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もう一つのゴール・・・もう一つの家族の巻

ついに、終盤戦になります。楽しんでいただきましたら幸いです。

    ◆

 高濃度の光が収縮する白亜の通路。

閃光は瞬きもなく、柔和なオーラを放ち、僕の肌の表面をシンプルに包んでくれる。

この光は喜び・怒り・哀しみ・楽しさ……生命体の喜怒哀楽を表現する輝きを表現しているようだ。

 僕が通路に足を踏み入れた刹那、侵入者を拒んでいた薄い膜は厚さを増して退路を絶つ。


そう、白い光壁となって入口が完全に塞がれた。

今、シロ・ミオンとの間に意思の疎通をはかる事も出来ない。

だけど信じている。

ただ、心……そう、揺るぎない『家族としての絆』は理屈抜きに固く結ばれている。


 賑やかさの欠片もない無機質な直線通路は長々と続いている。

つまり怯懦に溺れ、この場にとどまる選択をすれば僕は永久に幽閉される。

こ、怖い……。

そんなよからぬ想像して、緊張のあまりゴクリと生唾を呑み込む。

とても怖い、ナイフの一本どころか薄衣すら羽織っていない素肌を剥き出した肉体。


つまり、身を守ることが全くできない状態だ。

それでも僕は前に進まなければいけない。

僕の意思を後押しするように天上や壁面が神秘的に燐光してはっきりと行き先を照らしてくれる。

だらだら歩くわけにはいかない! 

そして、別の意識に引き寄せられるようにゆっくりとだが一歩一歩、しっかりと足を伸ばして無音の通路のその先にずんずん向っていく。


そして空気の質がかわった。

そこは大きな広間だ。

とんでもなく広いぞ! なのに塵一つない白亜の床だ。

だが壁面全体に肩から上だけ生えた異形の者達が……いや、これは野良神だ。

おおっ、あの大猿見たことあるぞ! 

その光景を例えるなら、金持ちの別荘に自己顕示欲を満たすために壁に掛けてある鹿の剥製そのものだ。


「アキト殿……寂しくなって小生に逢いに来てくれたのですか……」


 御簾のように垂れ下がる珊瑚色の前髪の隙間から凛とした蜂蜜瞳がギラリっと僕を見た。その眼差しは喜びと失望、そして信頼が輻輳している。


「シェル……その姿は」

「残念です。アキト殿が小生を娶る為にチンコ丸出しで目の前に立っているのに……後生です、その魅力溢れる一文字なお尻を結婚記念の誓いにウエディングペロペロさせてください。てへぺろ☆」

「な、何だか……思っていたより元気だな」

「ふふっ、そう見えれば僥倖なのです」


 圧倒的な豊潤さと艶かしさを誇る肉体は白亜の壁面に埋まり、滑らかな陶器のような素肌が顕になっている肩から上だけのシェル。


「大好きな殿方に看取られる最後……小生は罪神として幸せなのかもしれない」


うっすらと紅く染まったシェルの頬。

悲劇的な状況の中でも心は絶望とは無縁であることを示すように蜂蜜色の瞳に歓喜の色を湛え、静謐にはにかんだ。


「お、おい、最後って……」


 シェルは蜂蜜色の瞳を見開き、僅かに俯いたまま無言だ。

珊瑚色の長い髪が顔を隠して複雑な感情を押し殺す。

そうやって何かを自覚するように。


「ふー、やれやれ、黙って傍観していたら蜜月かい。仲が良いことだ。苦難を乗り越えた罪人と消滅目前罪神のラブロマンス。ここの『かぐやの箱舟』ダンジョン攻略者殿は変わり者だね?」

「うおぉぉぉぉぉ――っ」


超びっくりした。

シェルと出逢い油断しすぎていた分超絶な驚きだ! 

息が届くほどの至近距離で不気味な横槍が囁かれる。

気配が無かったというか存在感が薄かったというか……どんな理由づけをしてもいいならシェルですら目を大きく見開いて驚愕しているほどだ……

いやそれすら表現が生ぬるいかもしれない。

 無論、シェルと僕の驚きの質が違う(、、、、)みたいだけど。


「心外だな。そんな化物を見るような……いや、そうじゃないよね」


 僕は噎せ返るほど仰天した。

一瞬で声の主の正体を看破すると言う偉業を成し遂げた訳ではない。

僕の瞳に映り込む声の主。

鮮やかなアプリコット色の髪を靡かせる。

透き通るような透明感溢れる容貌に暖かなお日様のような笑顔。

肢体を包み込む純白のワンピース。

釈然としない僕の身体は身じろぎできない。


「……お兄ちゃん」


恥ずかしそうに頬を赤らめる美少女。

それは紛れもなく実の妹・高菜ゆきなだった。

僕はコカトリスのコーちゃんに睨まれた訳でもないのに石像のように固まってしまう。馬鹿言っちゃいけない、こんなことがあるなんて。


「ど、どうして……ほ、ほんとうに……ゆきな……」

「は、はい……ゆきなです。お兄ちゃんの愛してやまないゆきなだよ。もし信じられないならチューしてください。私も信じられないのですぐに結婚してください。ま、毎日、伊佐坂さん家の裏山にある『土蜘蛛神社』に丑三つ時を見計らってお手製の藁人形に五寸釘をカンカンしながら無事を願っていたかいがありました」


