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■50分耐久学級異端審問会■

作者: 青空たる

 ウチの学校にはLHR(ロングホームルーム)という時間割がある。

学年問わず週に一度設定されたこの時間は、学校生活の中では自由度が高い時間帯と言えるだろう。例えばクラスごとでの年中行事のお知らせや役割分担やら班の決定など簡単な学級会だとかに使われることもあれば、学校全体での総会だとか大きな行事に割り当てられることもある。他にも担任教師が用意した授業用のDVDの閲覧であったり道徳的な授業になったり自習になったり、用途は多岐にわたる。

そんないつものLHR。さて今日は何をするんだったかなぁ、とぼんやり考えていると担任が教室に入ってきた。


「哀しいお知らせがあります。」


形式的な挨拶もそこそこに、担任は俺たちにに向かってまずそう告げた。

量こそは多いが歳の割には白い髪を揺らして、静かに両手を教卓へ降ろした。 目尻の皺が、何処か寂しげに見えた。 普段は穏やかに笑っている事が多い先生の見慣れない表情に、しんと、教室が静まった。

担任は俺たちを見据えて、こう切り出した。



「この中に、魔王が居ます。」




長い長い俺達の戦いの幕開けである。






 ■50分耐久学級異端審問会■






 凍りついた。

見事に、クラス全体が凍りついた。

居眠りしている素行の悪い数人の穏やかな寝息だけが静まり返った教室内にすやすやと響いていた。

………うん、先生?今、なんておっしゃいましたか?魔王?マオウ?MAOH?ゲームの話ですかね?竜の冒険的なアレですかね?それとも勇者が余りにもクソ生意気なので地下をひたすらディグりまくる感じですかね? 俺もゲームとか好きだからさ、その辺の話は嫌いじゃないどころか大好きな部類だけどさ、ソレ絶対授業中に言う話じゃない。


「先生、ゲームの話なら自宅のパソコンかスマホに向かってやって下さい。」


響いた声、クラスの皆の視線が中央最前列へ注がれる。挙手をして発言をしたのは我らが学級委員だった。 生真面目そうな黒い短髪と良く伸びた背筋と右手が凛々しい。流石ウチのクラスのリーダー、この空気の中でも果敢に元凶に向かっていくのとはなんと勇敢だろうか。心の中で賛辞を送ったのは俺だけではないはずだ。


「いや事実で現実だよ?ウチのクラスには魔物という人達を統べる魔王が在籍しているようなんだ。あと先生はまだかんたん携帯だ、すまーとふぉんはよくわからん。」


ソレに対して何を仰っているのか分かりませんみたいに首を傾げるな中年オッサン、あざとい。 いや、だからなんなんだよ魔物とか魔王とか。この現代社会にそんな奇妙奇天烈非現実的な連中がいてたまるか。ディスイズファンタジーアンドオトーギバナーシ。


「……誰なんですか、その、魔王っていうのは。」

「先生にも分からない。」

「ちょま……じゃあなんで先生は魔王が居るって断言できるんですか?」


大人だ、学級委員マジ大人だ。いや同い年だから勿論未成年だけど、対応が大人。頭の中腐ってんのかとか、先生どうしたとか、皆がヒソヒソと話している中、実に冷静かつ的確で最良の対応だ。きっと高校卒業して良い大学行く奴ってこういう奴なんだろうなと、やや現実逃避をしながら様子を伺う。


「幾つか報告が届いているんだよ、順番に話をしていこう。」


担任は手にもっていた手帳をぱらりと開いて、報告とやらについて話し始めた。


「まず一番最初の報告があったのは先週末だった、ウチのサッカー部に喧嘩を売った他校の不良をゴブリンを使って返り討ちにしたそうだ。」


ゴブリンなにやってんの!!? 人助け!?人助けしたのゴブリンが!!むしろ主人公パーティに真っ先に棍棒持って向かっていきそうな位置付けてきなアレなのに!!?人助け!? ちらりと席を見渡すと、サッカー部の連中がドキリと跳ねかけているのが確認できた。 事実なのかそれ事実なのか?つかなんで脂汗ダラダラなんだよお前ら!!そもそも不良に喧嘩売られたってどういう状況なんだよサッカー部なんかやらかしたのか!?何があったんだよ一体!! にして真実だとして人助けだとしてもそれ暴力沙汰事件ですよね?幾らなんでも駄目でしょ?法的な意味で。ゴブリンたちは暴行容疑だとか過剰防衛で警察には突き出されないのだろうか?それともよくある躾のなっていないペットとか猛獣が人間に危害を及ぼすのと同じような扱いになるのだろうか?地味に気になる。


「半年前、暴力監督が支配する剣道部に暗黒騎士を送り込んで叩きのめした後に追い出したとも聞いているよ。これは週明けに暗黒騎士さんと話をしていた時に部員たちから聞いたんだよ。少し無口ではあるけど面白い人だね、彼は。」


