エピローグ
「それで、ブーくんは伝説の【ものを作る魔法】を持っていたの!」
あたしは、ケータイの上にうつったローランドさんにほうこくした。
あたしもアリサもニコニコ笑顔だ。
ローランドさんは『ふむふむ』とうなずく。
でも、そんなにうれしくなさそう。
『それより、もう少しくわしく聞きたいことがあるのだ』
「どんなところでしょう?」
『ブーくんは、おばけ宇宙船に行くまで、魔法が使えなかったのだな?』
「え、ええ。そうです……」
アリサはこまった声で答えた。
ローランドさんは、ブーくんが食いしんぼうだったり、ぼーっとしていたり、クラスの女の子にイジワルされてリゼちゃんにたすけてもらっていたり、そんなことばかりくわしく聞こうとするのだ。
ローランドさんは、リゼちゃんがブーくんと友だちなのが、イヤなのかな?
あたしは仕事でブーくんとリゼちゃんのことを調べてただけだから、ローランドさんに何か言えるわけじゃない。
でも、あたしの横に長い耳が、しゅんとたれた。
けど、ローランドさんはとつぜん、ニコニコ笑いはじめた。
『つまり、ブーくんは、おくびょうで、魔法も使えないのに、リゼをたすけに行ってくれたということだな? そんなにもリゼのことを好きだったのか!』
「えっ?」
『リゼにはもう少しわたしにあまえていてほしかったのだが、こんなにリゼのことを思ってくれる友だちがいるのなら、みとめないわけにはいかないな』
あたしはビックリした。
ローランドさんは、ブーくんがどれだけリゼちゃんを好きかっていうことを聞きたかったんだ!
『すぐに約束のお金をはらおう。それから、リゼをたすけてくれたお礼もだ』
その言葉を聞いて、アリサはホッとした顔をした。
高いミサイルをうちまくったり、こわれたスクワールⅡやヘッジホッグをなおしたりして、お金をたくさん使っちゃったからだ。
あたしとアリサは、顔を見合わせてニッコリ笑った。
そして、
「マギー先生、アリサ先生、ありがとうございましたー」
「これからも勉強がんばってね!」
あたしとアリサは、生徒たちにあいさつしながら歩いていた。
先生の仕事も今日で終わりだ。
これからはまた【なんでも屋】の仕事をしながら、カピバラ号で宇宙を旅する。
リゼちゃんやブーくんのことを調べるちょっとの間しかいなかったけど、みんなとお別れするのはさみしい。
そんなことを考えていると、見なれた2人組がいた。
「ブーくんったら! あんなにスゴイ魔法が使えるんだから、もっとシャキッとなさいませ! いげんがないですわ!」
「リゼちゃん、そんなこと言ったって……」
まん丸な太ったアートマンの上にすわった、金髪の女の子。
ブーくんとリゼちゃんだ。
いいんだけど、どんなにシャキッとしても、頭の上に女の子がすわってたら、いげんはないと思うな……。
「あ、先生! いろいろお世話になりましたわ!」
「エヘヘ、ど、どうもありがとう」
2人は、あたしたちに気づいて、あいさつする。
おまわりさんの宇宙船がおばけ飛行船を運んで行った後、リゼちゃんは、ニキちゃんたちといっしょに、おまわりさんと先生からお説教をされた。
子どもだけでおばけ宇宙船に行って、エンジンを取ろうとしたからだ。
でも街も学校も無事で、だれもケガをしなかったから、お説教は少しですんだ。
ブーくんが【ものを作る魔法】を使っておばけ宇宙船を止めてくれたおかげだ。
そのときに、ブーくんはマッチョでスマートになって、変形もできるようになった。でも……。
「ブーくん、またまん丸になってる……」
「うん。ま、魔法が使えるようになったおいわいのパーティーで、ごはんをたくさん食べたら、いつの間にかもとにもどってたんだ」
「そういえば、食べまくってたわね」
「ちょっとざんねんだね。かっこよかったし、やせてると変形できるのに」
「でもボクは、これでいいよ。頭がとんがってると、リゼちゃんがすわれないし」
そう言って、ブーくんはニコニコ笑う。
あたしは、ブーくんのまん丸な顔と、まん丸な体と、まん丸な足を見やる。
足にはキャタピラがついている。
リゼちゃんがのっているときは、これでキュルキュルすすむのだ。
ああ、そっか。
「ねえ、ブーくん。そのキャタピラって、最初からあったの?」
あたしは、ふとブーくんにたずねてみた。
「あのね、マギー。いくらアートマンだって、生まれたときになかったものが、いきなりはえたりしないわよ」
アリサがバカにした声で言った。もー!