 どうも本物らしい。

ゆきなが口を開くと流暢なオーバーキル発言が飛び出す。

悪びれた様子もなく、さらりと素直に思ったことを言ってくるあたりがB型の妹様の真骨頂なのだから。

後ろでシェルも頬をピクピクと引きつりながら苦笑いしている。


「さあさあーっ。お兄ちゃん帰ろうよ。私達の世界に。いっぱい、いっっっぱい頑張った結果だから胸を張って帰れるよ」


純白のワンピースの裾をヒラヒラさせて、ご褒美とばかりにキュートなおみ足を見せつけてくるゆきな。

ウットリするほど可愛い。

ニコニコととびっきりな笑顔でシャープな顎を右肩にのせて、そのすらっとした腕を僕の首の後ろにまわす。

離れないぞ! と意思表示するようにグッと抱きついてきた。

甘い吐息が耳たぶをゆらして、触れ合う素肌が心地よくて、お互いの体温をはっきりと感じられる。


「帰るってどうやって?」


 そんな僕の質問に待っていましたと言わんばかりにゆきなはニヤリと口角をあげて、部屋の奥で一際輝きながら、七色の火花を散らすゲートを指さした。

緩やかな閃光がタラコ唇のような形を形勢する仮想物質みたいな空間の裂け目だ。


「パンパカパーン! あそこの光をくぐったらゴール。その先は私とお兄ちゃんの家だよ。ほらほーら、あの想い出がいっぱい詰まって便秘しそうなほど愛してやまない家だよ。お義父さんもお義母さんも学校の皆も待っているの。お願いだから……お願いだから早く帰ろうよ」


 何度も何度も僕の首をグイーっと引っ張って早く行こうと促してくる。


「ちょっと待て、もし、あの亀裂から僕が帰ったらここにいる野良神達はどうなる?」


 一瞬、ゆきなの目が泳いだ。


「うーん、今日はジメジメしていて陰金田虫を誘発しそうな良い天気ですね」

「僕の股間を凝視して言うなーっ。ていうか誤魔化すなーっ」

「ぶーぶーっ。お兄様ったら。素っ裸のくせにお口がくどいですよ。私の豊潤なおっぱいを特別に見せてあげるので眼福眼福と念じながらこれで良しと納得してください☆チラ」

「納得できるかーっ」

「ほらほら、お兄様。私と一緒にコンビニ感覚で行きましょう」


 もはやゆきなの饒舌はアクセル全開。

僕の疑問の答えをひた隠しにして押し切るつもりでゆるゆると愛らしい吐息を吐く。


「もーっ、私のお願いきいてよーっ。きいてくれなきゃ、お兄ちゃんの部屋の押入れに隠してある私の小学校時代のブルマ全部焼いちゃうよ。お兄ちゃんが寝る前にクンクンしながら使っている愛用の品も、ほら、ベッドの下に隠してある私の水玉下着も。そして、皆にばらしちゃうから、私が寝ているときにこっそりお布団に入って、お尻を枕にしてすやすや寝ていたこととか」

「うわ~! す、すんません。僕が調子こいていましたーっ。も、もうご勘弁ください」

 

 ぜ、全部バレていたのかーっ!

僕は阿呆みたいに大仰に土下座する。

角度も折り目も国宝級の土下座だ。

この血の通っていないような残酷なセリフ。

ううっ、妹様は知らないと確信していたのにーっ。


「それに……血の繋がった兄妹だよ。そう私はお兄ちゃんの半身だよ。世界でたった二人だけの兄妹で家族なんだよ……大好きなお兄ちゃん。もう、帰って来てよ……寂しいよ、一人ぼっちは寂しいよ」 


その瞳から涙が溢れる。

震える細い肩を僕の胸に寄せる。

そして力いっぱい僕をグッと抱きしめる。

不安で切ない想いが妹様の高鳴る胸の鼓動と共にはっきりと伝わってくる。


「帰ってきてよ……もう一人は嫌……お願い」


 ギュッと目を閉じて、震えた艶やかな唇で紡がれる言葉が僕の胸にドシッと刻まれる。

孤独で砕けてしまいそうな心が凍りついた悲鳴のように叫んでいる。

一人ぼっちの部屋。

僕との想い出が詰まった部屋。

突然、僕を失った事で生まれた深い孤独と喪失感。

僕にその哀しみが膨らんだ想いを伝えるために細い腕で力いっぱいギュッと抱きしめてくる。

辛くて、哀しくて、寂しくて。お兄ちゃん助けて……と深いメッセージを僕に叩きつける。

だから僕は強く……とても強い口調でほとんど泣き叫ぶような大声で吠えた。



「馬鹿野郎ーっ。こんな、こんなことしてお前達は本当に神なのか!」



 その咆哮が部屋に響く……そう、響いた。そして全てを飲み込む振動と共に僕の意識がどこかに引っ張られた。



読んでいただきましてありがとうございました。

感想お待ちしております。

又、新作のたんぽぽ荘のお話もゆっくりとですが執筆していきますのでそちらも宜しくお願いします。

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