暗黒騎士ぃいいいいいいいい!!?あの男前で美人な新監督さん暗黒騎士なの!!? 肌白いし銀髪だしちょっと耳もとんがってたけど外国的な意味でそういった血脈の方だと思ってたのに!!!まさかの暗黒騎士!!!? ゴブリンとの落差がヤバイだろ!!?確かに前の監督はあまり良い噂を聞かなかったけどんなあっさり監督ってチェンジできるようなもんなのか!? つか叩きのめして追い出したってそれ物理すぎていろいろ大丈夫なのそれ!!?しかも今聞くまで部内虐待も追い出し騒動も全然まるっきり知らなかったんですけど!!!軽く見積もっても隠蔽体質なのかよウチの学校怖ぇえええええええ!!! ……そういえば監督が変わって剣道部が初めて大会で優勝したって言ってたのは記憶に新しいな。しかも全試合負けなしとかどんな奇跡だ。本職が指導すればそりゃ強くもなるもんなのかな??俺格闘技とか武術のことはわっかんねーからなんとも言えないけど。新監督の男前っぷりをひそひそ噂している女子を見ながら剣道部数名がどや顔をしていた。 よほどいい指導者なのかもしれないけれど、今その反応はおかしい気がする。どこを目指しているんだお前らは、魔王軍就職??

つか担任、話したのか担任。暗黒騎士だと知ったのによく消されなかったよ。アンタの謎のコミュ力なんなんだ、これが教職員ってもんなんだろうか。


「更には変質者的な行為を生徒に仕出かすという噂のあった保険教諭を淫魔を使って不能にもしたそうだ。 彼も週明けに養生の為にという名目で自主的に学校を辞めたと報告があった、私としては二度と学校という聖域に足を踏み入れないで欲しいものだ。」


アウト!!!アウトォオオオオオオオオオオオオ!!!!!犯罪ですやんそれ!!!警察に突き出せよそこは!!!豚箱に突っ込めよ!!!隠蔽体質ぅううううううう!!!だが引き換えに一緒できないんだよな不能って事はざまぁみろ!!!!!え?アフターケアもしっかりされていましたとかそんな情報いいんだよいや被害者の事もしっかり考えてくれているのは凄い良かったとは思うけど!!そもそも論!!!噂が耳に届いている段階で内容が内容なんだからちょっとは調べろよ!!!アフターケアもお前らがしろよ馬鹿か!!!ん???話の内容の意味がよく解らない?そんな君はそのまま綺麗な君で居てくれ!!!お父さんやお母さんには聞いちゃ駄目だよ!!特に小学生諸君!!泣くぞ!!お父さんもお母さんも俺も!!!大きくなったら教えてもらえるから!! 今はまだその綺麗な目を汚さないで!!!


「後は報告されただけでも…イジメをしていた隣りのクラスの生徒を夢魔の悪夢で地道に更生させたり、迷惑な通行人が植え込みにポイ捨てしたゴミを食虫植物たちに食べさせたり、通学路に出没していた辻斬り魔や変質者も四天王に退治させて警察に突き出してくれたそうだ。 そしてそれらの報告をしてくれた全員の話を総括して職員会議で話し合いをしていたら、暗黒騎士さんがポロッと私に「魔王様は慈悲深い方だ。」とか「いつも魔王様が世話になっている。」と言ってしまったもので、ウチのクラスに魔王がいるというのが判明したんだよ。」


暗黒騎士先生ぇえええええええええええええええええ!!!?ダメでしょそれ!?ポロッとでもそれ言っちゃダメだろ!?天然!!?意外と天然!!?イケメンで天然とか何処ぞの漫画だよってファンタジーのヒトでしたね!!!そうだったねー!!ファンタジーならしょうがねーわー!!つーかどんだけやらかしてんだよ魔王は!!!!!

隣のクラスのってあの如何にも高飛車で傲慢で定評のある嫌味女だろ!?黒い噂が絶えなかったし態度もクッソ悪かったけどイジメまでしてたのかよ最悪だなって思ったけどそんなアイツが最近しおらしいのもソレか!!!夢魔どんな夢みせたんだよ!!物凄く気になる!!

いつも空き缶とかの仕分けせっせと頑張ってた用務員のじいちゃんがこのあいだ「最近綺麗じゃのう?」って首傾げてたのもソレか!!!勝手に植えちゃっていいもんなの食虫植物!!じいちゃんに見つかってないって事は擬態とかできるんだろうか生態を詳しく教えて欲しいな!!

つか一昨日ニュースでやってた凶悪犯を豚箱にぶち込んだのも魔王連中なのかよ!!?すげぇええええええええ!!!!四天王とか!!四天王とかなんというベタ!!ベッタベタ!!!どういうメンツなのか無駄に気になる!!!!一人はやっぱり美女とかなのかな!!?

