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遠征部隊の生き残り? お強い貴方はお尻好きはなのですかーっ(T ^ T)

  ◆

 既に太陽はお仕事を終えたように西の地平線に沈みかけていた。

茜色の煌きをまぶした草原は周囲を警戒する小動物の楽園となっている。

僕は眼球が押しつぶされたような痛みを我慢して砂だらけの頭をさすりながら草原を歩いている肩にかけたショルダーバッグがやけに重い。

先ほどまでは少し先にある小高い丘に流れ星さながらに猛スピードで墜落してパックジュースに突き刺したストローのように柔らかな大地に頭からめりこんでいた。

もはや、ちょっとしたB級コメディー映画のワンシーンだ。

眉間に皺を寄せて立ち上がった僕が見た光景。

 それは遥か先に高い壁が途方もなく延々と伸びている風景だ。

歴史の教科書に記載されている万里の長城みたいに壮大で思わず息を呑んで見惚れてしまう。

小高い丘の周辺は草木が咲き乱れる草原が広がり、その草原の先には大きな森がドーンと鎮座している。

その森の更に先に荘厳な空気を空に向って焚かれているような大きな塔が見える。

おもわず『おお……』と感嘆がもれる。

 長年放置されてうらぶれた廃屋(我が家)とは違う。

頽廃の色など微塵もない壮麗な塔だ。


「グォルルー」


突然の咆哮。

威嚇の声だ。

欲望に飢えた威嚇の声。

ガクガクと足を震わせて振り向いた僕の眼中に入ったモンスターの姿に息を吸うのも忘れて立ち竦む。

 その姿は醜悪。

狡猾そうな目つきで素行も悪そうな息遣い。

知性の低さと本能の強さが伺えるゴブリンが酔狂にも単独で行動していた。

 断言しておく、僕はかなりのヘタレだ。

しかし、この場にヘタレ込む訳にはいかない。

へたり込んだその瞬間、弱肉強食、食物連鎖のヒエラルキーに従うことになるすなわち死だ。

突如として遭遇してしまったゴブリンとの戦闘は思わぬ形で終焉を迎えることになる。


「あぁぁぁ~~っ!」


 とお空高くからすごい声が近づく。

 すると、空の遥かかなたから一筋の閃光が彗星の如く落ちてくる。

 おぉ! どんどん近づいてくるてん…っと言うか……ギャァァー!! 

 重力に引かれてゴギーンと言う激しい音と共に僕の頭上に落ちてきた。

 あまりの唐突さに何だかゴブリンも口をあんぐり開けてあっけにとられているぞ。


「うががーっ、こらキミ」


 落ちてきた謎の物体は超音波のようなキンキン声で……うぅ、何だか可愛い声かも。

とにかく僕の頭に落ちてきた謎の物体は宇宙人ではなさそうだ。

 もう、運が悪すぎ(、、、、、)だ。

 うぅっ、ジンジン痛い本日二つ目のたんこぶ! 

 そのたんこぶが重なって膨らんでお正月の鏡餅みたいだ。

 僕は情けないやらやりきれないやら、その上すげぇ痛いやら、しゃがみ込んで頭をかかえた。


「グオルルー」

「うるさい!」

「グォォォーン――っ」(断末魔)

 

 閃光一線。高速の剣線がゴブリンの醜悪な肉体を捉える。

真っ二つの胴体からどす黒い血のシャワーがドビュ! と咲き乱れると大地の表面を覆う草木に降り注ぐ。

 ゴブリンの剥離された肉体がドタリと崩れ落ちた。

 絶命したゴブリンを一瞥するキンキン声の謎の物体の剣先が僕の喉元に向けられる。

 おもわずゴクリっと息を呑む。

 ひんやりする感触とゴブリンの血の生々しい匂い。

 朦朧としていた意識がグイッと現世に引き戻される。

 僕の眼中に女性らしい声とは裏腹に中性的雰囲気が際立つ青年? らしい人物が立っている。


物理的にも運命的にも僕の生殺与奪権をしっかり握った麗人(彼女? う~む、一応男っぽいな)はでっかいたんこぶを頭にこしらえて不機嫌そうに唇を歪ませながらジト目で睨んできた。


「見かけない顔だが、キミも西方地域攻略組の生き残りか? というか……そっちのけはあるか?」


 そっちのけってなんやねん! 

 この麗人からお前絶対に知り合いじゃないだろうと言う先入観がヒシヒシと伝播してくる。

しかし殺気はない。

 殺気よりも好奇の瞳がすごく心配♪ 人畜無害そうな草食系仏教大好きな僕と逢えたことを凄く喜んでいるような。


「ええっと、僕はこの西方地域のプレイヤーだ。キミ達のギルドがある中央地域のプレイヤーじゃないぞ」


 僕の返答に麗人は少し眉をひそめたが僕の唇を見て艶めかしくペロリと舌なめずりをする。

 おーっ赤い舌を覗かしてヘビか! こいつヘビなのか! 

喉元に死の接吻のように突きつけられた剣先が離される。

麗人は身が竦むほどの威圧感を解くと鋭い刃先が槍状に尖った長さ80センチほどのバックソードを鞘に収める。

ふ~命拾いしたー。

 そして、「手を頭に置いてお尻を……いや、背中をこちらに向けなさい」と言ってきた。

 知り合って五分もたっていない人物の指示に従う事に抵抗はあるが結果として命の恩人に当る人物。

 僕はクルリと背中を向けて麗人の指示に素直に従うと『素敵なお尻』と小さな声が聞こえてきた。


「お、おほん……まぁ、よしとするか。たまには」

 たまにはってどういうことなんだーっ。


 僕の耳元でぼそりと呟くとぽつんっと僕のお尻に温かい感触が当る。

うおぉぉぉー、変態がいたー!

 そして、某地下鉄の痴漢のように手慣れた手つきでまさぐってきた。

 あれ、この人恍惚とした表情でうっとりオーラがバンバンでているぞー! 

 理由は良くわからないが僕は全身じっとりと汗ばんでいく……本能だ、僕の本能が危機を察知しているのかも。

 そして、麗人は、ふぅと溜息をついて、


「お尻は口ほどに一文字と言う格言は正しい。その蠱惑的なお尻に嘘は感じられない」


 お尻の嘘ってなんやねん! 

 目つきはその人の気持ちがあらわれるもの『目は口ほどに物を言う』とことわざは知っているが……何故にお尻(、、)、これはこの世界のことわざなのかも。衝撃的な麗人の言葉を聞き、いささかドン引きと言うかその目変質者ぽいですよーっ! 


「それにしても、モンスター生息地に武器も携帯せず魅力的なお尻一つでウロチョロするなんて。お尻目当ての盗賊と出くわしたらどうするつもりだ。それにお前のパートナーはどうした?」


 麗人の問いかけに僕は思わず言葉が詰まる。

その言葉がキーワードとなり、先ほどまでの記憶が脳裏に蘇るシロ、シェル……。

悄然とした雰囲気で僕はうっそりと振り向く。

おおっ! 麗人の顔がまん前だ。

真正面から向かい見つめ合ってしまう。

とても興味深く僕を見つめる瞳はむふっ♪ とした好奇心に溢れている。


「ほほぉー一人か一人なのだな、だがそんな魅力的なお尻で一人歩きなんて危険だ。拙者が連れになってあげよう☆ キラリン」


うわ~瞳がギラギラとギラついているぞーっ。

 麗人は僕の右肩をポンっと叩いて、下心見え見えで共の行動を促してくれた。


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