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第5王子 と 乳兄弟  作者: 九守 兎
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初めまして

本編1話目


私の最後の記憶は、炎の世界。

あの大怪我で生き残るなんて、

奇跡が起きたとしても絶対にありえない。


そのはずなのに、何でおれは生きてるの?!


一人称が、私からおれになってる? こっちが素です。


ふと、目が覚めたら、知らない天井があった。

重い体を起こして周りを見る、やっぱり知らない部屋。

リビングのような広い部屋で、いくつか部屋がある。


「あら? まぁまぁ! あなた!ちょっと来て下さいな。」


「ん?どうしたんだ?エミリア。」


「ジャックが、座ってますよ!」


キョロキョロと周りを見ていると、男女の声がした。


ぱたぱた と足音がして、姿を見せたのは、美男美女。


「おぉ! ジャック、お父さんだぞ。分かるか?」


ひょいっと持ち上げられた、待って、どちら様?!


「あうあ、あぅ?」


口を開けて出てきたのは、そんな声。

え、ちょっと待って。混乱してきた。んんっ?

声帯がやられたのか? え?


「あなた、急に持ち上げたら、ジャックが驚いてしまいますよ。代わってくださいな。」


ふわり と優しい香りがした。

女性にも、軽々しく持ち上げられるっておかしいよね?


嫌な予感がして、確認のために、手を持ち上げる。

見えたのは、もちもちとした、紅葉のような手。

まるで、産まれたての赤ん坊のような。


・・・・・・おい、待て。冗談だろ?


えぇっ?! 待って!

これってファンタジーとか、二次創作とかにのくあるアレだよね?! 転生ってヤツだよね?!


「あぅああぅ?」


翻訳、こんにちは?


・・・・・・言葉しゃべれないって、これ致命的じゃないかな?意志疎通できるようになるまで、待たないといけないの?


「あらあら、どうしたの? お腹が空いたの?」


女性は、するっとだした。

その、一応、女のおれも、ためらう程のものを。


ヒント、赤ん坊のご飯といえば?


そう、ミルクだ。

しかも本能なのか、体が言うことをきかない。



いつの間にか、眠っていたようです。

今までのが、全部夢なら良かったんだけどね。


「ジャックの読み聞かせの本は、どれにするかな。」


「伝説にしてはどうでしょう。ジャックは、男の子ですから。」


残念ながら、夢じゃないんですよねぇ。

あと今、絶対聞き逃しちゃいけない単語が聞こえた。


男の子って、言ったよね?


転生したら、性別が変わるとか、聞いてない。


あぁ、もう! 良いよ! 何でも受け入れるよ!

転生したんだ、グダグダ言っても仕方ない!


「オホンッ、その昔、人間と魔族は共存し、平和に暮らしていました。」


まぞく? 魔族、て良いのかな?

え、まさかのファンタジー?


転生、じゃなくて、異世界転生でしたか。

更にすごいことになった。

どうしよう。おれ馴染めるかな?