つーか改めて思ったけどウチの学校が小さなものから大きなものまで内外問わずに問題山積み過ぎなんですけど!!!?とんだ無法地帯じゃねぇかよ!! それ全部魔王が解決しちゃったの!!?すげぇな魔王!!大体部下が物理で超強引だけど!!!魔王って普通悪じゃないの!!?実はイイ奴なんじゃないの!?

諸々のツッコミを必死に咽元で押さえつけながら担任を睨んだ。 当の本人は、どこか寂しげな目をして俺たちを見渡していた。


「先生は救われた皆さんに教えて貰うまで、魔王がクラスに居る事を知らなかった。 魔王というものはなかなか他の人には言い辛い家業だ、家庭の事情というものは色々ありますから無理に事細かく報告する義務も無い。」


家業なんだ、魔王って世襲系の職種なんだ。つか職業なのかジョブなのか。どういう認識なんですか先生。入学のときの書類とかで保護者の職種とか記入するところとか無かったっけ?覚えてねー。あぁでも自由業とか個人営業になるのかな、魔王って。先生すら知らないって事はそう言う風に記載するしかないモンな、八百屋や魚屋と魔王が同列扱いってのもシュールな話だけど。バレないように会社名とか登録とかしてたりして公の書類にはソレ書いたりするんだろうか。税金の手続きとかしてるんだろうか。なんかもの凄く気になる。


「ですが、こういった危険な事しているのならば話は違ってくる。君たちはまだ未成年、子供なんだ。今話した中には君たちが首を突っ込んでは危険すぎる事例もたくさんある。万が一君達や君達の家族の身に何かがあったらどれだけの人が悲しい想いをするか……先生は常々言ってきた筈だ、まずは大人にちゃんと相談して欲しいと。」


ウチの担任はおじいちゃんじみた見た目とは裏腹に、こう見えても四十代は半ばである。子供もいたはずだ。俺達の中には親と同世代なんて家もあるだろう。かく言う我が家も母親が同い年だった筈だ。だからなのか職種故にかは分からないが、生徒たちの事をよく気に掛けてくれる先生だ。 勿論、すべての先生がこう言う人ばかりではないのも知っている。だかこそ隠蔽されて生徒に届かない話が多いわけだし。一生徒へ対する心配事にLHRとはいえ授業の時間を使ってしまうぐらいだ、ウチの担任は今時珍しいお人よしなのかもしれない。

しんと、教室が静まり返る。 でもこれは、最初の理解不能な言動に対してのソレとは違う。 真摯な心配を受け取って、ほんの少しの後ろめたさとふと浮かんだ大切な人たちに思いを馳せてしまったが故の沈黙だ。 すやすやと眠る連中の吐息以外に音はなくて、静かに時間だけが過ぎていく。

………いやいやいや!!!!!なに魔王が居る流れになってるんだよ!!?みんな!!?しんみりする場面じゃないよ!?その報告をどうして鵜呑みに出来るんですかこの天然先生!!!魔王なんかいるわけないでしょーが!!!なんらかのトリックなりなんなりがなんやかんやでなんやかんやにあるに決まってんだろうが!!ゴブリンとか暗黒騎士とかねーよ!!!非現実!!創作乙!!!いい加減俺のコント好きの魂(断じて芸人志望ではない)が疼きだした、そんな時だった。


「せんせー、ウチのクラスに魔王が居るってマジっすか?」


バスケ部が、気だるそうに挙手をしながら訊

ねてきた。 髪を染めたり耳に穴とか開けたり目に余るヤンチャこそしていないが、普段のコイツは割りと問題児だ。とにかくしょっちゅう授業はサボる、それか寝てる。いつもだったらこの時間帯もサボるか爆睡して過ごすのが常。 だから起きていることは勿論、自分から挙手して話を促すことなんか絶対ありえない行動だった。クラス中が窓側最後尾の席に目を向ける。 生徒の問いかけに静かに担任が頷くと、彼は面倒くさそうに数度頭を掻いた。


「俺、ソイツ殺さなきゃいけねーんすけど。」

「「「「え?」」」」


スッと、バスケ部は立ち上がり、キョトンとするクラスメイトたちを見渡す。 その瞳は、だらしなく構えた姿勢とは裏腹に、鋭かった。



「だーかーらー俺さ、勇者だから、魔王倒さなきゃいけねーんすけど。」



お前もかブルータス。

魔王にゴブリンに暗黒騎士に四天王にその他もろもろきて、ここで勇者の登場ですか。なんなんだ実に手の込んだコントだな。授業中じゃなかったらじっくり見たかったわ。脚本書いた奴又は仕掛け人、ちょっとお話しようか。そんな事を思っていた時期が俺にもありました。


「ほら証拠。」


当たり前のようにポツリと呟かれた一言が、俺の常識を一瞬で吹き飛ばした。 バスケ部が右手を机の上に突き出すとポゥと掌が輝きだしたのだ。ぶぉっ!!と、彼を中心として風が巻き起こる。ちなみに窓は閉まっている、クーラー使ってるからね!!強い風と眩い光に、思わず皆が顔を覆ったり目を離す。再び場に静寂が訪れた時、バスケ部は様変わりしていた。 どこから出したんだサーフボードかってぐらいでっかい剣を持っていて、オマケに髪と目の色が黄昏色にチェンジしってた。短時間過ぎるからカツラでもカラコンでもなさそうだ。服装だけが着崩した制服そのままという中途半端な現実感が、余計に真実味を増させている気がした。 バスケ部…もとい勇者は慣れた手つきで剣を肩に担ぐ。本当、王道ファンタジーゲームの主人公みたいだ。ちょっとカッコいいなって思っっちゃった俺ってばお馬鹿さん!!!


