リゼちゃんをたすける2
「ブーくん! おばけ宇宙船についたよ! エンジンを止めて!」
「と、止めるって、どうやるの?」
「ええっ!?」
そりゃそうだよね!
わたしにだってブーくんにエンジンがついてるわけがわからないんだもん!
ブーくんだってわけがわからないよね!
でも、このままじゃぶつかっちゃう!
あたしはあわててスロットルをおしやる。
スクワールⅡは足のエンジンを前にふかしてスピードを落とそうとする。けど、
ドッカーン!
ハンガーのカベに思いっきりぶつかった。
運転席がガクッとゆさぶられて、あたしはモニターに頭をぶつけた。
「いたたたた。ううっ、ヒドイ目にあった……」
風よけを開けて運転席からおりる。
スクワールⅡはカベにめりこむように、ななめにとまっていた。
でも、しっぽ以外にこわれてる場所はないみたいだ。よかった。
「リ、リゼちゃんをさがさないと!」
スクワールⅡの下側から、ブーくんがはい出してきた。
しっぽははえていない。
さっきのはなんだったんだろう?
それに、なんかヘンな感じがする。
よく見てみると……
「……あっ!? ブーくん、その体どうしたの!?」
ブーくんのボディがやせて、マッチョになっていた。
手足や顔はまん丸なままで、ボディだけが、ほかのボディとつけかえたみたいに別物になっていた。かたは広くて、おなかはスマートで、【▼】みたいな形だ。
こんなことを思ったらちょっと失礼だけど、すごくヘンなかっこうだ。
「ボ、ボクにもわからないよ。どうしてだろう?」
ブーくんは首をかしげた。
「……でも、おなかがすいたなあ」
「もー、こんなときにまで!」
あたしは力がぬけて、クスリと笑った。
そしてふと気配を感じて、
「風さん、空気に宿る魔力さん、あたしを守って!」
あたしは【風の魔法】でバリアをはる。
キュイン!
風のバリアにビームが当たる。
見やると、アームのついた小さな飛行機がこちらをねらっていた。
人間よりちょっと小さいくらいの、ラジコンで動かす飛行機だ。
おばけ宇宙船があやつっているのだ。
「伝説の春の火の魔女ブリジットさま、あたしに力をかしてください!」
呪文をとなえ、あたしたちの遠い遠いごせんぞ様の、春の太陽のように元気で、ちょっとらんぼうな女の子のすがたをイメージする。
そうしながら小さな木の杖を取り出て、かまえる。
エルフィン人の魔法使いが【火の魔法】【氷の魔法】を使うための魔法の杖だ。
「炎さん、杖に宿る火の魔力さん、火の玉になって、ふっとばして!」
杖の先から火の玉をはなって、飛行機をふっとばす。
すると、ドアのかげから、もう1機の飛行機があらわれた。
あたしは杖をかまえる。でも、
「うっちゃダメですぅー」
「ラクシュちゃん!?」
よく見ると、ラクシュちゃんが変形する4機の飛行機のうちの1機だった。
「先生がラクシュたちをたすけに来てくれたですぅー。信じてたですぅー」
飛行機はうれしそうにダンスする。
「今、どこにいるの? リゼちゃんもいっしょ?」
「こっちですぅー! リゼちゃんもいっしょですぅー!!」
そう言うと、ラクシュちゃんの飛行機はドアの向こうに飛んでいく。
「先生! は、はやく!」
「うん!」
あたしとブーくんは、ラクシュちゃんの飛行機を追って走り出した。
飛行機はろうかをどんどん進んでいく。
でも、曲がり角からほかのラジコン飛行機がやってきた。
そのたびに、あたしは魔法で火の玉をはなってふっとばす。
やがて、あたしとブーくんは、広い場所にやってきた。
ガラスのショーケースがならんでいる。
「「「リゼちゃん、先生たちが来たですぅー」」」
「こーこーでーすーわー!!」
ガラスをばんばんたたく音に、ショーケースのひとつを見やる。
そこには、リゼちゃんと、3機の飛行機がとじこめられていた。
「2人ともだいじょうぶ!? ケガはない?」
「「「「せんせー。ふえぇ、こわかったですぅー」」」」
4機のラクシュちゃん飛行機は、安心したようにボロボロなみだをこぼした。
「ブーくんったら! こんなあぶないところで、何をやっていますの!!」
リゼちゃんは、おこった。
「ご、ごめんね……」
ブーくんはしょんぼりする。
気持ちは分かるけど、それはないよリゼちゃん……。
そんなリゼちゃんの顔が、まっ青になった。
ブーくんのボディがマッチョになってることに気づいたからだ。
「ブーくん、その体はどうしましたの!? まさか、こわれたんですの!?」
「だいじょうぶ! どうなってるのかわからないけど、こわれてるんじゃないよ」
あたしが言うと、リゼちゃんはほっとしたみたいだ。
もー、すなおじゃないなあ。
あたしはクスリと笑ってから、
「そのガラスを魔法でこわすね。あぶないから、2人はすみっこに行ってて」
「気をつけてくださいませ。とっても固いですわよ!」
言いつつ、ひとりと3機はショーケースのすみにうずくまる。
「まかせて!」
あたしはショーケースの反対側のすみに向かって杖をかまえる。
「炎さん、杖に宿る火の魔力さん、大きな火の玉になって、ふっとばして!」
杖の先から火の玉が飛び出て、ショーケースのガラスにぶつかる。
ドォーン!!
