サンタナとの出逢い、シロとシェル、残された遺産(ドロップアイテム)と愛されていた真実の巻
◆
普段からあれこれとボケをかますシロとシェル。
そのたびにツッコミを入れていた昨日までの平和な日々。
そして、その二柱に守られていた日々。
仏教大好きの僕は五戒と言う戒律が大好きなのだ。
とても清らかで美しい考え方だ。
なので、僕は妹と新しい家族を手に入れてから好んでこの姿勢は貫いていた。
しかし、今日全てが覆された、モンスターが蔓延る世界、モンスターからすれば人は餌や家畜と同等なのだ。
出逢えば生きる為の狩りが始まったとしても忌避できない。
僕は初めて単独でゴブリンと出逢いその恐ろしさを知った。
生きること……そう贖罪人として戦う行為の意味を体験したのだ。
深夜の森。
凛とした大気が張りつめてモンスターの遠吠えすら聞こえない静寂の中に紛れたおかげで焚き火のパチリッと言う跳ねる音が思っていたより僕の鼓膜に響く。
獣道を縫うように歩いた僕達はゴボッと生えているような巨大な岩塊と洞窟が密集した場所で足を止めた。
洞窟は資源採掘の為の穴だった事を語るように風化しかけた小屋がぽつりぽつりと岩塊に混じって点在している。
僕達はその小屋の一つを今日の宿と決めた。
今は焚火を挟んで麗人と向かい合い座っている。
麗人の名はサンタナ。
銀鼠の髪と切れ長の瞳が大人びた雰囲気を演出する。
バックソードを傍らに置き、身に纏っていた黒塗りのレザーアーマーなどを脱ぎ捨てるとますます外見からでは性別の判断をしかねる中性美だ。
ときより、僕のお尻に向けられる獲物を狙う肉食獣の目は下心あふれる男性そのものだが……。
そんな、サンタナは今、大きく目を見開いて驚愕していた。
その原因は僕がシェルから貰ったショルダーバックの中身を乱雑に床へひっくり返して現れたドロップアイテムとそのショルダーバックに刺繍されている『シェル・サーシェ』の名に。
ちなみにドロップアイテムを見た僕の反応は本気で苦笑いだ。
犬神のシロなら「むひひーっ、お骨骨が大量なのですー」と言って口にくわえながら、もろ手をあげて大喜びしそうなアイテムだろう。
骨・骨・骨・木の実・骨の五種類。
ポーカーなら骨のフォーカードが揃う強力な布陣だが、歴史資料館で弥生時代の発掘品にありそうな骨の価値、僕には理解できない。
「うぉ~! またとんでもない激レアアイテム持っているな。お、お前、このアイテムを売り飛ばしたらハーマイオニーの一等地に家一件は購入して一生遊んで暮らせるぞ」
サンタナは肋骨ぽい一本の骨を持つと鑑定師のように隅々まで目を通すとうっとりした表情でふぅーっと感嘆の息を吐く。
そして僕に見せつけるように骨を上下に振ってくる。
そんなに振られても、僕にはその骨が、隣の伊佐坂さんの家で飼っているハチの大好物にしか見えない。
「いいか、この骨は『神の肋骨』。徘徊する高位の野良神が他の神を飲み込んで、胃袋の中で消化しきれなかった骨が集まって出来る激レアアイテムだぞ。しかもこの大きさになるには相当数の神を捕食している強大な野良神でないと作れないぞ」
僕の目を見たサンタナの表情がすごく真剣で、興奮して頬の辺りがプルプルと震えている仕草がジョークの類でない事がひしひしと伝わってくる。
「それに、こいつだ」
サンタナはそこで言葉を区切ると嗜虐的な笑いを浮かべて大きく息を吐いた。
親指と人差指でつまんで持ち上げた木の実。
ユキノシタ科フサスグリの実を思わせる真っ赤で光沢がある実を見つめる視線が静まりかえった室内で一際熱をおびる。
「『神の欝し実』だ。これは伝説級の代物だぞ。神格の高い野良神に罪神とプレイヤー双方が食われて、愚痴愚痴した無念の想いが能力をそのまま眼球の中に押し込んだ代物だ。これを食った奴はこの実に宿った神の力を無条件で手にすることができる……とハーマイオニー書物庫で閲覧した記憶がある」
とっても感嘆した声だ、もう驚きすぎたぜ! と言っているようだ。
サンタナの手先は国宝を扱うように繊細の注意をはらって『神の欝し実』を取り扱っている。
そんなサンタナを見つめながら僕の脳裏は全く別の疑問が浮かんでいた。
それは僕の感情と思考の闇にくすぶっている疑問だ。
