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第5王子 と 乳兄弟  作者: 九守 兎
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穏やかな日々

「王子、ご飯の時間ですよ。」


優しく王子を抱き上げ、ミルクを与える母様。

おれは先に離乳食を食べたので、歩く練習をしている。

だいぶ歩けるようになったので、走る練習も始めた。


母様が乳母として王城に入ってから、2ヶ月が経った。

第五王子こと、ウィリアムはとても元気がいい。

よく泣き、よく笑う。可愛い子だ。

柔らかな金髪と、綺麗な緑の瞳。

瞳は父親である、国王様譲りだろう。


「あう? あーあー。」


ウィリアムが、扉を見て言葉を発する。

ノックの音が聞こえて、母様が返事をする。


扉を開けて入ってきたのは、国王様だ。


「失礼するの。あぁ、そのままで。」


慌てた母様に、そう言って止めた国王様。


「すまぬな、今はただの父親ゆえ。」


ウィリアムを見て、ふにゃりと笑う国王様。

謁見の時とは大違いだ。母様もびっくりしてる。


「ウィリアムには、加護がなかったと聞いたのでな。」


「今の所、不調などは見えません。」


「夜は、特に狙われるが、睡眠はとれておるか?」


「夜、ですか?」


もしかして国王様が心配してるのって『取り替え子(チェンジリング)』?

たしか、大人がいない時や夜に、妖精とかが自分の子と、人の子を取り替えるってやつだったよね。


「よるに、へんなのはみてないです。」


夜も気にしろとか、母様が倒れる。


「ジャック? あなた夜も起きているの?」


あ、ヤベ。寝てないのがバレた。

赤ん坊の本能が落ち着いてきたら、眠れなくなった。

あっちでの、睡眠障害が復活したみたい。

おかげで、全然寝てない。


「ふむ、その子には加護が?」


「はい。ですが、名前が見れず、正確なものはわかりません。」


国王様が話を振ったので、命拾いした。

国王様と母様の会話は、加護について。

おれにも加護ってあるんだ。

でも、名前がわからないって、どゆこと?


「いや、すまぬな。いささか神経質になっておった。・・・そういえば、きちんと名乗っておらんかったな。」


ぽんっと手を打って、姿勢を正す国王様。


「わしは、クロノス・クリーオヴ と言う。」


ちなみに、国王様は口調のわりに、かなり若い。

大体、30代後半、ぐらいだろう。

見た目は、鍛え抜かれた武人。筋肉がある。

顔立ちが優しげで、声もやわらかいので、

それほど恐いとは感じない。


国王様が名乗った直後、扉が開けられた。


「父上! 執務を放って何をなさっているのですか?!」


第一王子の、ケヴィンだ。

赤茶色の髪が乱れている。走ってきたのか。


「ケヴィン、なぜここがわかった?」


心底不思議そうな国王様。


「部屋に、紫の通行証がなかったからです! セバスさんが、倒れたんですよ?! 心配で!」


「うぅぅううう。」


ケヴィン王子の大声で、ウィリアムが涙目だ。

母様が慌ててあやしてる。


「あ、すみません。 とにかく、執務に戻って下さい、父上。」


「わかったよ。ウィリアム、また来るゆえ。」


国王様が、手を振ると、何かでた。

ふわり と国王様の指から、青っぽい光がでて、

ウィリアムの頬に当たって弾けた。


ぽわっと花が咲いて、くるくる回って落ちる。

ウィリアムは、キャイキャイ笑ってる。


「かあさま、いまのなに?」


「魔法と言うの、使える人は少ないのよ。何もないところから、花が咲くなんて、綺麗ね。」


母様の目がキラキラしてる。

あれが、魔法なんだ。初めて見た。




生活は、ほとんど同じなので、また省略!