ガラスにあたった火の玉は、大ばくはつする。
ブーくんはビックリしてころぶ。
あたしもころびそうになって、あわててふんばる。
ちょっと思いっきりやりすぎちゃったかな?
でも、ばくはつがおさまった後……
「そんな……」
ガラスにはキズひとつついていなかった。
でも、あたしの魔法はこれだけじゃない!
「風さん、空気に宿る魔力さん、このガラスを切りさいて!」
魔法のペンダントをにぎりしめて、呪文をとなえる。
あたしの【風の魔法】によるかまいたちがガラスをたたく。
カキ――――ン!
でもショーケースはびくともしない。
「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、ふっとばして!」
かがやく【ものを動かす魔法】がパンチになってガラスをたたく。
ダダンッ!
けど、これもダメ。
「わたしも魔法を使ったのですが、ガラスはかたくてビクともしないんですの!」
「そんな……」
せっかくここまでたどりついたのに。
こんなガラスをへだてて、たすけられないなんて。
「リゼちゃん! リゼちゃん!」
ブーくんがガラスをガンガンたたく。
でも、ガラスはビクともしない。
それどころか、ろうかの向うから、ラジコン飛行機が束になってやってきた。
「ブーくん、にげなさい! 先生、ブーくんをお願いしますわ!」
「でも、リゼちゃん……」
「このままブーくんまでつかまるのなんてイヤですわ!」
「ボクだって、リ、リゼちゃんをおいてにげるなんて、イヤだよ!」
ブーくんの気持ちはすごくわかる。
あたしだって、くやしいもん。
あたしだって、もし、アリサがとじこめられて、たすけられなかったら、すごく悲しいし、くやしい。
でも、このままじゃ、みんなつかまっちゃう!
あたしはブーくんの手をとった。
「行こうブーくん! わたしたちじゃ、どうしようもないもん……」
「イヤだ! イヤだ! イヤだ!」
ブーくんは、あたしの手をふりはらう。
ラジコン飛行機たちがビームをうってきたので、あたしは風のバリアでふせぐ。
「ブーくん! わがまま言ってないでにげて!」
リゼちゃんもさけんだ。
「イヤだ! リゼちゃんといっしょじゃなきゃ、イヤだ!」
いつもはぼんやりしているブーくんなのに、顔をまっ赤にしておこる。
「ボクに力があれば、マギー先生の飛行機のたいほうみたいな強い力があれば、こんなガラスなんかこわせるのに……!!」
ブーくんはさけぶ。
あたしはハッと気づいた。そういえば、さっきも……
「力がほしい! こんなガラスなんて、こわせるくらい、強い力がほしい!!」
すると、ブーくんの体が金色に光った。
「な、何がおきたの!?」
ブーくんのずんぐりした足がパリンッとわれて、光の粉になった。
その中から、体とおそろいのスマートな4本の足があらわれた。
まるで、足の上につけていた丸いブーツが、くだけたみたいに。
光の粉はブーくんの右うでに集まる。
するとブーくんの右うでは、大きなてっぽうになった。
うでのたいほうはブーくんの元の体より大きくて、ヘッジホッグのアームみたいに大きくて、てっぽうや、ミサイルが入ったコンテナがいっぱいついている。
さっきのエンジンも、こうやって作ったのかな?
