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ありふれた悲劇   観測者:谷川将

最近ガチでパソの調子が悪いです。ガッテム!


世界が壊れてからだいたい一ヶ月が経った。

最初の一週間は混乱しかなかった。

次の一週間は誰もが自分が生き残るのに必死だった。

その次の一週間は生き残るために誰かと協力を始めた。

そしてでようやく自分以外の誰かのために動けるようになった。

そんな世界で俺は、谷川将は生きている。

俺は今ギスギスし始めた避難所から抜け出し同じような境遇の仲間たちと行動を共にしている。

このグループでは簡単なルールがありそれゆえ仲間内ではキラーというコードネームで呼ばれてる。正直言うと最初は少し恥ずかしさを感じていた。

こんな名前に決まった原因は多少の遊び心が入ったからだ。そのおかげでコードネームを皆で決める時は予想以上に熱が入ってこの現実を少しだけ忘れられた。その結果がこれなのでなんとも言えないが。



本拠地の中では皆が思い思いに過ごしていた。

本を読んでいる奴もいれば誰かとお喋りをしている奴もいるしうとうとと微睡んでいる奴もいる。

ここだけを見れば世界が壊れてしまったなんて考えられない。

でも現実として携帯は繋がらないし、ラジオは雑音ばかり。そして外には『奴ら』がいる。

まったくもってクソッタレだ。もう日常なんて無いのだ。


なんとなく手に持った拳銃を眺める。これまで当たり前だったはずの日常ではこうして手にすることはおろか見ることすらできなかった物だ。

これの元の持ち主のことはよく知らなかった。カウガールと名乗っていた彼女の名前を俺は知らない。いつか知りたいと思っていたが機会になかなか恵まれなくてそうこうしているうちに彼女は失われてしまった。

こんな思いをするのはこれで何度目だろうか。目の前で消えた命は幾つあっただろうか。いつしか数えきれなくなってしまった。


そんなことを考えていた俺の前に水が差し出された。ワンアイだ。彼はどこか心配そうな顔でこちらを見ていた。

どうやらネガティブになっていたのに気付かれたらしい。彼は言葉でのコミュニケーションができない分を目で見ることで補っているように見える。

それに加え彼はよくノートに何かを書いている。彼曰く日記帳らしいのだが少しだけ読ませてもらった分を見る限りどちらかというと報告書のようだと思った。

観察しそれを記録するのが彼の癖なのかもしれない。


ワンアイに礼を言い水を口にする。設備が充分とは言えないので水は冷えている訳ではない。だけどこの状況下では安全な水が飲めるだけでありがたい。

この水は彼の隠れ家にあったものだ。

彼が隠れ家にしていた学校は当初『奴ら』の数が多く誰も近づけなかった。今だってそうだ。学校の中には『奴ら』は一人しかいなかったがその回りには大勢いた。ワンアイが持っていた誰かの手記によれば学校に逃げ込もうとした生存者グループがほぼ全滅している。

生存者が容易に近づけないからこそ物資が残っていたのだろう。

だがワンアイはどうやってそこに入り込んだのだろうか。そこが少し気になった。まあ彼は喋れないので気軽に聞くことも出来ないのだが。

水をもう一度口に含み改めて礼を言うとワンアイは軽く頭を下げ笑みを浮かべた。


左目に包帯を巻き喉を怪我したのか喋ることもできない彼を自分達は最初見捨てようとした。

この状況下での負傷者。もしかしたら噛まれているかもしれない。もしかしたら感染してるかもしれない。何時『奴ら』になるかわからない以上距離を置くのは当然だ。

だが俺にはそれができなかった。

怪我がほぼ治っていたというのもある。感染していない可能性の方が大きかったというのもある。だがそれ以上に俺は誰かを助けたかったのかもしれない。


幼馴染みがいた。西原恵という名前だった。

ドクター―――信乃姉さんが姉だとすれば恵は妹のような存在だった。

幼い頃は何時も一緒で俺の後ろをよくついてきていたことを覚えている。

無邪気に将来結婚するなんて約束もした。

でももうその約束は果たせない。

もう彼女はいない。

誰もが自分の命を優先し他人を犠牲にしてまで生き残ろうとする中、彼女は俺を庇って噛まれたのだ。


「なあ、ワンアイ。 お前は……」


彼に何を言おうとしたのかはよくわからない。ただなんでもいいから話したかったのかもしれない。

でもそれはできなかった。


―――ぎゃあああああ!


突然悲鳴が聞こえた。


「ヤンキーの声だ!」


誰かが叫ぶ。

なにも持たずに飛び出そうとしたキャットを捕まえつつ他のみんなの方を見れば全員が行動を開始していた。


「みんな、武器を持って!」


「フット、お前は窓を! 逃げ道を作っといて」


「わ、わかった。 ワンアイ手伝って」


「…………」


フットマンとワンアイは退路を確保すべく窓を割ろうとしている。金槌と鉄パイプが窓に叩きつけられる。だが窓は割れない。外からの襲撃を警戒して強化ガラスがあったここを拠点としたのだがそれが仇となっていた。