おれが一歳と3ヶ月の時だった。


「ウィリアムの一歳の誕生日を家族で祝いたい。」


そう国王様から言われた。


てっきり、半年ちょい年が離れていると思ったら、

たったの3ヶ月しか差がなかった。

間の半年はどうした、半年は。


部屋に、一人ずつ順に王子達が集まってくる。

ウィリアムも、やっと離乳食になったので、

切った果物や、牛乳に浸したパンなども用意された。


母様は、ウィリアムを抱いて主賓席に。

おれ? 部屋の隅っこで見学だよ。当たり前でしょ。

ぶっちゃけるなら、おれはただの他人なんだから。


「全員が揃ったな?」


第二王女の、ローザがきたのを確認して、

国王様が声をかける。


会場がウィリアムの部屋なので、各自でイスを持参して、

主賓席を中央に、半円状にイスを並べて座っているので、

母様が、かなり緊張してる。


王族に囲まれる形なんだから、誰でも緊張するわな。

頑張って母様。


「では、ウィリアム・クリーオヴの、一歳の誕生日を祝うとしよう!」


まず、国王様から祝いの言葉が。

プレゼントは、銀でできた剣の飾り。

ネックレスとして、ウィリアムの首にかけられた。


次に、第一王子のケヴィン。

プレゼントは、淡い黄色の花がついた木の枝。

ウィリアムの生れた日に咲いたそうだ。

枯れないように、魔法がかけられているらしい。

窓ぎわにかざられた。


その次は、第一王女のセアラ。

プレゼントは、可愛らしいドラゴンのぬいぐるみ。

デフォルメなので丸っこい。

気に入ったのか、ウィリアムが抱き締めている。


その次は、第二王子のアルイト。

プレゼントは、魔除けの小瓶。

光の角度で、キラキラと色が変わる。

ウィリアムの枕の横に飾られた。


その次は、第三王子のジェイド。

プレゼントは、果物の盛り合わせ。

特に美味しい物を集めたらしい。

厨房で調理して、ウィリアムのおやつにするそうだ。


その次は、第四王子のシルク。

プレゼントは、ステンドグラスの栞。

夜に浮かぶ満月を表現していて、綺麗な物だった。

本が読めるようになるまで、と窓ぎわに飾られた。


最後は、第二王女のローザ。

プレゼントは、水晶でできた花の飾り。

魔法で作ったそうだ。万能だな、魔法。

これも窓ぎわに飾られた。


お祝いは続き、今は食事中。

ウィリアムは、始終大喜びだ。可愛い。


一つ気になるのは、王妃様はどうしていない?


「おい、聞こえているのか?」


不機嫌そうな声が聞こえた。

驚いて見上げると、アルイト王子がいた。


「お、うじ、ぼく、ですか?」


おれ と言いかけて、何とか 誤魔化す。

アルイト王子は、盛り上がる王子達から離れて、

おれの前に来ていた。


「エミリアさんが、これを渡して欲しいと。」


差し出されたのは、離乳食。

ここ最近は、少し固いパンも食べれるようになった。


「あ、わざわざ、ありがとうございます。」


お礼を言って受けとる。

わざわざ届けてくれるなんて、真面目だな。

根は良い子なんだろうね。


「・・・・・・ウィリアムの、母親は、いない。」


ぼそっと言われた言葉。


「え?」


びっくりした。いないって、え?


「ウィリアムの母親は、マリアさん、産んだ直後に、亡くなった。」


噛み締めるように、告げられた。

もしかして、王妃様が母親じゃない?

第二夫人とか、側室とか、そういうことか?

しかも、出産の時に亡くなったのか。


「なかが、よかったの?」


「別に、優しい人だった。母上は、おれが嫌いだから。マリアさんが、よく頭を撫でてくれた。」


ちょっと待て、おいおい?聞き捨てならねぇぞ?

何でアルイト王子が嫌われてるのさ。

一回、アルイト王子の母親とは、話し合いをしましょうか。


「かわりにはならないけど、かあさまと、おはなししてみて。ウィリアムおうじも、よろこぶ。」


笑って言う。

アルイト王子は驚いていたけど、微笑んで戻っていった。

子供って良いよね。素直で、元気があって。


盛り上がったお祝いも、しばらくすると終わった。

ウィリアムが眠ったからね。


王子達が退室し、国王様だけが残る。

どうしたんだろう?