えっと、今読み聞かせをしているのは、父さん。

母さんは、少し離れた所で編み物をしてる。


父さんは、ダンディなおじ様。茶色の髪は短く刈ってある。武人か何かなのかもしれない。

瞳は、赤みのある茶色。適度なひげがあってカッコいい。

服は、使い込まれているのかほつれのあるシャツ。

Vネックで、ベージュ色をしている。

アクセサリーは、2つだけ。

1つは、右耳にある、緑色の宝石が嵌められたピアス。

もう1つは、2つの指輪が通されている革紐のネックレス。


母さんは、とても美人。淡い金色の髪で腰あたりまであって、仕事の邪魔にならないように、うなじで一度結ばれてる。

瞳は、水面を思わせる水色。スタイルがとても良い。

服は、アンクル丈の紺色のドレス。

アクセサリーは、2つ。

1つは、3つの指輪が通された革紐のネックレス。

たぶんこれは、父さんとのペアルック。

もう1つは、右手の腕輪。

木製で、銀色の板のようなものがついてる。


服からすると、あんまり裕福なわけではないらしい。

個人的には嬉しいけど。人前に立つのは苦手だからなぁ。


「そして、世界は平和を取り戻したのです。おしまい。」


えーと、父さんの話だけど。

勇者とやらの冒険を書いたものだった。

内容は定番のもので、


魔族と人間は共存していたが、

ある日、魔族が人を襲うようになった。

原因は、魔王の核から産まれたドラゴンで、

そのドラゴンを倒すために、勇者を召還した。

勇者は集めた仲間と戦い、ドラゴンを倒した。


万が一のため、魔族を大陸から追い出し、

世界は平和を取り戻した。


といった感じだ。


魔王の核とやらが何か分からないので、今度調べよう。


「それにしても、ジャックは落ち着きがある。将来立派な男になるだろうな。」


「ふふ、気が早いですよ、あなた。」


夫婦仲は、とても良いみたい。

あっちの家族は、ちゃんと無事なのかな。

立ち直ってくれてると良いけど。心配だなぁ。


「ん?・・・・わかった、すぐ行く。エミリア、夕方には帰る。」


「要請ですか?」


「あぁ、近くで少しな。」


父さんが、慌ただしく出ていった。

何かあったのかな?

要請ってことは、やっぱり軍人とか?


「大丈夫かしら、ジャック、もう少し寝ていてね。」


額にキスされた。びっくりした。

寝ていてほしいようだし、寝ますか。



えーと、あまり生活内容が変わらないので、省略!


父さんと母さんに対面したとき、大体生後4ヶ月だったらしく。3ヶ月ほどたったころ、離乳食が用意された。


これには、嬉々として受け入れた。

もう、ミルクは嫌だ。 さすがに精神が持たない。


「ジャックは、もう離乳食を食べれるのね。」


小さなイスに座って、離乳食を食べていると、母さんがそんな事を言っていた。


既に生後半年を過ぎているから、離乳食スタートは普通だと思っていたけど、どうやら、違ったようだ。


「夜泣きも少ないし、私達の言葉もわかっているみたい。それに、成長がとても早いわ。」


ギクッ ばれてない、よね? 大丈夫だよね?


「何を言っているんだ、エミリア。それだけジャックが素晴らしいって事だろう?」


「そうよね。」


「まぁ、不思議な子ではあるな。」


父さん、その一言は余計だと思う。

もちもちと、牛乳でふやかしたパンを咀嚼する。

けっこうおいしい。


ちなみに、木のスプーンで食べてる。

初めて物を握って立った時は、かなり驚愕された。

まだ足腰が弱いから、長距離は無理だけどね。


「・・・はい、第3騎士団のアスラン・ウィードです。・・・・・妻を?・・・・・・わかりました。今から向かいます。」


今まで聞いた事のない、硬い声。

右耳のピアスは、通話するための道具らしく、今までにも、何度も使っているのを見てきた。

でも、こんなに硬い声は、一度も聞いた事がない。

妻ってことは、母さんに何かある?


「エミリア、ジャックを連れて王城に入るぞ。」


「え? 入るって、私はただの針子ですよ?」


「よく分からない、とりあえず、ジャックを連れて行こう。国王様からの、命らしい。」


国王様?! え?何で?


母さんは、大急ぎで荷物をまとめて、おれを抱えた。

父さんは、迎えが来るとかで、外に。

何があるのかわからず、不安そうな母さん。

美人を困らせるなよ、国王様。


「かあさ、だいじょぶ?」


やっと、少し話せるようになった言葉。

たどたどしいが、3語くらいなら余裕。


これは、ないしょだが、本当はちゃんと話せる。

さすがに、いきなり流暢に喋り出したら怖いからね。


「えぇ、大丈夫よ。」


ふわり と笑った母さん。強い人だと思った。

この笑顔は、何がなんでも守らないといけない気がする。

国王様が、母さんを苛めたら絶対許さん。末代まで祟る。


「迎えが来た。行けるか?」


「はい。行きますよ、ジャック。」


「はい、かあさ。」


母さんが途切れるのは、母様に言い変えるため。


「ほう、もう歩けるのですか。」


「すごいだろう? 私の自慢の息子だ。」


父様、自慢は止めて。

どうも、相手は後輩らしく、優しかった。

移動は馬車らしく、護衛もいた。


「アスラン殿、これを。」


御者が渡してきたのは、紫の宝石がついた指輪。

指輪は2つあり、ひとつは革紐に通されている。


「エミリア、これを指に。ジャック、首にかけるぞ。」


母様は、右の人差し指に指輪をつけた。

おれは首からネックレスとしてかけた。


これは何の意味があるんだろ?


