寝顔とお弁当
第六話です。
季節は春に差し掛かり、少しずつ暖かくなってきた。
今日はめいと外にデートしにきた。
といっても広めの公園でランチを食べるだけだけど。
めいも俺もあまり人が多いところは好きではない。少なくともこの関係を学校の人に隠しているうちは映画館やショッピングといった人とあう可能性が高い所は避けていこうという事になっている。
まぁ、そういうのはいつでもできるから、あせる必要はないだろうと思う。
したい時にすれば良い。少なくとも俺らはそう考えて交際している。
今日もめいがしたい事があるという事でこの公園まで来た。
今日はめいが手料理を食べてほしいという事でめいがお弁当を持参してくれた。
「で、これ持ってきたの?」
「うん」
広めの公園で俺らはオレンジ色のランチョンマットを敷いて寛いでいた。
そこには大きめの重箱が置いている事以外は普通のカップルのデートに見えるように感じる。
「いや、これどこから持ってきたの?」
付き合っているのを学校の連中に隠すために俺らは少し遠い所にある公園へ来ている。
その道中にめいは手ぶらに状態で一緒に来た。こんな何人分にもなる重箱なんて持っているはずもないのだ。
「お手伝いに運んでもらった」
「え?」
どうやら、めいの家にいるお手伝いと呼ばれる家政婦的存在がいるみたい。彼女らはめいの家族の家事雑務を補助する立場らしい。普段は頼まないのだが、めいが俺にいっぱい手料理を食べてもらいたいためにあらかじめ車でここまで運んでもらい、待機させていたみたいだ。
「…ならわざわざ電車でここまで来なくてもいいんじゃない?」
「デートだから部外者はいれたくない」
「さいですか」
俺的には交通費が浮いたので車で送ってくれるのなら助かるのだが仕方ない。
「後ででいいからその人にお礼伝えておいてね」
「うん、分かった。」
そういうと、めいは重箱を開けた。
ぱかっ
「おぉー」
俺は思わず感嘆の声を上げた。
上の段には色とりどりの野菜が綺麗に盛り付けられていた。
中の段には鳥の唐揚げやハンバーグといった様々な肉料理が少しずつ入っており、箱を満たしていた。
下の段はおにぎりとサンドイッチが半々で置かれていた。
「飲み物は緑茶」
そういい、めいは水筒を差し出してきた。
というか…
「めい、気持ちは嬉しいが流石に多い…」
「?」
「俺こんなに食べれない」
「大丈夫」
「?」
何が大丈夫なのだろうか?
まさか、ここにきてめいの大食いキャラが出るのか?
そんな、少しマイナスな気もするが、俺はそんなめいでも…
ニコっとした笑顔でめいは俺に言い放つ
「無理にでも食べさせる」
「いや、俺が頑張るの?!」
ただの根性論だった。
最近、めいの俺の扱いが雑になってきていないかと思う。
「…残すの?」
めいは俺に対して目をうるうるして、さらに上目で訴えてきた。
うっ…そんな顔するな。罪悪感で嫌な気持ちになるだろう。
「…努力する」
「うん!時間かけて食べてもいいし」
そうして箸渡された俺は、さっそく食べた。
まずは上にある野菜ゾーンから食べよう。
肉じゃががあるので最初のこれを食べてみよ。
もぐもぐ
「どう?」
ジャガイモがしっかりと出汁が通っており、程良く食感も残しているのでとても美味しい。
美味しいのだが…
「美味しいけど、料理があざとい」
少し別の方へと視線を向けるめい。
心なしか汗マークのようなのが頬に見えた。
「ばれたか…」
ばれたかって…まぁこのやり取りも悪くはない。
こういう所を外に対して見せれば俺みたいに仲良くできる人も増えるのではと思うのだが…
「シンだからこういう感じの私になれるの」
「そうかい、嬉しいね」
彼氏としては彼女の交友関係が多い事に越した事はないが、俺もどちらか言えばぼっちに近い学校生活なので強くは言えない。
「でもまぁ…美味しいのは本当だよ。料理でもしてたの?」
「うん」
そう話しながら、めいと一緒に他の野菜ゾーンも食べ終えた。
そして次の中の段にある肉ゾーンへと来る。
ここでもうおなかはいっぱいに近いが頑張ろう。
するとめいがこう言ってきた。
「食べさせてあげる。」
そういい、ステーキの一切れを箸でつまんで差し出してきた。
「はい、どうぞ」
ここは素直に食べよう。
他人?人の目?そんなのぼっちからしたら屁でもない。
パクッ
すんなりと食べて、目をつぶって味わう。
うまい
焼き加減だけじゃなく、ステーキのたれもしっかり漬け込んで美味しく出来上がってる。
「うん、これも美味しいよ」
そう言い、めいの方を見るとめいの顔が赤くなっていた。
「/////////」
「どうした?」
「/////…照れないから逆にこっちが恥ずかしくなった」