「うおおおおお!」
ブーくんはうでのたいほうを飛行機たちに向ける。
タタタタタッ! タタタタタタッ!
スクワールみたいに、てっぽうをうちまくる。
すると、ラジコン飛行機たちはひとつのこらずふっとんだ。
こんどはたいほうをショーケースに向ける。
リゼちゃんはあわてて魔法でバリアをはって、ショーケースのすみににげる。
ラクシュちゃんもいっしょににげる。
タタタタタッ!
シュボボボボッ!
ドーン!
ブーくんは、てっぽうと、ミサイルと、たいほうを、いっぺんにうった!
ドドドドドドドドドーン! ドカーン!!
そんなことをされたら、さすがのガラスもひとたまりもない。
あんなに固かったのがうそみたいに、バリーンとわれた。
「やったわ!」
リゼちゃんはガラスでケガをしないように気をつけて、でもすばやくショーケースから出てきた。
「リゼちゃん! リゼちゃん! よかった!」
リゼちゃんとブーくんは、ぎゅっとだきあってよろこぶ。
「「「「ふえぇ、やっともとにもどれたですぅー」」」」
3機の飛行機もショーケースから飛び出して、あたしが持ってた1機と合体してラクシュちゃんになった(どういう仕組みになってるんだろう?)。
「出られてよかったですぅー」
「みんな! はやく、ここからにげよう!」
あたしたちは、スクワールⅡがおいてあるハンガーに向かって走り出した。
「【ウルズ】のルーンは、あばれ牛のルーン! モー! ふっとばしなさい!」
リゼちゃんがクリスタルをなげる。
すると、クリスタルはバチバチいうプラズマのかたまりになって、ラジコン飛行機たちをふっとばす。【エネルギーの魔法】だ。
あたしたち4人はラジコン飛行機をやっつけながら、ハンガーへ向かって走る。
ブーくんのうでのたいほうは消えてしまったけれど、体と足はそのままだ。
スマートな4本足をカサカサ器用に動かして走っている。
けっこうはやい。
ひょっとして、ブーくんは4本足のほうが走りやすいのかな?
「それにしても、なんで、こんなあぶないところできもだめしなんかしたのよ」
あたしは【火の魔法】で火の玉をなげながら、2人をしかった。
「そ、それは……。あぶないところだからきもだめしをするのですわ! 安全なところでやってもこわくありませんわ!」
「リゼちゃんは、おばけ宇宙船のエンジンがほしかったんですぅー」
「え? どういうこと?」
あたしとブーくんは、頭の上に『?』マークをうかべた。
「ちょっと! ラクシュ!」
リゼちゃんはあわててラクシュちゃんを止める。
そのとき、ラジコン飛行機たちが、ラクシュちゃんにおそいかかった。でも、
「ラクシュミーの魔法の力で、ラジコン飛行機さん、ラクシュをまもってぇー!」
すると飛行機たちのうち何機かの目が、ハートになった。
そしてラクシュちゃんをかばって、ほかの飛行機たちをおそいはじめた。
「この子たちは、魔法でラクシュのことが大好きになっちゃったですぅー。ラクシュのためならなんでもしてくれるんですぅー。ラクシュのしもべですぅー」
「スゴイ魔法だけど、ラクシュがちょっとこわいですわ」
「えー? 魔法じゃないけど、リゼちゃんもおんなじですぅー。リゼちゃんはブーくんが大好きだから、ニキちゃんといっしょにおばけ宇宙船のエンジンをパクろうとしたですぅー。だから、おばけ宇宙船がおこったですぅー」
「ぶっ!?」
リゼちゃんがころんだ。
スマートな4本足のブーくんが、丸っこいうでで受け止める。
いつもとあべこべだ。
「おばけ宇宙船の強いエンジンを食べたら、ブーくんが空を飛べたり魔法が使えたりすると思ったですぅー。だから、あぶなくったって平気なんですぅー」
そう言うと、ラクシュはラジコン飛行機をつれて、楽しそうに走っていった。
「あのね、リゼちゃん。宇宙船のエンジンを食べたからって、アートマンのエンジンが宇宙船みたいに強くなったりはしないよ……」