「え、あの…?」


先生戸惑ってる!!そりゃそうだよね!!!ですよね!!! 正体不明の魔王に説教しようと思ってLHR開いたら勇者が出てきて銃刀法違反に教え子殺戮宣言ですもんね!!! 何事って感じですよねー!!!奇遇ですね俺らもですよ!!! 最初っから何事って感じでしたけどねこっちは!!!


「俺の一族は魔王が現れた時に最も素質のある奴が勇者として覚醒するんすよ、で、俺は生まれた時からこーいうの出来るんだよ。ずーっと魔王はいたはずなのにどーりで全然エンカウントしねーって思ってたら同級かよ。そりゃ未成年じゃ世界征服とかされてねーわけだよ。」


どういう理屈!!?未成年は世界征服しちゃいけないみたいなそんななんかルールでもあるの!!?つかなんなの勇者として覚醒って!!?生まれた時から大剣召喚できるとか何気かっこいいなお前!!

勇者はぐるりと教室中を見渡すと、空いている左手で格闘ゲームなんかでありそうな挑発ポーズみたいにくいくいってやってた。様になるなお前。



「魔王、ツラ貸せよ。」



殺ル気満々ジャナイデスカヤダー!!!どうみても勇者と言うよは喧嘩百戦錬磨のヤンキーですありがとうございます!!!

また教室全体が静かになる。三度目のコレは純粋に恐怖がしめてる割合が圧倒的大多数な感じです。誰も勇者に目を合わせようとはしない。言っていることもかなり物騒だというのもあるが、こう素人目にもわかる恐怖感がある。動物としての本能レベルの所でこいつには逆らってはいけない警報がなっている。怖い、怖すぎる。つか勇者は落ち着け、一般市民をビビらせるなお前が。救うもんだろ普通は。どうにかならないかと静かにに祈った。祈るぐらいしかできることねーよこの状況。


「……黙れ。」


沈黙を破ったのは、その一言だった。

幾つか椅子が動く音と共に、今度は入り口付近最前列の席に視線が集中する。 スッと席から立ち上がったのは、風紀委員だった。容姿端麗冷静沈着で学級委員に次いでまとめ役ポジションだ。女子からのアプローチも目障りの一言で片付けるドライ過ぎる鋼の精神力を持つお前なら、この状況をきっと打破できる筈だ!! 学級委員も俺と同じ気持ちだったんだろう、勇者の行動に流石に固まってたが我に返れたのかほっとした様に風紀委員に声をかけていた。


「おぉ……流石風紀委い」

「勇者風情が魔王様に対して無礼な口を訊くな……貴様の様な輩が居るから魔王様は御身を御隠しにならねばならないのだろうが。」


違った!!!手下だ!!!コイツ魔王の手下なんだ!!?しかもかなりの信者っぽいわ!!!うっわ!!大量のバレンタインのチョコを無言で焼却炉まで持って行って「汚らわしい。」って言いながら捨ててた時より絶対零度のオーラだわナニコイツコワイ!!つか俺はぶっちゃけコイツが魔王でもおかしくないと思ってたんだけど!!ごめんだってお前クールつか冷血だし頭悪い奴とか道端の汚物みたいに見下すし五科テストで常にオール一位だし肌が地下の人間かってぐらい白いし髪のサラサラだしラスボス感じみた覇気凄いし!!一般的な価値観でいう魔王キャラっぽいじゃん!!

風紀委員は、パチンと指を鳴らした。あら、いい音。 頭上にフォンという奇妙な音と共に紫の魔方陣が現れて、風紀委員を通過するように下降していった。 でっかいフード付の黒マント羽織ってんだけどなにそれちょっとカッコいいいいいい!!! なんか更にオーラが禍々しいんですけど!?魔王の一味だから!!?魔物だから!!?考えたくありませーん!思考放棄して楽になりてぇよ畜生が!!!


