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それって邂逅? 再開のミオンは男の子? 女の子? ああっ、フレアルージュさーん、それって誤解なのですの巻

     ◆

「やっぱり! アキトさんだったのですねーっ」

 

うわーっ! 

 ビックリしたぁ、突然見知った人影がムササビのように軽やかにヒョイっと飛びかかってきたのだ。

しかも『会いたかったですーっ』と言う雰囲気てんこ盛り、胸にとても懐かしいものが広がり満ちた声だ。

どう解釈してもその破顔した顔とべったりとくっついてくる仕草は只事ならぬ好意を抱いたような喜びを湛えているぞ。

煌き流れるようなエメラルド色のツインテール。

朱玉色の瞳に好奇と親愛の色を宿し、その上のかまぼこ眉毛は垂れ下がり、無邪気な子犬のように無条件で尻尾をふって僕の胸元に顔を埋めて感情を爆発させる。


「え、えっと……ミオンだよね?」

「はい、ミオンです。西方の果てで命を助けていただいたミオンです。もし、お忘れなのでしたら外で待っているコーちゃんにお尻を突き出してもらえればショック療法で記憶が蘇るかもしれません」


 それだけはぜったいにやらねーぞっ! 

 その何気なしのいじめっ子的ショック療法推奨運動を全面的にスルーしながら僕の記憶にある『甘えん坊の弟』的なミオンのイメージからかけ離れた雰囲気にびっくりした。

 ミオンは朱を基調に金の装飾が豪奢なゴシックドレスに身を包み、貴族令嬢などを連想させるに充分な出で立ちだ。

それが勢いよく無防備な僕に飛び込んで、僕の首に悪戯っぽく腕をグイグイ絡ませてしがみ付いてくる。

おお~おっぱいがあたっていますよーと言いたいが、僕は余りの驚きに「ふにゃ」などと頓狂な声をあげてしまった。


「すごくビンゴでした! 今日の動物占いで『運命のお尻と邂逅する』とラッキーカラーの金色は大当たりです♪ ギルド本部でサンタナさんが面白い拾い物と伝説級のドロップアイテム『神の肋骨』の保有者発見と小耳にはさんで、その噂の特徴のお尻がアキトさんにそっくりだったので、これはもしかしてと思いうかがったしだいです♪」


 なんでお尻にまつわる噂が一人歩きやねん! 

これは清らかな程に好意が見え見えである、もうすけすけ過ぎて骨まで見えそうだ。

僕は苦笑いしつつ、ミオンの背後に目をやると……ゾクリっと背筋が凍えた。

な、なんだあの殺意がにじんだ視線はーっ! 

 こ、怖すぎるフレアルージュの視線と交差した。

……あっ口元の小さな笑みがシニカルすぎる。


「オホン……殺したくなるほど仲良すぎる所に失礼します。えっと、お二人の関係は……それは味噌ですか、それとも知恵の輪級ですか?」


 意味不明だ。

僕の言語解析能力のキャパを超えている。

瞳に宿る殺意を押し殺すように目を細め、咎めるように声を低くし、答え次第ではマッドサイエンティストになっちゃうかも☆ てへ……と言った雰囲気で高圧的かつ物珍しそうにフレアルージュがぽつりと呟いた。


「あっ、すみません。つい嬉しくなって。ボクはラウラエル家の次女ミオンです。え、えっと、アキトさんはお尻が結んだ関係なのです」

「えっ、あの名門ラウラエル家!? それに、お、お尻の関係ですってーっ!!」


 うわーっ、バカーっ、お前男だろ、そのうえお尻の関係だって! 絶対に誤解されるぞーっ。

 ミオンのぶっ飛んだ言葉をまともに受け取ったフレアルージュの表情が暗殺者のそれに変貌し始める。

今のフレアルージュにバック効果音があるならゴゴゴゴゴッーだろう。

今、一定距離以内に近寄る事は死神のお世話になる可能性大だ。

やばい、目を合わせたら殺されるぞーっ! 

自己防衛本能が全力で働いて僕の視線が自然にフレアルージュから逸れる。


「ほほーっ。お、お尻なのですか?」

「はい、あの甘く優しい肌、白いお尻を……意識を失うほど激しくて……ぽっ」

「意識を失うほどですか……旦那様、次は魂を失う番ですね」


 助けてポパーイ!(←ポパイって誰やねん!)

