ブーくんの魔法
「マギーさん~!! アリサさん~!! おかえりなさい~!」
「アチャ先生! リゼちゃんも、ラクシュちゃんも、ブーくんもいっしょだよ!」
あたしたちが校庭にもどると、みんなが出むかえてくれた。
おばけ飛行機たちは、ニキちゃんやクラスのみんながやっつけてくれていた。
「でも、今はそれどころじゃないの~。はやくにげなきゃ~」
「え? にげるって?」
「あれを見て~」
アチャ先生が指さした方向を見やる。
そこには、あたしたちがにげてきたおばけ宇宙船がうかんでいる。けれど、
「さっきより、近づいてきてる……?」
「そうなの~。おばけ宇宙船が落ちてきてるの~」
アチャ先生は言った。
「このままだと、学校のまん中に落ちちゃうわ~」
「ええ!? そんな!」
ビルより大きな宇宙船が落ちたりしたら、たいへんだ!
学校どころか、街じゅうがムチャクチャになっちゃう!
「まさか、わたしがおばけ宇宙船のエンジンを取ろうとしたからですの……?」
リゼちゃんの顔が、まっ青になる。
「ねえ、アリサ、おばけ宇宙船を止める方法はないの?」
「あるわけないわ。落ちてくる宇宙船を受け止められるものなんて……」
アリサは、こまる。
アートマンは魔法を持っているし、あたしも、リゼちゃんも魔法を使えるし、アチャ先生もスゴイ魔法を使える。飛行機だって使える。
でも、それでも、宇宙船を止めるには、足りない。
ビルより大きな宇宙船を止めるには、もっと、もっと強い魔法じゃないと……。
「そうだ!」
あたしは、さけんだ。
「アリサ! ブーくんは【ものを作る魔法】を持っていたの! スクワールⅡのエンジンを作ったり、大きなたいほうを作ってガラスをこわしたりしたの!」
「なんですって!」
「ブーくんの魔法で、宇宙船より強い何かを作れれば……!!」
そうしたら、おばけ宇宙船を受け止めらることができる!
「で、でも、ボク、魔法の使い方がわからないんだ……」
ブーくんは自信なさそうに言った。でも、
「それなら、だいじょうぶよ~」
アチャ先生がニコニコ笑顔で言ってくれた。
「先生はアートマンが大好きで、アートマンの魔法のことをたくさん調べたの~。先生は使えなかったけど、【ものを作る魔法】のことも調べたのよ~」
スゴイ! さすがはみんなの先生だ!
いつもぼんやりしたアチャ先生だけど、今はとっても、たのもしく見える。
「いい? よく聞いてね~」
アチャ先生は、まじめな顔で言った。。
ブーくんもまじめな顔でうなずく。
「アートマンの魔法は名前を使ってかけるの~。そして【ものを作る魔法】を持ったアートマンが今の時代にいるのなら、その名前は『ブラフマー406』よ」
「ブ、ブラフマー……」
ブーくんは、かみしめるように、言った。
自分の持っている魔法のことがわかって、ドキドキしているのだ。
「でも、この魔法は、よく知っているものしか作ることはできないの~。あんなに大きな宇宙船を受け止められるようなものなんて、学校で習ってないはずよ~」
アチャ先生は、むずかしい顔で言った。でも、
「だ、だいじょうぶだよ、アチャ先生!」
今度はブーくんがニッコリ笑った。
「ボク、マギー先生たちが荷物を運んできたときに、宇宙船を近くで見てたんだ」
「まあ、相手とおなじくらい大きな宇宙船だし、カピバラ号のエンジンは手足みたいに動かせるし、ものを受け止めることもできないことはないけど……」
アリサもさんせいしてくれた。
宇宙船を見ていたせいで、ブーくんはビルから落っこちちゃいそうになった。
あのときは、どうなっちゃうかと思った。
けど、それがこんなふうに役に立つなんて、ふしぎだ。
「それじゃ、ブーくん。カピバラ号のすがたを強く念じて、呪文をとなえて~」
「う、うん!」
そして、ブーくんはキリっとしたまじめな顔になった。
「ブラフマーの魔法の力で、アートマンの、お、大男を作るぞ! カピバラ号みたいに大きくて、強い大男を、ボクは作るんだ!」
すると、ブーくんの丸っこいうでと、まん丸な顔が、パリンっとわれた。
おばけ宇宙船の中でそうなったみたいに、光の粉になって消える。
その下から出てきたのは、ボディとおそろいのマッチョなうでと、てっぽうみたいなツノがついたかっこいい頭だ。
「ブーくんの太った体は、魔力でできてたんだ!」
あたしはさけぶ。
「きっと【ものを作る魔法】はたくさんの魔力を使うんだよ。だから、ブーくんはたくさん食べて、魔力をかためて、体の一部にして持ってたんだ」
そのことが、今、ようやくわかった。
そんなブーくんの魔力が、あたしたちの前に集まる。
そして何か大きなものを形作っていく。
小屋くらい大きな金色のエンジンが2つ、あたしたちの前にそびえたった。
こうしてみると、見上げるように大きい。
つづけて、その上に大きなボディが作られていく。
エンジンを2つ合わせたより大きい、ビルくらい大きい、金色のボディだ。
でも、それも半分くらいで止まった。
まだ下のほうしかできてないのに。
それどころか、出来上がったエンジンとボディの半分も消えそうになっている。
さっきまでただよっていた光の粉も、ぜんぜんない。
「あ、あれ……?」
あたしは首をかしげる。
「ブーくん、どうしちゃったんですの!?」
リゼちゃんも、あわてる。
「魔力が足りないんだわ!」
アリサが気づいた。
大きな宇宙船を作るには、たくさんの魔力が必要だ。
ブーくんが固めて持っていた魔力だけじゃ足りない。
だから、半分しか作れずに消えそうになっているのだ。
「どうしよう……」
みんなも、こまる。
アリサもクラスのみんなもあせっている。
おばけ宇宙船はどんどん近づいてくる。
このままじゃ、学校も街もメチャクチャになっちゃう。
でも、どうしたらいいのかわからない……。
「マギー、何かいい方法はないの?」
アリサがあたしにたずねる。
でも、あたしにも、どうしたらいいのかわからない。
もっとたくさんの魔力があれば……。
……そうだ!
