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人助けはお食事のはじまり、頭からまるかじりは激しいプレイですよ

  ◆

『神々の黄昏』開始十五日目。

過酷な生き残りが繰り広げられている七つの世界僕達のような新参プレイヤーが得られる唯一の共有情報が流れなくなって五日目。 

不明瞭渦巻く未視感(ジャメ・ヴュー)や疎外感や孤独感に苛まれるこの世界において、正常な身体心象に暗い影を落とす時期を見越した悪質な演出かもしれない。

深淵なる深い闇への誘い。

あらゆる混沌と虚無を包み込んだ世界。

そんな七つの世界、西方地域の南端も徐々に喧騒が伝播しようとしていた。


「むふふー、色白鴨が青ネギ背負って追い詰められていますーっ。兄貴さんのお尻の蒙古斑の青ほど青くはないですが青ネギは嫌いなので食べやすいように裸にひん剥いてやりますのですーっ」

「ほほっー。アキト殿のお尻は青いのか。小生と駆け落ちするなら、その青いお尻どころか菊な門までペロペロすることにやぶさかではないぞ」

「させるかーっ」

「うーむ。では小生のお尻をペロペロしたいのか?」

「シェル、ペロペロは違うのですーっ。兄貴さんはうちと一緒でお鼻をお尻に当ててクンクンする方が好きなのですよーっ」

「むむっ、実に奥が深い。流石はサディズムの帝王アキト。フェチの細部にまでこだわり!と言うやつだの」 

こんなおバカな会話が成り立つ犬神と蛇神。

そして、二柱の間に挟まれた弄られる僕。

そんな僕とお馬鹿な二柱は元廃屋(今は我が家)の東にある森の草陰や葉群に身を隠して、ある集団を眺めていた。

口では冗談を言いながらもその表情は真剣。

その視線の先は小動物や獣の類ではない。

むしろ獣の類なら野獣肉が手に入り食の糧になり大歓迎だが。

 実際は長さ36センチ程度の先端は鋭く尖り、刀身がS字状に湾曲しているペシュカドと呼ばれる短剣を両手に持ち構えた少年プレイヤーの姿が見える。

その傍らに人の身の丈ほどの大鳥がぐったりと鎮座している。

その少年プレイヤーとパートナー(大鳥)を取囲むように多数のオークとゴブリン達。

そして、一際大きい猿の化物。

あれは野良神だろうか。

「ポカポカお天道様のいい天気なのでモンスター達も追い剥ぎ日和なのですねーっ。あの子達、グチャドロお肉になるの時間の問題なのです。何だか顔も赤いので唐辛子一〇〇%ジュースでも飲んだのですよーっ」

「シロ殿は能天気だのぉ。あの赤い顔は恋の魔法。恐らく毎夜、あの鳥とふんぐほつれつ前から後ろまでプレイなのだ」

「ほほーっ。流石はシェルなのですーっ。蜂蜜色の瞳は何でもお見通しなのだーっ。」

「ふふっ、お安い御用です。この程度の知恵でそう褒められると小生も悪い気はしません」

「力いっぱい解説するところかぁーっ。いいから静かにしてろ」

 おバカすぎる二人に思わず突っ込んでしまった。

シロはペロリっと舌を出しておどけた調子でクンクンと匂いを嗅ぎ、シェルは涼しい顔で僕に微笑む。

僕は犬と蛇の調教係的な……いや保護者的な立場だ。

口調は厳しくても本気で苛立っている訳でもないし他意もない。

「アキト殿はあのプレイヤーを助けたいのですか? それとは男同士……そっちのけなのですか? むしろ、誤魔化さずにそっちのけです……と白状してくだされれば小生的にも腹を抱えて大ウケです」

 とても呑気な口調でシェルは僕にお伺いをたててくる。

ほんのりにやけて、ぼんやりしている雰囲気のシェルらしい心遣い。

そんな冗談が場を和ませる。

僕とシロ、家族にだけ見せる遠慮のない地の姿だ。

そして、僕とシェルが駄弁っている間も少年プレイヤーが大鳥を庇いながらゴブリンやオークの容赦ない攻撃を凌いでいる。

二本のペシュカドの短剣スキルの熟練度が尋常ではない事が見て取れるほどの剣技だ。

ただ、少年プレイヤーに敗北が這い寄っていることは素人の僕から見ても明白だった。

一進一退を繰り広げるゴブリンやオークはそれほど強力なモンスターではないにしろ多勢に無勢。

少年プレイヤーの体力の限界もあれば、モンスターの後ろに控える、野良神らしき大猿もネックだ。

「シェル、この五日間でガラリと変わった価値観の変化はいったい?」

「シロ殿から懇切丁寧に学びました」

「むーっ。そうなのですねー、まなまなましたーっ」

「………………」(←二人の絶好調ドヤ顔に絶句中の僕)