「……ほー?アンタが魔王に代々支える側近の呪術師か。」

「まさか貴様が同じ敷地内に居たとはな…。」

「お前みたいな人間嫌い有名人がこんなところにいるとは思わなかったわ。」


会話がなんだかファンタジー!!!これ魔王の城でも森の中でもないんだぜ?都内の学校の教室の中なんだぜ?つか有名なんだ風紀委員もとい呪術師!!!有名なのかよ!!?しかも側近!!?めちゃくちゃ魔王に近い存在が何で高校生活しちゃってんだよ!!? あ!!魔王が居るから!?ボディーガード兼ねて居るの!?マジにいるの魔王!!!完全にコレ魔王がいる空気だよね!! まぁこんだけ非現実的な事されてギスギスした空気にさらされて「手品乙!!」と笑う度胸は俺にはない!!! 数秒、いや体感的には数分のようにも感じたが、二人は睨みあっていた。


「アンタ潰せば、魔王も大人しく出てくるな?」

「ほざけ、愚民が。」


そしてこの発言である。

……こぇえええええええええええええええええええええええ恐い恐い恐い恐い恐いってぇええええええええ!!! やめて!!マジやめて!!!ここ教室!!!皆いるんですけど!!! 剣構えるなぁああああああああああああああ!!!杖を振りかざすなぁあああああああああああ!!! 殺気やばい殺気やばいお前ら揃ってなんか殺意の波動的な何かが出てるって!!!

文科系部の半分失神したぞオイィイイイイイイイイイ!!!?大丈夫かぁあああああああああああ!!!? 状況を理解した何人か真面目な奴らは避難訓練よろしく机の下に潜り込んだ!!訓練の賜物だねぇえええええええええええ!!! ……それでも素行の悪い何人かはすやすや眠ってるんだけど、うん、お前らもっと本能で生きてると思ってたけど普通の子なんだね。いやいっそ図太いのかもしれない。

なななんて現実逃避してる場合じゃねぇええええ!!!逃げなきゃ逃げなきゃ!!でも残念!!!俺!!!!腰抜かして動けねぇえええええええええええ!!!


「……………教室では暴れてはなりません。」


高めの凛とした声が、聞こえた。

今にも一触即発どころか爆発寸前ポッポー!だった空気がほんのちょびっとだけ和らいだ。その声は教室のど真ん中から、今にもバトルしようぜ状態だった両者の間に立った人物が発したものだった。


「勇者様も呪術師も我々は今は一生徒です、授業を妨害するような行為はしてはなりません。」


あぁ…図書委員ちゃん……君はまともで真面目な人間だと思っていたのになぁ。うん、言っている事はまともだよすっごくまともだけどその手に青白く光る小刀が無かったらの話ですけどねー。 つか普段はボーイッシュなショートヘアーなのに、それが本来の姿ってやつ?尻尾みたいに伸びたポニーテール可愛いな。可愛いけど、まさかの忍者系のアサシンですか。しかも猫耳ですか、黒いスカーフ似合うね、うん。 よくよく見てみれば、アサシンちゃんを中心に呪術師と勇者の背後それぞれの壁にクナイ的なものが突き刺さっていた。実力行使ですね分かりましたはい。もう俺図書室に用があっても絶対に騒がない。口を開かないコワイ。

勇者は顔を膨れさせて剣を担ぎ直した、素直だなお前。 そういえばこの二人は同中だって聞いた事がある気がする、だから言う事を聞いているのかもしれないけど。 つか勇者の相棒がアサシンて、暗殺者って。どんだけ魔王殺るき満々なんだよお前ら。

呪術師も舌打ちしながら杖降ろした、とりあえずLHRがデスマッチになる最悪の事態は回避できたようだ。

だが、いよいよ誰も口を開けなくなってきた。三者の間でピリリと空気がとんがってるのが伝わってくる。伝わってくるというのは、俺を含めた大多数が彼らから視線をそらしているためだ。だって怖いだろこれ。今日はなんて日だよマジで。


「…あのヨー。」


ギスギスした空気の中、更なる声が参戦してきた。畜生、次はどんなファンタジックな猛者だよ。 ただでさえクラスのファンタジー割合高すぎておなかいっぱいなんだよこれ以上は居てたまるかよ勘弁してくれ。


「魔王とかヨー解らんけ、ども、そゆうイジワルよくネー思う、まる。」

「そうだそうだ!!良い事してる奴なんでぶっ飛ばさなきゃなんねーんだよ!!差別すんな!!」


と、思ったら違った。 いやこんなカオスな状況(※ノートも教科書も飛び散ってて逃げようとしたり避難しようとしたせいでメッチャクチャな机と椅子と俺ら)で発言できるあたり充分猛者だけど。 異議を申し立てたのは、最近遠い国から転校してきたばっかりで日本語がまだまだ不自由な色黒君と、強面だけど実は可愛いものや料理が大好きな柔道部君だ。 見た目だとか上っ面であれこれ判断されがちな二人は、色々共感できる苦難があったのだろうか割りと仲が良い。 どちらも背が190センチは優に超えているしゴッツイというのに、キャッキャしながら手作り弁当をシェアしているのを見ると微笑ましく感じられる。一部に変な目つきの女子とかにガン見されていたりもするが気にしたら負けだ。