「そろそろ着きます、ご準備を。」


父様は、服を正し、剣を腰のベルトにかける。

母様は、髪を結い直し、おれを抱える。


しばらくして、馬車が止まり、扉が開けられる。


そういえば、初めての外出だ。

馬車を降りて目の前には、大きな城。

掲げられている旗や、鎧の騎士、軽装の騎士、

中世ヨーロッパのようだけど、古くさい感じはない。


「アスラン殿、こちらです。」


抱えられたままなので、余裕があったせいか、

いらんことに気づいてしもうた、めっちゃ見られてる。

騎士や、メイドさん、いろんな人から見られてる。


城に入る扉の前で、一度止められた。


「念のため、通行証を見せていただきたい。」


「指輪を。」


父様に短く指示され、母様はおれを降ろし右手を見せる。

おれは指輪をつまんで見せた。

父様は、ピアスが通行証になるらしい。


「通行証を確認した。どうぞ、お通りください。」


静かに扉を開け、通してくれた。

母様が、おれを抱えようとしたけど、遠慮した。

絨毯の上を歩くなんて、貴重な体験だ。


「こちらが、謁見の間でございます。」


「ご案内、ありがとうございます。」


「いえ、では、入室。」


ギィッと音がして、扉が開く。

壁に、ずらりと等間隔で並ぶ、軽装の騎士。

赤色の絨毯の先には、王座。


真っ先に歩くのは、父様。

その後を、母様とおれが並んで歩く。


3分の2ほど進んで、父様がひざまづく。

母様とおれも、それに習う。


「面を上げよ。この場では、身分はないものとする。」


「では、失礼致します。」


顔だけを上げる。

国王様と、王妃様、後は王子達だろうか?

王子が4人と、王女が2人。ずいぶんと子だくさんだ。


「アスラン・ウィードで合っておるな?」


「はっ。アスラン・ウィードでございます。」


「うむ。では、奥方と子息殿の名をお聞きしたい。」


「はい。私は、エミリア・ウィードと申します。アスランの妻にこざいます。こちらは、息子の――」


「ジャック・ウィードともうします。」


すらすらと喋ってしまった。父様と母様が驚愕してる。

どうしよ、日本人の癖がでた。自己紹介、大事だよね。


「ほぉ、子息殿はいくつなのだ?2才ほどか?」


「い、いえ、まだ産まれてから、7ヶ月でございます。」


「「「「・・・・7ヶ月?」」」」


おっとぉ? 騎士も含めて、全員がハモったぞ?