部屋の隅にいたおれに近寄ると、何かを差し出す。


「これは、乳母殿の子息殿に。3ヶ月も遅れてしまったな。」


おれの分まで、用意していたらしい。


祝いの言葉と父様から髪紐と、母様から果物。

それが、おれの誕生日のお祝い。

髪紐は、髪が伸びて結べるようになるまでは、

手首に巻き付けている。

黒に銀が混じったような色の紐に、

先は、銀でできた花の形をした飾りがついている。

女の子用だと思ったのは、内緒だ。


国王様が用意してくれたのは、銀の時計。

いわゆる、懐中時計で、鎖もついている。


「そんな高価な物、よろしいのですか?」


母様が驚愕し、尋ねる。

こっちだと、時計は高級品なのか。


「わし個人からの、贈り物だ。受け取ってもらえるかな?」


おれに差し出される時計。

母様を見ると困惑していたが、駄目ではないようだ。


「いただきます。とても、うれしいです。」


両手でしっかりと受け取る。

国王様は頷いて、退室していった。


時計には、剣と茨、鳥の翼がデザインされている。

鳥の翼は、右の翼が折れていた。

折れた翼から、茨が広がり、剣に絡まる。

あちこちに花が散りばめられていて、とても細かい。


「ジャック、その時計は大事に持っているのよ。将来、役にたつ物なのだから。」


「はい、かあさま。」



その日の夜だった、ちょっとした問題が起きた。

たぶんこれは、世間に知られることはない。

おれとアルイト王子、国王様しか知らないことだ。


母様は隣の部屋で寝ている。

隣のベットでは、ウィリアムがすやすやと寝ている。

あ、おれとウィリアムのベットは、隣に並んであるよ。


暇だったので、ベットの柵に寄りかかっていると、

部屋の扉が、静かに開けられた。


空気の流れで、そのことに気付いて見ると、

ほのかに発光する女性がいた。

メイド服で、金色に輝く髪は結ばれている。

その手には、バスケット。


嫌な予感がした。

その女性は、おれと目があうと、口に指をあてた。

静かに、という意味だろう。

するすると、近づいて来て、手をのばす。

その先にいるのは、眠っているウィリアム。

かっと頭に血が昇る。


「ふっざけんな! 帰れ!」


誰が渡すか!

咄嗟に、ウィリアムの側にある魔除けの小瓶を掴む。

瓶の蓋を外し、中身を振り撒く。


音にならない絶叫が、部屋に響く。

部屋がビリビリと震え、嫌な圧迫感に襲われる。

女性から、発せられたものにしては、やけに不快だ。


つんっとした臭いに顔をしかめ、女性を見れば、

小瓶の液体がかかった場所から、皮膚が溶けていく。


「このガキが、調子にのるなよ!」


次に、聞こえたのは、ざらついた男の声。

女性の顔が溶けて、現れた醜い男の顔が叫ぶ。

男の額からは、黒の角が生えていた。


「何だお前、気持ち悪っ。」


おっと、本音がもれた。

おれの声を聞いて、ニヤリと笑う男。


「聞いて驚け、おれは魔族の上位種、デーモンだ。」


「・・・・・・はあ?」


デーモンって、悪魔だろ?


「自意識過剰もはなはだしい、悪魔に謝れ。お前みたいな醜い奴が、悪魔を名乗んな。」


個人の意見だが、悪魔は普通か美形じゃないと許さん。

悪魔は、性別の概念がない種族。

こんな男の、醜い奴なんざ、もってのほか。


「このクソガキが、殺す!」


「させんよ。」


自称悪魔(笑) が腕を振り上げた時、声が聞こえた。

一瞬、視界が白に塗りつぶされ、部屋が静かになる。


「無事かな?」


現れたのは、国王様。

そして、その後ろには、アルイト王子。


「はい。あ、おうじのおくりもの、だめにしてごめんなさい。」


アルイト王子に頭を下げる。


「いや、いい。護身用に渡した物だ。」


「うむ、ウィリアムを守ってくれた。」


頭を撫でられた。

そういえば、おれの声、聞かれてないよね?

がっつりしゃべってたから、絶対怪しまれる。


「ぬ、ウィリアムが起きてしまうな、失礼するの。」


ウィリアムが身じろぎしたら、即座に退室していく。

命拾いした、かな?

アルイト王子が去りぎわに、魔除けの小瓶を置いていった。

もしかして、ストックがあるの?


その日から夜は特に警戒を強めたが、魔族はこなかった。




「あの子をどう思いますか、父上。」


「見えているのだろう。おそらく、無意識に。」


アルイト王子や国王は、まだ幼い彼を案じる。

不可視の魔法をかけ、騎士達を欺いた魔族。

それにもかかわらず、存在を見抜き、対応した彼。


その異質さを彼が自覚するのは、ずっと先である。

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