「で、でも、ボク、魔法を使えたよ。リゼちゃんのおかげだ、エヘヘ」
「ブーくんまで!? ……もう知りませんわ! まちなさいラクシュ!」
リゼちゃんも顔をまっ赤にしながら走っていった。
「まってよ! リゼちゃん!」
ブーくんもあわってリゼちゃんをおいかけていった。
たぶん……いや、きっと、ブーくんがいきなり魔法が使えるようになったのも、同じ理由だ。
ブーくんもリゼちゃんが大好きで、どうしてもリゼちゃんをたすけたくて、だから、今まで使えなかった魔法の力が使えてしまったのだ。
あたしはうれしい気持ちなった。長い耳がヒョコヒョコゆれる。
そうやって、あたしたちは走りつづけて、ハンガーにもどってきた。でも、
「ど、どうしよう。マ、マギー先生の飛行機、さっきこわれちゃったんだ……」
「ブーくんがエンジンを出して飛んできたんでしょう? なら、もう1度おなじことをすればいいですわ!」
「ご、ごめん。じ、自分でも、どうやってやったのかわからないんだ……」
「うーん。たぶん、おりるだけなら足のエンジンだけでもだいじょうぶだと思う」
「それなら、はやくにげるですぅー!」
あたしがスクワールⅡを立てなおすと、リゼちゃんたちがのりこんできた。
「むぎゅう……」
スマートになったブーくんはなんとか運転席に入れたけれど、ひとりのりの運転席に4人でのると、ギュウギュウづめだ。
あたしはなんとか手をのばして、スティックを引く。
スクワールⅡは足のエンジンをふかして、開きっぱなしのドアの外へと向かう。
けど、
「先生! ドアが!」
リゼちゃんがさけんだ。
見やると、ハンガーのドアが、しまろうとしていた。
大きなドアはゆっくりとしかしまらない。
でも、ドアがしまったら、あたしたちはスクワールⅡごとおばけ宇宙船の中にとじこめられちゃう!
「もっとはやく動けないんですの!?」
「メインエンジンがこわれてるの! 足のエンジンだけじゃこれ以上はムリ!」
「それなら【エネルギーの魔法】で、飛行機を外に向かってなげとばしますわ!!」
「ええっ!? リゼちゃんやめて!」
「そんなことしたら、飛行機がこわれちゃいますぅ!」
「じゃ、どうすればいいんですの!?」
「それは……」
あたしはあせる。
でも、スクワールⅡはのろのろとしか進まない。
ドアはどんどんしまる。
四角いドアの形をした青い空が、どんどんせまくなる。
「あぁーん!! しまっちゃいますぅー」
四角い空が細い糸みたいになって、ドアがガチャンとしまった。
そのとき、
ドドドォ――ン!
ドアがばくはつして、ふっとんだドアの形をした青い空がもどってきた。
『マギー! だいじょうぶ!?』
こわれたドアの向こうに、まん丸なぐんじょう色の飛行機がうかんでいた。
ヘッジホッグだ。
ヘッジホッグは、カラになった真ちゅうの箱を、ハンガーの中にすてる。
ドアをこわすために、ミサイルをぜんぶ使っちゃったんだ。
「アリサ!? でも、ヘッジホッグでどうやって?」
ヘッジホッグはスピードがとてもおそい。
おばけ宇宙船まで、こんなに速くたどり着くことなんて、できないはずだ。
『ニキちゃんの【反重力の魔法】で、ヘッジホッグをなげとばしてもらったのよ』
「ええっ!? そんなことしたら、ヘッジホッグがこわれちゃうのに!」
よく見ると、ヘッジホッグの頭は少しへこんでいた。
アリサのだいじな飛行機なのに。
それに、さっきすてた箱に入ってたミサイルだって、ものすごくお金がかかる。
だから、アリサはめったに使わない。
でもアリサはニッコリ笑った。
『マギーがとじこめられちゃうよりマシよ』
そっか。アリサも、リゼちゃんとブーくんが想い合うみたいに、あたしのことを大切に想ってくれてるんだ。
あたしも、アリサにつられて笑った。
長い耳が、ヒョコヒョコゆれた。
『それより、早くもどるわよ! 外もたいへんなことになってるの!』