「それは、真か?」


「はい。私達も、ここまで成長が早いのは驚きで。」


「そうか、うむ、先が楽しみな子だな。」


国王様の後ろに控えている、王子が何か言いたげ。

そわそわして、近くの王女にはたかれていた。


「今日呼んだのは、産まれた5番目の息子、ウィリアムの乳母を頼みたい。」


「乳母、でございますか?」


「うむ。城の関係者から探したのだが、授乳期間が過ぎていてな。騎士団の者に、授乳のできそうな者がおると聞いて呼んだのだ。」


「なるほど。エミリア、どうだ?」


「そう、ですね。大丈夫です。」


「ウィリアムの部屋に、住み込みで働いて貰いたい。もちろん子息殿も一緒に、生活は保証する。」


「ジャック、人が増えても、大丈夫?」


確認のために、おれを見る母様。

国王様達の視線も、おれに集まる。


「はい。」


子供特有の満面の笑みで答えた。

一部の大人がすごい勢いで顔を背けた、分かりやすいな。


「では、部屋に案内しよう。ウィリアムの部屋は、王子達の部屋と近い、案内を頼むぞ、お前達。」


「「「「はっ!」」」」


後ろの王子達、仲良さそうで、安心した。

後継ぎ争いとかしてたら、目も当てられない。


「アスラン、少し話しがある、残るように。」


「はっ。」


父様はその場に残り、おれと母様は王子達についていく。

とてとて と歩くおれだと、王子達についていけない。

待って、早い。


「あ、失礼。エミリアさん、ジャック君を抱えてもよろしいですか?」


「え、あ、どうぞ。」


一人の王女様が、僕を抱えてた。


「わ、赤ちゃんって結構軽いんですね。」


クスクスと笑う王女様。

ぷにっと頬をつつかれた。


「うわっ、何だこれ? ふにふにしてる。」


まだ幼い王子様。人で遊ばんでください。

わやわやと囲まれる。

ちょっ、母様がおろおろしてる。


「こら、お前達止めないか。困っているだろう。」


王子達を咎めたのは、たぶん第一王子。

さすがと言うか、皆が落ち着いた。


「ここから先は、紫の通行証を持つ者以外は通れないので、指輪をなくさないようにして下さい。」


「わかりました。」


「一階は、書斎、実験室、掃除婦達の部屋があって、二階からがおれ達の部屋だ。」


「自己紹介は、後でしますね。部屋には、ネームプレートがかけられています。」


王女の腕の中で、説明を聞いていたが、すごいな。

書斎はともかく、実験室があるのか。

大きくなって、文字を覚え始めたら、書斎に来よう。


ここ棟は、白の壁に黒の絨毯と、シックな造りだ。


「二階の一番奥の部屋が、ウィリアムの部屋です。ウィリアムは、洗礼を受けているので、もう少ししたら来ると思います。」


「もう、ケヴィン兄様! 堅苦しいです、もう少し優しい言葉を使ってくださいな。」


「セアラ、しかし、慣れていないのに――」


「使わずに慣れることは、ありえませんよ。兄上。」


「アルイトまで。わかったわかった! これでいいか?」


口調が堅いと、兄弟に怒られたみたい。

長男は苦労人だね。


「この部屋は、ウィリアムが大きくなるまで、エミリアさんと、ジャック君も一緒に使ってください。」


「はい。」


「えっと、それじゃあ、自己紹介しましょうか。」


「あぁ、エミリアさん達は座っていてください。」


イスを勧められ、素直に座る母様。

おれは、母様の膝の上に。


「最初か。第一王子の、ケヴィン・クリーオヴ。15歳。よく書斎にいるな。これから、よろしく。」


さっき怒られていた王子だ。15歳か。

彼は、赤茶色の髪をしていて、瞳は灰色。

モデル並みの体型で、かなりのイケメン。


「私は、第一王女の、セアラ・クリーオヴです。11歳。裁縫が趣味ですね。よろしくお願いします。」


怒っていたほうの王女だね。11歳。

彼女は、銀色の髪で、瞳は紺色。

スタイルが良くて、可愛らしい女の子。


「僕は、第二王子、アルイト・クリーオヴ。9歳。実験室によくいるよ。よろしく。」


少し無愛想な王子。9歳。

髪は黒に近い紺色をしていて、瞳は赤っぽい紫。

細身で、少し不健康そうだ。


「第三王子の、ジェイド・クリーオヴだよ。8歳。んーと、甘い物が好きだよ。よろしくね!」


元気よくあいさつをした王子。8歳。

赤い髪で、瞳は緑色。

かなり、元気が良い、見てて微笑ましい。


「第四王子の、シルク・クリーオヴです。5歳。ローザの双子の兄です。これから、よろしくお願いします。」


丁寧なあいさつをした王子。5歳。

淡い茶色の髪で、瞳も茶色。

隣の子と手を繋いでいる。


「第二王女の、ローザ・クリーオヴです。5歳。シルクの双子の妹です。」


最後に、シルク王子と手を繋いでいる王女。5歳。

黒っぽい茶色の髪で、瞳も茶色。

緊張しているのか、少し顔が赤い。


「ご丁寧にありがとうございます。」


母様が一礼する。

コツコツ と足音が聞こえた。扉が開かれる。

ノック無しか、中々 失礼じゃないかな?


「失礼します。ウィリアム王子をお連れしました。それと、ご報告がございます。」


「どうした?」


急いで来たのか、息の荒い騎士。

その腕には、布にくるまれたウィリアム王子。


「ウィリアム王子には、加護がございません。」


「・・・・・・そうか、わかった。もう、下がって良いぞ。」


加護? 何だそれ?

ウィリアム王子を預け、立ち去る騎士。

王子達の表情が暗い。


「かあさま、かごって、なに?」


「神様の一人が、人を護るために授けるものだよ。エミリアさん、何かおかしいことが起きたら、すぐ教えてください。」


「わかりました。」


おれに説明して、ウィリアム王子を母様に渡すケヴィン王子。かなり心配そうだ。愛されてるなぁ。


「では、失礼します。」


退室する王子達。

全員が退室してから、母様はため息をついた。


「さぁ、ジャック、今日から頑張らないとね。あなたは、ウィリアム王子の乳兄弟になるのよ、それもお兄ちゃんに。」


「がんばる!」


大きく頷く。王子達も、精神的には皆年下だ。

全員が、立派に育つように、見守ろう。

たぶん、この世界でできるのはそれだけだ。


「ほら、この子がウィリアム王子よ。」


おくるみにくるまれていたのは、可愛らしい赤ん坊。

少しだけ生えている髪は、金色でふわふわしている。

まだ目は開かないみたい。


初めまして、ウィリアム王子。

これから、よろしくね。

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