真実と現実の狭間で・・・の巻
終盤になりました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
◆
「…………ちゃん」
「………いちゃん」
すがるような声が聞こえてきた。
頼りなくて、それでいて保護欲をそそる大切な人の声だ。
どんな事情にしろ、ずっと僕の事を支えてくれた大切な家族の顔が僕をとても心配そうに見下ろしている。
こんな所で何をしているの? さぁ早く家に帰ろうよなどと口走って必死にすがりつく大切な妹・ゆきなの声だ。
「起きて、お兄ちゃん」
「ゆきな」
「うえーん。びっくりした。突然白目をむいて倒れるから。エッチな事を妄想しすぎて死んじゃったかと思ったよ」
床の上で仰向けになっている僕を覗き込むゆきなの口角がクイッと上がり極上の微笑みを見せてくれる。
頭上でくるくると人差指を回して『天使の輪っかなんて浮いてないから安心して』と見ようによっては滑稽すぎるリアクションで僕を安心させようとする。
「さぁ、お兄ちゃん行こう!」
ゆきなは立ち上がった僕の手を握り、幸せそうに笑って僕の腕にしがみつく。
どうやら本気で僕をゲートへ引っ張っていくつもりだ。
お星様キラキラな瞳で見上げてくるゆきなが嬉しそうにじーっと僕を見つめている。
僕の選択……そう、これから起こりうる現状を想像するとナイーブな胸がギシギシと締め付けられるおもいだ。
「ゆきな」
「なになに?」
「お兄ちゃんは帰らない」
「な、なななななななな――っ。なんですって――――――――――っ」
一瞬、何言ってんのぶっ殺す(、、、、)わよ(、、)的なビームが僕を貫いたような気がしたがあえて無視っておく。
僕はおどけた調子で手を後頭部にもっていき、頭をポリポリと掻く。
「お、お兄ちゃん……も、もしかして中二の時に八百屋さんのお釣り誤魔化して懐に入れたこと怒っているの、それとも、下駄箱に入っていたお兄ちゃん宛のラブレターをこっそり燃やして、鬼畜の限りを尽くした返信を無断で送った事、うーん、お兄ちゃんがそんな些細な事で怒るはずないもん……だったらアレかな?」
人差し指をピンクの唇にチョコンとあててとんでもない暴露話を口ばしってきたぞ。
「ゆ、ゆきな……そんな事していたのか……」
「えーえーっ。じゃ、じゃあ、お兄ちゃんの飲み物に毎回睡眠薬を入れてぐっすり眠ったところを一眼レフでお尻の写真撮る趣味が幸をそうして、全国区に『お尻のひととき』写真集を勝手にだしてベストセラーになった事に気付いたの?」
「………………」(←そういえば変なストーカーに追い回されて『写真集買いました、お尻の写真が素敵』と言われた事をはっきりと思い出して声を詰まらせる僕)
「と言う訳で帰ろうよ。ニコッ♪」
「怖くて帰れるかーっ」
透明感溢れる爽やか声からどす黒すぎる黒の歴史が語られて、妹・ゆきなのイメージが……、ガラス細工の繊細さが崩れていく。
「もうもう、黙ってついてきて。帰るの、私とお兄ちゃんだけの世界に帰るの。帰ってくれないとお兄ちゃんの瞳にバナナの汁で作った目薬さしますよ。それとも容器を目玉に刺されたいですか?」
ゆきなは強引に僕を連れて帰ろうとする。
しかし、見た目はだらしなく素っ裸な僕だがドス黒くてもゆきなの腕力は女の子の平均値。
踏ん張った僕を引っ張ることが出来ない。
「ゆきな聞いてくれ」
「聞きたくありません――っ。ドアの角に小指を挟んだような痛みなんか聞きたくないです!」
「僕はゆきなの事が大好きだーっ」
「ええっ? 大好き……お兄ちゃん、も、もっと叫んでください。ほらほら、心を込めて。早く結婚しようなど言いたい放題言ってーっ」
不機嫌面などどこに行ったのか、ゆきなの瞳がピカァーっと輝き、瞬時に息を吹き返す。
可愛らしく照れた仕草と言葉のギャップに萌えてしまいそうだ。
だけど、僕はしっかりと想いを紡ぐ。
「いっぱい心配させてごめん。僕はゆきなを愛しているよ」
「うん、私もお兄ちゃんをいっぱい愛している」
「だからわかってほしい。僕が今、ゆきなと一緒に戻ったら、僕の『家族(、、)』が死んでしまう事になるんだ」
「『家族(、、)』? ……私とお義父さんとお義母さん以外の家族?」
ゆきながキョトンと首をかしげる。
「そう、僕がこの過酷な世界で生き残る事が出来た最大の理由。それは『家族(、、)』に守られていたから。強い『絆(、)』で守ってくれたから。今、ゆきなと邂逅出来た事も『家族(、、)』のおかげだよ。だから僕は見捨てる事は出来ないよ」
「………………」
顔を強張らせたゆきなはじーっと僕を見つめて尖らせた唇をグッとかんで口をつぐむ。
興奮気味にしつこく食い下がって詰め寄ってきていた先ほどとは打って変わって逡巡している。
この間、まるで嵐の前の静けさ……むしろ、先ほどの暴露話が台風の目だったかもしれないぞ!