「リゼちゃん! ニキちゃん! この前の社会の時間のときみたいに、ブーくんに魔力を分けてあげられる?」
「できますわ!」
「もちろん、できるわよ!」
2人はニッコリ笑う。
「【フェオ】のルーンは焼肉のルーン! モリモリ! 元気になりなさい!」
リゼちゃんはクリスタルを取り出して、呪文をとなえる。
リゼちゃんの手から魔法の光がはなたれて、ブーくんにあたる。
「ダーキニーの魔法の力で、空間よ、魔力がいっぱいの次元につながりなさい!」
ニキちゃんも両手にそれぞれ反重力のてぶくろを作る。
そして右手と左手をゴツンとぶつける。
空間がゆがんでホワイトホールになって、そこから魔法の光がわき出てくる。
2人から魔力をもらったブーくんの体が、ピカピカ金色に光る。
消えそうになっていたエンジンとボディのまわりに、たくさんの光の粉があらわれた。光の粉がボディにすいこまれると、ボディがはっきりした。
「やるわね、マギー!」
アリサがほめてくれた。
あたしの長い耳が、ヒョコヒョコゆれる。
「ブーくん、あまった魔力でマイクロウェーブの受信アンテナを作って! それからみんな、ブーくんにマイクロウェーブでエネルギーを送ってあげて!」
アリサが、みんなのやることを決めてくれた。
「う、うん、わかった!」
ブーくんの魔法で、大きなおしりに、しっぽみたいなアンテナがはえた。
「わたしたちもブーくんに魔力を送るのです!」
「送りますぅー!」
「ボクも!」
「わたしも!」
みんなのおデコから見えない何かがはなたれる。
すると、半分だけのボディのまわりに、すごくたくさんの光の粉があらわれた。
粉は光ってかたまって、ボディの上半分もできあがっていく。
そしてビルみたいに大きな宇宙船のボディができあがる。
ボディの横にも、うでみたいなエンジンができあがる。
ボディの上には、頭みたいなコンピューターがあらわれた。
「やった! できた!」
ブーくんの魔法で、大きな、大きな、金色の大男が完成した。
まるでカピバラ号がたてに立ったみたいな、ビルみたいに大きな大男だ。
ガチャ! ガチャ!
ブーくんは【▼】の形のむねを開いて、マッチョなうでと4本の足をおりたたんで、飛行機になった。
まん丸な体を魔法にして使っちゃったから、変形もできるのだ。
かっこいい飛行機になったブーくんは、大男の頭の上に飛んでいって合体した。
大男の目がかがやき、おたけびをあげる。
ビルみたいに大きなおばけ宇宙船が、すぐ近くまで落ちてきた。
そして、
ドォ――ン!!
ブーくんの大男は前足をかまえて、おばけ宇宙船を受け止めた。
しょうげきで、地面がゆれる。
まわりを風があれくるう。
「みんなが風でふっとばされちゃうわ!」
「アチャラ・ナータの魔法の力で、生徒たちをまもりますよ~」
「風さん、空気に宿る魔力さん、みんなを守って!」
「【アルギズ】のルーンはシカのルーン! ピー! 守りなさい!」
アチャ先生が魔法で見えないカベを作る。
あたしとリゼちゃんもバリアを作る。
そうして、みんながふっとばないようにする。
おばけ宇宙船は、大きな体でブーくんの大男をおしたおそうとする。
でもブーくんはがんばった。
「フンッ」
大男は後足をふんばって、校庭をふみしめる。
「フンガー」
前足に力をこめて、宇宙船をおし返す。
そして、おばけ飛行船をたてに立てて、地面につきさした。
「やりましたわ! ブーくん!」
リゼちゃんが、飛び上がってよろこぶ。
みんなも大よろこびする。
そのとき、白と黒の宇宙船がやってきた。
おまわりさんが、やっと来てくれたのだ。
すると、大きな金色の大男は光の粉になって消えた。
ブーくんの魔法がとけたのだ。
「さすがブーくんですわ! みなおしましたわ!!」
「ブーくん、スゴイのです!」
ゆっくり地面におりてきたブーくんに、みんながかけよる。
みんな、口々にブーくんをほめたたえている。
けれど、マッチョでスマートになったブーくんは、
「魔法をたくさん使ったら、お、おなかがすいちゃった」
そう言って、すわりこんだ。
おなかがグーとなった。
「ブーくんは、やっぱりブーくんだね」
あたしとアリサは、顔を見合わせて笑った。