たいへんなお仕事
「昨日の体育の時間、もりあがってたわね」
「えへへ。アリサの理科の時間も、みんな楽しそうだったよ」
あたしとアリサは、カフェで朝ごはんを食べながら、学校の話をしていた。
「勉強するみんなを見ていて思ったんだけど、ブーくんって物知りだよね。アリサがおばけ宇宙船のことをたずねたときも、いちばん早くわかったみたいだし」
あたしはニコニコ笑顔で言った。
ブーくんのいいところが見つかるのは、うれしい。
「ほかの子に先をこされっぱなしだったけどね」
アリサは苦笑する。
もー。アリサったら。
「でも、言われてみれば、かしこい子なのかもしれないわね。よく図書室で本を読んでるし、そのせいかも」
「もっと勉強したら、アチャ先生みたいにいろんな魔法が使えるようになるかな」
そう言って、やっぱり笑う。
人間はアートマンとちがって、生まれつきに魔法を持っていたりはしない。
でもアチャ先生は勉強して、アートマンと同じ魔法を使えるようになった。
リゼちゃんも同じようにしてルーン魔法が使えるようになった。
もちろん、あたしもだ。
そりゃまあ、勉強をサボってアリサにおこられることもあるけど……。
それはともかく、魔法の勉強をすると、たくさんの魔法が使えるようになる。
勉強をすればするほど、たくさんの魔法が使えるようになる。
だから、ブーくんも同じように勉強して、たくさんの魔法が使えるようになったら、生まれつきの魔法がなくったって、へっちゃらだ。
あたしは楽しい気分になって、ガラスケースでできたカウンターを見やる。
ケースの中には歯車のついたピストンがいっぱいならんでいる。
ピストンは、みんなでダンスするみたいに、上下、上下に動いている。
見ているうちに、もっと楽しい気分になって、足をパタパタ動かす。
すると、ひざのうらが歯車イスの出っぱりに当たってヘンなかんじがする。
あたしとアリサは、ローランドさんのために、リゼちゃんの友だちのブーくんがどんな子か調べる仕事をしている。
リゼちゃんはブーくんのことが大好きだ。
だから、あたしたちの仕事のせいでローランドさんがブーくんをきらいになったりしたら、悲しい。
だから、あんまりかっこわるい話はしたくない。
だからといって『ブーくんは魔法もスポーツもできる』なんてウソはダメ。
ぜったいにダメ!
そんなことをしたら、だれもあたしたちに仕事をたのんでくれなくなるからだ。
だから、ブーくんのかっこいいところがちょっとでも見つかるのは、うれしい。
そんなことを考えていると、ふと、この前の社会の時間のことを思いだした。
「そういえば、なんであの時、本物のカピバラがあらわれたんだろう?」
「マギーが魔法をまちがえたんじゃないの?」
「いくらあたしだって、魔法の呪文をまちがえたりしないもん!」
もー。アリサはすぐそうやって、あたしを半人前あつかいするんだから!
「それに、何かを作る魔法って、とってもむずかしいんだよ」
あたしは言った。
ケルト魔法で【エレメントを作る魔法】を使うには、昔の魔法使いやドラゴンが使う、すごくずかしい呪文をとなえないといけない。
アートマンの【ものを作る魔法】だって100年にひとりしかあらわれない。
今は、その魔法を持っているアートマンはいないって。アチャ先生が言ってた。
「だから、まちがって使っちゃうことなんてありえないんだから」
「それなら、どうして本物のカピバラが出たのよ?」
「それは……」
あたしがアリサに問いつめられて、こまっていると、
「おまたせしました。ご注文のサンドウィッチと、しおキャラメルシェーキです」
ウェートレスさんが朝ごはんをもってきてくれた。
「わーい、ありがとう!」
ほっとして、長い耳がヒョコヒョコゆれる。
タマゴとキュウリのサンドウィッチにかぶりつく。
三角に切ったパンはふんわりやわらかい。
なんだか、アリサが作ってくれたみたいにやさしい味がする。
白身をあらくつぶしたタマゴの食感もたまらない。
ネジの形にカットしたキュウリも、コリコリふしぎな感じがする。
人間の旅行者がアートマンの気分になれるようにカットしてくれてるんだって。
それに、かくし味のコショウがピリッときいて、とってもおいしい!