「お兄ちゃんは寂しそうに打ち震えている私よりもそちらの『家族(、、)』をとるのですね……」
「いや、そういう訳ではなくて」
「すっとぼけるんじゃない。お兄ちゃんの思考なんかミジンコよりも透き通っていてわかり易いのだから。もう、許さない……私の無垢な気持ちを踏みにじるケダモノお兄ちゃんにお仕置きしてあげる」
突然の宣告されるケダモノポジションの進呈だ。
先ほどの『排泄怪人うんこまみれ野郎』と双璧をなしてとても悲しくなった。
「ふふーん、私……鋼色の巨竜みたいな三下と訳がちがうのだからねーっ」
「えっ? ゆきな……なんで鋼色の巨竜の事を……」
僕は思わず声をあげた。
ゆきなの顔から喜怒哀楽全ての表情が消える。
これは怒っている……いや、そんな生ぬるいものではない……激怒・憤怒・嚇怒を足して三の倍数でかけたぐらいの怒髪天をつくバージョンだ。
先ほどまでの猫なで声が嘘のような無表情ぶり。
もはや腰が抜けてちびりそうだ。
「クスっ、可愛いなぁ。だからお兄ちゃん大好き。お兄ちゃんは私の半身……だからしっかりと教育(、、)……じゃなくて、お仕置きしないとね」
フフフッと一瞬だけゆきなが悪辣な笑みを零し、右手を広げるとその手のひらに銀色の卵が一つ乗っかっている。
おや? 今にも孵化しそうだ。
「ゆきな……お前……ゆきなだよな?」
「うん、間違いなくゆきなだよ。シスコンお兄ちゃんに愛されて16年、真性ブラコンの心のエンジェルゆきなだよ」
パリッ……銀色の卵が割れる。
中から無数の触手を蠢かしたタコのような生物が現れた。
「むふ♪ タコピョン……やってしまいなさい」
ずる、ずるずるずる……びゅん。
壮大に蠢く触手が僕の両手・両足に絡みつき、悲鳴をあげる暇もなく僕の身体を宙に吊るす。
何故かお尻を突き出すような体勢で。その上、ヌメヌメした感触がとても気持ち悪いぞ。
「さて、お兄ちゃん。お仕置きタイムです」
絶句する僕を見上げるゆきなは悪戯っ子のようにニヤリッと口のはしをあげた。
え、うそ、ヤメテー!
その手にはいばらのムチが握られており、笑顔のままお仕置き刑は執行された。
パシンっ――
「はうぅぅぅ――っ」
パシンっ――
「あにゃゃゃ――っ」
「おほほほっ、お兄ちゃんのお尻は私の物――っ」
パシンっ――
「や、やめてぇぇぇ――っ」
「やめてほしければ言いなさい。大好きなゆきなと一緒に帰ります。一生お尻奴隷のシスコンの帝王ですって宣言しなさい!」
パシンっ――
「僕は帰らないぃぃ――っ」
「ふふっ、お兄ちゃんったら生粋のドMです。うっとりするほど強情ですね。ならば、このお仕置きはどうですか」
ズブリっ――
「ぐあぁぁぁ――っ。ヌルヌル触手で穴が裂けちゃうぅぅぅぅぅ」
正気でないキラキラとした瞳のゆきなに見守られ、禁断の衝撃リバース。
ああっ、シェル……なんで羨ましそうな表情を浮かべているの。
僕は半泣きなりながら口から泡を噴いて意識を失うのであった。
いかがでしたか?
僕は底にいるも終盤です。
この作品の続編を書くか迷っています。
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