でも、ブーくんの頭の上のリゼちゃんは、ちょっと考えてから、
「そういえば、会ったばかりのころには、なかった気がしますわ」
「う、うん。ボクが歩いて頭の上がゆれるせいで、リゼちゃんが気持ち悪くなってたから、そんなのイヤだなって思ってたら、いつの間にかできてたんだ」
それを聞いて、
「やっぱり!」
あたしは笑った。
「ブーくんは、本当は、最初から【ものを作る魔法】が使えたんだと思う。リゼちゃんがこまったときに、気がつかないうちに使ってたんだよ」
社会の時間にまぼろしを実体化させたのもブーくんだ。
きっと、リゼちゃんがカピバラに乗りたそうにしてたんだろう。
それは、リゼちゃんがブーくんのことを好きなのと同じくらい、ブーくんがリゼちゃんのことが大好きだったから。
魔法が使えるくらいだれかを好きになれることも、だれかからそのくらい好きになってもらえるのも、どっちも同じくらいステキだ。
そう思ってアリサのほうをちらりと見る。
アリサはちょっとバツが悪そうに、でもニッコリ笑ってくれた。
あたしの長い耳がヒョコヒョコゆれた。そのとき、
「うわっ」
走ってきた何かが、ブーくんにぶつかっていった。
アートマンの3人組だ。
「ニキ! サラ! ラクシュ! あなたたちは!!」
「「「べーだ」」」
3人はリゼちゃんたちにあかんべして、走って行った。
「もー、あの子たち、リゼちゃんと仲良くするってアリサと約束したのに!」
あたしは、おこる。けど、
「実はね、ボク、昔、ニキちゃんにヒドいことしたことがあるんだ。それでかな」
ブーくんがしょんぼりした声で言った。
「……どういうことですの?」
「リゼちゃんがこの星に来るずっと昔のことなんだけど」
「ええ」
「ニキちゃんがイヤリングをなくしてこまってたんだ」
「そういえば、いつもイヤリングしてますわね、あの子」
「うん。そ、それで、サラちゃんもカゼで休んでたから【ものを調べる魔法】も使えなくて、すっごくこまってたんだ。だから、ボクもさがすのを手伝ったんだ」
ブーくんは話す。
「いっしょうけんめいさがして、ロッカーのすき間に落ちてるのを見つけたんだ」
アリサはむずかしい顔をしている。
リゼちゃんもだ。
「でも、そのころニキちゃんは【反重力の魔法】があまりうまくなくて、ものを引きよせることはできないから、ボクが手をのばして取ったんだ。そうしたら、力を入れすぎて、イヤリングの宝石をちょっと凹ましちゃって……」
あたしはアリサと顔を見合わせた。
どこかで聞いた話だよね、それ……。
「ブーくんったら、わすれんぼうさんですわね! それはニキのイヤリングじゃなくてわたしのブローチですわ!」
「ううん、リゼちゃんのブローチもさがしたけど、ニキちゃんのイヤリングもさがしたんだよ。そういえば、リゼちゃんのときも、ブローチを凹ましちゃったんだっけ。ゴメンね。ボク、もっと器用にならないとダメだね」
あたしはリゼちゃんの髪についているブローチを見やった。
家庭科室で話してくれた、リゼちゃんの気持ちを思い出す。そのとき、
ベバシッ!
ブーくんの顔に、何かぶつかった。
コンテナのようだ。
「やーい! やーい!」
校門のかげからニキちゃんとサラちゃんとラクシュちゃんが顔を出して、あかんべえをすると、走っていった。
「あの子たちったら! 明日、学校で会ったらとっちめてやりますわ!」
リゼちゃんはプンプンおこる。
でも、ブーくんはコンテナを開けて、
「いいにおいがすると思ったら、ピザだよ! 中にピザが入ってる!」
コンテナの中身は、アルミでできた丸いピザだった。
「うわー。もちもちのアルミ生地の上で、シリコンがとろーりとけてる。シリコンのこうばしいかおりが、ボク、大好きなんだ! それに、鉄のサラミや、チタンの葉っぱもたっぷりのってて、とってもおいしそうだ」
ブーくんは大よろこびだ。
だけど、うーん、あいかわらず、おいしそうに思えない……。
のぞきこんだリゼちゃんは、プイッとそっぽをむいて、
「でも、丸がゆがんでますわ。チタンだってギザギザですし。だいたい、あんな子がくれたものなんて、ろくでもないものに決まってますわ! アリサ先生のサンドウィッチのほうがおいしいですわ!」
つられて見やったアリサが、
「あら」
声をあげた。
「このチタンのギザギザ、まるで【反重力の魔法】で引きちぎったみたい見えるわね。それにピザの生地も、手で作ったみたいなゆがみかたよ」
「……それって、つまり、ニキちゃんの手作りピザってこと?」
あたしはアリサの顔を見た。
「ああ、そっか……」
ニキちゃんも、実はブーくんのことが好きだったのだ。
リゼちゃんのときみたいに、いっしょうけんめいイヤリングをさがしてくれたブーくんを好きになっていたのだ。
でも、すなおになれなくてイジワルばかりしていたんだろう。
「な、ん、で、す、って――!!」
リゼちゃんはビックリして、さけんだ。
「ブーくん、ここでまってなさい! 電話をかけてきますわ!」
「電話なら、ボクが【ものを作る魔法】で出せるよ」
「学校の電話からかけたいんですの! あなたはピザでも食べてなさいな!」
リゼちゃんは走っていった。
「パパ! おりいってお話が!」
近くにあった電話ボックスから声がもれてきた。
……あ、リゼちゃんが何の話をしてるのか、わかっちゃった。
「ねえ、アリサ」
「なあに? マギー」
「もしローランドさんから『むすめにアートマンの料理を教えてやってほしい』って仕事をたのまれたら、できそう?」
「どれだけお金をもらえるかによるわね」
そう言って、アリサは笑った。
もー。アリサったら、あいかわらずなんだから。
おいしそうにピザを食べるブーくんと、電話をかけるリゼちゃんを見ながら、あたしも思わず笑った。