そんな仲良しコンビは揃って勇者にブーイングである。刃物抱えた人間にブーイングって凄い勇敢だね君たち。 ねー?って顔を見合わせ合うなよ微笑ましいなこの修羅場にお前らときたら。何かを必死にメモを取っている奴らがいる気がするがこれも気にしたら負けだ、見なかったことにしよう。

勇者は聞く耳もたずな顔をしているが、アサシンちゃんの方は二人を睨む目が恐い。まぁこいつらにしてみれば悪を滅ぼそうとしている自分達を悪く言われるのは納得できないのだろう。アサシンちゃん、こっそり小刀を構えるな。柔道部君も気付いて色黒君を庇うように体勢変えないで、挑もうとするなお前。


「……でも、魔王って事は悪い人でしょ?」

「案外イイ奴かもよ?」

「やり方も強引だしなぁ…」

「でも魔王が直接手出ししてないのが気にならない?」

「本当はこの学校支配しようって魂胆じゃね?」

「誰だよ魔王マジ。」


仲良しコンビの言葉により、冷静になっていたクラス全体が変な方向にざわつき始める。 うん、まぁ、処刑を待つような沈黙空間よりマシだけどさ、これどうしたらいいんだろうな。とりあえずもう魔王なんていうファンタジーな存在が実在することに突っ込みを入れるものは最早誰も居ない。多分気にしてるの俺だけだろな。モウオレヤダー。


「呪術師は魔王様との関係性を詳しく…。」

「魔王様の性別によっては次号の部誌が厚く

なるか校外活動用の薄い本が厚くなるかが決まってしまう…。」


おい黙れ漫画研究部と文芸部どもテメェらゾンビすら真っ青になって白旗振りまくりそうな腐った思考回路しやがって!!! お前らの肥やしにこのカオスな状況とクラスメイトを使ってんじゃねぇよ!!!!さっき仲良しコンビの動向メモしてたのお前らだって分かってんだからな!! お前ら魔王と呪術師で何描くつもりだよ!!大体予想はつくけどな!!女だったら校内で配布する部誌でなんかする気なんだろ!!?男だった場合は校外活動とか長期休暇ごとにあるビックなサイト的な場所でやるアレの事だろ!!?なんでそんな自殺未遂ギリギリの勇敢なんだかバカなんだかわからない行動が出来るのお前ら!!一学期の新入生歓迎会の時に「萌えの為なら死ねる!」「ラビィ!!」とか歌いながら勧誘してたなそういえば!! 命知らずだったね知ってた!!!!

ざわめきが大きくなっていくにつれてってこら勇者イラついてんじゃねぇよ剣の柄に指トントンさせながら呪術師を睨んでるんじゃねぇよ!!!!

呪術師もなんかこっそり魔術的な本出して抱えてないで!!?装備を戦闘用に整えないでくれ!!!お願いだから!!!アカンこのままじゃいつ戦闘開始するか分かったもんじゃねえ!!! 誰か!!マジで誰か!!!このカオスをなんとかしてくれ!!!!



「……うるせぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」



救世主が、降臨した。

学級委員がキレたぁああああああああああああああああああああああ!!! ビリビリと教室中どころか学校中に響き渡りそうな(※後々確認したら別棟にある体育館まで届いていたそうだ)怒鳴り声に、自体の中心人物を含めた全員が硬直した。今まで大人の対応したり固まったりしてた学級委員の堪忍袋の尾がとうとう火蓋のように一刀両断されたのだ。バッサリとね!!

学級委員は般若も獅子舞もナマハゲも顔負けの形相をしていた。恐い。 クラス全員はもちろん、いかにも修羅場越えてきたっぽいファンタジー三人組ですらブルりと震える形相だ。恐い。 うん、休み時間の最中にトイレ行っておいてよかった。行ってなかったらぜったいちびってたわコレ。恐い。 学級委員は一度ファンタジー三人組を睨みつけてから、ズンズンと前へ出る。マジ恐い。


「書記ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!板書ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「イエッス!!マイマスター!!」


学級委員の雄たけびにも似た指示に、窓側二番目の席の生徒がピョコンと敬礼ポーズで立ち上がる。なんだマイマスターって。 ちなみに書記は毎回毎回日直がやるので誰が必ずと言うわけではない。俺的な言い方をさせてもらえば今軽快に返事をしたのは軽音部である、担当はドラムである。 今まで大人しくLHR用のノートにあれこれ書いていた彼は、同じ日直である大和撫子な書道部女子にノートを託して黒板前に進み出る。 ドラムが長めのチョークを数本見繕ったのを確認すると、学級委員がいよいよ語り始める。


「……状況を纏めるとウチのクラスにはゲームや漫画なんかでよくある魔王が居て!!! 仲間には少なくともゴブリン・暗黒騎士・淫魔・夢魔・食虫植物・四天王・呪術師がいて!!! その影響力は最低でも学校の腐敗を矯正するぐらいにある!!!しかも比較的真っ当な方向性にもっていってるわけだ!!やり方はかなり強引だけどな!!」