この前、アルミのサンドウィッチをブーくんがおいしそうに食べていたから、あたしもサンドウィッチが食べたかったのだ。
「マギーもおいしそうに食べるわね。そういうところはブーくんににてるかも」
アリサもサンドウィッチを手にしてニコニコしながら言った。
「もー。あたしはあんなに食いしんぼうじゃないもん」
あたしは口をとがらせる。
アリサは「フフッ」と笑う。そのとき、
「おじょうちゃんたち、こんなところに来ちゃいかん!」
お店のマスターの声がして、
「あ、いたわ!」
黒いアートマンの子どもが走ってきた。
水色の子もつづく。
ニキちゃんとサラちゃんだ。
「マギー先生! アリサ先生! 大変なの!」
「え? 2人とも、なんでここに?」
「先生をさがしていたからです!」
サラちゃんが答えた。
「先生がこの店にいることは【ものを調べる魔法】で調べました」
「でも、ここは子どもが来るところじゃないわよ」
「でもマギー先生だって子どもじゃないの! ……って、何ここ!?」
ニキちゃんは店の中を見わたすと、
「キャーッ!!」
ビックリして目をつむった。
サラちゃんは両手で目かくしをして、指の間からこっそり見ている。
2人とも、顔がまっ赤だ。
「どうしたの? 2人とも?」
「店の中に、真ちゅうの歯車やピストンがかざってあるでしょ? これって、実はアートマンの中身にそっくりなのよ」
アリサが言った。
「だから、この店はアートマンの子どもは入っちゃいけない大人の店なの」
「ええっ!? あたしたち、そんなところにいたの!?」
2人につられてあたしもまっ赤になる
「それより、大変なの!! 大変なのよ!?」
ニキちゃんは、いきなりさけんだ。
「ちょっと、2人とも、おちついて!」
ニキちゃんはものすごくあわてていて、ぜんぜん言ってることがわからない。
だから、あたしたちは、まともに話ができそうなサラちゃんから話をきいた。
そして、
「えー!! おばけ宇宙船に、きもだめしに行った!?」
あたしはビックリした。
「で、リゼちゃんとラクシュちゃんがつかまって、あなたたちはにげてきたのね」
「そうなのです……」
サラちゃんはシュンとうなだれた。
すると、やっとおちついたニキちゃんが、サラちゃんをかばうように言った。
「おばけ飛行機がでてきて、うってきたの! あたしの魔法でやっつけてやろうとしたけど、すごくたくさんいて、かなわなくて……」
ニキちゃんは、すごくくやしそうな顔で、あたしとアリサを見つめる。
「だから、リゼとラクシュをたすけるのを手伝ってもらおうって思ったんです!」
「以前にちょっと調べて、先生たちが【なんでも屋】だって知っていたのです」
そして2人は、こしのハードポイントにつけたポーチから何かを取り出した。
「「お金はあります! おねがいします!」」
あたしとアリサは顔を見合わせる。
2人がさしだしたのは、この星のお金だ。
あたしはニキちゃんを見なおした。
イジワルな子なのかと思っていたけど、リゼちゃんやラクシュちゃんのことを心配して、たすけようとしている。
このお金も、きっと、おこずかいを全部持ってきたのだろう。
でも、2人のお金を足しても、大人に仕事をたのむのにはぜんぜん足りない。
あたしは、ちらりとアリサを見やる。
アリサたち地球人はお金もうけが大好きで、アリサがローランドさんのお仕事をしてるのも、お金をたくさんもらえるからだ。
「もうしわけないけど、このお金をうけとることはできないわ」
アリサは言った。
2人は、とても悲しそうに、うなだれた。
アリサたら! ヒドイ!
さすがにガマンできなくなって、あたしはもんくを言おうとする。
でもアリサは、
「お金のかわりに、あなたたちにしてほしいことがあるの。これからはリゼちゃんと仲良くすること。それができるなら、この仕事をタダで引き受けるわ」
「……わ、わかったわ!」
ニキちゃんは答えた。
「もちろんです」
サラちゃんも、うなずいた。
「それじゃ、決まりね」
それを聞いて、2人は飛び上がってよろこんだ。
そして2人は、先に学校にもどった。
あたしたちはカピバラ号から飛行機を持ってこないといけないからだ。
「いいの? アリサ」
タダでお仕事を引き受けたりして。
あたしはアリサにたずねた。すると、
「どうせあたしたちはリゼちゃんをたすけることになるわ。だってローランドさんに『リゼちゃんがつかまったけどほおっておきました』なんて言えないでしょ?」
アリサは当たり前みたいに答えた。
「それなのに、ほかの人からもお金を取ったら、おぎょうぎの悪い人だって思われちゃうわ」
そう言って笑った。
そっか、そうだよね。さすがはアリサ!
「はやく宇宙港にもどって、わたしたちの飛行機を持ってきましょう!」
「うん!」
そして、あたしたちもカピバラ号へと急いだ。