよゆうもない!
あっという間に、風はろうかの角に走りこむ。
ていっ! あひっ! あひっ! あひっ!
おしりをけっとばされた3人組がろうかの角から飛び出した。
そして、そのままにげていった。
それから金髪のアリア人の女の子が出てきた。
リゼちゃんだ。
「いつも、いつも、イジワルばっかりして、サイテーね!」
「い、いつもありがとう、リゼちゃん」
言いながら、リゼちゃんは両手でかかえたコンテナをブーくんに手わたす。
ブーくんがとられたカバンをとり返してあげたんだ。やさしー。でも、
「3人組もサイテーだけど、あなたも自分でなんとかしなさいよ!」
おこった。
「ううっ、ごめんね……」
しょんぼりするブーくんに、リゼちゃんはよじのぼる。
ブーくんのまん丸なせなかには、なぜかハシゴがついていた。
そしてリゼちゃんはブーくんの頭にすわった。
ブーくんは足についているキャタピラをキュルキュル回して、教室に向かった。
「ブーくんは良い子だけれど、魔法を持っていないから、ちょっと心配ですね~」
「心配するところは、それだけ……?」
あたしとアリサは顔を見合わせる。
リゼちゃんのボーイフレンドは魔法が使えなくて、走るのもおそくて、気が弱くて、女の子にイジワルされて、リゼちゃんにたすけてもらっているらしい……。