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古えの伝説、お兄様・・・お、お別れじゃないですよねの巻

   ◆

 腸……それは小腸と大腸。

その先にある現世への扉・肛門。凄まじいスピードで駆け抜けた。

そう錯覚するほど……いや、そう解釈したい。


「兄様……どんな哀しみもいつかは癒えます」

「旦那様、削除されました、忌々しい記憶は削除されました。ククク……」

「ぷぷぷーっ。兄貴さん、リアル蟯虫体験どうだったのですかーっ」

 反応は三者三様。


ただ、僕に手を伸ばして触れるものはいない。

もう悲劇としか言いようがない! 

只今、絶賛ウンコまみれ中なのだ。

言葉にならない。


「ははっ、それにしてもある意味、我が義弟殿は英雄だな。武具の一切通じない鋼の鱗を持つ巨竜にウンコに塗れながらも無傷で倒してしまうのだから。しかしウンコはウコンとは違うのだよ、この不潔君」

「あなたもウンコまみれだろーっ」


 満足気な表情を浮かべるサンタナの一瞥する先、暴威の根源であった鋼色の巨竜がどすりと横たわり空間全体に吹雪のようなプリズムを撒き散らし消滅していく。

巨竜からたんまりと生気を吸収して『神の肋骨』から具現化した巨大クラゲ達。

四柱の野良神達は兄弟姉妹なのか? ぼんやり発光する色以外は同種の条件を満たしている。


「と、兎に角、そこの地下水脈で」

「おや、義弟殿はウンコペアルックシチュエーションがお気に召さないようだね」

「この臭い、そしてこの状況を誰がお気に召すかーっ」


僕は眉間に皺を寄せて鋭く突っ込む。

サンタナはやれやれっといった感じだ。

それでもうんこまみれに対する現状打破は肯定的に受けとったようで、素直に僕とともに緩やかに流れる水脈へ。


「むむーっ。むっほーう、腸内ウンコで溺死せずに生還した二人、それは巡るめく邂逅するチンコとチンコの出逢いなのですーっ。むっひーっ」


 野次馬根性全開。

ずいっと身を乗り出して熱すぎる眼差しを送ってくるシロ。

僕は思わず渋面になりながらも又、皆と出逢えたことにホッと胸をなでおろしていた。



「導かれし者は『権利者』のみと言う事だろうね」


 僕が不思議そうに呆然と通路をみていると頭をかいて苦笑していたサンタナが参ったという口調で小さく言葉を零す。 

そして、どこか達観した仕草で通路の真正面に張り巡らされた薄い光の膜を指先で突く。

するとふわん! と波紋がひろがるように緩やかに波打って、その光の膜は侵入を阻む。


「むむーっ。入れないのですーっ。TSUTAYAさんの十八禁コーナーを区切るスペースぐらい強いシールドなのですーっ」


 シロはどう言う経緯でTSUTAYAを知っているのかは気になるが、純情で未成年の僕にとってわかりやすい説明だ。

すなわち……未成年(資格不適合者)には突破できないと比喩する強力すぎるシールドなのだ。


「と言う訳で、愛しの義弟殿。わたしは負傷で不肖の上に不良のフレアを連れて先にダンジョンから出るとするよ。しっかり治療しなければ傷モノになってしまうからね……いやいや、弟殿が夜伽や夜這いでフレアを傷モノにする分にはかまわないから、むしろ推奨(、、)だよ」


「はぁーっ。不快感を覚える言葉が鼻につきますが……気持ち悪いほどでもないので……たまにはサンタナお兄様に甘えてさしあげます感謝してください……ククク」


 ちょっと照れるフレアルージュは一頻り悪態をつき、我が儘な駄駄をこねながらサンタナに身体を預けるとすぐに意識を失った。

そこには兄妹の好意が溢れる信頼の『絆』がはっきりと見え隠れしている。


「あーあ。我が妹のフレアはいつもこうだ。ギリギリまで耐えてプッツリと糸が切れる。頑固すぎて困ったものだな」


 と、ひとりごちりつつ、サンタナはフレアルージュを抱えると何故か寂しそうな顔をして「義弟殿、また、逢える事を信じているよ」と僕に言い残すと悲しくもあり誇らしくもある不可解な表情を浮かべて、フレアルージュの命を繋ぐ為にこの場から姿を消した。

 


光の膜一つ超えた先。

塵一つ積もっていない通路は妙な高揚感を誘う、溢れんばかり趣がある。

僕の肩越しに顔を覗かせるシロは鼻をクンクンさせながら微かな期待を込めて僕を見上げる。


「間違いないですーっ。この先からシェルのむっちり肉体エロホルモン蛇臭がムンムンとするのです。寝静まっているシェルのお尻をいつもクンクンしていたのでこの臭いははっきり覚えていますーっ」


 底意地悪さもなければ悪態もない、真性なる変態のお言葉だ。

シロはその臭いに確信があるのだろう。

さすがにこの判断ばかりはシロに全権を託すしか方法がみつからない。

 胸の前に両手を組んでいるミオン。

その姿は神聖な場所で祈りを捧げているような格好のまま、大真面目な顔で僕の後ろにぴったりとくっつく。

僕が素肌を露出している部分全体に心地よい体温が放射線を描くように心にまで浸透してくる。

そしてミオンは朱玉色の瞳を向けて気遣わしげに上目遣いで覗き込んでくる。


「アキト兄様、お別れじゃ……ないですよね」


 ミオンの突飛な言葉。

その声の固さや少し泣き出しそうな質感、つぶらな唇をグッと一文字に締める仕草。

些細な疑問の色彩ではなく、もっと核心めいた不安と憂いが二重奏のように紡がれて言葉に浸透している。

なので僕は不安そうな目で見つめてくるミオン目をしっかり見返して真相を尋ねた。


 するとミオンは一呼吸おいて、僅かに目を細めてハーマイオニーに伝承される昔話を抜粋して語り始める。

「古えの物語の語りに、東方地域の『かぐやの箱舟』を攻略したプレイヤー達は『未知の神』が統治する光の間から安寧の現世界に帰還したのです。ただ、一人のプレイヤーを除いて、その英雄がハーマイオニー初代守護者となったのです」


 淡々としていて記憶の糸に引っ張られているような口調。

僕は改めて『神々の黄昏』という国家代表プレイヤーの一人であり、その目的は罪神と共に人類の大罪の清算と現世……そう、愛してやまない大切な妹の待つ世界に帰還する事だと力強く認識させられる。

ミオンはそんな僕の表情と心の機微を読み取ったのか? 傍からみれば痛ましくなるほどの鎮痛な面持ちを浮かべる。


「ボクは産まれも育ちもこの世界。コーちゃんも罪神の子孫。だけど、兄様はあちらの世界から堕とされた贖罪人(プレイヤー)。パートナーとの縁は途切れることがないというけど……だからこそボク……兄様の……一生連れ添えるパートナーになりたかったよ」


 ミオンは歯をくいしばって泣いていた。

僕の背中に顔を押し付けてポロポロと涙を零しながら泣いていた。

溢れ出す涙が僕の背中を伝う。

小さく噎せるような嗚咽。

あらゆる感情が入り混じって人目もはばからず泣く。

想いをぶつけるように激しく肩を震わせて必死に想いを訴えかけながら。

心に響けと願いながら。


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