脱出の準備をしろという声を聞きながら俺は拳銃を手に扉の前に立った。そして隣に並んだビックボス―――英隆と視線を交わす。

こんなことになる前は英隆とは仲が悪かった。いや仲が悪いというよりは互いにライバル視していた。顔を合わせれば何かしら言い争ったりして、喧嘩だって何回もした。

だが今はこいつがいることがこの上なく頼もしかった。

ここには頼れる仲間がいる。勇気付けられた俺は覚悟を決めると武器を握り締め扉を開けた。


そこではヤンキーが『奴ら』に喰われていた。彼の廻りに多くの『奴ら』群がっている。

既に事切れているがさっきまで生きたまま喰われていたのだろう。その表情は恐怖と苦痛に染まっていた。

そして『奴ら』がこちらを向いた。

―――数が多すぎる。


「ドアを閉めろ!」


素早く状況を把握した英隆に引っ張られて部屋の中に戻らされる。それとほぼ同時にドアが閉められた。

数秒後にはドアになにかがぶつかる音がし始めた。皆で協力しドアの前に次々と家具を置いてバリケードを作った。

だがドアは絶えず叩かれており既に軋み始めている。破られるのは時間の問題だ。

こちらが脱出口を確保するのが先か、それとも『奴ら』がドアを破るのが先か。

心臓が早鐘のように鳴り暑くもないのに汗が垂れた。


片時もドアから目を離さないでいると信乃姉さんに肩を叩かれた。そしてリュックサックを渡された。

渡してきた信乃姉さんも医療品が詰まったバックを肩にかけていた。どうやら持てるだけの物資を鞄に詰め込んだらしい。

それを受け取り背負うと改めてドアを見た。


「ヒビが入った! 待っててね、もうすぐだから!」


「……わりぃがその時間は無さそうだ」


英隆がひきつった笑みを浮かべる。ドアは早くも一部が壊れ始めていた。バリケードも長くは持たないだろう。

ドアが徐々に壊されていく間、誰も喚いたり泣いたりしなかった。そんなことをしても無意味だとみんな知っているからだ。最初の一週間でみんな学んでいた。

部屋に響くのは『奴ら』がドアを叩く音とフットマンとワンアイが窓を破ろうとしている音だけだった。


どれだけの時間が経過しただろうか。一分かもしれない。十分かもしれない。

そしてついにドアが壊れた。『奴ら』が雪崩れ込んでくる。

英隆が鉄パイプで『奴ら』を殴り飛ばした。

アーチャーが矢を放ち、キャットが手に持っていた物を片っ端から投げつけた。

俺もカウガールのピストルを構えた。彼女から使い方は教わっていた。

引き金を引く。

ドン!という音と同時に腕に衝撃が伝わる。こちらに向かってくる『奴ら』の先頭にいた一人が仰け反り倒れた。

拙い射撃だったがうまく当たったようだ。もっともこれだけ数がいれば外しようがない。

だが、だからといってすべての『奴ら』を押し止める事など出来やしない。


悲鳴があがる。

キャットが奴らの一人に組み付かれ噛まれていた。

スマイルが彼女を助けようとしているが明らかに手遅れだ。それでも彼は必死に手に持ったゴルフクラブを振り回している。

アーチャーは次々と矢を放ち『奴ら』を殺しているがそれでも『奴ら』の勢いを止められない。殺しきるだけの矢もない。

英隆は持っていた鉄パイプを『奴ら』に掴まれ慌てて手を離した。


―――止められない!


絶望に押し潰されそうになったときガシャーン、という大きな音が聞こえた。後ろを見れば窓ガラスが割れていた。フットマンとワンアイがやったのだ!

フットマンは窓枠に残っているガラス片を乱暴に取り除き外に出ようとしていた。ワンアイは窓の近くまで来ていた『奴ら』の一人を相手している。


「出口ができた! 逃げろ!」


生き残りが慌てて窓に向かう。だがアーチャーはその場に留まり『奴ら』を食い止めている。ワンアイも窓から出ようとしているみんなをフォローするために前に出た。それを見て俺も拳銃を構え直した。

引き金を引く。

『奴ら』の頭がぶっ飛び残った体が倒れる。それに躓いて多くの『奴ら』が倒れた。


横を見れば英隆がワンアイから鉄パイプを投げ渡されていた。

ワンアイは渡した鉄パイプの代わりにナイフを抜いた。

どこかでスマイルの悲鳴が聞こえた気がした。


もはや廻りに気を使う余裕はなく引き金を引き続けた。だが数回拳銃の引き金を引いたところで弾が出なくなった。弾切れだ。

リロードしようと手元に視線を向けたその時、強い衝撃と共に俺の体は後方に吹っ飛ばされた。

痛みに対して悪態を吐くよりも先に顔を上げた俺はなにがあったのかを理解した。

―――ワンアイが俺を庇ったのだ。

彼は俺に体当たりをして押し寄せる化け物の手から俺を救った。

だけどその代償としてワンアイは俺の代わりに化け物どもの集団に飲み込まれていくのが見えた。


倒れ動けないままの俺を誰かが引っ張り窓から引きずり出そうとした。

矢が切れたらしいアーチャーが弓を捨て、近くに落ちていた角材を拾うのが見えた。

俺が見ていることに気づいたアーチャーがこちらに向かって「行け!」と叫んだ。そして『奴ら』一人に殴りかかり―――『奴ら』の群れに飲まれていった。


『奴ら』はアーチャーがいた場所に群がりこちらにはまだ来ない。他にも仲間がいた場所に『奴ら』は群がり皮肉にもこれ以上ない足止めになっていた。


その間に生き残った俺達は脱出した。

生き残ったのは俺を含めても四人だけだった。

生きるために走りながら涙が溢れた。


みんなを守ると誓ったのに


もう誰も死なせないと決意したのに


結局俺はみんなに助けられて生きている


俺は誰も救えなかった


なんて様だ




谷川君は主人公ポジ(確信)


どうでもいい設定

生存者の本名

キラー 谷川将

ビッグボス  天台英隆

ドクター 加室信乃

フットマン  大本勝治


本編じゃたぶん出ない設定です。

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