声量と凄まじい勢いのトーク、クラス全体が学級委員の迫力に押されて沈黙した。お陰で更に学級委員の声がよく響いてくる。

つか書記の作業早ぇえええええええええ!!?学級委員が口頭で言ってることに加えて先ほどの担任の話も凄まじい勢いで黒板に書き込んでく!!!しかもなんなのその今この場で発揮する意味があるのか全く意味が分からないハイクオリティ!!! 常備されてる白桃黄緑青チョーク5色フルに使って鮮やかぁああああ!!!デフォルメ魔王の想像図がちょっと可愛いのがズルイ!!漫画研究部が「やりおる…。」とか唸ってるのはスルーしておこう!!


「そういう話ですよね先生!!!」

「え、あ、うん、そう。」


なんかどこかの歌の名前みたいな返答をする担任。多分天然。 つかあんたまで圧倒されてるなよマジで。


「学校を牛耳る為に偽善者的な所業をしてるという意見が出るのはわかる!! しかし俺から言わせて貰えば、もし実際に支配下におきたいならもっと大々的にやるだろ!!魔王なんだから!! 物語のセオリーとしても大体の魔王やその配下と言うものは悪の名乗りをあげてその名のもとに支配を開始するのが常套手段だ!! 名乗らなくてもそこに悪が存在すると言う不穏な空気を作ったりとかな!! なのにウチの魔王は一切そんな素振りをしていない!!俺自身この学校でそういう魔王的な意味で不穏な空気と言うものも感じたことがない!!!それは今の今まで魔王の存在に気づかなかった勇者にも言えることよな!!? 更にこの状況になっても名乗り出ないと言う事は魔王はぶっちゃけそっとしておいて欲しいんじゃねぇの!!?」


マシンガンのように話を進める学級委員、しかもなぜか自分の推測を堂々と語っている。 後々知ることになるのだが学級委員は結構な読書家らしく特にフィクション長編物のは東西新旧ジャンルとわず読みまくってるらしい。 だからファンタジーの定番なんかも熟知しているらしく、このカオスな空気を独自の理論で論破していくだけの自信があるらしいのだ。図書委員談。 俺からしてみればそもそもマジモン武装のトンデモファンタジー集団に、読書の知識だけで挑もうと行動を起こせる学級委員の肝っ玉がスゲェわ。その発想はなかった。


「勇者だかなんだか知らねぇけど今時人種差別概念だけで倒すとか殺すとか言ってんじゃねぇよ!!どんだけじだいおくれの化石じみた脳味噌単純単細胞なんだよ!!!お前は!!!魔王が悪さしたときだけぶっ飛ばせばいいだろうがバカ!!!そのでかい剣しまえ!!」

「……チッ…。」

「お前も!!!側近の呪術師なんだろうが!!!んな高い地位のやつがいちいち喧嘩の売買してるんじゃねぇよ!!!魔王はそういうの望んでねぇからひっそりとやってんだろ!!?部下のお前が暴走してどうするんだ!!責任取るのも風評被害受けるのもお前の大事な魔王なんだからな!!バカじゃねぇかバカ!!!!」

「ぐ…。」


学級委員の正論無双に問題児二人はぐぅの根も出ないのか、静かに学生の姿に戻った。強ぇえええええ!!!学級委員強いぇえええええ!!!! アサシンに至っては凄いなとか目を丸くしてる始末だ。とりあえずお前も元の姿に戻って小刀を片付けろ。 続いて、学級委員はギロンと担任をも睨みつけた。


「先生も!!魔王が本当に困って相談にくるまで放っておいてくださいよ! 心配なのはわかりますけど!!魔王の身内って強い奴ばっかなんだからきっと大丈夫ですよ!!! あと先生メチャクチャ根が良い人だから分け隔てなく仲良くして欲しい教育理念も知ってますけど!! 今日みたいに喧嘩する奴らも出てくるし!!そこの馬鹿と眼鏡とか!!!そこの!!!馬鹿と!!!眼鏡とか!!!!! 実際図書委員がいなかったら収拾つかないことになりそうだったでしょ!!!ね!!!?」

「……仕方がないですね。」


担任も学級委員の剣幕と意見に、苦笑混じりに頷いた。 今回の騒動のそもそもの元凶は担任の心配性からだもんな、まぁ担任は悪くはないんだけどな。関係者が過激派過ぎたからこの教室の有様なんだし。

ちなみに学級委員がひたすら話し続けている間も書記の板書無双も引き続き行われている。 右手で発言を記しながらの左手でリアルなゴブリンとか落書きしてるんだがお前のその余裕はなんなんだ。ドラムだけに両腕で違う作業とか得意なのか?いや、コイツだけのような気がする。

