096 予定外の参加者
時計を確認したら、待ち合わせ時間まであと五分になっている。
しかし今だに絵理沙は来ない。
「そろそろ時間だね、野木さんはちゃんと来るかなぁ?」
「来るよ」
「でも、時間になっちゃうよ」
「大丈夫だって」
茜ちゃんはやけに余裕な表情だな。
だけど俺はなんだか心配だ。本当にあいつは来るのか?
すると、茜ちゃんは何かを思い出したのか「あっ!」と声を上げた。
「茜ちゃんどうしたの?」
「えっとね、綾香に言い忘れてたんだけどさ……」
「え? 何? 言い忘れてた? って何?」
「えっとね……」
茜ちゃんが話を始めようとしたと同時に「おはよう!」と後ろから声が聞えた。
振り返ると同時に、俺と茜ちゃんとの間にいきなり絵理沙が飛び込んでくる。
「うわ! 絵理沙!? な、なんだよいきなり」
「きゃ、お、おはよう、野木さん」
いきなりフレンドリーな登場すぎだろ絵理沙!
「ごめんね、ギリギリになっちゃったよ」
「ううん、ちょうどだしOKだよ。ね、綾香」
「う、うん」
マジでぴったりじゃないか。
「それにしても綾香ちゃん。驚かせた訳でもないのにそんなに驚くなんてヒドイなぁ……」
絵理沙は不満そうに俺を見ている。しかし言っておこう。
普通にあの登場は驚くだろ!
いきなり背後から割り込むとか、お前は佳奈ちゃんか!
と文句は言いたいが、ここは大人な対応にしておく。
「ごめんね、いきなりだっから本当にびっくりしちゃったの」
「そうなの? 私は少し離れてた所から一度は二人に声をかけたんだよ? でも気がついてくれないから……。あ! そっか! 話に夢中だったんでしょ? ねぇ、なんの話をしてたの?」
「えっと……「別に大した話題じゃないよ?」
俺の言葉に茜ちゃんが言葉を被した。
「えっ? そっかぁ」
「私も野木さんに気がつかなくって、ごめんなさい」
茜ちゃんが絵理沙に頭を下げた。
絵理沙はいきなりの謝罪に思わず驚いたようで、少し慌てて茜ちゃんの両肩を持つと、
「別に謝らなくてもいいよ!? 二人とも悪い事をしていた訳じゃないし」
なんて言い放った。
すると茜ちゃんも笑顔で「ありがとう」なんて返している。
うん、まるで学園ドラマのワンシーンみたいだな。
「ねぇ、野田さんの今日の服って格好いいね」
俺は茜ちゃんの声で絵理沙の私服へ目をやった。
あんなに楽しみにしていたのに今頃だ。
これが初めて見る絵理沙の私服か。
絵理沙は青のプリントTシャツの上に黒のライダースジャケット、下はストレートジーンズを履いていた。
またしても俺の予想とまた違っていたが、こんなボーイッシュな格好も似合うんだと何故か納得してしまった。
悔しいけどかなり格好いい。茜ちゃんに同意するよ。
しかし、絵理沙はスタイルが元から良いのもあるが、ぱっと見ただけじゃとてもじゃないが高校一年には見えない。
これだと十分大人でも通用しそうだぞ。
とは言っても絵理沙が本当に高校一年なのか怪しい所もあるんだけどな。
俺はこいつの事を何も知らない。
いや、こいつの話している事が本当の事なんだかわからない。
こいつは魔法使いなんだからな。
「で、野木さん」
「なに?」
「後ろの方はもしかして……」
俺はその言葉でやっと気が付いた。
絵理沙の後ろにもう一人女性が立っている事に。
俺はその女性の顔を確認しようと思ったが、絵理沙が邪魔で顔を確認出来ない。
しかし、この距離だ。どう考えても絵理沙の真後ろで立ち止まっているし……。
何だろうか、悪い予感がする。
なにかこう、顔が見えないけど、どこかで見たようなシルエットな気がするんだけど……。
「あ、うん。そうだよ」
何がそうなんだ? まさかそうなのか?
俺の背筋に寒気が走った。
それと同時に女性が動いた。
すっと絵理沙の横に出てきたと思ったら……俺は硬直した。
悪い予感は当たるものなんだと実感した。
「じゃあ、その方はお姉さん?」
「うん」
何でお前がここにいるんだよ!
「あっ! 挨拶しなきゃ!」
この茶色い髪に赤い瞳をした絵理沙と同じ顔立ちの女。
俺が絶対に忘れる事のない女。
変身すると変態な男になる女。
輝星花! なんでお前がここにいる!
「初めまして、私は野木さんのクラスメイトで越谷茜です。今日は野木さんと一緒にお出かけさせて頂きます。えっと、宜しくお願いします。」
でも、なんで茜ちゃんはそんなに冷静なんだよ?
まるで輝星花が来るのがわかってたみたいじゃないか?
もしかして、茜ちゃんは輝星花が来るのを知っていたのか?
「初めまして、絵理沙の姉で野木輝星花です。宜しくお願いします」
俺の動揺なんて気が付いてもないんだろな。
輝星花も茜ちゃんも笑顔で挨拶を交わしてるじゃないか。
でも、マジで何で輝星花がここに居るんだよ!?
そして何だその格好はなんだよ!? その口調はどうしたんだよ!?
ここで冷静になって状況を判断しよう。
そうだ。今俺の目の前には、俺が想像した事もない本当の『女性』になりきった輝星花が居るんだ。
輝星花はアーガイル柄のノルディックパープルのフレアワンピースに、黒のレギンスを穿き、ブラウンのクシュクシュブーツを履いている。
そして、事もあろうか薄くではあるが化粧までしているんだ。
いやいや、何だその綺麗だけど可愛い格好は……。
お前は本当にあの輝星花なのか?
俺は何度も顔を確認した。
しかし前にいる女はやっぱり輝星花だった。
俺は思わず頭を抱えてしまった。
やばい、動揺してるぞ。
「どうしたの綾香? 頭が痛いの?」
茜ちゃんが頭を抱えている俺を見て心配したのか、声をかけてきた。
やさいいな、茜ちゃん。
「い、いやちょっとね……少し目眩がするだけだよ。だ、大丈夫だから」
「本当に大丈夫? 顔色も良く無いよ?」
この状況を理解できてないからな。顔色だって悪くなるだろ。
「本当に大丈夫だから。心配しないでいいよ」
でも、だからってここで茜ちゃんに心配はかけられない。
無理にでも大丈夫って事にしておこう。
ぶっちゃけ心臓はバクバクだし、汗はすごいし、頭も痛いけどな。
「綾香がそういうなら……本当に具合が悪かったら言ってね?」
茜ちゃんは心配そうに俺を見ながらも輝星花と話を始めた。
しかし、何て言えばいいのだろうか?
色々と疑問だらけで訳がわからない。
絵理沙がここにいるのは理解できる。
俺達と一緒に遊びに行くんだからな。
でも、やっぱり輝星花がここにいる理由がわからない。
そして、そんな可愛い格好をしている理由も、おまけになんで似合ってるんだよ!
ここでふと制服姿の輝星花を思い出した。
今日の輝星花は本当に綺麗で可愛い。
だけど、制服姿の輝星花だって負けないくらいに綺麗だったし可愛かった。
うん……。って、そうじゃないだろ!
俺は輝星花が可愛いかどうかを考えてた訳じゃないんだよ!?
どうも俺は思考があらぬ方向にいってしまう癖があるみたいだな。