「いや、彼女から食べさせてもらっているのだから何を恥ずかしく思う?」
少し意地悪を言ってやった。するとめいは
「シンつまらない」
と言い、なんか怒られてしまった。
そんな感じに二人で仲良く食べながら箸を進める。
そして肉ゾーンも食べながら、ごはんゾーンも食べた。
そしてなんとか食べ終えた。もう今日は飯いらないやと思った。
食べ過ぎのせいか、少し横なりたくなった。
そんな事を思うと丁度目の前に良い所がある事を思い出す。
「めい、寝ていい?」
そういい、彼女の太ももを指す。
周囲を確認するめい。さっきちらっと俺も周りを見たが、あまり人通りも多くないので大丈夫だろう。
「うん、いいよ」
すぐに返事が来る。
そのまま、彼女のひざで膝枕をしてもらった。
風が草木を揺らす音を聞きながら、めいの膝に頭を乗せて横になる。
太陽は少し沈み、丁度めいが影を作ってくれる形になっている。
「背中暑くない?」
「平気だよ」
上を向くと笑顔のめいの顔をあった。
「OK,寝るか、20分ぐらいで起こして」
「いいよ、私は本読んでるから」
そういい、彼女のバックから本を取り出した。
起きたら何の本か聞こう。
そう思い、シンの目は閉じていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シンはもう寝ているみたい。
彼の体温を感じながら私はそう思った。
簡単な料理なら実は前にも食べさせてあげていた。
スパゲッティと焼き肉とかがそうだ。
でも、こういうお弁当で渡すのはそれと違う趣があってよかった。
なんというか、その人に作ってあげている気持ちが普段の料理と違うぐらい膨れ上がってきていた。
だから、簡単な料理を食べさせてあげているにもかかわらず、私は少し味の不安を感じていた。シンの口に合うかな?とお弁当を渡す前まで思ってたぐらいだ。
しかし、彼は美味しいといってくれた。よく考えたらそんな特別な言葉ではないが、私に心は満たさせていた。
お返しにあーんをしてあげたが、むしろ私が撃沈してしまった。
普段は一人のせいか、彼は常人なら恥ずかしいと思う事も平気でする。
そんな彼を愛おしく思いながら、そっと頭を撫でる。
すると、彼の顔が和らいだ。撫でたせいなのか分からないけど、そんな表情を見せてくれる彼には本当に助かっている。
風の流れる音と暖かい日の光を感じながら、この幸せを噛み締める。おそらく私たちのこれは普通の交際ではない。私はいいけど、本当の所、彼がこの関係を喜んでくれているのかは会っていないと分からない。
なので、この幸せな顔を私に向けてくれているのはとても嬉しく、安心させてくれる。
「ふふふ…可愛い」。
少しよだれが口から垂れていたので拭ってあげる。
そのまま彼の顔を観察し、結局本が読めなかったのも仕方がない事だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
起きるとめいの顔が目の前にあった。
「気持ち良く寝れた?」
「それはもう勿論、快眠だよ」
「どういたしまして」
めいの返事を聞くと俺はめいの膝を撫でた。
「…シンくすぐったいし、なんか手つきがエロい」
「なんで気持ちいいのかと思ってさわって確認していた」
「で、感想は?」
「程よい硬さだった」
ぎゅむ…。
いたたたたたっ
手の皮膚をめいにつまられる。
「硬いとか女の子に言わないの、デリカシーないんだから」
「でも、ほら、俺はあんまりやわらかい枕じゃ寝れないし」
「関係ないよ!シンのアホ!」
ぎゅむっ
「だから痛い痛い、ごめんて、めいの膝はむちむちだよ」
「それもなんか違う!」
くだらない話をしながら俺らは残りのお弁当を食べ終えて帰路についた。
帰り道にこんな話をした。
「また今度…甘いものでも作ってよ、それか一緒に作ろ」
「それいいね!じゃあブラウニーでもどう?色々工夫できるし、簡単だよ?」
次は二人で何をするのかそんな話をいつも終わりにはする。
小さいし短い時間だけど、案外この時間が大事なのかもしれない。
そんな事を思いながら柄にもなくめいと同じ時間を過ごして事に感謝を心でした。
そして二人は笑顔で帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな二人が公園を出た時に後ろの方で彼らを見る人影があった。
……
「あの二人って?」
ここまで読んで戴き有難うございました。
春の話ですが、冬の話もまだまだ出そうと思っています。
なので、最後の箇所が出てくるのは少し先になるかと思います。
引き続き「だら恋」の方を宜しくお願い致します。