099 状況把握をした結果、彼女は女性として魅力が十分でした……っておい!
大宮に向かう電車の中
絵理沙と茜ちゃんはというと、丁度席が二つ空いたらしく仲良く並んで座っていた。
それも楽しそうに二人で会話までしてやがる。
魔法使いと人間でどう話が合うのか解らないけど、だけどとても楽しそうに話をしている。
そんな二人を余所目に俺は一人寂しくドアの横で窓から流れる景色を見ていた。
「どうしたんですか? 綾香さん」
そんな俺に輝星花が声をかけてきた。
「どうしたんですかって、見たまんまだよ。外を見てるんだよ。お前こそどうしたんだよ? なんでお前が絵理沙と一緒に来たんだよ?」
気になった事をそのまま聞いてみる。
すると輝星花はちらりと絵理沙と茜ちゃんを気にして、こっちを見ていないのを確認した後、俺の真横に立ち少し声を抑えて語りかけてきた。
「さっきも言ったでしょ? 監視だって」
しかし女言葉はやめない。
そこは徹底しているみたいだ。
「監視ねぇ……」
しかし、本当に監視だけの為にここに来たのか?
マジでそんな格好で来てもいいのかよ?
今の俺の横に立っている姿は輝星花の本当の姿のはずだ。
魔法使いは本当の姿を人間に晒すべきじゃないって聞いたはず。
なのにお前らは二人とも本当の姿で来てる。
「なんですか? 何か思う所でもあるのですか?」
違和感まんまんの女口調でお輝星花は首をかしげた。
「聞かなくても俺の心を読めばわかるだろ?」
俺がそう言うと輝星花は暗い表情で首を横に振った。
「実はあれが戻っていないのです。だから私は貴方の心は……わかりますよね?」
わかる。あれというのは魔法力だ。そして魔法力が戻らないから心が読めないっていうんだな。
「でも、あれからそろそろ一週間経つぞ? それで戻らないって大丈夫なのか?」
俺は心が読めないという現実よりも、魔法力が戻らないという現実が心配になった。
「正直に言うとあまり良い状況ではないですね。でも多分大丈夫だと思いますよ」
「お前が大丈夫って言うのならいいんだけど……」
「で、何を考えていたのですか?」
「あぁ、お前がその格好で来ても大丈夫だったのかって思ってたんだよ」
輝星花は「ふぅ」と大きな溜息をついた。
「正直に言うと私はこんな場所にこんな格好で居たくなんてないです」
「何だよそれ? どういう事だよ?」
「聞いてくれますか? 絵理沙がどうしても君達と一緒に大宮に行くって聞かなくって、私はやめろと言ったんですけど、だけど絵理沙はクラスメイトの子と悟君と一緒に遊びに行って何が悪いの! とか激怒してしまったんです。私は絵理沙とあまり離れると遠隔監視も出来ないから、絵理沙だけで外出させるのは無理だと言ったんです。そしてら余計に怒ってしまって……」
意気消沈してため息をまたついた輝星花。
本当に意気消沈とはこういう事をいうんだなとわかるくらいに凹んでいる。
絵理沙はそんな輝星花の事なんて気にもかけずに茜ちゃんと話に花を咲かせていた。
でもな? そんな事を俺に言われても正直困る。
ぶっかけ俺の知ったこっちゃないからだ。
こいつらがどうこうしようが、どうこうなろうが、俺には何も出来ない事なんだ。
だから俺は普通に相づちをうった。
そして、輝星花は話を続ける。
「結局は最後まで絵理沙は折れなくて、それで絵理沙の監視のために一緒について行く事になったんです。だけど……」
「それでわざわざ俺たちと一緒に買い物に行く事になったのか?」
輝星花は自分の格好を見ながら顔を顰めた。
「私が回復していたら、絶対にあっちの姿でついて行ったんです。でも絵理沙が先走って越谷茜に僕が一緒に行くと言ってしまったらしくて……」
輝星花は苦笑しながらスカートをひらひらと揺らしている。
どうも自分の格好に不満があるらしいな。
「なるほどなぁ」
「どちらにせよ回復が著しくないので難しかったのですけどね」
苦笑する輝星花に俺もつられて苦笑してしまう。
しかし、今になって気がつたけど、野木がこの格好だとなんか威圧感がないというか、襲われそうな気がしないというか、安心できるというか、普通だというか……。
普通に女子だな、こいつ。
「しかし、心配だな回復しないって」
「はい、こういう事態は初めてなので……私も実は不安で……」
「俺に出来る事があったら言ってくれ」
「えっ?」
何でそんな事を言うのって顔で俺を見る輝星花。
「いやいや、俺が北海道につれていってもらったからかもだろ? 原因」
「あ、ああ、だけど、それだけが原因じゃないと思うんです」
「そうなのか?」
「はい」
輝星花は窓から流れる景色へと視線を移し、ガラスの反射で俺の顔を見た。
「でも、ありがとう」
そう言ってすこし照れくさそうに俯く輝星花。
なんだこの女みたいな生き物は?