 頬をピクピクと痙攣させるフレアルージュが危険なことこの上ないセリフをさらりと言ってのける。

黒い気炎が両肩からのぼって恐ろしいですよーっ。

口元から「フフフ……」と怪しい声が漏れると飄々とした物腰でイスにどっしりと座る。

そしてテーブルに幼い仕草で身を乗り出しながら両手で頬杖をついて嗜虐性を必死に抑えているもよう。

もう、なるようになれーっ。

 僕はコホンッと咳払いをして二人に割ってはいる。


「まてまて、フレアルージュさん。何か大きな誤解があるようだけど、ミオンは男だから」


 うわ~「何いっているの、おめめが腐っているのですか? 旦那様」と視線が訴えてくるぞー。

 ミオンの姿。

男性の領域を超越するほどゴシックドレスが凄く似合っている。

似合いすぎて僕も胸がキュンと、ときめいてしまいそうだ。

勘違いもするのも仕方がないよな……ただ、その勘違いは段違いにボタンの掛け合わせがズレていたら不当な弾劾の的になってしまう。

そう心でシュプレヒコールが上がりそうだ。

先ほどの大量のタガーを思い出して汗がたらたら滴る。

僕の視線の意味が分からずにミオンは小首をキョトンと傾げるが雰囲気を感じ取ってくれたらしくコクリっと一度だけ僕に頷いてくれる。

するとミオンはベッドから降りて不機嫌の権化となっているフレアルージュの真正面に立つと気持ちを引き締めるように相対する。

丁度、僕からは背の小さいフレアルージュがミオンに隠れてしまいミオンの背中しか見えない位置だ。


「は、恥ずかしいですが……アキトさんのお頼み事です。性別をはっきりさせます。その代わりにアキトさんはしっかりとボクに対しての責任はとってください……。そしてフレアルージュさん、ボクの決意をしっかりとその目に焼き付けてください!」


ミオンの決然たる想いが込められた両手が品よくスカートの裾を持つ。

そしてばさぁーっと開かれる禁断の世界。

凝然と目を見開いたフレアルージュが「ふ、ふやぁーっ」と嬌声をあげて突然、白目を剥き後頭部から床に崩れていった。

ゴチンっと豪快な音が響くと糸の切れた人形のようにピクピクと横たわってしまった。

フレアルージュ、だ、だいじょうぶかぁぁーっ。

乙女の雰囲気満載でふわりとスカートが広がりながら振り向いたミオンの顔は真っ赤に染まっている。

とてもやり遂げた感満載の得意げな顔だ。


「アキトさん」


ミオンはぐっと両手を握り締めて僕を見つめてくる。

嘘でも冗談でもない真実の込めた想いをのせて。

「変な勘違いはしないでください。ボクは正真正銘の女の子ですよ」


「………………」(←ミオンの言葉の意味が正しく理解出来ず無言になる僕)


 め、滅茶苦茶おどろいたーっ。

 あんぐりと口を開けて驚愕している僕の態度が心外なのか、ミオンはゴシックドレスを着こなした乙女チックな姿のまま腕組みをして唇を尖らせる。

おやおや、少しすねているようだ。


「い、いつ、性転換を……」

「そんな解決方法はしていません。あの、なんていうか……ギルドは野蛮で繁殖行為しか興味のない輩もいる危険な一面もあります。便宜上、男性のふりをしている方が安全なのです」

「じゃあ、なんでギルドに?」


 それは素朴な疑問だ。

そんな危険な場所とわかっているなら、わざわざ性別を偽って男装までしてギルドに入る意味が分からない。


「驚かれるのも無理ないです、ギルドに入る……それは、我が名門ラウラエル家が良縁を探す為に行う一族の掟なのです。我がラウラエル家の家訓、想いを告げられる異性が出来るまでは男装を貫く事、その実戦なのです……そして、ボクは優秀で優しい男性に一目惚れしました」


 ひ、ひとめぼれってー。

ドキドキする想いを抑えてもう一つの疑問をミオンにぶつける。

「それじゃ、何故、フレアルージュは倒れたの?」

 ほら、そこでピクピクしながら倒れているよーっ。

 フレアルージュが大仰に倒れた理由を問いただすとミオンは「えっ、そこを聞いちゃうのですか?」といった具合にビクっと身体を震わせる。

この熱暴走的告白が嘘のようにしおらしく、純粋無垢な少女の面影をばっちり残す容貌が朱玉色の瞳よりも紅に染まる。

もはや、まっかなタコ状態だ。

 その熱に浮かされたような紅色の顔のまま、


「そ、それは……ううっ、ボクの……✖✖文字を見たからかな……」

 と小さく囁くと、とっても恥ずかしそうに羞恥を覚えたように両手で顔を覆う。

「✖✖文字って?」

「うーっ。アキトさんはサドです。……頑張れボク。そ、そうだとも、身も心も捧げるって決めたのだ。お、おほんっ。じ、実はボクの一族の掟であり、誓いとしてですね……」


 ミオンは少し言葉を詰まらせて、コクリっと息を呑む。

バカ笑いなど出来そうもない雰囲気を纏って、とても真剣な面持ちだ。

とっても嫌な予感がする。

僕は暗澹たる気持ちを押さえて苦笑い。

まったく笑っていないミオンの目が怖いよーっ。

一瞬だけ少し瞳を閉じたミオンは両手を胸元に添えて祈るようなポーズで僕に甘い眼差しを向ける。そして、


「ボク、勇気を振り絞って陰部の毛をスッキリと剃って、メイク用特殊道具でアキトさんの名前を入れちゃった……てへ☆」

「テへじゃねーっ」


 ツッコミどころ満載じゃねーか! 

 僕はドンっと盛大にベッドを叩いてツッコミを入れた。

 気付けば窓辺から広がる西の空が茜色に染まっていた。

この部屋が茜色に染まらなくて良かったと安堵しつつ、僕はピクリともしないフレアルージュを担いでベッドに横たわらせた。

そして、建物の外を見渡す。

大勢が行き交う大通り、そこに既視感がよぎる人影を僕は見た。

そして、向こうの人影も瞳をウルウルさせてじーっと僕を見ているようだった。


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