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心と絆は美しい・・・ああっ、お尻を助けてください

    ◆

『神々の黄昏』開始十六日目。

「大変なのですーっ。もやしっ子がおめめパチクリ起きたのです!」

 少し雪がちらつく肌寒い早朝。

うらぶれすぎて貧乏神も寄りつきそうにない元廃屋(現住処)裏の川で流れの心地よい音を聞きながら座禅を組んでいるとシロのよく通る快活な声が聞こえた。

少し、ものたりないのだが、やむなく僕は瞑想を中断して元廃屋(現住処)に入ると小さな短躯が飛びついてくる。

艷やかな銀髪がふわりと弧をかき、見かけだけなら美少女のシロが手をせわしなくパタパタさせてクンクンと僕の匂いを嗅ぐ……いや、堪能をしている。

「ふひぃー。モーニングクンクンは最高なのですーっ」

「シロ、顔を洗え。口元からカエルの足が飛びでてるぞ」

 シロの唇からキュートに飛び出たカエルの足。

それはシロがココほれわんわんスキルで獲得した冬眠中のガマカエル。

朝飯で食した、冬眠中のガマカエルと山菜スープによるものだ。

「兄貴さんは心配性ですなーっ。今、拭いたので安心してください」

「僕の部屋着で拭くなーっ」

 有り余るほどのバカさ加減……朝から敗北した気分だ。

子供の我が儘を咎めるような視線を送ってもどこ吹く風、シロは幼児性愛好者にはたまらないであろう子犬のようにクリクリとしたつぶらな瞳で透明感溢れる変態度を見せつけてくる。

「ううっ、シロ殿にクンクンさせるとは……ペロペロさせてくれないアキト殿は小生を仲間はずれにするおつもりだな……」

 とびっきりのジト目をシェルに向けられた。

僕とシロの戯れ合いを目の当たりにして、およおよと藁の敷いた床に崩れ落ちるシェル。

そしてワナワナと震える肩。

その表情から推測すると、物凄い三流役者っぷりだった。

「小生は非常に傷つきました。傷ついたの『き』は生娘の『き』なのです。もはや、『生娘』の『き』を傷づけられた小生はアキト殿にレイプされたも同然。乙女の恥じらいを汚す重罪すぎる行いです。アキト殿に賠償責任が発生したので贖罪を要求します」

「その要求は却下します」

「な、なぜですか、小生はゲロゲロまで見せたのに。ちょこっとだけお尻をペロペロさせてくれれば万事解決なのです」

 決意を胸に秘めた力強いシェルの宣言。

しかし、口許からタラーとヨダレが垂れている辺り、むきだしの本性がバレバレですよーっ。

僕はシロとシェルを軽くあしらうと、鍋に残っているスープをコップに注ぎ、僕を見つめる少年プレイヤーの傍らに片膝を付いて目線を合わせた。

「気がついたようだね」

 僕はスープの入ったコップを少年プレイヤーに差し出した。

全身に刻まれた裂傷も痕は残ったがぴったりと塞がっている。

決して高度なポーションを使用したわけではない。


――ガマ油の効能――


昨日、シロが捕縛したガマガエル。

シェルを見た途端、どっぷりとガマ油を生産してくれた事と朝食のタンパク質に感謝。 

 僕に瞠目する少年プレイヤーの手がコップに伸びる。

そして、こちらの意図に警戒するような素振りもなく一口ほど飲んでくれた。

おお! 肝が据わっているな~! 

僕は改めて少年プレイヤーを見る。

少し傷んでいるがきらきらと流れるようなエメラルド色の髪。かまぼこ眉の下、朱玉色に輝く瞳が特徴的だ。容姿は美人と言うよりも可愛らしい分類に入る。線の細い四肢は成長段階なのだろう、どちらかといえば『甘えん坊の弟』というイメージだ。

「しばらく安静にしてろよ」

 少し強引な物の言い方だが、それは悪い方向に働きかけているわけではない。

離れようとする僕に意味ありげな視線を向ける少年プレイヤー。

アレ……とっても嫌な予感……

痛々しい身体を酷使して大きく空気を吐いて息を整えると、

「貴方は男性プレイヤー? ……ですよね」

とか細い声で伺いを立ててくる。

とっさに意図が把握できなかったが僕はこの少年プレイヤーが何か考えがあっての発言と認識。素直に一度頷いた。そうすると眉をぎゅと寄せて、とても深刻そうな表情をうかべて、僕の右腕にしがみつき、

「お、お願いがあります、お尻を貸してください」

 その声は一刻も早く処置をしなければと言う痛切な願いが込められた声だった。

一種の泣き声にも聞こえる。


――……お尻を貸してって! どうしてそうなるのーっ!! ――


薄く閉じられ目、吐いた息に懇願を宿す。 

「むむっー。キミは兄貴さんに助けて貰っておいて、お礼も言わずに、いきなり菊の門様プレイをお願いするとは。むむーっ、それは水戸の黄門様プレイなのですかぁー。た、確かに兄貴さんのお尻は魅力的ですが」

「アキト殿のぷりお尻の縦一文字は至宝。言わば、小生にとって至福のデザート。何処の馬の骨かわからぬ奴が語るなど身の程をしれ!」

「お前ら全員身の程をしれーっ」

 僕は迷惑顔で皆を牽制する。

しかし僕の意見に同調するものは一人もいない。

少年プレイヤーは意を決したように唇をギュッと結んで僕の元に歩み寄ってくる。

「お、お願いします。ボクのパートナーを……お尻で助けてください」

いったいどんな事をすれば焼き鳥の刑を逃れた大鳥(彼のパートナー)が僕のお尻で助かるのか大いに興味を引くところではあるが、目を背けたくなるような悲劇か喜劇が首を長くして待っている気配がプンプンする。

「そ、そうです、か、かわりにボクのおっぱい吸っていいので」

「吸うかー、ボケーっ」

そのむちゃぶりな言葉に僕は耳まで真っ赤にしてツッコミを入れる。

この世界の奴らは不埒な煩悩三昧なのかーっ、しかし、僕は少年プレイヤーの顔を見た途端、自分の軽率な発言と浅慮に後悔する。

朱玉色の瞳から両頬を伝い涙が床に落ちていく。

そう涙を流していた。

「どうか……ボクのパートナーを助けてください……あ、あいつはこの世界で唯一の心から信頼できる家族なんです」

 彼のパートナーを想う心。

愛おしさが数倍にも膨れ上がって僕に伝播する。

その表情に保護浴をそそり、その唇や舌、その声が響かせる艶やかさが本物の少女と見紛うほどだ。

 大切な絆。

この少年プレイヤーにとって大鳥は唯一の絆なのだろう。

お互いにリスペクトと思慕の念が伝わり合う仲間なのだろう。

大きく膨らみあがって溢れた想いが両目から涙となって留まらなくこぼれ落ちていく。

「助けて……お願いします……」

その言葉に無言で僕は頷いた。

しかし、その五分後。

僕が「助けてください、お願いします」と叫んでいたことは黒の歴史だけにとどめておこう。


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