 現実に見せ付けられる二人の息統合っぷりに僕は某○○子ちゃんのキャラのようにおでこに青線が三本入りそうだ。

二人の得意げな顔はとても微笑ましい。

僕は軽く肩を竦めながら二人に顔を寄せた。

「五戒って知っている?」

 僕の囁きにシェルは小首を傾げて一考。

一方、シロは好奇心旺盛な瞳をウルウルさせて『その手度の小手調べお茶の子さいさいなのですーっ』と言いたげな表情だ。

握ったこぶしを口許に当てて可愛さまでアピールしてくる。

「小生は初耳な言葉です。それはアキト殿の行動心理に関わる重大な指針なのですか?」

 やはりシェルは着目点が良い。

思慮深いシェルの指摘に僕は僅かに口許が緩んだ。

怜悧な表情のままシェルは上目遣いで豊満な肉体を寄せて迫ってくる。

僕の腕をギュッと掴むと柔らかさと温かさを兼ね備えた無防備なおっぱいが薄い生地を介して幸せな感触を伝えてくれる。

「にひひーっ。甘いのです。シェルは駄々甘なのです。むっふーっ、よいですか、そもそも五戒とは一回・二回・三回・四回・誤解! と言いまして、女性をナンパした酩酊男がホテルの部屋を真っ暗闇にしてエッチを頑張って、五回目のフィニッシュ時にナンパした相手が実は幼馴染の従兄弟の再従姉妹のお爺ちゃんの女装癖だったと言う逸話なのです。とても尊く、人徳のあるお話なのです」

 そんな訳ねーだろーっ! 

 あまりにも常識外れの突飛な話にシェルはほほーと感心しながらうんうんと得心している。

そして何やら微かな期待を込めつつ僕をチラッと見たような。

 それって秋波じゃないですよねー。

僕は改めてシロの妄想力が溢れる知識に呆れると言うよりも敬意を評して舌を巻いた感じだ。

「いいか、五戒というものは不殺生戒・不偸盗戒・不邪淫戒・不妄語戒・不飲酒戒といってだな、不殺生戒のな……」

 と気分よく説明しはじめる僕の肩をシロが小さな手でグッと掴む。

そして、ピコっと人差指を少年プレイヤーに向けて、

「兄貴さん、アレ死んじゃうけどいいの?」

と一言。僕は大好きな『仏教』の説明に陶酔していた意識を戻して現実を見せつけられた格好になる。大猿の一撃によって致命傷を負い、這いつくばる少年プレイヤー。

重苦しい衝撃に動かない巨体を盾に身を粉にして少年プレイヤーを守ろうとする大鳥。

もはや、追撃を躱す事は不可能な局面に入っている。

「た、助けたいがどうやって……」

「むむーっ。兄貴隊長、シロはパスであります。夜這い三原則、逃げ足と差し足と忍び足には定評がありますが喧嘩云々とキノコは苦手ですーっ」

 即断のシロ、全く迷いがない。

どうやら我関せずを貫くようだ。

しかし、シェルは意外なほど愉快げな口調で、

「アキト殿の許可が出れば小生のお食事がてらに助けてもよいのですが……」

 と申し出た。

しかし、語尾が言いよどんでいるような気がする。

なので僕はシェルの柔らかな目元を見つめる。

そしてシェルを気遣うようにゆっくりと頭を撫ぜた。

そんな僕の意図を察し、シェルは更に言葉を紡いだ。

「小生が良いと言うまでキツく目を閉じて両手で瞼を塞いでくだされ。小生、照れ屋なもので、お食事をしている姿を見られるのはちょっと……乙女の恥じらいと承知していただきたい」

「了解。だけど、やばかったら直ぐに逃げろよ」

 シェルは瞳を柔和に細めてとても幸せそうな顔でコクリと頷いた。

視界の隅で穏やかでない出来事が起きているので僕は反対するつもりはない。

後先考えず向かうより、この状況でも飄々と言ってのけるシェルに任せることは手堅い選択だって素人目にも理解できた。

 シロも同感のようでギュッと眼を瞑り、両手で顔を隠している。

僕も慌ててその行動に習う。

押し黙った僕とシロを確認してシェルは身を隠していた草陰から一人出ていった。

 そして、僕の心配は杞憂で終わる。

ほら、耳を澄ませば聞こえてくる。

「うぎぁぁぁぁぁぁぁ」

「ぎあぁぁぁぁぁぁぁ」

「化け蛇だぁぁぁぁぁ」

と三重奏された悲鳴の数々。そして、

「頭からまるかじりぃぃぃぃ」

と嬉々とした声色。

楽しそうに嬉しそうに絶え間なく喚きながら逃げ惑うモンスターを捕食しているようだった。


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