相棒の書道部も淡々とノートに書き込んでいる。後ろの席の色黒君がノートを覗き込んで「コクバンといっしょダヨー!」とか言っているんだがまさか板書だけじゃなく落書きも書き写しているんだろうかなにそのハイスペック。覗き込むなよ柔道部君、お前らだけなんでそんな平和なんだよ。 コイツラと相変わらず寝ている連中以外のクラスの皆はまだ硬直している。 俺は心の中でツッコミいれてる。なんだろうこの空間。


「そして誰だかわからないけど魔王!!いくら魔王だからって危ない橋渡ってるんじゃねぇよ!!?俺ら学生なんだから!! 他の奴らも何かあったらちゃんと親とか先生に相談しろ!!!魔王に頼りすぎるな!!」


最後にぐるりと教室中を見渡しながらそれだけ言い切ると、学級委員は両手を教卓に振り下ろした。



「結論!!!!魔王の事はそっとしておく!!以上!!」



ダンッ!!!

学級委員が奏でた勢いの良い音と、その音に紛れながら書記コンビが作業を終えたのは同時だった。 ま…纏めたぁあああああああ!!このカオスを纏めきったぁああああああああ!!!! かなり強引かつ無理やりであり勢いで言わなければむりがる言い回しではあるけれど!! 学級委員の真面目だからこその真摯かつこの状況を早くどうにかしたくって投げやりな言葉は、教室の空気をひとつにした!!そうだそうしようと口々に拍手喝采しながらがクラスメイトたち。 呪術師もとい風紀委員と勇者もといバスケ部は不満そうな顔をしていたが、誰も彼らに視線を向ける勇気がないので気がつくことはなかった。 正直な話、藪突っついたら蛇どころかドラゴンとか出てきそうな状況を一般人である我々はこれ以上引っ掻き回したくないのである。


キーンコーンカーンコーン♪


鳴り響くチャイム。

その音に教室中は更にわぁっと盛り上がった。 この長く混沌としたLHRが、授業時間という名の強制力を失った瞬間であった。 つまりは、この混沌としたファンタジックな現実から逃走が可能になると言う意味でもある。そりゃテンションもあがるよね。


「では、今日のLHRはこれぐらいにしようか。みんな机を並べ直そうか。」


おい全ての元凶なにのほほんさらっと締めてやがる。もういいけどさ。

LHRがある日は普段授業の後にあるSHR(ショートホームルーム)が簡略化されるので、さっさと帰宅したい身としてはとても助かる。担任が簡単に明日朝の連絡事項を述べて起立・礼・さようならと挨拶をすれば、今日の授業課程は全て終わりだ。 何事もなかったかのように。否、何事もなかったように思いたい気持ちでいっぱいになりながら大多数のクラスメイトが教室を出て行く。 仲良しコンビも、やっと図書委員に戻ったアサシンも、書記達も、学級委員も、それぞれ部活であったり帰路についたりと様々だ。 風紀委員とバスケ部が一瞬睨み合っていたのがいささか気になるが巻き込まれたくないので見ないことにした。漫画研究部と文芸部が右が左がどうとか学級委員を主役にしようとか言いながら黒板のハイクオリティ作品を写メ連射しているがそれも気にしない。絶対に気にしない。


「はぅ…。」


ぽつりと聞こえた、感嘆の声。

俺はそっと、隣りの席の同級生に目をやる。 みんなが次々と教室を後にする中で、カバンに荷物すら詰めることもせずにぼんやりと座っている生徒がいる。

園芸部である。 ミツアミにメガネの女の子で、いつもニコニコ泥だらけになりながら一生懸命に花壇をいじってるて子。 大人しくて優しくて愛嬌があって、男女問わずクラスでひそかに人気があったりする。 俺も密かに気になっていた子だ。そんな彼女が今、プルプル震えている。というか、このLHRの間ずっとプルプルしていた。 担任の話に涙目になっていたし、バスケ部と風紀委員が暴れそうになった辺りからオロオロしていた。 ちなみに今は学級委員の男前な熱弁に涙目になってプルプル感動してる。 怯えていた表情がみるみるうちにキラキラとしてくるんだから、素直でわかりやすい子だ。学級委員が語り切って、最初に拍手をし始めたのも感極まった表情を浮かべた彼女だった。その状況証拠をまとめると、おのずと彼女の正体も予想がついた。



……うん、お前が魔王なんだな。



多分そうなんだろうな。

俺らの席は廊下側の隅っこで後ろだから、多分俺しか気付いていないんだろうけど。 まぁ、お前が魔王だったら、呪術師もとい風紀委員があの過保護な反応なのも良くわかるわ。 本当、よくわかる。とりあえず彼女自身が危ない事に首を突っ込まないか、或いは変な事をされないかどうかぐらいは俺も気をつけてやろう。 あとは生暖かく見守っていくことにしよう、そうしよう。




―――――――このときの俺には、知る由もなかった。

翌週のLHRが、風紀委員とバスケ部による屋上大乱闘夏の陣に関する学級裁判になる事を。






END


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