そう、シェルが僕にこれほどの激レアアイテムを渡した意図についてだ……又、出逢うために生き延びろと言うことか……それとも……。
「ところでアキト。このショルダーバックとアイテム。どこで手に入れた?」
少し詰問調の声だ。
僕を見据える眼差し、凛とした迫力に気圧されつつも僕は腹をどしっと据えて自分の無知蒙昧を曝け出すように事の顛末を伝えた。
意図的にそう仕向けられたのであれば僕はアイテムを奪われてこの場で殺されるだろう。だが、脅威に晒されている現実は今もこの先は変わらない。
自分に対して言い訳や誤魔化しを通したくは無かった。
自分の中で勇気をかき集めてサンタナに協力を得る。
それが、今の僕に出来る唯一の手段だから。
「なるほど……家族かぁ」
一通り話終えた僕は悲しい気持ちになり、視線を落としたまま涙を流してしまった。
心の想いを吐露すればするほど認識させられる。
沢山甘えていた事や凄く愛されていた事、すごく楽しかった毎日。
そして全てに亀裂が入って崩れ去った現実。
とても空気が重くなるどっしりと重くなりすぎてダンベルかよ! とつっこみたくなる。
僕は必死に泣きやもうとするが自分の情けなさが込みあげてしまい「ううっ」と嗚咽が止まらない。
ずっしりと重い沈黙の中、シロやシェルへの想いがとまらなくなって大粒の涙が絶え間なく瞳から頬をつたって地面に滴り落ちていく。
「なら、家族を助けにいこうや」
それまでの静かに僕の話に耳をかたむけてくれていたサンタナは一際明るくケロッとした声をかけてくれた。
僕は少しだけ鼻をすすってサンタナと視線を交わした。
その時のサンタナは息を呑むほど美しかった。
そう慈愛に満ちた男女を超えた美がそこにあった。
「ど、どうして……?」
僕の問いかけにサンタナは人差指を唇に添えて柔和に表情を崩した。
それは非常に大人びている容貌なのに柔らかそうな髪がほっそりと肩まで伸びているせいか無垢な幼子のようにも見える不思議な雰囲気をかもし出している。
「その質問に答える前に一つだけ約束してほしい事がある、守ってくれるかな?」
サンタナの真意は測りかねるが、別段疑うこともなく泣きながらコクリと頷いた。
その姿が何処かユーモラスだったのかサンタナはクスリッと失笑する。
それはサンタナ流の『緊張しないでくれよ』と言う意思表示だったのかもしれない。
「それはね……」
サンタナは声をひそめつつも僕の隣に座ると右手を伸ばして手馴れた手つきで僕のお尻を撫で回し始めた。
そして、
「うちの根暗で性悪でオタクの妹に雰囲気がそっくりだから……かな」
と囁く。
どう考えても言葉と行動が一致していないぞ。
実に幸せそうに僕のお尻を撫で回すサンタナ。
ううっ、微妙に感じちゃう♪。
僕はどう応対してよいか分からず呆然とする。
「なので、今からサンタナさんなどではなくお兄様とお呼びなさい。『ふたなりのサンタナ』の異名を持つ私としてはお姉さまと呼ばれても良いのだが、個人的見解としてお兄様の呼び名が萌える。さぁ、心を込めてサンタナお兄様と呼んでおくれ」
ふたなり(、、、、)ですってーっ!
仕草や行動に曖昧さが全くないぞ。
まさぐるお尻に言い寄る言葉。
良く見れば『はぁーはぁー』と妙な息遣いもしている。
そのヤバすぎる息遣い……もう変質者のレベルだ。
小学校の近くの路上にいればPТAがほっておかないレベルなのだ。
その言葉が事実なら僕に手を出さなかった明確な理由が浮き彫りとなる。
「それに、妹にやっていたようなスキンシップをしてもいいかな」
心の底から陶酔するように身体を密着させるサンタナに
「あのー、一つだけ質問なのですが」
と恐る恐る伺いをたててみる。
「何だい?」
「それって……お尻を使うことですか……」
僕の唇から断片的に短い言葉がこぼれるとサンタナは凛々しさと美しさを湛えた相貌をブンブンと縦に振る。
うぉ~こえ~よ。
サンタナが魅惑的な笑顔を覗かせると僕の心は震え上がった。
腰を引かせて後ろに倒れ込むようにして僕は肢体を強ばらせるのであった。
その日は物欲しそうに指を唇にあてるサンタナを威嚇しつつ清らかな身体を守ることができた。
翌日、朝食の席でサンタナに勧められて『神の欝し実』を食べた僕は意識を失った。
その後の僕のお尻の安否はサンタナのみが知るところであった。




