プロローグ
「それではローランドさん、これからマギーが魔法をお見せします」
そう言って、アリサがあたしにウィンクした。
長い黒髪のアリサは、あたしのパートナーだ。
「まかせて」
あたしはアリサに笑みを返す。
あたしの長い耳が、小さなツインテールといっしょにヒョコヒョコゆれる。
「よろしくたのむ、マギーくん」
ローランドさんは、銀色のアゴヒゲをはやした大人の男の人だ。
でも、今は子どもみたいにワクワクした顔をしている。
アリサとローランドさんをがっかりさせないように、がんばらないと!
あたしは首からさげた魔法のペンダントをにぎりしめる。
ペンダントは【○】と【十】をかさねたケルト十字の形をしている。
「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、ローランドさんのぼうしを持ってきて!」
魔法の呪文をとなえる。
そして、ローランドさんが持っている黒いシルクハットが、フワフワ空を飛ぶところを思いうかべる。
すると、あたしの手の中のペンダントが光った。
魔法の力が集まってきたのだ。
そしてペンダントから魔法の光がほとばしって、シルクハットを持ち上げる。
シルクハットはフワフワうかびながら、あたしのところまで飛んでくる。
「本物の魔法だ!」
ローランドさんは、空飛ぶシルクハットを見てニコニコ笑う。
やった! ローランドさんはよろこんでくれたみたい。
「風さん、空気に宿る魔力さん、ダンスして!」
あたしもニコニコ笑顔になって、次の呪文をとなえる。
すると、まどをしめきった部屋の中に風がふいた。
シルクハットは風にふかれて、パタパタとダンスする。
ローランドさんは目を丸くする。
もちろん、ぼうしにはタネもしかけもない。
だってこれはローランドさんのシルクハットなんだもん。
そう、これは魔法だ。
あたしは魔法使いで、今のは本物の魔法だ。
「ネズミさん、動物の魔力さん、あなたのすがたをあたしにかして!」
あたしはさらに呪文をとなえる。
すると、2ひきのハツカネズミがあらわれる。
ネズミたちは、おたがいのしっぽをおいかけるように、シルクハットのつばの上を走り回る。
「さすがは魔法が得意なエルフィン人だ。こんなに小さな子どもなのに、ちゃんとした魔法を使えるなんて! すばらしいよ、マギーくん」
ローランドさんはニコニコ笑顔で言った。
あたしは「エヘヘ」と笑う。
子どもって言われたのはイヤだけど、ほめられたのはうれしい。
あたしの長い耳が、小さなツインテールといっしょにヒョコヒョコゆれる。
横に長くのびたあたしの耳は、魔法が得意なエルフィン人のあかしだ。
「キミたちになら、安心して【なんでも屋】の仕事をまかせられる」
ローランドさんは笑顔で言った。
アリサもほっとして笑った。
あたしとアリサは【なんでも屋】をしている。
この広い宇宙のいろいろなところで、こまっている人をたすけたり、トラブルをかたづけてお金をかせぐ仕事だ。
「ローランドさんがしてほしいのは、どんなお仕事なんですか?」
アリサがたずねる。
「キミたちには荷物を運んでほしいのだ」
ローランドさんは笑顔で答える。
「運ぶものがたくさんありすぎて、人手が足りないのだ」
「いいですよ、どこからどこに運べばいいんですか?」
「宝石の星【シャンバラ】の農家から、別の国にある学校まで運んでほしいのだ」
ローランドさんはそう言って、まどを指さした。
まどの外には夜空が広がっている。
黒いシーツにビーズをちりばめたような、広い、広い星空だ。
その中に、ひときわ大きな星がダイヤモンドみたいに光っている。
あれが宝石の星【シャンバラ】だ。
「別の星だが、できるだろうか?」
「そんなのカンタンですよ」
アリサは笑顔で答えて、まどの外の遠くにある宇宙港を見やる。
宇宙港には、大きな、ビルと同じくらい大きなピンク色の船がとまっている。
アリサの宇宙船【カピバラ号】だ。
あたしとアリサは【なんでも屋】をしながら、カピバラ号で宇宙を旅してるの。
カピバラ号があるから、ほかの星にだってピューッと飛んでいける。
「ですが、ローランドさん」
アリサはむずかしい顔をして言った。
宇宙船があればカンタンな仕事のはずなのに。
「ローランドさんが本当にしてほしい仕事は、ほかにありますね?」
アリサはたずねた。
「なぜ、そう思う?」
ローランドさんもたずねた。
「荷物を運ぶのに魔法は必要ないからです。荷物を運ぶ人が足りないだけなら、シャンバラにいる運び屋にたのめばいいんですから」
アリサは得意げな顔で答えた。すると、
「アリサくんも、わかいのに、とてもかしこいのだな!」
ローランドさんは笑いだした。
さっき魔法を見たときよりもニコニコ笑顔だ。
「これなら、もうひとつの仕事もまかせられる!」
ローランドさんはニコニコしながら話をつづける。
「この仕事はとても大切な仕事だから、ふつうの人にはたのめないのだ。だが、いろいろな魔法が使えるマギーくんと、かしこいアリサくんなら、安心だ」
そう言って、そわそわとケータイを取り出してボタンをいじる。
すると、ケータイの上に女の子がうつった。
立体写真だ。
女の子は、きれいな金色の髪に、気の強そうな青い目をしている。
「むすめのリーゼロッテだ。リゼはマギーくんと同じ魔法使いで、魔法の勉強のためにシャンバラの学校にりゅう学してるのだ」
ローランドさんは、じっと写真を見ながら言った。
「だが、最近、様子がヘンなのだ。だから、マギーくんとアリサくんに、リゼが今どうしているのか、こっそり調べてきてほしいのだ。やってくれるだろうか?」
そう言って、あたしとアリサをじっと見つめる。
あたしとアリサは顔を見合わせる。
今回のお仕事は、荷物を運びながら、女の子のことを調べるお仕事だ。
それは、ふつうのお仕事よりむずかしい。
でもローランドさんは、写真を心配そうに、とても大切そうに見つめていた。
ローランドさんは、りゅう学したリゼちゃんを愛して、心配している。
やさしいパパだ。
だから、あたしとアリサはローランドさんに顔を向けて、
「「そんなのかんたんですよ!」」
ニッコリ笑って答えた。