落とし穴にはまった罪神? おっぱいが素敵すぎです
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『神々の黄昏』開始十日目。
ここに来て、大きな異変が二つ起きた。
一つ目は中央地域のモンスターの活性化により、プレイヤーの死者数が急増した。
昨日の夜、新参プレイヤー42人と罪神16柱がモンスターや野良神に食い殺された。
すなわち死だ。
そして、二つ目。
『かぐやの箱舟』を攻略するために過去に送り込まれたプレイヤーと新参プレイヤーの大軍団が何処かの都市から出撃したと言っていた。
詳細は語られなかったが僕は驚いていた。
この世界に都市があることやプレイヤー同士が一致団結している事に。
これが『かぐやの箱舟』からの最後の情報になった。
「むむむーっ。野良神です。野良の野は野原の野、野良の良は良い子の良なのです。しかーし、決して野原に住む良い子な神様じゃないのですーっ。この矛盾にエクスタシーっ。兄貴さん! でっかいおっぱいに騙されてはいけないですーっ」
箍が外れた狂人のような絶叫……いや、シロの咆哮。
茜色の太陽が地平線より上に登って間もない早朝。
少し肌寒い北風に身を竦ませながらやってきた廃屋の北に広がる森の罠場。
罠場と言っても僕とシロが作った動物や鳥などを引っ掛ける簡易な落とし穴。
その罠にとても食べる気になれない大物が掛かっていた。
「………………」(←落とし穴に落ちた野良神、【僕】と【シロ】をじーっと見つめる)
蹲って黙り込む野良神。
その容姿容貌は人のそれと変わりない。
明るい珊瑚色の髪と白い肌に端整な顔立ち。澄んだ蜂蜜色の瞳が清純で印象的。一方、衣服から覗く肢体のたわわに実った胸もとにシロがジェラシーをメラメラ燃やすほど刺激的だ。ウエストはしっかり引き締まっている。
「クンクン……むーっ。あのエロエロな色香。メロン並みのおっぱいの大きさ。あんな魅力溢れる女性体型は敵なのですーっ。もしかして、発情を滲ませて兄貴さんに迫るつもりなのです。エロ変態が集うヘタレワールドに引き込むつもりなのですーっ」
「シロ、ここでバラしてしまうが、昨日の夜、寝言の遠吠えで力みすぎて失禁してこっそり川に洗濯に行った犬神は誰かな……その行動から残念ながらキミもヘタレワールドの住人だと僕は思うよ」
「ほええーっ。なんで知っているのですかーっ。弁護士です、弁護士を呼んでください。こんな、羞恥プレイ……ゾクゾクっと感じてしまいますーっ。兄貴さんはサドです。佐渡じゃないサドなのです。地獄の三丁目に住む佐藤さんの隣の家にいるサディズムの鬼なのですーっ」
「………………」(←落とし穴に落ちた野良神。プレイヤー【僕】と罪神【シロ】の不可解な会話に小首を傾げながら、じーっと見つめてくる)
こんな馬鹿な会話をしているが結局のところ、重要な事は『野良神』をどうするかだ。
『野良神』を見逃すと僕やシロの身に危険が及ぶかもしれない。
そんな懸念もある。
とは言え殺すとなれば……仏教大好きの僕の理念に反する。
こんな貧困に過ぎる思考では沈思黙考しても答えが出るわけもない。
その上、
「むーっ。せっかく朝日に負けずに早起きして来たのに。肉たべたーい。肉たべたーい。むっちりと脂ぎっしゅで柔らかくて甘味があって上品なお肉たべたーい」
などと、シロはひっそりと静まりかえった森で大きく愚痴を叫び、いじけて深い溜息を付いて膝を抱えて座ってしまう。
仕方がないので、僕はシロの肩を抱き寄せながら、つるりとした滑らかな額に唇を触れさせた。
その行為を直視している野良神は要領を得ない表情を浮かべるがシロは「きゃわん♪」と上ずった嬌声を僕の耳元に響かせる。
するとシロは頬を染めながら子犬のようにぴったりと隙間なく寄り添ってきた。
「兄貴さん隊長。シロは今日もふあふあタンポポやカエルなどの誘惑に負けず、不退転の決意で頑張るばるばるでありますーっ」
シロは僕の目を覗き込むようにしながら、本日の決意を述べる。
僕は鷹揚に頷く。
そんな僕とシロ、二人の関係が凄く気になるのか、野良神は一切の感情がこもっていない無表情のままじーっと凝視しつつ考察。
まぁ、この意気投合具合、今の一コマだけなら少女漫画にありそうな一コマみたい。
と誤解されても否定は出来ない。
ましてや、プレイヤーとパートナーは主従関係。
第一印象として目に飛び込んだ情報がこんなlove(家庭的な意味)な一コマなら混乱もするだろう。
さて、哀れな野良神さんの処分をどうするか。
なにせ、僕はこの七つの世界は十日目。
滑稽な形にしろ初めての野良神遭遇。
ど素人の僕は残酷な処分を下す事に躊躇する。
もちろん仏教大好きの僕は五戒を順守したい。
この場合、生き物を殺してはいけないと言う『不殺生戒』の事だ。
「兄貴さん」
僕を呼ぶ声に険しさが入り混じる。
とても穏やかではない声色だ。
「水虫のお裾分けと情けは人の為にならずです。野良神にそんな配慮はいらないのですーっ。配慮するならうちの朝御飯にとび込む予定の昨日採ったキノコは抜いてほしいです。キラリン☆」
「却下します」
「うえぇぇーっ。キノコのこのこ抜いて欲しいだけですーっ」
「情けは人の為にならずだろ」
「うちは神なのですーっ。その役割を考慮して今一度、もう少し、言葉の限りを尽くして考慮してください」
シロは僕と顔を見合わせながら必死に懇願してくる。
この大切な家族、シロが傍らでいてくれるかぎり、僕は頑張れる気がした。
今更ながら僕の中に占めるシロの存在意義の大きさを実感させられる。
「あのね……シロ」
「むーっ。兄貴さん、野良神飼うと食事の手間がかかりますーっ。そいつは神力が尽きているみたいなので害はないです。おっぱいが大きい事が有害なぐらいですーっ」
「僕はおっぱいの誘惑に負けないから」
「むーっ。ならならですねー、今夜はうちの寝静まった頃合に。熱気を帯びたおちんちんで激しく尻尾プレイしてくれたら飼っていいですーっ」
「尻尾プレイってなんやねんーっ」
そう言って、シロは「兄貴さん大好き♪」と叫んで僕の背中に乗りかかってきた。
落とし穴の底。
かたく縮こませた身体を穴壁に寄せて、少し離れた所でワイワイと騒ぐ僕とシロを仰ぎ見る野良神。
びっくりした瞳と困惑した表情。
これまでの無表情が嘘のようだ。
精一杯の虚勢が崩れた瞬間だった