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書体? フォントと呼べ!

 私だ。校正者の南条だ。

 今日も奥深い校正の世界を諸君に案内するために、二日酔いを押して来てやったぞ。


 さて、三回目の今回はフォントの話だな。フッ、腕が鳴るぞ。


 何を隠そう、私は二十代の若い頃、「書体識別の神」と呼ばれていたのだ。

 今はそれほど書体識別の必要性がなくなったが、腕は鈍っていない……はずだぞ。


 ちなみに最近は、「書体」と言わずに「フォント」と言うそうだな。

 ワープロソフトでの呼び名に合わせたのだろうが、日本人としては嘆かわしいことだ。


 ……まあ、私としては書体だろうがフォントだろうが、どちらでもいいがな(ニヤリ)。


 ――おや、向こうから来るのは三年後輩の金井君じゃないか。


 彼は私より少し後、製版用台紙の制作者として入社したが、製版用台紙がほぼ絶滅した後は画像処理、DTPオペレーターなど、いろいろな職種を経験したようだ。校正ひと筋の私とは、対極にあるような人間だな。


 製版用台紙って何か、だと? ……次回教えてやるから待っていろ。


 そういえば彼は、画像処理を極めていた当時、私と並んで「色調識別の神」と呼ばれていたな。懐かしい。今は出力オペレーターといって、印刷機用に面付けしたり、RIP(リップ)処理をしたりする仕事をしている。


 面付けやRIPについては……また今度じっくり教えてやろう。


「おっ、ちょうどいいや、南条さん。この書体、わかります? アウトライン取られちゃってて……」


 ――ふむ、今回もまた、テーマに合致した質問が来たな。もしや、作者の差し金ではないのか? もちろん、書体識別の神と呼ばれた私に、わからない書体などあるはずがないがな。


「新ゴに似ているんですけどね。数字なんかが新ゴとは違うというか――」


「どれどれ、ちょっと見せてみろ――。ぬうッ? これはッ?」


 これはもしや、最近猫も杓子も……と言われる、「UD新ゴ」というやつではないかッ?

 最近どいつもこいつも、このフォントを使いおる。物珍しさなどないではないか。


 確かに金井君が言う通り、新ゴに似ている。しかしそれは仕方がない。新ゴをアレンジして作ったフォントなのだからな。


 カタカナの「ク」と「タ」を見分けやすくしたり、数字の(ゼロ)とアルファベット大文字の(オー)とが似ないように、英数字の形を全体的に変更している。

 要するに障害者や高齢者などが読み間違えることなく、快適に判別できるように配慮されたフォントというわけだ。


 そして先にも言ったが、このフォントが新ゴとどう違うのかを判別したいなら、カタカナの「ク」や「タ」、そして英数字の形を見ればいい。

 見本帳で普通の新ゴと見比べてみれば、その差は一目瞭然のはずだな。


 最近は印刷用のデータも、PDFという形式が使えるようになった。これはフォントのデータを埋めこんでおけるし、互換性を保持すれば「イラストレーター」などで開いて編集することもできる。

 それにPDFを扱う「アクロバット」というソフトがあれば、使われているフォントを調べることもできるのだ。


 だがひと昔前に主流だった、アウトラインデータでの支給もまだ多いのが現状だな。


 アウトラインというのは、文字をすべて線画のデータにする手法だ。こうすれば環境の違いによる文字化けが起こらないので、万が一の工程遅れを防ぐことができた。

 だが、一度アウトラインにしてしまうと、線画は文字に戻せない。フォントを調べられないどころか、編集するときには「似たフォント」を使うよりほかないのだ。


 アウトラインデータ……。まさに「黒歴史」だな(深くうなずく)。


「――うむ、これは『UD新ゴ』というフォントだ。ウェイトはMだろうが……いろいろ試してみてくれ」


「あー、これってUD新ゴだったんですね。はは、ついにお客さんの方でも使うようになっちゃいましたね」


「うちも以前はこれで売り込んでいたものだが……これでは営業の立つ瀬がないな」


「ははっ。確かに。それじゃ南条さん、ありがとうございました」


 かつて「書体識別の神」と呼ばれた私が、今でもこうして役に立てるというのは、いいものだ。

 だが、満足げに去って行く金井君を見て、私は思った。


 ――もうアウトラインデータは禁止だッ! PDFでくれえぇぇい!(心の叫び)

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