いや、女だよ、もともと。
「あなたにそう言ってもらえると、嬉しいです」
「あ、いや、うん、まぁ、協力はするから言えよ」
「はい」
くるりとこちらに向いた輝星花が首を傾けながら笑顔でそう言った。
そんな笑顔に一瞬だけど心臓がドキっと鼓動を早めた。
「でも、どうしてこんな格好で来なければいけなかったのかしら?」
自分の服装を不満そうに見詰める輝星花。
いや、そんなにおかしい格好じゃないぞ? だけど輝星花は、
「私は制服で十分だって言ったんです」
いや、それの方が目立つだろ?
「でも、絵理沙が制服じゃ駄目だよ! 輝星花も女性なんだから女らしい服を着なさい! って怒るんです……それで私は女らしい服なんて持っていないわ! って言ったらこれを勝手に用意されてしまって……」
なるほど。でも制服じゃなくって正解だな。
しかし、こんな服を絵理沙はいつどこで買ったんだろう?
輝星花に似合うから絵理沙にも似合うだろうけど、だけどこの服は絵理沙ごのみじゃないと思う。
「輝星花の為にわざわざ服をね……。じゃあ絵理沙はお前が一緒に行くのを想定してたのかな?」
「ううん。そういう事じゃないみたいです。単純に買ってみたけど自分に似合わないと思って着ていなかっただけみたいです」
「へぇ、そうなんだ」
それを輝星花に着せるとか、さすがは絵理沙だな。
「あと聞いてください! 化粧までされたんですよ? 私は化粧なんてしたことなかったのに!」
自分の頬を両手で挟んでガラスに映る自分を見る輝星花。
「いやいや、女だし、化粧くらいはした方がいいだろ? この俺だって少しはしてるんだぞ?」
「えっ? そうなのか?」
お、口調が素に戻ったぞ?
「あっ……こほん、そうなんですか?」
そしてすぐに言い直すか? おまえは律儀だな。
「ああ、してるぞ? 最低限だけどな」
「そうか、そうなんですね……女性というものはお化粧くらいはしないと駄目なんですね」
目の前の輝星花は暗く、自信なさげに俯いた。
「私は……もう女性として生きてゆくのは無理かもしれません」
いやいや、なんでそう思うのかな?
こいつは本気で自分の容姿に自信がないのか?
そんなの、全国の女性に言ったら大変なクレームになるぞ?
自覚を持て! そして女性としての自覚を持て! とは流石に面等向かって大声では言えないけど。
軽くは褒めておこうかな。前向きになるかもだし。
「いや、大丈夫だって。生きていけるよ。その格好だって似合ってるぞ? 間違いなく女に見えるくらいには似合ってるから」
「それは褒め言葉なの?」
「半分は褒めてるな」
輝星花はすこし頬を桜色に染めるて右手で口を押さえた。
自分では女で生きてゆけないとか言っておいて、仕草が女だろ!
もしかすると、仕草も女らしくわざとしているのかもしれないけど、マジで女っぽすぎ。
もういっそ、この先は女で生きていけるんじゃないか?
「えっと、うん、ありがとう……」
《ドキッ》
まただよ……。くっそ!
今日、一日こいつと一緒で俺は大丈夫なのか?
そんな事を想わせる輝星花の電車の中での動向だった。




